Coolier - 新生・東方創想話

香霖堂 とある一日

2021/04/11 05:02:14
最終更新
サイズ
8.66KB
ページ数
1
閲覧数
1591
評価数
4/9
POINT
580
Rate
12.10

分類タグ

私は森近霖之助という。

普段は人里から離れた野原の先、胞子鱗粉花粉が無尽蔵に飛び交う魔法の森で「香霖堂」というお店を経営している。
お店と言っても大々的に商売を行ってはいない。表向きにはリサイクルショップとしてひっそりと経営をしている。

お客は3日に1回来る程度で物好きな人であったり、妖怪であったり、精霊であったり様々いる。
その多くがお買い物ではなく「たまたま通り過ぎたから顔出した」程度の、挨拶訪問が多い。
人里の研究家だったり森の魔女やら川の河童やら、自分でも驚くが神様が来たりもする。

そんなとりとめのない客層のお店だが、今日は違った雰囲気のお客様が訪れた。

身長は高めで赤い頭巾を被っている、夏場にも関わらず長袖のロングスカートで袖口からは長い爪が見える。
細木で作られたバスケットを片腕にかけていることから、妖怪の女性であることが伺える。

「いらっしゃい。ようこそ香霖堂へ。」

ある程度の顔なじみであればこんな商売文句は言わないのだが、新規のお客であり何より挙動が不自然であったので、
確認の意も兼ねた。顔は頭巾で覆われているので確認はできないが、彼女は少し動揺した様子であることが伺えた。

「何かお探しですか?うちには見ての通りガラクタしかありませんが、何かお手伝いが出来れば」

話しかける為に近づいたが、どうやら耳が生えているようだ。犬系の妖であろう。

「ぁ、あの…。じ、自分で探します…。」

彼女はそういうと私から一歩身を引き商品の物色を開始した。
念のため、新規のガラクタ解析の事務作業を行う傍ら彼女の動向をしばらく見守ることにした。

香林堂に置いてあるガラクタは主に鼠妖怪が持ってくる。
何処から持ってくるかというと、看取られる必要が無くなった物達が集まる「無縁塚」と呼ばれる場所から持ち出される。

昔は自分から収集を行っていたが最近はお寺に住んでいる鼠妖怪に回収依頼を行っている。
鼠妖怪はダウジングの能力があり、無縁塚から妖力のありそうなガラクタを見つけて貰う。重量と妖力に応じた対価を鼠妖怪に支払い香林堂まで運んで貰う。私が解析を行い、使えそうなものであれば清掃、商品として品出し、または私の備品へ。見込みがないものであれば分解して素材へ戻し、たまに訪れる研究者や河童に素材販売を行う。
お店に置いてある商品はある意味で世界から見放された妖力のある忌付の商品で、たまに妖力に魅せられるお客もいるので注意が必要でもある。

ある程度店内を巡回した犬妖怪はお店の中からハンドサイズの小物を手に取り自分のバスケットに放り込んだ。

(…放り込んだだけなので決めつけるのは良くない。お会計時にバスケットを差し出すかもしれないからね。何分、幻想郷の素材は有限であり皆リサイクルの心掛けが浸透している場合がある。もう少しだけ様子を見る事にしよう)

次に犬妖怪は私から背を向け死角になる位置で別の商品を手に取り、バスケットにしまい込んだ。

「ぁ、ありがとうございました。また来ます」

と早口で言って店を出ようとした。すかさず引き留めた。

「ちょ、ちょっと君!!待ちなさい!!」

まさかとは思っていたが、このガラクタショップの商品を盗む輩がいるとは思わなかった。

「そのバスケットの中身、見せてください。お店の商品その中に入れてますよね?」
「ひ…」

彼女は震えながらバスケットを差し出した。案外諦めが早い。相当思い詰めているのだろうか。それなりの事情があるのだろうか。バスケットには日よけ対策を装ったのか、一枚布が被っていた。

「このお店はいろんなお客が来るからあんまり気にならないけど、そういうことしちゃダメだよ。今回は見なかったことにするからね」

そう彼女に言い、バスケットの布を剥がした。バスケットの中には生首が入っていた。

「こ、これは生首じゃないか。…いや……飛頭蛮の頭か?」

日頃様々な妖怪を見ているのでそこまで驚かなかった。
また異変に関わる出来事は逐一情報を仕入れていたため、おおよその妖怪の予測がついた。

「はい、そうです。私が飛頭蛮こと、赤蛮奇です。」

バスケットの中の生首がそう答えるとゆっくりと浮遊を開始した。

「ちょっと…蛮奇ちゃん…」

犬妖怪は頭巾を取った。飛頭蛮がいることで大方予想はついていたが、人狼の妖怪だった。

「大丈夫。平気だよ。だってバスケットの中身は『何もない』んだからね。」
「何を言っているんだか。僕は確かに君達がバスケットに商品を入れ込むのを見たからね」

そう言い、生首が去った後のバスケットを覗いたが…確かに中に商品は入っていなかった。
「い、いや。現に棚から商品が消えているんだ。君が盗ったはずだ!」

「ご、ごめんなさ…」
「いいやぁ。バスケットに商品は入っていないんだよ?私はバスケットの中で昼寝してただけだよ。あんたの思い違いじゃないのか?品出し忘れとかさぁ。ねえ影狼ちゃん」
「…え、う、うん。」

影狼と呼ばれる人狼から罪悪感情が伺える。彼女らが何らかの方法を用いて盗んだのは明らかであるが、確かに今は「自分が見ていた」という根拠のない証拠と「棚に商品が無い」という客観的な証拠しかない。あいにく、ガラクタが買われるケースが珍しい事と、盗まれるケースは「とある巫女」を除いて皆無なので記録は残していなかった。こちらにも運営上の落ち度がある分非常にやり辛い。

「……飛頭蛮の口の中」
「ないよ。ほあ(ほら)」

飛頭蛮は口をあんぐりと開けてこちらに見せてきたが、妖怪らしい少し黄ばんだギザ歯が見えるだけであった。そもそも口の中にハンドサイズの小物が入るはずがない。既に妖力透視を行っているが小物が見つからない。相手の証拠がない以上、人狼への身体検査は行えない。正直、1点2点盗まれても別に大したことはないがこの妖怪らの教育的指導を行わなけば、次も別のお店で被害が出てしまう。店を運営する者として見過ごせない戦いがここにある。

「ほら。用は済んだかい?私たちは約束があるんだここらで失礼させて貰うよ。」
「待った。話はまだ終わっていない。もしかしたら君達に瞬間移動の能力があるかもしれない。た、例えば飛頭蛮君が一つずつ商品を飲み込んだらどうだろうか。本体の胃に隠すこともできるだろう。店を去った後に吐き出せば感知されずに、ぬ、盗みだすことが出来るだろう。」
「だからそんなの飲み込めねぇっての。お前、自分このガラクタ飲み込めんのかよ。呆れた。」

焦っていたので我ながらとんでも理論を展開してしまった。
瞬間移動…そういえばこいつら天邪鬼の手下、まさか…

「いや、そこの人狼君、もしかして君、『血に飢えた陰陽玉』を持ってはいないか?そういえば君たち、昔異変を起こした天邪鬼の手下だったろう?少しでも妖力アイテムを回収しようとしているんじゃないのかい?」

血に飢えた陰陽玉はワープポイントを設置し、所有者の任意のタイミングで一瞬でポイントに瞬間移動できる、主に追跡用のマジックアイテムだ。もし仮に妖力回収を企てているとしたら、これは巫女に相談する案件でもある。

「い、いえ、私達、既に天邪鬼と縁を切ってますので分かりません。でも確かにマジックアイテムを持っていたのは知っています。異変後に私たちも対峙したので。」
「店主さんさぁ、そんな疑うの良くないよ。私達、異変後改心したんだからさ。」

(相手のペースに飲まれている…なにか、なにかあるはずだ。このワープのトリックを見破る方法が…)

「んじゃ、帰るよ~お疲れさん~」
「ほ、本当にごめんなさい!!」

1匹と1頭は店から出て行った。

「………ッ!!」
(このまま成す術なく終わってしまうのか…。)

『あたいったらさいきょーね!!!!』

突然、進み始めた飛頭蛮から元気な声が聞こえ、首から凍った蛙が落ちてきた。

「…」
「…」

人狼と飛頭蛮は顔を見合わせた。
続けて飛頭蛮から声が聞こえる。

『チルノちゃんすごいわね!でも蛙さん可哀そうよ。生き物は凍らせて遊ぶものじゃないのよ。』
『さいきょーはどんなものでもこおらせれるんだ!いつかひめみたいにおおきいいきものもこおらせるんだ!!』
『あらあら、じゃあまずは私と同じくらい大きい岩から凍らせてみよっか』
『さいきょーのわたしにできないことはない!!!!』

「……そうか分かったぞ!!」

全てが繋がった。

「君、自分の首の断面にうちの商品入れただろ。」
「……」
「君の頭の首の断面は胴体の首断面と繋がっている。確かに飲み込むことは出来ないが、頭の首の断面に押し付けれるサイズであれば物体を胴体の首断面にワープさせることが出来るだろう。さっきの凍らせた蛙はその逆で君の胴体の首断面にチルノ君がふざけて凍った蛙を押し付けたから君の頭の首断面から出てきたという事だ。つまり…」

飛頭蛮を捕まえ首断面に手を入れた。

「や、やめ……」

無機質な手触りがある。自分の商品で間違いがない。

『ひめ!赤の首からてがでてるよ~こわいよ!!』
『あらあらチルノちゃん。最強はこんな事では動じないのよ。』

頭の首断面から話が聞こえる。あちらからしたらなんともグロテスクな光景だろう。
そんな事はともかく商品を掴み、飛頭蛮の生首から引きずり出した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「君たち、何故こんな事をしたんだ」

説教というより、単純に興味が勝った。

「…正直自分でも驚いてるよ。自分の首にそんな能力があるなんて知らなかった。頭と胴体が離れているのに口から食事が出来るのは、その、種族として当たり前すぎて意識してなかったけど、厳密にはワープ移動してるんだって、姫が気が付いて。『首の断面で試してみよう』ってやってみたら成功して…」
「わ、私は成り行きで、その、姫ちゃんから『蛮奇ちゃんの首から無限湧き ~ゴールドラッシュ~ しよ♪』ってテストして欲しいって頼まれて、断れなくて…」

と1匹と1頭はそれぞれ説明した。

確かに飛頭蛮の首だけバスケットに入れて、盗む者が堂々としてたら完全犯罪の成立だ。

「…次同じような事件が起きたら巫女に通達するからね。場合によってはその上の境界妖怪にも上申する。」

「す、すみませんでした…」
「ごめんなさい……」

「帰っていいよ」

こうして約20分程度の妖怪との押し問答に勝利した私であった。店に戻り一息つくと、
いつも通り鼠妖怪が新たなガラクタを持ち込み、河童が素材回収に来た。

物騒ではない、平穏な一日が今日も過ぎ去っていく。
初投稿なので大目に見てください。小説はキノの旅位しか読んでません。
ウェスタン
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.210簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
3.90名前が無い程度の能力削除
発想良かったです
4.90夏後冬前削除
楽しかったです
5.100南条削除
面白かったです
トリックも展開も斬新でよかったです