翌年、作物の被害は更に拡大していた。
次第に村の外の田んぼは育たなくなり、村の中へ引っ越す移民が増えた。
それを機として、霧雨商会は米が育たない農家に対する補助金が支払いきれないと表明、支援を停止。
―――霧雨商会に対してデモを起こす人間が発生し始めた。
『鬼畜霧雨商会は我々に給付金を支給せよ!』
『人の為に働いたらどうだ!』
『私腹を肥やす人間は村に不要!』
「…こいつは酷いな、外に出れん」
「…まあ、いつも本を読んでるからあまり変わりがないんだが」
「…こーりんはまた工作か?」
「そうだよ、これから新しい物を作ろうと思って。エネルギー放出だけの道具は護身用としては使いづらいからね」
「…ていうか、どこから入ってきた?」
「女中さんが教えてくれたよ。地下で研究している研究員がいつも使う道があるって。色々研究員には世話になっているらしいんだって」
「初めて聞いたぞ私も…」
「まあ、なんだ、話を戻そう。私に護身用の道具をくれたのは嬉しいが、あまり危ない事はするなよ?」
「大丈夫!本当に襲われたときに使うものだから!」
「こーりん。私にはお前が焦っているように見える。わざわざデモが起きている日でも本を読んで工作している辺りな。
何かあったなら教えてくれ。相談には乗る」
「…僕の話ではないよ。ただ、商会で今起きている事は前兆だと思っている。
数年も経てば村は村を保つことが出来なくなるかもしれない。
人が暴れるとかそんな規模じゃなくて、強大な者と戦う。
そんな予感がするんだ」
「…そうか、変な理由じゃないんだな。私もそう思う」
「…」
―――霊夢宅―――
「靈夢、霧雨商会にはしばらく行かない方がいいわよ」
「…」
「そのうち騒ぎは収まるわ、それまでは我慢しなさい。」
「…」
「靈夢?」
「…騒ぎは収まらない、むしろこれからもっと酷くなると思う。私の勘がそう言ってるの」
「…そうかい、靈夢の勘はよく当たるからね。家計でも少し見直してみるかね」
「お母さん、私に出来る事はある?」
「なら、そろそろ味噌汁でも作ってもらおうかな」
「えっ、かなり難しい…」
「これから美味い物を作れるようになれればいいんだよ。
そのうちやらなきゃいけなくなるんだから。早い方がいいさ」
「分かった。頑張るわ」
―――明治13年、人々に不穏な空気が漂い始めた。
明治14年末、ついに村の外から人がいなくなった。村の柵の中でしか作物が育たなくなってしまった。
村の中は人口密度が上昇し、村の中にある田んぼで食料を供給するのは難しく、生活は困窮の一途をたどった。
村の商店が少しずつ倒産していくと同時に霧雨商会も事業を縮小した。投資事業を含めサービス業の撤退を発表した。
村人には性風俗に手を染める者が増え始め、治安悪化の要因となっている。
「…なんだかこの屋敷から人が少なくなったな」
どの事業であれ、リストラを受ける人間とは、表から見られやすい人から受けるものだ。
メイド、営業、店番…。そう、本当に事業に必要な人間とは、裏にいる事が多い。
ただ、研究開発はこの事件の唯一の光である事から、特別に存続を認められている。
「…靈夢とこーりんは何をしてるんだろ…」
日々衰退していく自分の家を見て、強い不安を覚える。
「本でも読も…」
魔梨沙は、不安を隠す様に更に図書館へ籠もるようになった。。
「魔梨沙、いる?」
「お邪魔します」
「!…靈夢…こーりん…ここに来たら危ないだろ」
「どうしても外出したくて親に無理言ったわ。止められたけど無理やり出てきた。…良かった。生きてたのね」
「死ぬわけないだろ」
「八卦炉は使ってる?」
「まぁ、な。たまに本を盗もうとする奴がここに入ってくるからこいつで撃退してるぜ」
「本ばっかり読んでるくせにメンタルは強いのね」
「本ばっかり読んでるからメンタルが強いんだ」
『ははは』
「みんな、たまには外にでも出てみない?本読むだけじゃなくて」
「危なくないか?出来るだけ外には出ない方がいいぞ」
「商会の近くだけでしょ?大丈夫よ」
「まあ、そうだな」
「よし!決まりね」
――――――
3人は何事もなく商会から外に出て村を歩いていた。前教えてもらったルートには人がいない。
商会の門前は相変わらずデモを行っており、それ以外は日常の風景が広がっていた。
「意外と平和なんだな、家以外は」
「まあ、食べ物が少ないから外に出ている人も少ないけどね」
「夜は逆に人がたくさん歩いてて、危なくなったんだって」
「そうなのか」
3人が話をしながら外を歩いていたその時、路地裏をふと見た3人―――
「え…?」
「うわ…」
「…お前ら、あんまり見るな…」
非日常があった。村の片隅で見た光景に衝撃を隠せなかった。
―――人間が隔離されていた―――
村の人間は、山の近くに住んでいる者が米の病気を発生させた原因だと決めつけ、あからさまな暴力や差別言動を取った。
そもそも職がない所に山の人間を働かせると米に影響が出るなどと理由をつけて働かせる事が無かった。
ほぼ物乞いと化した彼らに対する差別行為はエスカレートしていった。
山の人間が住む場所を決め、その範囲から出るなと―――。
『…』
「…この事件って、何の為にしてるんだろう?」
「え?」
「米が育たないって事件さ。だって、その事件って何者かが行ってるんでしょ?」
「そう考えた方が正しいかもな」
「なら、誰かが得しているはずだよね。誰だろう?」
「私の父さんが一番金を使っていない事は分かっている。
霧雨商会が崩壊するのも時間の問題だしな…うちにはいないだろうな」
「元々山の人たちが苦手だという人たちが組織的にやったって考えられると思うんだけど…」
「自分に都合の悪い人間だったり好きじゃない人たちを苦しめる事に喜びを得ているのかな」
「…………どんな問題であれ、私たちで解決できる問題じゃないな。難しすぎる。」
「確かに、でも…そうしたら村はこのままなの…」
「解決策があればな…」
「…」
"カン!カン!カン!カン!カン!カン!"
『!!?』
"外に出ている者は全員家に帰れー!!!怪しい集団が村に向かってきてるぞ!!!!"
『!!!』
「今度は何!?」
「落ち込んでいる暇はない!早く帰るぞ」
「…ちょっとだけ柵の隙間を見ていい?」
「こーりん!危ないだろ、早く帰るぞ!」
「…」
「…こーりん?」
「…軍隊だ。銃を持ってる。数は…10人…」
「軍隊!?どうして!」
「いいから早く!靈夢も!2人ともうちへ来い!」
「え!?…でも父さんと母さんが…」
「いいから!恐らくこの村で一番安全な場所は霧雨商会だ!リストラで人はあまりいないが、
それでも誰かしらはいる!人が多い方が安全だ」
「でも…」
「死にたくなかったら早く来い!」
「…分かったわ」「僕も行く!」
………………
「何とか着いたな…」
「やっぱり、この図書館が一番落ち着くよ」
「私たち、どうなるのかしら…」
「大丈夫だ!ここにいれば何とかなる!」
「そうね…私は魔梨沙を信じるわ」
「僕はいつでも魔梨沙の事を信じているよ」
「おう、どんと任せろ!」
バン!―――"ぐおぁあ!!" "きゃあああ!!"
『うわっ!』
(静かにしろ!)
「父さん、母さん…」
――――――――――――――――――――
10分前…
「お前たちは何者だ」
「私たちは、大日本帝国陸軍である。現在大日本帝国では、先の薩摩との戦による戦力喪失の為、兵が絶望的に少ない。
しかし、将来的に我国が繁栄をもたらすには、軍備の増強を必須と考える。そこで、貴方がたの村から百人程度の徴兵を要求する」
「何だって!おれ達の村からなんておめぇたちにやる人はいねぇ!」
「おい、ちょっと待て。あいつらがいるだろ」
「…おお!そうか!あいつらがいたな…ちょっと待ってくれ」
…
「何だこの者たちは」
「俺たちの奴隷だ。いらねえから勝手に持ってってくれ」
『くそぉ…』『父ちゃん、僕たちどうなるの?』
『…心配するな、俺が守ってやる…』
「ふん、そうか…」
「………足りんな。もっと持って来い」
「もううちからやれる人間はいねぇよ」
―――なら、武力行使だ
バンッ!
『きゃぁああああ!!!!』
「ぅ…ぉぅ…ぁは…」
「さあ、さっさとしろ!我が軍は福利厚生が充実している。
こんな村より飯に困らない!今より暮らしを良くしたいのなら私の元に来い!」
「隊長、少々やりすぎでは…」
「副隊長は黙っとれ!私に口出しするな!」
「はい…」
"―――あらあら、何だか騒がしいわね"
「!?。どこだ!どこから声を掛けている!?」
"そんなの貴方から見えないんだから分かるわけないじゃない"
「うわあああ!」バンッ!バンッ!バンッ!
"そんなものなのね、呆れちゃうわ…"
「くそっ、隊員散開!姿を現したらすぐに対象を撃て!」
「はい!!」
―――ぐぇゃあぁああぁぁああぁ!
「一等兵!?何があった!?」
バンッ!バンッ!
―――う、うわあああぁあ!
「二等兵!どこにいる!?」
"ほんと可哀そう。こんなに指揮が下手な将校に仕えてるなんて"
「貴様ぁ!姿を見せろ!」
"いいわよ、はいどうぞ"
「!?」
「宙に…浮かんでいる…」
"半分世界。でも、ただ宙に浮かんでいるわけではないのよ。
それはね、企業秘密????"
「黙れ!」バンッ!バンッ!
"そんなおもちゃ使っても私には勝てないわよぉ"
「なぜだ…照準は合っているはず…」
"そういう問題じゃないのよね。あーあ、もう飽きちゃった"
―――"さようなら、将校さん"―――
「何だ…何なんだ…体が膨らんで…」
「く、くそっ、うおおおぉぉぉ!!!………」
パァン…
地面は赤に濡れる。
「ひっひぃいぃ…」
「あれって、あん時の化け物…!」
…タッタッタ…
"あら、1人逃しちゃったわ、後で追いかけよっと"
"安心して頂戴。私は村の者を襲ったりなんかしないわ。だって、死んじゃったら困っちゃうもの"
「へ、兵隊は…、もう…」
「大丈夫よ。兵隊はもういないわ」
「ほ、ほんとか…?」
"ほんとよ、覚えてる?この村は私が支配している。
外から敵が来たら全力で村のみんなを守ることを約束するわ"
「た、確かにそんな事があったな…」「ありがてぇ…」
「き、救世主様…お名前は…?」
"じゃあ、もう一度名前を言うわ。私は八雲紫(ゆかり)よ。覚えてね?"
『はい…!紫様!』
――――――――――――――――――――
……
「音が、止んだ?」
「外に出てみようよ」
「いや、だめだ。何が起きるかわからない。ちょっとだけ待とう」
……
「あれから、音はしないようだ。慎重に外に出てみよう」
「心配だわ…」
「大丈夫だよ、魔梨沙を信じよう」
「そうだ。こーりんからもらった八卦炉もあるしな」
「でも、相手が1人じゃないといけないよ」
「そうだな、ゆっくり進もう」
………
「!…なんだよこれ…」
「し、死んでる…」
「嘘でしょ…?」
「私、家に帰る!」
「靈夢!」
「行かせてあげようよ、魔梨沙」
「…そうだな、その方がいい。こーりんも帰ったほうがいいだろ」
「そうだね、僕も家に帰るよ。親が心配だし」
「分かった。じゃあな」
「じゃあね」
―――靈夢宅―――
「父さん、母さん、大丈夫!?」
「靈夢!良かった…生きてて…」
「靈夢!どこに行ってたんだ!!」
「ごめんなさい。霧雨商会に避難してた。あそこなら大人の人が沢山いるから大丈夫って。
中に危ない人は入ってこなかったよ」
「そうか…そうか…よかった…」
「さあ、今日は皆でゆっくりしよう。一緒にいれば怖くないでしょ」
「うん…母さん…」
―――霖之助宅―――
「…ただいま」
「おかえり…」
「僕は大丈夫だったよ」
「そうか…よかった」
「ねぇ、ほんとにそう思ってる?」
「当たり前だよ…霖之助くん」
「全然思ってないじゃないか…」
「あなた、頑丈でしょ?鉄砲の一発くらい」
「…」
「それよりも大切な事があるでしょ?」
「…」
「村のみんなにばれない事」
次第に村の外の田んぼは育たなくなり、村の中へ引っ越す移民が増えた。
それを機として、霧雨商会は米が育たない農家に対する補助金が支払いきれないと表明、支援を停止。
―――霧雨商会に対してデモを起こす人間が発生し始めた。
『鬼畜霧雨商会は我々に給付金を支給せよ!』
『人の為に働いたらどうだ!』
『私腹を肥やす人間は村に不要!』
「…こいつは酷いな、外に出れん」
「…まあ、いつも本を読んでるからあまり変わりがないんだが」
「…こーりんはまた工作か?」
「そうだよ、これから新しい物を作ろうと思って。エネルギー放出だけの道具は護身用としては使いづらいからね」
「…ていうか、どこから入ってきた?」
「女中さんが教えてくれたよ。地下で研究している研究員がいつも使う道があるって。色々研究員には世話になっているらしいんだって」
「初めて聞いたぞ私も…」
「まあ、なんだ、話を戻そう。私に護身用の道具をくれたのは嬉しいが、あまり危ない事はするなよ?」
「大丈夫!本当に襲われたときに使うものだから!」
「こーりん。私にはお前が焦っているように見える。わざわざデモが起きている日でも本を読んで工作している辺りな。
何かあったなら教えてくれ。相談には乗る」
「…僕の話ではないよ。ただ、商会で今起きている事は前兆だと思っている。
数年も経てば村は村を保つことが出来なくなるかもしれない。
人が暴れるとかそんな規模じゃなくて、強大な者と戦う。
そんな予感がするんだ」
「…そうか、変な理由じゃないんだな。私もそう思う」
「…」
―――霊夢宅―――
「靈夢、霧雨商会にはしばらく行かない方がいいわよ」
「…」
「そのうち騒ぎは収まるわ、それまでは我慢しなさい。」
「…」
「靈夢?」
「…騒ぎは収まらない、むしろこれからもっと酷くなると思う。私の勘がそう言ってるの」
「…そうかい、靈夢の勘はよく当たるからね。家計でも少し見直してみるかね」
「お母さん、私に出来る事はある?」
「なら、そろそろ味噌汁でも作ってもらおうかな」
「えっ、かなり難しい…」
「これから美味い物を作れるようになれればいいんだよ。
そのうちやらなきゃいけなくなるんだから。早い方がいいさ」
「分かった。頑張るわ」
―――明治13年、人々に不穏な空気が漂い始めた。
明治14年末、ついに村の外から人がいなくなった。村の柵の中でしか作物が育たなくなってしまった。
村の中は人口密度が上昇し、村の中にある田んぼで食料を供給するのは難しく、生活は困窮の一途をたどった。
村の商店が少しずつ倒産していくと同時に霧雨商会も事業を縮小した。投資事業を含めサービス業の撤退を発表した。
村人には性風俗に手を染める者が増え始め、治安悪化の要因となっている。
「…なんだかこの屋敷から人が少なくなったな」
どの事業であれ、リストラを受ける人間とは、表から見られやすい人から受けるものだ。
メイド、営業、店番…。そう、本当に事業に必要な人間とは、裏にいる事が多い。
ただ、研究開発はこの事件の唯一の光である事から、特別に存続を認められている。
「…靈夢とこーりんは何をしてるんだろ…」
日々衰退していく自分の家を見て、強い不安を覚える。
「本でも読も…」
魔梨沙は、不安を隠す様に更に図書館へ籠もるようになった。。
「魔梨沙、いる?」
「お邪魔します」
「!…靈夢…こーりん…ここに来たら危ないだろ」
「どうしても外出したくて親に無理言ったわ。止められたけど無理やり出てきた。…良かった。生きてたのね」
「死ぬわけないだろ」
「八卦炉は使ってる?」
「まぁ、な。たまに本を盗もうとする奴がここに入ってくるからこいつで撃退してるぜ」
「本ばっかり読んでるくせにメンタルは強いのね」
「本ばっかり読んでるからメンタルが強いんだ」
『ははは』
「みんな、たまには外にでも出てみない?本読むだけじゃなくて」
「危なくないか?出来るだけ外には出ない方がいいぞ」
「商会の近くだけでしょ?大丈夫よ」
「まあ、そうだな」
「よし!決まりね」
――――――
3人は何事もなく商会から外に出て村を歩いていた。前教えてもらったルートには人がいない。
商会の門前は相変わらずデモを行っており、それ以外は日常の風景が広がっていた。
「意外と平和なんだな、家以外は」
「まあ、食べ物が少ないから外に出ている人も少ないけどね」
「夜は逆に人がたくさん歩いてて、危なくなったんだって」
「そうなのか」
3人が話をしながら外を歩いていたその時、路地裏をふと見た3人―――
「え…?」
「うわ…」
「…お前ら、あんまり見るな…」
非日常があった。村の片隅で見た光景に衝撃を隠せなかった。
―――人間が隔離されていた―――
村の人間は、山の近くに住んでいる者が米の病気を発生させた原因だと決めつけ、あからさまな暴力や差別言動を取った。
そもそも職がない所に山の人間を働かせると米に影響が出るなどと理由をつけて働かせる事が無かった。
ほぼ物乞いと化した彼らに対する差別行為はエスカレートしていった。
山の人間が住む場所を決め、その範囲から出るなと―――。
『…』
「…この事件って、何の為にしてるんだろう?」
「え?」
「米が育たないって事件さ。だって、その事件って何者かが行ってるんでしょ?」
「そう考えた方が正しいかもな」
「なら、誰かが得しているはずだよね。誰だろう?」
「私の父さんが一番金を使っていない事は分かっている。
霧雨商会が崩壊するのも時間の問題だしな…うちにはいないだろうな」
「元々山の人たちが苦手だという人たちが組織的にやったって考えられると思うんだけど…」
「自分に都合の悪い人間だったり好きじゃない人たちを苦しめる事に喜びを得ているのかな」
「…………どんな問題であれ、私たちで解決できる問題じゃないな。難しすぎる。」
「確かに、でも…そうしたら村はこのままなの…」
「解決策があればな…」
「…」
"カン!カン!カン!カン!カン!カン!"
『!!?』
"外に出ている者は全員家に帰れー!!!怪しい集団が村に向かってきてるぞ!!!!"
『!!!』
「今度は何!?」
「落ち込んでいる暇はない!早く帰るぞ」
「…ちょっとだけ柵の隙間を見ていい?」
「こーりん!危ないだろ、早く帰るぞ!」
「…」
「…こーりん?」
「…軍隊だ。銃を持ってる。数は…10人…」
「軍隊!?どうして!」
「いいから早く!靈夢も!2人ともうちへ来い!」
「え!?…でも父さんと母さんが…」
「いいから!恐らくこの村で一番安全な場所は霧雨商会だ!リストラで人はあまりいないが、
それでも誰かしらはいる!人が多い方が安全だ」
「でも…」
「死にたくなかったら早く来い!」
「…分かったわ」「僕も行く!」
………………
「何とか着いたな…」
「やっぱり、この図書館が一番落ち着くよ」
「私たち、どうなるのかしら…」
「大丈夫だ!ここにいれば何とかなる!」
「そうね…私は魔梨沙を信じるわ」
「僕はいつでも魔梨沙の事を信じているよ」
「おう、どんと任せろ!」
バン!―――"ぐおぁあ!!" "きゃあああ!!"
『うわっ!』
(静かにしろ!)
「父さん、母さん…」
――――――――――――――――――――
10分前…
「お前たちは何者だ」
「私たちは、大日本帝国陸軍である。現在大日本帝国では、先の薩摩との戦による戦力喪失の為、兵が絶望的に少ない。
しかし、将来的に我国が繁栄をもたらすには、軍備の増強を必須と考える。そこで、貴方がたの村から百人程度の徴兵を要求する」
「何だって!おれ達の村からなんておめぇたちにやる人はいねぇ!」
「おい、ちょっと待て。あいつらがいるだろ」
「…おお!そうか!あいつらがいたな…ちょっと待ってくれ」
…
「何だこの者たちは」
「俺たちの奴隷だ。いらねえから勝手に持ってってくれ」
『くそぉ…』『父ちゃん、僕たちどうなるの?』
『…心配するな、俺が守ってやる…』
「ふん、そうか…」
「………足りんな。もっと持って来い」
「もううちからやれる人間はいねぇよ」
―――なら、武力行使だ
バンッ!
『きゃぁああああ!!!!』
「ぅ…ぉぅ…ぁは…」
「さあ、さっさとしろ!我が軍は福利厚生が充実している。
こんな村より飯に困らない!今より暮らしを良くしたいのなら私の元に来い!」
「隊長、少々やりすぎでは…」
「副隊長は黙っとれ!私に口出しするな!」
「はい…」
"―――あらあら、何だか騒がしいわね"
「!?。どこだ!どこから声を掛けている!?」
"そんなの貴方から見えないんだから分かるわけないじゃない"
「うわあああ!」バンッ!バンッ!バンッ!
"そんなものなのね、呆れちゃうわ…"
「くそっ、隊員散開!姿を現したらすぐに対象を撃て!」
「はい!!」
―――ぐぇゃあぁああぁぁああぁ!
「一等兵!?何があった!?」
バンッ!バンッ!
―――う、うわあああぁあ!
「二等兵!どこにいる!?」
"ほんと可哀そう。こんなに指揮が下手な将校に仕えてるなんて"
「貴様ぁ!姿を見せろ!」
"いいわよ、はいどうぞ"
「!?」
「宙に…浮かんでいる…」
"半分世界。でも、ただ宙に浮かんでいるわけではないのよ。
それはね、企業秘密????"
「黙れ!」バンッ!バンッ!
"そんなおもちゃ使っても私には勝てないわよぉ"
「なぜだ…照準は合っているはず…」
"そういう問題じゃないのよね。あーあ、もう飽きちゃった"
―――"さようなら、将校さん"―――
「何だ…何なんだ…体が膨らんで…」
「く、くそっ、うおおおぉぉぉ!!!………」
パァン…
地面は赤に濡れる。
「ひっひぃいぃ…」
「あれって、あん時の化け物…!」
…タッタッタ…
"あら、1人逃しちゃったわ、後で追いかけよっと"
"安心して頂戴。私は村の者を襲ったりなんかしないわ。だって、死んじゃったら困っちゃうもの"
「へ、兵隊は…、もう…」
「大丈夫よ。兵隊はもういないわ」
「ほ、ほんとか…?」
"ほんとよ、覚えてる?この村は私が支配している。
外から敵が来たら全力で村のみんなを守ることを約束するわ"
「た、確かにそんな事があったな…」「ありがてぇ…」
「き、救世主様…お名前は…?」
"じゃあ、もう一度名前を言うわ。私は八雲紫(ゆかり)よ。覚えてね?"
『はい…!紫様!』
――――――――――――――――――――
……
「音が、止んだ?」
「外に出てみようよ」
「いや、だめだ。何が起きるかわからない。ちょっとだけ待とう」
……
「あれから、音はしないようだ。慎重に外に出てみよう」
「心配だわ…」
「大丈夫だよ、魔梨沙を信じよう」
「そうだ。こーりんからもらった八卦炉もあるしな」
「でも、相手が1人じゃないといけないよ」
「そうだな、ゆっくり進もう」
………
「!…なんだよこれ…」
「し、死んでる…」
「嘘でしょ…?」
「私、家に帰る!」
「靈夢!」
「行かせてあげようよ、魔梨沙」
「…そうだな、その方がいい。こーりんも帰ったほうがいいだろ」
「そうだね、僕も家に帰るよ。親が心配だし」
「分かった。じゃあな」
「じゃあね」
―――靈夢宅―――
「父さん、母さん、大丈夫!?」
「靈夢!良かった…生きてて…」
「靈夢!どこに行ってたんだ!!」
「ごめんなさい。霧雨商会に避難してた。あそこなら大人の人が沢山いるから大丈夫って。
中に危ない人は入ってこなかったよ」
「そうか…そうか…よかった…」
「さあ、今日は皆でゆっくりしよう。一緒にいれば怖くないでしょ」
「うん…母さん…」
―――霖之助宅―――
「…ただいま」
「おかえり…」
「僕は大丈夫だったよ」
「そうか…よかった」
「ねぇ、ほんとにそう思ってる?」
「当たり前だよ…霖之助くん」
「全然思ってないじゃないか…」
「あなた、頑丈でしょ?鉄砲の一発くらい」
「…」
「それよりも大切な事があるでしょ?」
「…」
「村のみんなにばれない事」