Coolier - 新生・東方創想話

東方厳戯譚 〜妖夢の人里奔走〜

2021/04/20 21:24:10
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本日は晴天なり。こんな時こそ隠密行動は欠かせない。目立たず、目的のブツを購入し、速やかに帰宅。

よし、計画は完璧。今日は日々の感謝として幽々子様に人里で最近話題のスイーツをプレゼントする日。

サプライズにするにはこの計画を誰にもバレないように、且つ迅速に行動しなければならない。

何故なら、例のスイーツは毎月九日に10個限定販売される超激レアなのだ。

それが販売される店、「茶屋 万福」が開店するのは朝6時。そして現在の時刻は朝4時半。

しかし早く起き過ぎた……とはいかない。人里で話題になるということはこの時間から並んでいるかもしれない。

さて、早速店まで行きたい。が、



「場所が………分からない」



これは由々しき事態だ。幽々子だけに…………いやこんなことを考えている場合では無い。

ここで場所を聞くと隠密の意味がない。かと言って聞かなければこの人里を散策することになり、時間がかかる。

そうなれば目当てのスイーツは売り切れ。つまり計画は来月に持ち越しだ。これだけは避けたい。

でも人に聞かなければ間に合わない……事前に調べておくべきだった。



「あれ、あなたは確か……妖夢さんでしたっけ」



「ぴゃあっ?!」



真後ろから鈴のような声が聞こえ、自分の喉から出たとは思えない奇声を発してしまった。

この魂魄妖夢……一生の不覚!後ろを振り返ると、いつかの宴会に居た鯢呑亭の看板娘の……

不味い、名前が出てこない。見覚えはあるというのに。



「もう、忘れちゃったんですか?この鯢呑亭の看板娘、奥野田 美宵ですよ!」



「あぁ!そうだ美宵ちゃんだ!なんで忘れちゃったんだろ……」



こんなにインパクトあって可愛い子を忘れてしまうとは、この魂魄妖夢……一生の不覚!!

しかしこんな朝早くからこの子は何をしているのだろう。私は例のスイーツの為だが……

ハッ!まさか美宵ちゃんも私と同じようにあのスイーツを求めてこんな朝早くから?!



「み、美宵ちゃんはこんな朝早くからどうしたの?」



「私は竹林へと新鮮な筍を取りに行くんですよ!妖夢さんはもしかして、アレですか?アレ」



なななななななんだとっ?!まさか私があのスイーツを買いに行こうとしているのがバレた?!

それは非常に不味い。この計画がバレれば幽々子様へのサプライズがっ……プレゼントがっ…

どうすれば良い魂魄妖夢……この半人前の頭をフル回転させろ………



「やっぱりアレは有名ですから、こういう朝早くからでないと手に入れられないですよね!」



オンギャァァアア!

ばっ、バレてる……完璧にバレてる…こうなればいっその事腹を括るか否か。

いや待て、もしかしたらこの子の言っているアレと私のアレは別物かも知れない。

そうだ、警戒し過ぎてそう思い込んでしまっただけだ。なんだ、なんて事ないじゃ無いか。

まぁここは話を合わせておくのが吉かもしれない。



「全くその通りですよ。もし売り切れたら堪らないですよ」



「そうですよね〜。来月まで待たなきゃいけないのは辛いです!」



雲行きが怪しくなってきた気がするが気にしてはいけない。ここで不安を煽られては一人前とは程遠い。

だけど道を知らないままは不味い。ここでさりげな〜く、そこはかとなく聞き出せれば良い。

もし違うものの場所であっても全然良いだろう。損はしない。



「そういえばアレって、詳しい場所どこでしたっけ」



「確か、そこの角を曲がって四軒目だったはずですよ。あれ、知らなかったんですか?」



し、しまった───ストレートすぎた!!もう少しカーブをつけた方が良かったか…?

とにかく切り抜けようそうしよう。



「いっ、いや別にそんなこと一寸もある訳ないじゃないですか〜冗談ですよ冗談ー」



「そうでしたか。じゃあ、私は竹林へ行くのでまたお会いしましょうね」



よし、これで切り抜けた!完璧だ!作戦は成功。あとはこのまま例のブツを手に入れるだけ……

と、見送った美宵ちゃんの足が止まったことに気が付けなかった。



「あ、そういえば……今は5時ですけど、開店まで残り1時間もありますよ?」



「なっ…」



「じゃ、また会いましょうね、妖夢さん」



奥野田美宵……少し、いや、要注意人物かもしれない。

さて、時間を無駄に食ってしまった。早く並ばないと売り切れてしまう!!

全力で走って茶屋 万福の元まで急ぐ。というか何か違和感を感じる。

なぜあそこまで話題になっているであろうアレが間も無く販売…なのに誰も居ない。

これをもう少しよく考えればもっと良かったのかもしれない。



「よかったぁ……誰も居ない!一番乗り!」



後はこのまま待つだけ………なのだが、ここで美宵の時の二の舞をする訳にはいかない。

隠密は欠かせない。その為に対策を講じて来たのだ!これで私は半人前から少しは成長できるかもしれない。

それで取り出したるはこの布!緑色の布に白い唐草模様が入った、よくある典型的な風呂敷だ。

これを頭に被り、首の下で結ぶ。そうすれば完璧な変装の完成!



「妖夢、あんた何してんのよ………こんな朝っぱらから怪し過ぎる格好して」



「あびゃあっ?!」



何というのだろうこのデジャヴ。しかもこの変装がバレている!しかも相手はあの霊夢。

天性の勘で私が何をしようとしているかを完璧に当ててくる…隠密が……隠密がぁ…



「それで変装してるつもりだったら大間違いね。もう少し、まともな変装したら…?」



呆れとも蔑みともつかないような視線が体に刺さる。流石にこれは安易だったかもしれない。

でもこれで顔はほぼ見えてないのに何故?魂魄妖夢……一生の不覚!



「あんた、さては幽々子にアレをサプライズであげようとしてるわね?」



「うびゃぐぇ?!」



まっ、ままままままさか一発で、しかもそれがサプライズということさえもバレた!

このままだと私のサプライズ計画が……どうしよう………非常に不味い!



「あはは……まっ、ましゃかそんなことある訳ないじゃないでしゅかぁ…」



「動揺して噛みまくりよ。少しは落ち着きなさいよ……」



これだと自分でそれが事実だと肯定してしまったようなものじゃ無いか!!

いや、でもバレたのが霊夢さんで良かったかもしれない。天狗に見つかろうものならば計画は水の泡!



「ま、私はそこまで悪魔じゃないわよ。それくらい黙っててあげる」



やっぱり霊夢さんは霊夢さんだった……だってバラしたところで何のメリットも無いし。

いやぁ、安心安心!ホッと胸を撫で下ろす。しかし開店まであと十数分となったくらいだろうか。

このまま待てば手に入るぞ!幽々子様にあげる、例のアレが!!



「でも…黙っておく代わりに今度、鯢呑亭で奢って頂戴ね」



「とんだ悪魔じゃないですかぁ!!全く、私もそんなにお金無いんですよ……勘弁して下さい」



そう言うと霊夢さんは、冗談冗談、巫女ジョークよ。とニヤニヤしながら言いその場を去っていった。

いや冗談にしてはかなり欲が出ていたと思うんだけれども。

さて、開店まで時間は少しある。その間何か暇潰ししておこう。

色々考えていると十分というのは案外直ぐ過ぎるものだ。

ガラララと音がして引き戸が開き、看板娘であろう子が開店でーすと言う。

待ちに待ったあのスイーツ!早速購入だ!意気込んで店内へ入っていった。



───────────────────────────────────



「ありがとうございました〜」



先程の看板娘さんの声を後ろに、私は足早に帰る。これでミッションコンプリート!

万福と書かれた紙袋の中には、氷嚢と紙箱が在る。よし!あとは何も気にせず帰ろう!

と、駆け出そうとしたその時、足元に小石があったのに気がつかなかった。

それに気づいた時既に遅し。見事にヘブッと顔面から転け、紙袋を落とす。



「いったた……石につまづいて転けるなんて、魂魄妖夢……一生の不覚!!」



さて紙袋を………紙袋を……紙…袋………



「無いぃいいいい!!紙袋が!無いぃいい!」



絶望、ただ残ったのはそれだけだった。今つまづいた隙に誰かが奪った?

だとしたら近くに……近くに居るはず!!そう思い辺りを見渡すと、



「居たーっ!!泥棒ーっ!」



泥棒と言えば泥棒だが、正体は一匹の犬。なぜ犬があの紙袋を咥えて走っているのだ。

しかも速い、超速い。っていうかなんなんだこの光景は。

まるで外の世界の画家、だり…?が描いたあの絵のようだ。と言っても紫様から聞いた話だけど!



「待てーっ!それは、それは大切な幽々子様へのプレゼント!」



待てと言って待つ奴はいない。いつだったか、誰かが言った言葉だが、今回に関しては訳が違う。言語が理解されない!

っていうか速い!速過ぎる!追いつけない……私が全力を出しても追いつけない……

アレはもう妖怪の一種なんじゃないかと思う程速い!前世は何処ぞの天狗だったのか?

いやアイツは死んでないし能力は引き継がない(と思う)。早く取り戻さないと、

あのスイーツは冷えてないといけない!というか生温いアレなんて嫌だ!!

追いかけていくといつの間にか川の近くまで来ていた。橋が架かっている場所からかなり遠い。

このスピードで角を曲がるのはかなりキツい。そして目の前は川。止まるだろう!

そう考えたのが浅はかだった。犬は……跳んだ。いや、正確に言うと翔んだ。

まるで羽が生えているかのように川を、一っ飛びで。ここで橋まで行くと見失う。

かと言って飛び越えられる?いや、可能性に賭けろ!



「いっけぇえええええええい!」



この時の私は、外の世界の少年探偵みたいなセリフを吐いていたと思う。

柵を飛び越え、奥にある柵まで手が……手が……届いた!危機一髪、最悪に事態は回避した。

柵を乗り越えると、そこにはさっきの犬がお座りをして紙袋を地面に置いている。

いや、どっちかっていうと腰を抜かして紙袋を落とした、みたいな感じだ。

まさかここまで追いついて来るまいと思ったのだろう!甘い!お汁粉ほど甘い!

風のような速さで紙袋を掻っ攫い、そのままの速さでそこを去った。



「今の……一体なんだったんだろう」



貸本屋の看板娘はそんな彼女を見てそう呟いた。



───────────────────────────────────



「と、いう事があって紆余曲折、ついにこのサプライズの品を持って帰って参りました!」



「お疲れ様妖夢。日々の感謝なんて、私がしたいくらいなのに」



幽々子様のために用意したこの品、喜んでくれるだろうか。

いや、喜ばない筈がない!なんたってこれは人里で話題を呼ぶ品!それはそれは美味しいのだろう。



「これはどんなお菓子なのかしら?」



幽々子様が興味津々に聞いてくれる。嬉しい。私は嬉しいです。幽々子様が私のプレゼントで喜んでくれるなんて。

私は紙箱を取り出して開き、中から紙に包まれた直方体を出す。



「幽々子様!これが人里で話題の、『お汁粉羊羹 牛乳風味』です!!」



「……………物は試し、食べてみましょう」



さぁ、人里で話題に上がるほど凄いものなのだ。幽々子様を唸らせるほどの味だろう。

しかし、私の分も買ってくればよかった。そう考えている間に幽々子様は包みを開けていた。

中から出てきたのは、藤色の羊羹に白玉であろうものが混じったものだ。案外美味しそう。

一口齧り、咀嚼する。私が先まで体験してきた格闘よりも長く感じられた。



「………牛乳と餡子という対極の存在、それぞれの要素が喧嘩し合い雑味が生まれる。
 更にそこへ少量の塩、それにより甘みを強調したいのは分かるけれど逆効果。混ざり合わない。
 そんな混沌した戦場へと白玉という異質な食感が奇襲をかけ、争い激化する…」



「端的に……言うと?」



生唾を呑む。緊張感により手に汗が滲む。



「端的に言うと………………不味い」



それから暫く妖夢は、部屋の角で三角座りして独り言をブツブツ言っていた………らしい。
ポエミーな幽々子様の食レポで理解できるだろうか……
あの「お汁粉羊羹 牛乳風味」
実際に存在していたらどんな味なのか気になる
話題になっていたのはその驚異的な不味さから、だったんですよね
妖夢……リサーチ、必須だよ
藍月 テイル
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コメント



0.40簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
妖夢のサプライズに対する執念が伝わってきました
個人的にはオチが好きでした。もう少しセリフを練るともっと良くなると思います
2.90奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
4.100南条削除
面白かったです
まさにドタバタコメディといった具合でとてもよかったです
妖夢が必死こいて犬を追いかけるところに笑いました
5.90名前が無い程度の能力削除
妖夢ちゃんが色々と全力で良かったです。
6.90Actadust削除
ドタバタ感と妖夢の頑張りが出ていて好きです。楽しませて頂きました。