ある日、穣子が、家の中で暇を持て遊んでいると、姉の静葉が何やら棍棒のような物を持ってどこかへ出かけようとしていた。
「姉さん。そんな物騒な物持ってどこ行くつもり?」
「あら、穣子。これから夜雀さんの所へ行くのよ」
「ミスティアんとこ? そんな物騒な物持って一体何しに行くの?」
「今から殺し合いをしてくるのよ」
穣子は一瞬意味が分からず、もう一度聞き返す。
「……えーと。ごめん。もう一回言ってちょうだい」
「だから殺し合いしてくるのよ」
「……殺し合い?」
「殺し合いよ」
「えーと、殺し合いって何……?」
「何って、殺し合いは殺し合いよ」
「いや、そうなんだけど……っていうか誰と殺し合いしてくるの?」
「決まってるじゃない。夜雀さんよ」
そりゃミスティアの家に行くのだから相手が彼女であるのは至極当前。だが問題はそこではないとばかりに穣子は姉に尋ねる。
「ちょっ、まってよ。何でまたそんな物騒なのする事になったのよ?」
「向こうから誘われたのよ。良かったらどうですか? って」
「良かったらどうですかって……お芋のお裾分けじゃないんだから……」
「別にいいじゃない。誘われたのは私なんだから。穣子は関係ないでしょ」
「いや、そりゃそうなんだけどさ……」
戸惑ってしまった彼女は思わず目を閉じて考える。一体全体、いつの間に「良かったらこれから殺し合いをしませんか?」なんて気軽に誘うほど、幻想郷は殺伐としてしまったのか。そういえば最近、麓の巫女達が地獄のヤクザの抗争に巻き込まれたとか聞いた。もしかするとその影響なのか。いや、もしかするとミスティアもその抗争に巻き込まれているのではないか。それどころか実は彼女もそのヤクザの幹部だったりするのかもしれない。いくら友好的とは言え、ああ見えて彼女もれっきとした妖怪。その根底には妖怪としての本能というものがある。その屈託のない笑顔で相手を闇の世界へ引きずり込んでいてもおかしくはないのだ。このままでは姉さんが危ない。姉はああ見えても一応神様だからよっぽどな事がない限り命を落とす心配はない。心配はないが、だからと言ってそんな危ない世界へ首を突っ込ませるわけにはいかない。ここは妹としてなんとしても断固阻止せねば。
穣子は意を決して目を見開き、言い放つ。
「姉さん! だめよ! そんな危ないことに首を突っ込むことは、例え神が許してもこの秋穣子が許さな……ぇ?」
しかし、目の前に静葉の姿はすでになかった。どうやら彼女が熟考している間にとっくに出かけてしまったらしい。
穣子は慌てて家を出ると彼女を追いかけた。
◆◆◆
穣子が静葉を追いかけてミスティアの居酒屋へまでやってくると、中からなにやら話し声が聞こえてくる。穣子は壁に耳を当てて会話の内容を聞こうとする。すると……
「それぇーっ!!」
「流石ね。いい筋してるわ」
「こう見えても妖怪ですからね。力には自信ありますー」
「凄いじゃない。しっかり潰れてるわ。これは私も負けてられないわね。えい」
「お! いいじゃないですか! 今度はちゃんと仕留められましたよ!」
「こう見えても神様だもの。これくらいは出来るわよ」
「じゃあ次はこっちから攻めましょう!」
など和気藹々とした会話の合間合間に、ぐちゃり! ぐちゃり! と、何やら鈍い音が聞こえてくる。恐らく家から持って行った棍棒で何かを叩き潰しているのだ。
(……もしかして殺し合いって二人で殺し合うんじゃなくて、二人で何かを叩いて殺し合っているって……そういうこと!? しかも動物とかそういう……?)
屠殺ならまだしも、二人の会話を聞く限り、明らかに楽しむために殺っている様子。こりゃ大変だ! とばかりに彼女は、家の戸を開けようとするが、うんともすんとも言わない。どうやら鍵がかかっているようだ。
「ちょっとー!! 二人ともー! 開けてよー!!」
彼女がドアを叩くも、奥の部屋にいる二人からは返事がない。どうやら「殺し合い」に夢中で気がついていない様子だ。その後、何度もドアを叩いたり引っ張ったり引っこ抜こうとしたが戸はびくともしなかった。
「そんなぁ……ねえさぁーん。ミスティアー……」
すっかり頭の中が真っ白になってしまった穣子は、失意のまま結局帰路についた。
◆◆◆
夜もとっぷり更けた頃静葉は家に帰ってきた。
「……お帰り姉さん。遅かったのね」
「ええ、夢中になっちゃって、気がついたらこんなに遅くなっちゃったわ」
生き生きとした様子の静葉とは対照的に精気が抜けたような表情で穣子は迎える。
「で、どうだった。殺し合いをした感想は……」
「ええ、とっても楽しかったわよ。いい運動になったし」
「……そう、よかったわね」
「あ、そうそう。穣子にお土産あるわよ」
「お土産……?」
「ええ。殺し合いのお裾分けなんだけど」
「殺し合いのお裾分け……!?」
ぎょっとした様子の穣子を尻目に静葉は懐から布袋を取り出す。
「ちょっちょっと待って! 殺し合いのお裾分けって何よ……!? まさか肉片とか指とか目玉とかそういう!? いらないわよ!? そんな物騒なの!」
「穣子ったら何言ってるの……?」
と、怪訝そうな様子で静葉はその布袋から中の物を取り出す。
彼女が取り出した物はすり潰した餅米を餡でくるんだもの――あんころもちだった。
きょとんとしている様子の穣子に静葉は告げる。
「ミスティアが間違えて餅米を大量に蒸かしちゃったっていうから、餅にするのを手伝ってきたのよ。ほら、あなた好きでしょ? 半殺し」
差し出された餅を見て、ようやく理解した穣子はほっとする。そして笑顔で静葉に告げた。
「ごめん。私、皆殺しの方が好きなの」
「姉さん。そんな物騒な物持ってどこ行くつもり?」
「あら、穣子。これから夜雀さんの所へ行くのよ」
「ミスティアんとこ? そんな物騒な物持って一体何しに行くの?」
「今から殺し合いをしてくるのよ」
穣子は一瞬意味が分からず、もう一度聞き返す。
「……えーと。ごめん。もう一回言ってちょうだい」
「だから殺し合いしてくるのよ」
「……殺し合い?」
「殺し合いよ」
「えーと、殺し合いって何……?」
「何って、殺し合いは殺し合いよ」
「いや、そうなんだけど……っていうか誰と殺し合いしてくるの?」
「決まってるじゃない。夜雀さんよ」
そりゃミスティアの家に行くのだから相手が彼女であるのは至極当前。だが問題はそこではないとばかりに穣子は姉に尋ねる。
「ちょっ、まってよ。何でまたそんな物騒なのする事になったのよ?」
「向こうから誘われたのよ。良かったらどうですか? って」
「良かったらどうですかって……お芋のお裾分けじゃないんだから……」
「別にいいじゃない。誘われたのは私なんだから。穣子は関係ないでしょ」
「いや、そりゃそうなんだけどさ……」
戸惑ってしまった彼女は思わず目を閉じて考える。一体全体、いつの間に「良かったらこれから殺し合いをしませんか?」なんて気軽に誘うほど、幻想郷は殺伐としてしまったのか。そういえば最近、麓の巫女達が地獄のヤクザの抗争に巻き込まれたとか聞いた。もしかするとその影響なのか。いや、もしかするとミスティアもその抗争に巻き込まれているのではないか。それどころか実は彼女もそのヤクザの幹部だったりするのかもしれない。いくら友好的とは言え、ああ見えて彼女もれっきとした妖怪。その根底には妖怪としての本能というものがある。その屈託のない笑顔で相手を闇の世界へ引きずり込んでいてもおかしくはないのだ。このままでは姉さんが危ない。姉はああ見えても一応神様だからよっぽどな事がない限り命を落とす心配はない。心配はないが、だからと言ってそんな危ない世界へ首を突っ込ませるわけにはいかない。ここは妹としてなんとしても断固阻止せねば。
穣子は意を決して目を見開き、言い放つ。
「姉さん! だめよ! そんな危ないことに首を突っ込むことは、例え神が許してもこの秋穣子が許さな……ぇ?」
しかし、目の前に静葉の姿はすでになかった。どうやら彼女が熟考している間にとっくに出かけてしまったらしい。
穣子は慌てて家を出ると彼女を追いかけた。
◆◆◆
穣子が静葉を追いかけてミスティアの居酒屋へまでやってくると、中からなにやら話し声が聞こえてくる。穣子は壁に耳を当てて会話の内容を聞こうとする。すると……
「それぇーっ!!」
「流石ね。いい筋してるわ」
「こう見えても妖怪ですからね。力には自信ありますー」
「凄いじゃない。しっかり潰れてるわ。これは私も負けてられないわね。えい」
「お! いいじゃないですか! 今度はちゃんと仕留められましたよ!」
「こう見えても神様だもの。これくらいは出来るわよ」
「じゃあ次はこっちから攻めましょう!」
など和気藹々とした会話の合間合間に、ぐちゃり! ぐちゃり! と、何やら鈍い音が聞こえてくる。恐らく家から持って行った棍棒で何かを叩き潰しているのだ。
(……もしかして殺し合いって二人で殺し合うんじゃなくて、二人で何かを叩いて殺し合っているって……そういうこと!? しかも動物とかそういう……?)
屠殺ならまだしも、二人の会話を聞く限り、明らかに楽しむために殺っている様子。こりゃ大変だ! とばかりに彼女は、家の戸を開けようとするが、うんともすんとも言わない。どうやら鍵がかかっているようだ。
「ちょっとー!! 二人ともー! 開けてよー!!」
彼女がドアを叩くも、奥の部屋にいる二人からは返事がない。どうやら「殺し合い」に夢中で気がついていない様子だ。その後、何度もドアを叩いたり引っ張ったり引っこ抜こうとしたが戸はびくともしなかった。
「そんなぁ……ねえさぁーん。ミスティアー……」
すっかり頭の中が真っ白になってしまった穣子は、失意のまま結局帰路についた。
◆◆◆
夜もとっぷり更けた頃静葉は家に帰ってきた。
「……お帰り姉さん。遅かったのね」
「ええ、夢中になっちゃって、気がついたらこんなに遅くなっちゃったわ」
生き生きとした様子の静葉とは対照的に精気が抜けたような表情で穣子は迎える。
「で、どうだった。殺し合いをした感想は……」
「ええ、とっても楽しかったわよ。いい運動になったし」
「……そう、よかったわね」
「あ、そうそう。穣子にお土産あるわよ」
「お土産……?」
「ええ。殺し合いのお裾分けなんだけど」
「殺し合いのお裾分け……!?」
ぎょっとした様子の穣子を尻目に静葉は懐から布袋を取り出す。
「ちょっちょっと待って! 殺し合いのお裾分けって何よ……!? まさか肉片とか指とか目玉とかそういう!? いらないわよ!? そんな物騒なの!」
「穣子ったら何言ってるの……?」
と、怪訝そうな様子で静葉はその布袋から中の物を取り出す。
彼女が取り出した物はすり潰した餅米を餡でくるんだもの――あんころもちだった。
きょとんとしている様子の穣子に静葉は告げる。
「ミスティアが間違えて餅米を大量に蒸かしちゃったっていうから、餅にするのを手伝ってきたのよ。ほら、あなた好きでしょ? 半殺し」
差し出された餅を見て、ようやく理解した穣子はほっとする。そして笑顔で静葉に告げた。
「ごめん。私、皆殺しの方が好きなの」
私は半殺しがいいです
そして穣子の心配は杞憂に終わった
私は半殺しが好きですね
私は半殺しがいいです。