Coolier - 新生・東方創想話

片隅

2021/05/04 12:26:00
最終更新
サイズ
3.2KB
ページ数
1
閲覧数
993
評価数
1/4
POINT
210
Rate
9.40

分類タグ



「早苗!? 聞こえる!?」
薄らと開かれた視界の奥。
今の私には、少し眩しくも思える淡い光。
頬に落ちた、冷たくも暖かい一つの小さな雫。
……涙、なのかな?
でも……誰の……?
「早苗、ねぇ私だよ、分かる!? 早苗、早苗!!」
必死に呼び掛けている。
何に?
早苗……?
私……のこと?
「もうやめな……」
「ねぇ早苗、起きてよ……!! また美味しいご飯作って、三人で食べようよ……ねぇ!!」
「諏訪子!!」
誰かと誰かが話し合っている。
怒声に聞こえるけれど、その声色はどこか悲哀の色に満ちていた。
諏訪子……さま……?
じゃあ、もう一人は……神奈子、さま?
「早苗は現人神であっても、身体は人間なんだ。 いずれこの時が来ることは、お前も分かっていただろう?」
「でも……早すぎるよ、こんな……!!」
……この時?
あぁ、私……死んじゃうんだ……。
嫌だなー、まだやりたいこと……たくさん、あったのに……。
急に視界が潤み出す。
それと同時に、上げられなかった声も、自然と混み上がってくる。
「神奈子、さま……諏訪子、さま……?」
「早苗!? 私だよ、私が分かる!?」
冷たくなりつつある私の手を、暖かく小さな両手が包み込む。
今まで、何度も繋いできたこの手。
私よりも小さくても、私よりもずっと多くの時を生き、色々な場所の記憶を刻んで来た、輝かしくもある立派な手。
指を絡め、必死に握って来る。
けれど私は、それを握り返すことは出来ない。
力が入らない、こんなこと今まで体験したことがない。
「早苗、お前はよく頑張ったよ。 後は私たちに任せな」
「嫌だ、死んじゃ嫌だよ早苗!!」
何度も、何度も落ちてくる雫。
こんな涙、見たことがなかった。
あれ、私も泣いているのかな……。
よく分からないけれど、二つの涙が合わさった気がする。
「神奈子さま……諏訪子さま、もう泣かないで下さい……私は、お二人の笑顔が見たいです……」
いつかは来ると分かっていた、この時間。
一瞬で過ぎ去るものだと思っていたけれど、こんなにも長く切ない時間だったなんて、思いもしなかった。
終わりは、もうそこまで見えている。
引き返せるのなら、這ってでも戻りたい……。
でも、ダメなんだ……。
「外の世界からこの場所に行き着いて、最初は不安でした。 でも、お二人が居たから……ずっと傍に居てくれたから、私は今もこうしてこの場所で生きられているんです。 恩人であり、家族であるお二人の哀しい顔は……今は見たくありません……」
何度も目を閉じてしまいそうになる。
薄れていく意識や、下がっていく身体の熱。
二度と起こすことの出来ない、暗く冷たい深海へと、見えない何かが誘おうとしている。
それでも、必死に言の葉を繋いでいく。
「私は、今も昔も……ずっと幸せでしたよ。 ありがとうございます……そして、これからは……私がお二人を見守り続けます……」
笑顔を見せることも、共に食卓を囲むことも。
手を繋ぐことも、話すことも喧嘩することも、もう出来ない。
それでも、私はお二人の傍を離れたくないんです。
「ありがとうございました、神奈子さま……諏訪子さま……」
震える腕を必死に上げ、ずっと泣いたままの瞳の涙を指で拭う。
諏訪子さま、先に旅立つ私を許して欲しいです。
償えなくてもいいです、ですがこれからも見守り続けることには、怒らず受け入れて下さい。
微かに開いた瞼の隙間から、瞳を右側へ向ける。
神奈子さま、私は上手く巫女を務めることが出来たでしょうか?
自信はありません、ですが神奈子さまが居たから、私は前を向くことが出来たんです。
ありがとうございました。
一筋の細い糸が切れたように、私の腕は力無く落ちていく。
流れ続けていた涙も、上げ続けた声も消えていく。
ダメだなー私……。
お二人に泣かないで下さいって言ったから、笑っていなきゃいけないのに。
私……笑えなかったな。
ご閲覧頂き、ありがとうございます。
友人との会話にて、
「東風谷早苗お別れ合同とかないですかね?」
という空想の合同を作ることになったので、書いてみました。
個人的には早苗さんは神奈子と諏訪子に看取られて欲しいですね。
神奈子は必死に涙を堪え、声を震わせながら早苗と最後の会話を。
諏訪子はわんわんと泣いて欲しかったりします。

あくまでも個人の解釈なので、違ったらすみません。
後は早苗さん好きの方、重ねてすみませんとだけ。
REEYA
[email protected]
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.120簡易評価
3.90奇声を発する程度の能力削除
面白かったです