『リリーちゃん虹龍洞出演おめでとう!』
「リリカリリカー、今ちょっと時間いい?」
「んー? どったのメルラン姉さん」
ある春の日の廃洋館。この日、リリカは自室で作曲活動に明け暮れ、メルランはお忍びの人里散策から帰宅したばかり。
そしてルナサ姉さんは本日予定していたルナサソロライブが自粛で中止となり鬱で死にかけていた。
床に散らばった譜面の山を見てメルランが言った。
「ありゃ、もしかして修羅場だった? なんなら出直した方がいいかしら?」
「んん~……。いや、いいよ。今ちょうど煮詰まってたとこだし。ふぁ~あ……それで、何の用?」
ちっちゃな身体でおっきく伸びをするリリカちゃん。
「えっとね、お出かけしてたら面白そうなもの買っちゃってさー。せっかくだからリリカにも見せてあげようと思って」
「また変なもの買ったのー? あんま無駄遣いばっかしてたらまたルナ姉に叱られるよ? ただでさえメル姉の部屋って物が多いのにさー」
「無駄じゃないもん、全部必要な物だもん。そんなことより、これ見てこれ!」
彼女が元気よく差し出したのは一枚の紙切れである。
「何これ、カード? …あぁ、もしかしてあれ? 今巷で噂になってるって言う…」
「アビリティカードよ! さすがリリカ、情報が早いじゃない」
アビリティカード。人間や妖怪、果ては神様に至るまで様々な者の魔力が込められた不思議なカード。
歴としたマジックアイテムなのでおおっぴらには出回ってないが、あちこちに人ならぬカードの売人が潜んでいると専らの噂だった。
「ふふん、芸能人足るもの流行には敏感でなきゃねー。まぁ私も直接見るのは始めてだけど。
それでこれは…あれ、この絵って春告精じゃん。へぇ、妖精のカードまであるんだ」
カードの表には、お馴染み『春ですよー』ポーズを決めるリリーホワイトのイラストが描かれていた。
「なんか桜餅の匂いがする…」
「ね、可愛いでしょう? 人里の外れに怪しげな露店が立っててさ、冷やかしに覗いてたら何故か私だってすぐにバレちゃってね?
そしたら妖怪向けの商品だって言って、カードを見せてくれたの! …多分あの売人さん、河童か何かだったと思うんだけど。
…にしても、なんで私だってバレちゃったのかしらね? 一応変装だってしてたのに……」
「その手に持ってるペットがめちゃくちゃ目立つからじゃないかなぁ…。オフの日に出かける時くらい楽器は置いていきなよ」
「えーでも、出先で急に演奏したくなったら困るじゃない。…ってのんびりしてる場合じゃなかったわ。リリカ、そろそろ行くわよ!」
「うぇ? 行くって何処にさ?」
「何処って…ルナサ姉さんの所に決まってるじゃないの」
そんな事も分からんのかと言わんばかりのメルランさん。
「話が一つも分からない…。リリーホワイトのカードとルナサ姉さんに何の関係があるのさ?」
「い~い? ルナサ姉さん、ソロライブが中止になって落ち込んでるじゃない? そんなアンハッピーな姉さんもほら!
可愛いらしい妖精に春を告げてもらって、おまけに私の演奏も加わればたちまちハッピーに!
さすが私、できた妹。なんてお姉さん想いなんでしょう。そうと決まればリリカも行くわよー、あんたもたまにはお姉さん孝行しないとね」
ずんずんと歩き始めた姉を妹が呼び止める。
「ちょい待ちちょい待ち。…そのカード、実際に使ってみたの? どんな効果があるか知ってるの?」
「知らない!」
元気良く答えるメルランである。
「…リリーって、テンション上がるとそこかしこに弾幕バラまくじゃん。ルナ姉の部屋が弾幕塗れになったらどーすんのさ?」
「その時はその時で面白いじゃない!」
「これだからこの姉は……」
結局、リリカの説得により一度館の外でカードを試してみる運びとなった。
「んもう、こういうのはサプライズでやるのが楽しいんだけどなー」
廃洋館の裏手で、不満げにぶーぶー言うメルラン姉さん。
「あんたが楽しくてもルナ姉は堪ったもんじゃないわ。…んじゃ、カード使うよー? …ところで、このカードってどうやったら発動すんの? 呪文?」
「そういえば売人さんから聞いてなかった…。ん~、とりあえずそれっぽい事言いながら掲げて見ればいいんじゃないかしら?」
「りょーかい。…ごほん、あーあー。リリーホワイトリリーホワイト、幻想郷の人々に春を告げる妖精よー! 我等の呼びかけに応え、その姿を現し給えー!」
割とノリノリでリリカがカードを掲げると。
『ピロリン』という音と共に、何処からともなく春告精が現れた。
…現れたのだが。
「へ…えへへ……また、呼び出されちゃったですよー……。今度はわたし、誰に消し飛ばされちゃうのかなぁ…。
巫女かなぁ、魔法使いかなぁ、それともメイドかなぁ……。…あはっ。あははははは……」
みすぼらしいボロ切れを纏い、虚ろな笑い声を上げながらヨダレを垂らすその姿は、到底春を象徴する清らかな妖精とは思えぬものであった。
「…ありがとうございます、こんなにしてもらって……」
あの後。リリーの異様な姿を見たメルランは即座に彼女を浴室へと連れていった。
その間にリリカが着替え(リリカのお下がり、さすがにダボダボ)と、お茶の準備をする。
熱いシャワーを浴び、焼き菓子とハーブティーを与えられてようやく、彼女は幾分落ち着きを取り戻した。
「お礼なんていいから、お菓子食べちゃいなさい。あ、ハーブティーのお代わり要る?」
「…いただきます」
一息ついたところで、メルランが口を開いた。
「…それで、リリーちゃん何があったの? さっき、巫女がどうとか言ってたけど……。落ち着いてからで良いから、聞かせてくれる?」
「…よく分かんないのですよー……。わたしはいつもどおり、春を告げるためにお空を飛んでたんですけど…。
そしたらある日、急に全然別のお空になったかと思ったら、目の前に巫女が居たんです。わたしびっくりして、思わず弾幕を撃ったらボムでパァン!ってされて…。
紅白巫女の他には黒白魔法使い、吸血鬼のメイドにお山の巫女にも同じことをされました。そんな事が最近何回も、何十回もあって…何度も何度もパァン!ってされるうちに、私だんだん……」
「…よく分かったわ。もう大丈夫だから、ね?」
震える言葉を遮るように、メルランがリリーを抱きしめる。
「ね、ねぇお姉さん。わたし今度は、お姉さんに消し飛ばされちゃうんですかぁ……?」
「…バカね。そんな事しないわよ」
ギュッと抱きしめながら、安心させるように背中をさする。
その様子を眺めながらリリカが言った。
「十中八九、アビリティカードのせいだよね……。このカードだって、きっと同じのが何枚もあるんだろうし。
でも問題は、なんでリリーが巫女たちに狙い撃ちされるか、だけど……。一応訊いておくよ? リリーは何か、巫女に退治されるような悪戯した記憶ある?」
「こらリリカ。どこぞの氷精ならともかく、リリーちゃんが退治されるような悪さをするはずないじゃない」
リリカのほっぺをつねる。
「いひゃい…。や、でも何かしらの理由はあるはずじゃん? いくら巫女でも、理由も無く妖精をパァン!したりしないでしょ。
…いやどうだろ……。やるか。うん、あいつらはやるな……」
「…きっと、私がアイテムを持ってるからなんですよー」
リリーが言う。
「巫女さんたち、ずいぶん忙しそうにしてました。きっと今は何かの異変が起きてて、その解決のためにわたしの持ってるアイテムが欲しかったんだと思います……」
メルランが一つ溜め息を吐いた。
「紅魔館や神社では宴会で時々お呼ばれするし、これから私が厳重に抗議しに行くわ。リリカは魔法使いの方を頼めるかしら? 友達のよしみで」
「そだね、よしみよしみ。まぁあいつらが聞き入れてくれるかは怪しいとこだけど、その時は
『これ以上リリーホワイトを虐めるなら、もうここでは二度と演奏しませーん』って言っちゃえばいいかな?
吸血鬼はともかく、神社の方は私たちの演奏がないと集客力も下がるだろうし。首を縦に振らせるのもそこまで難しくないでしょ」
そう言って立ち上がる二人に、リリーが慌てて声を掛ける。
「あ、あのっ! なんでそんな、そんなこと……わわっ」
そんな問いにとびっきりのハッピースマイルで応えながらリリーを抱き上げた。
「やぁねぇ、こんな可愛らしい妖精さんが酷い目にあってるんだもん。なんとしてでもハッピーにしてあげなくちゃ、幸せの伝道師メルラン・プリズムリバーの名が廃るってもんよ!」
「言っとくけど、こうなっちゃったメル姉はもう誰にも止められないからねー。今は素直にお礼言っておきなよ。私たちにはまた、小さい春の一つでもプレゼントしてくれたらそれで良いからさ」
そう言ってリリーの頭を撫でるリリカ。平和な光景だ。
…しかし、次にリリーの口から出た言葉は二人が予想もしないものだった。
「なんでそんなこと、しちゃうんですかあ!!」
「え?」
「へ?」
呆気に取られる二人をよそに、リリーが早口で捲し立てる……うっとりとした表情で。
「最初のうちは痛かったし嫌でしたよ? でも、何度も何度もパァン!されるうちに…わたし、だんだん気持ちよくなってきたですよー…♡
あの目の前が真っ白になって、意識がふわ~っと飛んでく瞬間がたまらんのですよー…。考えただけでキュンってなるんですよー…。へ…えへへ……。じゅるり」
虚空を見つめながら、小さな口からヨダレを垂らすリリーちゃん…。
「それなのに聞いてくださいよ! こないだ、紅白巫女に呼び出されてワクワクしてたのに、あいつ哀れみの表情でわたしの方を見てきて、
何もしてくれなかったんですよー! こちとらもう、呼び出されただけでキュンキュンしちゃってるのにですよ?! 黒白魔法使いにも、同じような反応されました…。まったく、ひどいやつらですよー。
その点、メイドは良いやつですよ! いっつも容赦無くナイフでグサグサしてくれますし。あと、緑の方の巫女は最高に良いやつですよ!
あいつに消し飛ばされる時は大抵、パァン!パァン!パァン!ってなりますから、他の奴らの三倍くらいぶっ飛べるんですよぉ……♡ …あはっ。あははははは……♡」
哀れみの表情を見せる二人を尻目に、尚もおかしなテンションで話し続けるリリーちゃん。
「…今日呼び出された時、いつもの奴らじゃなかったので正直ガッカリしました…お菓子は美味しかったですけど。
…ね、ねぇ、お姉さんたち! お姉さんたちも、ほんとは強い魔力を持ってるんですよね……? 今からでもいいですからぁ、わたしのこと消し飛ばしてくださいよぉ……♡
今ならなんと、お好きなアイテムお一つプレゼント中ですよ? 早い者勝ちですよー!
…あれ、お姉さんたちどうかしましたか?」
哀れな妖精を抱え、二人はルナサの部屋へと猛ダッシュした。
「姉さん姉さん、仕事よー!」
「リリーが姉さんのソロを聞きたいんだってさ!」
その後。
「あんたたちねー! 穢れなき妖精になんてことしてくれたの! あんたたちのせいで、リリーちゃんが変な性癖に目覚めちゃったでしょうが!」
「この人でなしー! おにー! あくまー! みこー!」
メルランとリリカが紅魔館と霧雨邸、二つの神社に怒鳴り込みに行っている間に。
落ち込み中のルナサの、陰鬱極まりないソロライブを聞かされてようやく落ち着きを取り戻したリリーちゃんでした。
みんなも、リリーちゃんを消し飛ばすのはほどほどにしておこうね!
「リリカリリカー、今ちょっと時間いい?」
「んー? どったのメルラン姉さん」
ある春の日の廃洋館。この日、リリカは自室で作曲活動に明け暮れ、メルランはお忍びの人里散策から帰宅したばかり。
そしてルナサ姉さんは本日予定していたルナサソロライブが自粛で中止となり鬱で死にかけていた。
床に散らばった譜面の山を見てメルランが言った。
「ありゃ、もしかして修羅場だった? なんなら出直した方がいいかしら?」
「んん~……。いや、いいよ。今ちょうど煮詰まってたとこだし。ふぁ~あ……それで、何の用?」
ちっちゃな身体でおっきく伸びをするリリカちゃん。
「えっとね、お出かけしてたら面白そうなもの買っちゃってさー。せっかくだからリリカにも見せてあげようと思って」
「また変なもの買ったのー? あんま無駄遣いばっかしてたらまたルナ姉に叱られるよ? ただでさえメル姉の部屋って物が多いのにさー」
「無駄じゃないもん、全部必要な物だもん。そんなことより、これ見てこれ!」
彼女が元気よく差し出したのは一枚の紙切れである。
「何これ、カード? …あぁ、もしかしてあれ? 今巷で噂になってるって言う…」
「アビリティカードよ! さすがリリカ、情報が早いじゃない」
アビリティカード。人間や妖怪、果ては神様に至るまで様々な者の魔力が込められた不思議なカード。
歴としたマジックアイテムなのでおおっぴらには出回ってないが、あちこちに人ならぬカードの売人が潜んでいると専らの噂だった。
「ふふん、芸能人足るもの流行には敏感でなきゃねー。まぁ私も直接見るのは始めてだけど。
それでこれは…あれ、この絵って春告精じゃん。へぇ、妖精のカードまであるんだ」
カードの表には、お馴染み『春ですよー』ポーズを決めるリリーホワイトのイラストが描かれていた。
「なんか桜餅の匂いがする…」
「ね、可愛いでしょう? 人里の外れに怪しげな露店が立っててさ、冷やかしに覗いてたら何故か私だってすぐにバレちゃってね?
そしたら妖怪向けの商品だって言って、カードを見せてくれたの! …多分あの売人さん、河童か何かだったと思うんだけど。
…にしても、なんで私だってバレちゃったのかしらね? 一応変装だってしてたのに……」
「その手に持ってるペットがめちゃくちゃ目立つからじゃないかなぁ…。オフの日に出かける時くらい楽器は置いていきなよ」
「えーでも、出先で急に演奏したくなったら困るじゃない。…ってのんびりしてる場合じゃなかったわ。リリカ、そろそろ行くわよ!」
「うぇ? 行くって何処にさ?」
「何処って…ルナサ姉さんの所に決まってるじゃないの」
そんな事も分からんのかと言わんばかりのメルランさん。
「話が一つも分からない…。リリーホワイトのカードとルナサ姉さんに何の関係があるのさ?」
「い~い? ルナサ姉さん、ソロライブが中止になって落ち込んでるじゃない? そんなアンハッピーな姉さんもほら!
可愛いらしい妖精に春を告げてもらって、おまけに私の演奏も加わればたちまちハッピーに!
さすが私、できた妹。なんてお姉さん想いなんでしょう。そうと決まればリリカも行くわよー、あんたもたまにはお姉さん孝行しないとね」
ずんずんと歩き始めた姉を妹が呼び止める。
「ちょい待ちちょい待ち。…そのカード、実際に使ってみたの? どんな効果があるか知ってるの?」
「知らない!」
元気良く答えるメルランである。
「…リリーって、テンション上がるとそこかしこに弾幕バラまくじゃん。ルナ姉の部屋が弾幕塗れになったらどーすんのさ?」
「その時はその時で面白いじゃない!」
「これだからこの姉は……」
結局、リリカの説得により一度館の外でカードを試してみる運びとなった。
「んもう、こういうのはサプライズでやるのが楽しいんだけどなー」
廃洋館の裏手で、不満げにぶーぶー言うメルラン姉さん。
「あんたが楽しくてもルナ姉は堪ったもんじゃないわ。…んじゃ、カード使うよー? …ところで、このカードってどうやったら発動すんの? 呪文?」
「そういえば売人さんから聞いてなかった…。ん~、とりあえずそれっぽい事言いながら掲げて見ればいいんじゃないかしら?」
「りょーかい。…ごほん、あーあー。リリーホワイトリリーホワイト、幻想郷の人々に春を告げる妖精よー! 我等の呼びかけに応え、その姿を現し給えー!」
割とノリノリでリリカがカードを掲げると。
『ピロリン』という音と共に、何処からともなく春告精が現れた。
…現れたのだが。
「へ…えへへ……また、呼び出されちゃったですよー……。今度はわたし、誰に消し飛ばされちゃうのかなぁ…。
巫女かなぁ、魔法使いかなぁ、それともメイドかなぁ……。…あはっ。あははははは……」
みすぼらしいボロ切れを纏い、虚ろな笑い声を上げながらヨダレを垂らすその姿は、到底春を象徴する清らかな妖精とは思えぬものであった。
「…ありがとうございます、こんなにしてもらって……」
あの後。リリーの異様な姿を見たメルランは即座に彼女を浴室へと連れていった。
その間にリリカが着替え(リリカのお下がり、さすがにダボダボ)と、お茶の準備をする。
熱いシャワーを浴び、焼き菓子とハーブティーを与えられてようやく、彼女は幾分落ち着きを取り戻した。
「お礼なんていいから、お菓子食べちゃいなさい。あ、ハーブティーのお代わり要る?」
「…いただきます」
一息ついたところで、メルランが口を開いた。
「…それで、リリーちゃん何があったの? さっき、巫女がどうとか言ってたけど……。落ち着いてからで良いから、聞かせてくれる?」
「…よく分かんないのですよー……。わたしはいつもどおり、春を告げるためにお空を飛んでたんですけど…。
そしたらある日、急に全然別のお空になったかと思ったら、目の前に巫女が居たんです。わたしびっくりして、思わず弾幕を撃ったらボムでパァン!ってされて…。
紅白巫女の他には黒白魔法使い、吸血鬼のメイドにお山の巫女にも同じことをされました。そんな事が最近何回も、何十回もあって…何度も何度もパァン!ってされるうちに、私だんだん……」
「…よく分かったわ。もう大丈夫だから、ね?」
震える言葉を遮るように、メルランがリリーを抱きしめる。
「ね、ねぇお姉さん。わたし今度は、お姉さんに消し飛ばされちゃうんですかぁ……?」
「…バカね。そんな事しないわよ」
ギュッと抱きしめながら、安心させるように背中をさする。
その様子を眺めながらリリカが言った。
「十中八九、アビリティカードのせいだよね……。このカードだって、きっと同じのが何枚もあるんだろうし。
でも問題は、なんでリリーが巫女たちに狙い撃ちされるか、だけど……。一応訊いておくよ? リリーは何か、巫女に退治されるような悪戯した記憶ある?」
「こらリリカ。どこぞの氷精ならともかく、リリーちゃんが退治されるような悪さをするはずないじゃない」
リリカのほっぺをつねる。
「いひゃい…。や、でも何かしらの理由はあるはずじゃん? いくら巫女でも、理由も無く妖精をパァン!したりしないでしょ。
…いやどうだろ……。やるか。うん、あいつらはやるな……」
「…きっと、私がアイテムを持ってるからなんですよー」
リリーが言う。
「巫女さんたち、ずいぶん忙しそうにしてました。きっと今は何かの異変が起きてて、その解決のためにわたしの持ってるアイテムが欲しかったんだと思います……」
メルランが一つ溜め息を吐いた。
「紅魔館や神社では宴会で時々お呼ばれするし、これから私が厳重に抗議しに行くわ。リリカは魔法使いの方を頼めるかしら? 友達のよしみで」
「そだね、よしみよしみ。まぁあいつらが聞き入れてくれるかは怪しいとこだけど、その時は
『これ以上リリーホワイトを虐めるなら、もうここでは二度と演奏しませーん』って言っちゃえばいいかな?
吸血鬼はともかく、神社の方は私たちの演奏がないと集客力も下がるだろうし。首を縦に振らせるのもそこまで難しくないでしょ」
そう言って立ち上がる二人に、リリーが慌てて声を掛ける。
「あ、あのっ! なんでそんな、そんなこと……わわっ」
そんな問いにとびっきりのハッピースマイルで応えながらリリーを抱き上げた。
「やぁねぇ、こんな可愛らしい妖精さんが酷い目にあってるんだもん。なんとしてでもハッピーにしてあげなくちゃ、幸せの伝道師メルラン・プリズムリバーの名が廃るってもんよ!」
「言っとくけど、こうなっちゃったメル姉はもう誰にも止められないからねー。今は素直にお礼言っておきなよ。私たちにはまた、小さい春の一つでもプレゼントしてくれたらそれで良いからさ」
そう言ってリリーの頭を撫でるリリカ。平和な光景だ。
…しかし、次にリリーの口から出た言葉は二人が予想もしないものだった。
「なんでそんなこと、しちゃうんですかあ!!」
「え?」
「へ?」
呆気に取られる二人をよそに、リリーが早口で捲し立てる……うっとりとした表情で。
「最初のうちは痛かったし嫌でしたよ? でも、何度も何度もパァン!されるうちに…わたし、だんだん気持ちよくなってきたですよー…♡
あの目の前が真っ白になって、意識がふわ~っと飛んでく瞬間がたまらんのですよー…。考えただけでキュンってなるんですよー…。へ…えへへ……。じゅるり」
虚空を見つめながら、小さな口からヨダレを垂らすリリーちゃん…。
「それなのに聞いてくださいよ! こないだ、紅白巫女に呼び出されてワクワクしてたのに、あいつ哀れみの表情でわたしの方を見てきて、
何もしてくれなかったんですよー! こちとらもう、呼び出されただけでキュンキュンしちゃってるのにですよ?! 黒白魔法使いにも、同じような反応されました…。まったく、ひどいやつらですよー。
その点、メイドは良いやつですよ! いっつも容赦無くナイフでグサグサしてくれますし。あと、緑の方の巫女は最高に良いやつですよ!
あいつに消し飛ばされる時は大抵、パァン!パァン!パァン!ってなりますから、他の奴らの三倍くらいぶっ飛べるんですよぉ……♡ …あはっ。あははははは……♡」
哀れみの表情を見せる二人を尻目に、尚もおかしなテンションで話し続けるリリーちゃん。
「…今日呼び出された時、いつもの奴らじゃなかったので正直ガッカリしました…お菓子は美味しかったですけど。
…ね、ねぇ、お姉さんたち! お姉さんたちも、ほんとは強い魔力を持ってるんですよね……? 今からでもいいですからぁ、わたしのこと消し飛ばしてくださいよぉ……♡
今ならなんと、お好きなアイテムお一つプレゼント中ですよ? 早い者勝ちですよー!
…あれ、お姉さんたちどうかしましたか?」
哀れな妖精を抱え、二人はルナサの部屋へと猛ダッシュした。
「姉さん姉さん、仕事よー!」
「リリーが姉さんのソロを聞きたいんだってさ!」
その後。
「あんたたちねー! 穢れなき妖精になんてことしてくれたの! あんたたちのせいで、リリーちゃんが変な性癖に目覚めちゃったでしょうが!」
「この人でなしー! おにー! あくまー! みこー!」
メルランとリリカが紅魔館と霧雨邸、二つの神社に怒鳴り込みに行っている間に。
落ち込み中のルナサの、陰鬱極まりないソロライブを聞かされてようやく落ち着きを取り戻したリリーちゃんでした。
みんなも、リリーちゃんを消し飛ばすのはほどほどにしておこうね!
メルランとリリカの優しさが身に沁みます
目覚めてしまったか。
変わってしまったリリーがキモくてかわいらしかったです
でも消し飛ばします
面白かったです。