年が明け、明治12年。霧雨商会の従業員が予想していた事が現実となった。
山奥から少し村に近づいた農家の田んぼが荒れていた。山奥の男と同じように苗代が根腐れしていたのだ。
『おい!何で山から近い田んぼだけ荒れてるんだ!あんたの所の仕業だろう!』
「私共は、そのような事は行っておりません」
『代表を出せ!』
「弊商会の霧雨は現在外出しておりますので、
お会いする方は後日こちらまでお越しください」
『待てるわけないだろ!今年の食い物がなくなるんだぞ!』
そうだそうだ!…
―――――――――
「どいてくれ…」「ん、おぅ…」
「……研究員はいるか?」依然調べてもらった山奥の男は話した。
「研究員ですか?…ええ、おりますが…」
「なら、そいつと話せればいい。前俺の家に来た営業と合わせて居間で話せるか?」
「かしこまりました。では、居間までご案内します」
「あいつに任せてみるか…」「そうだな…」
「…お待たせ致しました。いつもお世話になっております。
あれから状態は如何でしょうか?」
「ああ」
「あれから何にも変わってない」 「!?」
「俺に嘘ついたのか?」
「ちょっと待ってください。
昨年お客様に渡した籾はあの品種とは別の物です。
普通に育つはずです」
「なら、何で今年も育たないんだ!」
「…」
………
「……すまん。去年、米をあれだけもらっておいて言い方が悪かった。おめぇには感謝してるんだ。
うちの田んぼを調べてもらってよ、その上で米までくれる人が悪いやつなわけがねぇんだ。
だから…。気になるんだよ、何が起きているか」
「…申し訳ございませんが、その件に関しましては存じ上げません」
「ただ…。今いえる事としては、お客様を含め山奥周辺の田んぼの品種が昨年のように変わっていることです。
品種はお客様が被害にあられた品種と同じものです。
また別の村からの犯行と思われます。
しかし、調査によると、小屋への侵入形跡がなく、謎が多い状況です。
いえ、謎しかありません、この事件。
…ここからは、私個人の予想ではございますが、
このままだと来年も同じ事が起きるでしょう。
被害が拡大する可能性があります。」
「…なら、どうするんだ?」
「…事件の原因が掴めない以上対症療法しか対策がございません。
これを話すのは恐縮ではございますが、
村の近くに引っ越しを検討していただきたく思います。」
「そんな事出来るか!」
「今回に関しましてはこの方法しかございません。
事実、村の周辺だけは作物が実っているのです。
こちらで農業を営んで頂く事が確実であると思われます」
「…」
「えー、引っ越しはこちらから補助金を出させて頂きます、水田の開墾も加えて行います。
これらの総額を超低金利ローンで組み立てさせて頂きます。
如何でしょうか?」
「………………」
「…商会さんが色々と世話してくれるのはありがたいんだけどよ。
俺はあの家で育ってきたんだ。先祖代々あの家だ。
今になってよ、女房とガキ連れて村まで引っ越すなんて、
なかなか難しいものがあるんだ。
これからまた米作れるようになるまで借りるってのはできないもんか…?」
「しかし私たちも現状、村内のビジネスで収益は保っているのですが、
だんだんこちらの支出が増えていくと、
弊商会ですら将来的にどうなるか分かりません。
…言い方はよろしくないのですが、お客様に補助をしているのは将来私どもと共に村を発展させてゆくという前提で行っているものでございます」
「もし、この事件が長期間続き、被害領域も更に拡大していくのであれば、
―――こちらから送る食べ物も制限せざるを得なくなります。」
「制限だって!?そいつは困る!」
「その為にも引っ越しをして頂きたいと存じます」
「う…」
「弊商会が仮に倒産してしまうと、村全体の流通が止まり、全ての方たちに食べ物が届かなくなり、
―――最悪の場合餓死者が多く出る可能性もあり得ます―――。
…
お客様が如何なる選択をされましても、
商会自体が倒産する事だけは避けなければなりません」
…
「前向きなご検討をお願いします。」
………………
―――山奥の男の家―――
「くそぉ…ぅぅ…どうしたっていうんだ…」
「父ちゃん、どうしたの?」「あなた…」
「………ふー…。
…明日、村に引っ越す。お前ら、荷物の準備をしてくれ」
『!』
「……賢明な判断だと私は思います。
私はいつまでもあなたに信じて、付いていきますわ」
「村の近くに住めるんだ!やったぁ!」
(………ごめんな、お前たち)
――――――
「籾の受け取りは申請日の当日のみです。
植えるだけで良い状態にしておりますので、その日中に使い切ってください」
「おう、ありがとな」
山奥に住んでいた者たちはやがて、村の近くに住み始めた。
米の栽培が上手くいっている者でも山の近くに住んでいる者たちは、
いずれ自分の所も育たなくなるだろうという考えのもと引っ越しする者もいた。
あるいは、米が採れる農家でも個人情報を改竄して
補助金目当ての連中も一部いた。
「なんだか、霧雨商会の外にたくさんの人が並んでるわね」
「そうだね…別の入り口から入ろうか」
「霖之助君は通い慣れてるわね…というか、通いすぎよ。他にする事はないの?」
「特にする事もないよ」
「あっそ」
「言い方…」
靈夢は霧雨商会で本を読んでいるうちに村の外の言葉を知るようになった、
次第に言葉遣いも標準語に近くなった。
………というより、言葉遣いが荒くなっただけの様な気がするが………
「こんにちは魔梨沙!今日も本を読みに来たよ!」
「おう、靈夢も一緒か」
「こんにちは。お邪魔するわ」
「勝手に読んでってくれ」
「そういえば、魔梨沙。外で並んでいる人達は何で霧雨商会に来てるか知ってる?」
「ああ、なんだか一昨年から山奥の田んぼだけが育たなくなってるんだってさ。
調べたら籾ですらなくなっていたと」
「?。何その話。籾じゃないって、植えてたものを引っこ抜いて別のものに変えたってこと?」
「うちの研究員はそういう風に考えている。
去年は一昨年よりも被害が大きくなったもんだから、
今年の栽培する籾をもらう為に並んでいるんだ」
「こんな意味の無い事やって得するのかしらね」
「ただ……おかしいんだよな。何かにすり替えるなら、毎年山の方からやるのはわからなくもないが、商会はその人達に新しい籾をやってるんだ。
その籾もなくなって、被害が村に近づいているんだ」
「…」
「正直、人間が行える様な犯行に見えん。商会の人達も凄い焦っててな、ここまで必死になっているのは初めて見るぜ」
「…相当まずいわね」
「まあ何だ、こちらから出来る事なんてないから本でも読もうぜ」
「そうね…」「…」
―――近い内に何かが起こる。
靈夢の勘はそう諭っていた。
"きたぁ!!!"
「うお、なんだびっくりした」
「完成したんだ!僕の作っていたアイテムが!」
………何かが起こった。
「え?…。ああ、そういう事」
「ん?何の話だ?」
「理屈がちゃんとあってるか調べたんだよ。確信した!上手くいった!」
「分かったから、とりあえずここでは静かにしてくれ」
「あ、ごめん…」
「魔梨沙。霖之助くんは貴方の為にこれを作ってたのよ」
「…そうか、すまんな」
「魔梨沙!一回外に行こう、試してみたいんだ!」
――――――
「…ここで、ここを押すと…」
…
「?。何も起きないじゃないか」
「ここからだよ。僕の後ろにいてね。このボタンを押せば…」
―ブゥンッ
「お、おぉ?」「何か光ったわね」
「これが僕の作っていた道具、八卦炉さ!」
「八卦炉?なんだそれ」
「この中は、ボタンを押すことで高電場を発生させるんだ。
その状態でこのボタンを押すと、中に入れておいた金属内の電子が飛び出すんだ。
その電子が通る道にレンズを付けて収束させる事で電子が真っ直ぐ飛ぶ。
これを"電子ビーム"なんて呼んだりするんだ。
これを当てる事で目の前の相手を感電させる事が出来る。これが八卦炉さ。
ちなみに、八卦というのは遠い大陸にある…」
「ああわかった。要するに電気で相手を攻撃するってやつだな」
「そういう事。魔梨沙の家はお金持ちなんだから、知らない人から何か怪しいことをされる可能性がある。そんな時に使ってほしいんだ」
「…そうだな、私は色眼鏡を掛けてみてくる人間全てが嫌いだ。今までそんなやつとしか会ってこなかった。
その中で、こーりんと靈夢だけは私そのものを受け入れてくれた。
だから…私はお前らを信頼してるつもりだ。
こいつは受け取らせてもらうぜ、ありがとな」
「魔梨沙…」
「こちらこそありがとう、受け取ってくれてうれしい!」
「ちょっとちょっと、私も友達でしょ?」「はは、そうだな」
「私たちは永遠に友達だ!」
明治12年、3人は八卦炉の誓いを交わす。
山奥から少し村に近づいた農家の田んぼが荒れていた。山奥の男と同じように苗代が根腐れしていたのだ。
『おい!何で山から近い田んぼだけ荒れてるんだ!あんたの所の仕業だろう!』
「私共は、そのような事は行っておりません」
『代表を出せ!』
「弊商会の霧雨は現在外出しておりますので、
お会いする方は後日こちらまでお越しください」
『待てるわけないだろ!今年の食い物がなくなるんだぞ!』
そうだそうだ!…
―――――――――
「どいてくれ…」「ん、おぅ…」
「……研究員はいるか?」依然調べてもらった山奥の男は話した。
「研究員ですか?…ええ、おりますが…」
「なら、そいつと話せればいい。前俺の家に来た営業と合わせて居間で話せるか?」
「かしこまりました。では、居間までご案内します」
「あいつに任せてみるか…」「そうだな…」
「…お待たせ致しました。いつもお世話になっております。
あれから状態は如何でしょうか?」
「ああ」
「あれから何にも変わってない」 「!?」
「俺に嘘ついたのか?」
「ちょっと待ってください。
昨年お客様に渡した籾はあの品種とは別の物です。
普通に育つはずです」
「なら、何で今年も育たないんだ!」
「…」
………
「……すまん。去年、米をあれだけもらっておいて言い方が悪かった。おめぇには感謝してるんだ。
うちの田んぼを調べてもらってよ、その上で米までくれる人が悪いやつなわけがねぇんだ。
だから…。気になるんだよ、何が起きているか」
「…申し訳ございませんが、その件に関しましては存じ上げません」
「ただ…。今いえる事としては、お客様を含め山奥周辺の田んぼの品種が昨年のように変わっていることです。
品種はお客様が被害にあられた品種と同じものです。
また別の村からの犯行と思われます。
しかし、調査によると、小屋への侵入形跡がなく、謎が多い状況です。
いえ、謎しかありません、この事件。
…ここからは、私個人の予想ではございますが、
このままだと来年も同じ事が起きるでしょう。
被害が拡大する可能性があります。」
「…なら、どうするんだ?」
「…事件の原因が掴めない以上対症療法しか対策がございません。
これを話すのは恐縮ではございますが、
村の近くに引っ越しを検討していただきたく思います。」
「そんな事出来るか!」
「今回に関しましてはこの方法しかございません。
事実、村の周辺だけは作物が実っているのです。
こちらで農業を営んで頂く事が確実であると思われます」
「…」
「えー、引っ越しはこちらから補助金を出させて頂きます、水田の開墾も加えて行います。
これらの総額を超低金利ローンで組み立てさせて頂きます。
如何でしょうか?」
「………………」
「…商会さんが色々と世話してくれるのはありがたいんだけどよ。
俺はあの家で育ってきたんだ。先祖代々あの家だ。
今になってよ、女房とガキ連れて村まで引っ越すなんて、
なかなか難しいものがあるんだ。
これからまた米作れるようになるまで借りるってのはできないもんか…?」
「しかし私たちも現状、村内のビジネスで収益は保っているのですが、
だんだんこちらの支出が増えていくと、
弊商会ですら将来的にどうなるか分かりません。
…言い方はよろしくないのですが、お客様に補助をしているのは将来私どもと共に村を発展させてゆくという前提で行っているものでございます」
「もし、この事件が長期間続き、被害領域も更に拡大していくのであれば、
―――こちらから送る食べ物も制限せざるを得なくなります。」
「制限だって!?そいつは困る!」
「その為にも引っ越しをして頂きたいと存じます」
「う…」
「弊商会が仮に倒産してしまうと、村全体の流通が止まり、全ての方たちに食べ物が届かなくなり、
―――最悪の場合餓死者が多く出る可能性もあり得ます―――。
…
お客様が如何なる選択をされましても、
商会自体が倒産する事だけは避けなければなりません」
…
「前向きなご検討をお願いします。」
………………
―――山奥の男の家―――
「くそぉ…ぅぅ…どうしたっていうんだ…」
「父ちゃん、どうしたの?」「あなた…」
「………ふー…。
…明日、村に引っ越す。お前ら、荷物の準備をしてくれ」
『!』
「……賢明な判断だと私は思います。
私はいつまでもあなたに信じて、付いていきますわ」
「村の近くに住めるんだ!やったぁ!」
(………ごめんな、お前たち)
――――――
「籾の受け取りは申請日の当日のみです。
植えるだけで良い状態にしておりますので、その日中に使い切ってください」
「おう、ありがとな」
山奥に住んでいた者たちはやがて、村の近くに住み始めた。
米の栽培が上手くいっている者でも山の近くに住んでいる者たちは、
いずれ自分の所も育たなくなるだろうという考えのもと引っ越しする者もいた。
あるいは、米が採れる農家でも個人情報を改竄して
補助金目当ての連中も一部いた。
「なんだか、霧雨商会の外にたくさんの人が並んでるわね」
「そうだね…別の入り口から入ろうか」
「霖之助君は通い慣れてるわね…というか、通いすぎよ。他にする事はないの?」
「特にする事もないよ」
「あっそ」
「言い方…」
靈夢は霧雨商会で本を読んでいるうちに村の外の言葉を知るようになった、
次第に言葉遣いも標準語に近くなった。
………というより、言葉遣いが荒くなっただけの様な気がするが………
「こんにちは魔梨沙!今日も本を読みに来たよ!」
「おう、靈夢も一緒か」
「こんにちは。お邪魔するわ」
「勝手に読んでってくれ」
「そういえば、魔梨沙。外で並んでいる人達は何で霧雨商会に来てるか知ってる?」
「ああ、なんだか一昨年から山奥の田んぼだけが育たなくなってるんだってさ。
調べたら籾ですらなくなっていたと」
「?。何その話。籾じゃないって、植えてたものを引っこ抜いて別のものに変えたってこと?」
「うちの研究員はそういう風に考えている。
去年は一昨年よりも被害が大きくなったもんだから、
今年の栽培する籾をもらう為に並んでいるんだ」
「こんな意味の無い事やって得するのかしらね」
「ただ……おかしいんだよな。何かにすり替えるなら、毎年山の方からやるのはわからなくもないが、商会はその人達に新しい籾をやってるんだ。
その籾もなくなって、被害が村に近づいているんだ」
「…」
「正直、人間が行える様な犯行に見えん。商会の人達も凄い焦っててな、ここまで必死になっているのは初めて見るぜ」
「…相当まずいわね」
「まあ何だ、こちらから出来る事なんてないから本でも読もうぜ」
「そうね…」「…」
―――近い内に何かが起こる。
靈夢の勘はそう諭っていた。
"きたぁ!!!"
「うお、なんだびっくりした」
「完成したんだ!僕の作っていたアイテムが!」
………何かが起こった。
「え?…。ああ、そういう事」
「ん?何の話だ?」
「理屈がちゃんとあってるか調べたんだよ。確信した!上手くいった!」
「分かったから、とりあえずここでは静かにしてくれ」
「あ、ごめん…」
「魔梨沙。霖之助くんは貴方の為にこれを作ってたのよ」
「…そうか、すまんな」
「魔梨沙!一回外に行こう、試してみたいんだ!」
――――――
「…ここで、ここを押すと…」
…
「?。何も起きないじゃないか」
「ここからだよ。僕の後ろにいてね。このボタンを押せば…」
―ブゥンッ
「お、おぉ?」「何か光ったわね」
「これが僕の作っていた道具、八卦炉さ!」
「八卦炉?なんだそれ」
「この中は、ボタンを押すことで高電場を発生させるんだ。
その状態でこのボタンを押すと、中に入れておいた金属内の電子が飛び出すんだ。
その電子が通る道にレンズを付けて収束させる事で電子が真っ直ぐ飛ぶ。
これを"電子ビーム"なんて呼んだりするんだ。
これを当てる事で目の前の相手を感電させる事が出来る。これが八卦炉さ。
ちなみに、八卦というのは遠い大陸にある…」
「ああわかった。要するに電気で相手を攻撃するってやつだな」
「そういう事。魔梨沙の家はお金持ちなんだから、知らない人から何か怪しいことをされる可能性がある。そんな時に使ってほしいんだ」
「…そうだな、私は色眼鏡を掛けてみてくる人間全てが嫌いだ。今までそんなやつとしか会ってこなかった。
その中で、こーりんと靈夢だけは私そのものを受け入れてくれた。
だから…私はお前らを信頼してるつもりだ。
こいつは受け取らせてもらうぜ、ありがとな」
「魔梨沙…」
「こちらこそありがとう、受け取ってくれてうれしい!」
「ちょっとちょっと、私も友達でしょ?」「はは、そうだな」
「私たちは永遠に友達だ!」
明治12年、3人は八卦炉の誓いを交わす。