「水色の水玉ふんどしが売っている」
そう私の部下である小町が、やや困惑と驚愕を丁度織り交ぜた具合の表情で、丁度午前中の業務を終わらせて、少し早めの昼食であるオムレツ定食と対面している私、四季映姫・ヤマザナドゥのところへやって来た。
「はぁ」
「はぁって、リアクションが悪いですねぇ四季様」
「現在この幻想郷に置いて、最も至福で有用な時を過ごしている私の時間を邪魔しないで」
真面目に取り合っても仕方ない。目の前のオムレツ定食は一刻、また一刻とその食べ頃は移ろいで行く。
「少し待っていなさい」
最大限、威圧を込めた目線を小町の方に向けると、小町はようやく事の重大性を理解したようで、苦笑いしながら私の隣にある席に腰を掛けると、スタミナ定食を注文して一緒に昼食を食べた。仮にも三途の川の船頭の死に神でもある彼女がスタミナ定食を食べるのは些か疑問を持ったが、まぁ他の昼食に意見を述べるような野暮なことはしない。
話を要約すると「休日になんとなしに、香霖堂という如何にも胡散臭い古道具屋が「真の闇鍋バザーセール」をしているらしく、そこにあった商品の一つだったらしい。
「なんじゃそりゃ」思わず変な声がでる。
嘘にしても、もっと巧妙な嘘をつくべきだし、馬鹿馬鹿しい内容過ぎる故か謎の信憑性を内包している。そして何より、副産物的な能力により私に嘘は通じない。つまり真実だ。真実とはいつも妙だがそれにしても妙が過ぎる。
「嘘、ついているように見えます?」
小町は食後の緑茶を私の分も合わせて湯呑に注ぐ。するとお湯に誘われてにじみ出て良い茶葉特有の上品な緑化的芳醇な香りが私たちの周りに広がる。実際に少し啜ってみると、お茶の旨味と香りが口に中に上手い具合に広がる。
「嘘はついていないようですが。にしても何ですかそれ」
「さぁ私もちらりと視界の端に入れただけで、まぁよく見なくて正しかったと今でも思いますがね」
「休日の過ごし方に口出しはしませんが、もう少し有用な使い方をしませんか?」
しかし、「真の闇鍋バザーセール」と言う響きは、やや小匙一杯程度の興味がそそられる。
「手厳しいですねぇ。まぁ存外、四季様こういう手のものは嫌いではないですし、興味がおありかなと思っただけですよ。ではこれで私は失礼します。休日故、優雅な昼寝をいたします」
湯吞に残った緑茶をさっと飲み干すと、小町は立ち上がりやや左右に揺れながら去っていった。
今日の業務は既に終了している。このまま自宅に帰っても良いが、やはり気にかかる。香霖堂までは特段、行き難いわけではないので、少し様子を見に行ってみよう。
「しかし、小町はこんなに美味しくお茶を淹れられたかしら」
「真の闇鍋バザーセール開催中」と大きな幟が店先に出ている、真も何もない気がするが、そこは置いておこう。
「おやいらっしゃい」
店先にある幟の近くにある、木製のやや大きめのロックチェアーには香霖堂店主である、森近霖之助が悠々とくつろいでいた。
「今日は真の闇鍋バザーセールしかやってないけど、良いかな?」
「はぁ……真の闇鍋バザーセールとは何ですか?」
真の闇鍋バザーセールとは、店主の森近霖之助によると闇市で仕入れた使用用途も不明に近い品物を、ある方法により「見た目も手触りも分からない正体不明の物」にする。それは買ってから数日後「見た目も手触りも分からない正体不明の物」にする術が解けて、買ったものが初めて分かるという。
「……いや何ですかそれ?」
説明を真剣に聞いてみるも、私が悪いのか、そもそもこの催しが意味不明なのか、わざわざこのイベントを開催する意図が理解できなかった。
「闇市的な雰囲気で商売するのではいけないのですか?」
「そもそも闇市とはなんだ?闇とは一先も見えない暗闇のことだ、しかし実際はどうだ?売り物も値段も全てくっきりはっきり見えている。そんなのは不自然であり、言葉の冒涜と言っても過言ではない。それであれば「闇市」ではなく「違法商売市」で良いじゃないか。確かに私の主張はどこかベクトルが違っているとは勘付いているとも、しかしたまには良いじゃないか、正しさだけが全てではない。しかしこれはこれで、もしかするとフィーリングで運命をつかみ取る力がこの世の中には必要であるとも言えなくもないかもしれないし、その力を鍛えることが出来るのかも知れない、保証はしないよ?まぁ今回はある妖怪も手伝ってくれて引くに引けない状況でもある。しかし中々に遊び心があると思わないかい?勿論当たりもある。今日は君が最初で最後のお客様だと思うし、特別に無料で良いよ」
素直に喜べない申し出だが、やはりどういうものかは少し興味がある。しかし、根拠も信憑性の欠片もない、この出所不明の熱気は何処から出るのだろうか。
「よく分かりませんが一回やってみます」
「はい、じゃあ店内にどうぞ」
暖簾をくぐり店内に入ると異様な光景が広がっていた。棚に置かれている商品らしきものは全て靄がかかっている様に上手く認識出来ない。
試しに手に取っても、感触は固くも柔らかくもあり、しっとりもさっぱりとしているようで、暖かくも冷たいようで、布の様で鉱石の様な気もする、そんなものが山ほど並べられ、何が何だか皆目見当もつかない。狸に化かされている気分だ。長くこの空間に居ると気分を害するような気がする。
なんでもいいので一つ手に取り入口に戻ると、森近は持ち帰る用の手提げ袋に手に取った「それ」を入れてくれた。袋には「香霖堂」と大きく描かれている。
「もし「これ」が何か分かって、用途が分からなかったらもう一度来て欲しい。僕の能力で見てあげるからね」
質の悪い白昼夢を見た気がして、眩暈と頭痛を感じながら帰路に就いた。
後日、見るのも不快なので、香霖堂の袋に入れたままにしていた「見た目も手触りも分からない正体不明」の術が解けた品物を確認すると水色の水玉ふんどしであった。
草木も眠る丑三つ時、大木の木々に腰を掛け、月見にお茶会をする妖怪が二体。
封獣ぬえと二ツ岩マミゾウだ。
「相変わらず、ぬえの淹れるお茶は美味しいねぇ」
マミゾウはぬえが淹れたお茶は一口啜り思わず笑顔になる。何故だが不明だがぬえの淹れるお茶は非常に美味しいのだ。
「技術が違うからね。この茶葉貰い物で品質は些か不安だったけどこれなら悪くないかな」
「へぇ、ぬえに茶葉をくれる、そんな酔狂な者がここに居るのかい?」
「異様に酔狂なやつが居るんだよ、ある古道具屋にね。ついでに死に神と組んで閻魔も騙せたし、あれは見物だった」
「それは面白そうだ、詳しく聞かせておくれ」
後日、封獣ぬえと小野塚小町が手を組んで四季映姫・ヤマザナドゥを騙したことは露呈するのだが、それはまた別のお話。
そう私の部下である小町が、やや困惑と驚愕を丁度織り交ぜた具合の表情で、丁度午前中の業務を終わらせて、少し早めの昼食であるオムレツ定食と対面している私、四季映姫・ヤマザナドゥのところへやって来た。
「はぁ」
「はぁって、リアクションが悪いですねぇ四季様」
「現在この幻想郷に置いて、最も至福で有用な時を過ごしている私の時間を邪魔しないで」
真面目に取り合っても仕方ない。目の前のオムレツ定食は一刻、また一刻とその食べ頃は移ろいで行く。
「少し待っていなさい」
最大限、威圧を込めた目線を小町の方に向けると、小町はようやく事の重大性を理解したようで、苦笑いしながら私の隣にある席に腰を掛けると、スタミナ定食を注文して一緒に昼食を食べた。仮にも三途の川の船頭の死に神でもある彼女がスタミナ定食を食べるのは些か疑問を持ったが、まぁ他の昼食に意見を述べるような野暮なことはしない。
話を要約すると「休日になんとなしに、香霖堂という如何にも胡散臭い古道具屋が「真の闇鍋バザーセール」をしているらしく、そこにあった商品の一つだったらしい。
「なんじゃそりゃ」思わず変な声がでる。
嘘にしても、もっと巧妙な嘘をつくべきだし、馬鹿馬鹿しい内容過ぎる故か謎の信憑性を内包している。そして何より、副産物的な能力により私に嘘は通じない。つまり真実だ。真実とはいつも妙だがそれにしても妙が過ぎる。
「嘘、ついているように見えます?」
小町は食後の緑茶を私の分も合わせて湯呑に注ぐ。するとお湯に誘われてにじみ出て良い茶葉特有の上品な緑化的芳醇な香りが私たちの周りに広がる。実際に少し啜ってみると、お茶の旨味と香りが口に中に上手い具合に広がる。
「嘘はついていないようですが。にしても何ですかそれ」
「さぁ私もちらりと視界の端に入れただけで、まぁよく見なくて正しかったと今でも思いますがね」
「休日の過ごし方に口出しはしませんが、もう少し有用な使い方をしませんか?」
しかし、「真の闇鍋バザーセール」と言う響きは、やや小匙一杯程度の興味がそそられる。
「手厳しいですねぇ。まぁ存外、四季様こういう手のものは嫌いではないですし、興味がおありかなと思っただけですよ。ではこれで私は失礼します。休日故、優雅な昼寝をいたします」
湯吞に残った緑茶をさっと飲み干すと、小町は立ち上がりやや左右に揺れながら去っていった。
今日の業務は既に終了している。このまま自宅に帰っても良いが、やはり気にかかる。香霖堂までは特段、行き難いわけではないので、少し様子を見に行ってみよう。
「しかし、小町はこんなに美味しくお茶を淹れられたかしら」
「真の闇鍋バザーセール開催中」と大きな幟が店先に出ている、真も何もない気がするが、そこは置いておこう。
「おやいらっしゃい」
店先にある幟の近くにある、木製のやや大きめのロックチェアーには香霖堂店主である、森近霖之助が悠々とくつろいでいた。
「今日は真の闇鍋バザーセールしかやってないけど、良いかな?」
「はぁ……真の闇鍋バザーセールとは何ですか?」
真の闇鍋バザーセールとは、店主の森近霖之助によると闇市で仕入れた使用用途も不明に近い品物を、ある方法により「見た目も手触りも分からない正体不明の物」にする。それは買ってから数日後「見た目も手触りも分からない正体不明の物」にする術が解けて、買ったものが初めて分かるという。
「……いや何ですかそれ?」
説明を真剣に聞いてみるも、私が悪いのか、そもそもこの催しが意味不明なのか、わざわざこのイベントを開催する意図が理解できなかった。
「闇市的な雰囲気で商売するのではいけないのですか?」
「そもそも闇市とはなんだ?闇とは一先も見えない暗闇のことだ、しかし実際はどうだ?売り物も値段も全てくっきりはっきり見えている。そんなのは不自然であり、言葉の冒涜と言っても過言ではない。それであれば「闇市」ではなく「違法商売市」で良いじゃないか。確かに私の主張はどこかベクトルが違っているとは勘付いているとも、しかしたまには良いじゃないか、正しさだけが全てではない。しかしこれはこれで、もしかするとフィーリングで運命をつかみ取る力がこの世の中には必要であるとも言えなくもないかもしれないし、その力を鍛えることが出来るのかも知れない、保証はしないよ?まぁ今回はある妖怪も手伝ってくれて引くに引けない状況でもある。しかし中々に遊び心があると思わないかい?勿論当たりもある。今日は君が最初で最後のお客様だと思うし、特別に無料で良いよ」
素直に喜べない申し出だが、やはりどういうものかは少し興味がある。しかし、根拠も信憑性の欠片もない、この出所不明の熱気は何処から出るのだろうか。
「よく分かりませんが一回やってみます」
「はい、じゃあ店内にどうぞ」
暖簾をくぐり店内に入ると異様な光景が広がっていた。棚に置かれている商品らしきものは全て靄がかかっている様に上手く認識出来ない。
試しに手に取っても、感触は固くも柔らかくもあり、しっとりもさっぱりとしているようで、暖かくも冷たいようで、布の様で鉱石の様な気もする、そんなものが山ほど並べられ、何が何だか皆目見当もつかない。狸に化かされている気分だ。長くこの空間に居ると気分を害するような気がする。
なんでもいいので一つ手に取り入口に戻ると、森近は持ち帰る用の手提げ袋に手に取った「それ」を入れてくれた。袋には「香霖堂」と大きく描かれている。
「もし「これ」が何か分かって、用途が分からなかったらもう一度来て欲しい。僕の能力で見てあげるからね」
質の悪い白昼夢を見た気がして、眩暈と頭痛を感じながら帰路に就いた。
後日、見るのも不快なので、香霖堂の袋に入れたままにしていた「見た目も手触りも分からない正体不明」の術が解けた品物を確認すると水色の水玉ふんどしであった。
草木も眠る丑三つ時、大木の木々に腰を掛け、月見にお茶会をする妖怪が二体。
封獣ぬえと二ツ岩マミゾウだ。
「相変わらず、ぬえの淹れるお茶は美味しいねぇ」
マミゾウはぬえが淹れたお茶は一口啜り思わず笑顔になる。何故だが不明だがぬえの淹れるお茶は非常に美味しいのだ。
「技術が違うからね。この茶葉貰い物で品質は些か不安だったけどこれなら悪くないかな」
「へぇ、ぬえに茶葉をくれる、そんな酔狂な者がここに居るのかい?」
「異様に酔狂なやつが居るんだよ、ある古道具屋にね。ついでに死に神と組んで閻魔も騙せたし、あれは見物だった」
「それは面白そうだ、詳しく聞かせておくれ」
後日、封獣ぬえと小野塚小町が手を組んで四季映姫・ヤマザナドゥを騙したことは露呈するのだが、それはまた別のお話。
饒舌に語る香霖が素敵でした
映姫様ももっとすてきでした
かわいい