村人は原因調査を始めた。
「じいさんとばあさんはどこに行ってたか覚えてるか?」
「うーん。それがわからんのよ。なんだかでっかい平屋の家建ってて他になんもねぇのよ。家と木だけ」
「私もそこにいたんだよ。家に入ったらじいさんと会ってね。
じいさんの他に誰もいなくてどうしたもんかって思ってたけど、しばらくしたらあそこの家の娘さん、
靈夢ちゃんだっけ?
やってきてねぇ。
会ったとたんに泣いちゃって。大変だったろうねぇ」
「どうしようもねぇから、家の中で3人で待ってたんだ」
「靈夢ちゃんがお腹減っちゃってね、
何か食べさせたかったんだけど、食べ物がなくて…。
今日は寝て、明日からどこかに食べ物を探しに行こうって約束したんだよ」
「そしたら、おらもばあさんも靈夢ちゃんも外で布団がないまま寝てて、
村の近くだ!って、みんなを起こして帰ってきたんだ」
村の人は不思議な顔をして聞いている。そこはどこなんだ…?
確実に妖怪のせいだろうが、そんな知らない場所なんて探しようもないし、
…万一そこに行かされたとしてどうやって逃げ出すんだ?…
―――――――
あの妖怪がいなくなってから人間がいなくなる事はピタッと止んだ。
やっと、村にも以前の生活が戻ってきた。
靈夢もいつも通りの生活を送っているようだ。
「靈夢、今日の晩御飯は何にする?」
「なんでもいいよ」
「なんでもいいだと困るよ。今日はあの日でしょ。」
「あ!そしたら何か買ってくるわね!」
「大丈夫?前の事があるから心配だよ」
「大丈夫!商店に行って来るだけだから!」
「そうかい、気を付けてね。行ってらっしゃい」
靈夢の家は、裕福というわけでも貧しいわけでもない。
父は米農家を営み、母親は家の中で民芸品を作成して売る事で生計を立てていた。
必要なだけ食べ、残った米は小屋に保存して蓄えていた。家計のやりくりがうまい家である。
その為、靈夢の家族は比較的ゆとりを持って生活していた。
―――村の中心街―――
「おぉ、靈夢ちゃん!買い物なんて偉いねぇ」
「こんにちは!今日はちょっと贅沢したいなぁなんて」
村の人も気を使ってか、靈夢がいなくなった時の話はしないようにしている。
「なんかあるのか?あぁそうか、今日はあの日だったな!」
「饅頭が欲しいなあなんて。おすすめある?」
「ほぉ、まんじゅう!いやはや靈夢ちゃんの勘は全てを見通す事が出来るんだか」
「どういうこと?」
「今年は景気が良くて売上がいいから、そのお金で新しい饅頭を作ってね。
薄皮に黒い餡をたくさん入れたのさ。
1口で口の中に餡がなだれ込む自信作!
ちょうど本日解禁するってところだ。靈夢ちゃんが最初のお客様だね」
「ほんと!?それ頂けるかしら?3つちょうだい!」
「まいどあり!…と言いたいところだけど、初めてお客さんに売る商品にお金を取るなんて出来ねぇ。靈夢ちゃんなら尚更だ。持ってきな」
「ありがとう!饅頭屋さん好きよ!」
「口が達者な事で…。甘酒も飲んでいくか?」
「わぁ!」
「…美味しそう…」
このやり取りを傍から見ていた者がいた。
「…ん?あそこにいるのは靈夢ちゃんの友達かい?」
「え?」
振り返ると、そこには眼鏡を掛けた銀髪の少年がいた。
(…あれ?。形が…)
違和感を拭えないが平静を装う。
「どうしたの?饅頭食べたい?ほら…半分こ、ね」「え、あ、いや…」
「はい、あーん」
「ぁわ!………美味しい!甘い!」
「私も…ん!美味しい!餡の甘さが絶妙!」
「新作気に入ってくれて良かったよ」
「ごちそうさまでした。ありがとう、お姉ちゃん」
「いいの、これで2人揃って初めてのお客様よ」
「…」
「饅頭屋さん、どうしたの?」
「靈夢ちゃん、その子にあんまり近づかないほうがいいよ」
「どうして?」
「…ごめんなさい。失礼します。」
「あっ、ちょっと待って! 饅頭屋さん、またね」
「おう、またな」
(…俺の馬鹿野郎…悪い事を言ってしまった…)
――――――
「ちょっと待って!」
「お姉ちゃん…。ごめん、僕にあんまり近づかない方がいいよ。饅頭屋さんの言う通りだ」
「なんでそんなに拒むの?」
「そんなの分かってるでしょ…」
「…」
言葉が出ない。さっきの違和感は誰でも持ってしまうのだ。
体付きが他の男の子と違う。
特に、耳。この男の子は耳が尖っており、人間の耳の形とは程遠い。
…靈夢は言葉を紡ごうと考える。
「…あら、その手に持っている物は何?」
「え、これ…?」
「別に盗もうなんて思ってないから大丈夫よ」
「…説明してもいい?」
「もちろん!」
「…!」
「これは、僕が本の知識を詰め合わせて作った代物なんだ!内部で電場を生じさせてレンズによって光を収束させて直線状に…」「???」
――――――
「…頭がいいのね!…でももう大丈夫よ」
「ここからいい所だよ!」「はは…」
「…でもよかった。やっと笑ってくれた」
「え…?」
「饅頭屋さんに一言言われた時から笑ってなかったから」
「…」
「いいよ、分かってるから」
「…ありがとう」
「そういえば、貴方の名前を聞いてなかったわね。
名前は何て言うの?」
「僕は…」
「霖之助、森近霖之助だよ」
「ただいまー」
「靈夢おかえり。何買ってきたの?」
「饅頭買ってきたよ!」
「…あら、美味しそうね。この印はあそこの饅頭屋?」
「そう!今日から新作を売り始めたんだって!」
「あそこの饅頭はどれも美味しいからねぇ。楽しみだよ」
「ただいまー」「父ちゃんお帰り!」
「いやぁ、今年は今までにないくらい豊作になるぞ!」
「お前さん、本当かい?」
「ああ、そうさ。将来何が起きるか分からないから、ある程度蓄えるとして、
今年は少しくらいは贅沢してもいいんじゃないかな」
「やったー!父ちゃん、ありがとう!」
「父ちゃんじゃなくて、神様に言わないと」
「神様、ありがとう!」
「これから楽しくなるな」
「そうだ!父ちゃん、はいこれ」
「お、初めて見る饅頭だな!」
「あそこの兄さんの所の新作だってさ!」
「うまそうだな。2個しかないけど靈夢は先に食べたのか?」
「先に食べちゃった。霖之助君っていう男の子が食べたそうにしてたから半分こ、したわよ」
「お、男の子…!?」
「父さん、気にしすぎだよ。この年じゃそんな事は普通だって」
「そ…そうか…」
「あ、まだだったね」
「靈夢、どうした?」
「父ちゃん、お誕生日おめでとう!いつもありがとう。その為のお饅頭だよ」
「…!……ぅ…うぅ……」
「やだ、父さん男なんだから泣くんじゃないよ」
「いいだろ!今日ぐれぇ!……ずずっ……」
「…大きくなったな、靈夢。」
「じいさんとばあさんはどこに行ってたか覚えてるか?」
「うーん。それがわからんのよ。なんだかでっかい平屋の家建ってて他になんもねぇのよ。家と木だけ」
「私もそこにいたんだよ。家に入ったらじいさんと会ってね。
じいさんの他に誰もいなくてどうしたもんかって思ってたけど、しばらくしたらあそこの家の娘さん、
靈夢ちゃんだっけ?
やってきてねぇ。
会ったとたんに泣いちゃって。大変だったろうねぇ」
「どうしようもねぇから、家の中で3人で待ってたんだ」
「靈夢ちゃんがお腹減っちゃってね、
何か食べさせたかったんだけど、食べ物がなくて…。
今日は寝て、明日からどこかに食べ物を探しに行こうって約束したんだよ」
「そしたら、おらもばあさんも靈夢ちゃんも外で布団がないまま寝てて、
村の近くだ!って、みんなを起こして帰ってきたんだ」
村の人は不思議な顔をして聞いている。そこはどこなんだ…?
確実に妖怪のせいだろうが、そんな知らない場所なんて探しようもないし、
…万一そこに行かされたとしてどうやって逃げ出すんだ?…
―――――――
あの妖怪がいなくなってから人間がいなくなる事はピタッと止んだ。
やっと、村にも以前の生活が戻ってきた。
靈夢もいつも通りの生活を送っているようだ。
「靈夢、今日の晩御飯は何にする?」
「なんでもいいよ」
「なんでもいいだと困るよ。今日はあの日でしょ。」
「あ!そしたら何か買ってくるわね!」
「大丈夫?前の事があるから心配だよ」
「大丈夫!商店に行って来るだけだから!」
「そうかい、気を付けてね。行ってらっしゃい」
靈夢の家は、裕福というわけでも貧しいわけでもない。
父は米農家を営み、母親は家の中で民芸品を作成して売る事で生計を立てていた。
必要なだけ食べ、残った米は小屋に保存して蓄えていた。家計のやりくりがうまい家である。
その為、靈夢の家族は比較的ゆとりを持って生活していた。
―――村の中心街―――
「おぉ、靈夢ちゃん!買い物なんて偉いねぇ」
「こんにちは!今日はちょっと贅沢したいなぁなんて」
村の人も気を使ってか、靈夢がいなくなった時の話はしないようにしている。
「なんかあるのか?あぁそうか、今日はあの日だったな!」
「饅頭が欲しいなあなんて。おすすめある?」
「ほぉ、まんじゅう!いやはや靈夢ちゃんの勘は全てを見通す事が出来るんだか」
「どういうこと?」
「今年は景気が良くて売上がいいから、そのお金で新しい饅頭を作ってね。
薄皮に黒い餡をたくさん入れたのさ。
1口で口の中に餡がなだれ込む自信作!
ちょうど本日解禁するってところだ。靈夢ちゃんが最初のお客様だね」
「ほんと!?それ頂けるかしら?3つちょうだい!」
「まいどあり!…と言いたいところだけど、初めてお客さんに売る商品にお金を取るなんて出来ねぇ。靈夢ちゃんなら尚更だ。持ってきな」
「ありがとう!饅頭屋さん好きよ!」
「口が達者な事で…。甘酒も飲んでいくか?」
「わぁ!」
「…美味しそう…」
このやり取りを傍から見ていた者がいた。
「…ん?あそこにいるのは靈夢ちゃんの友達かい?」
「え?」
振り返ると、そこには眼鏡を掛けた銀髪の少年がいた。
(…あれ?。形が…)
違和感を拭えないが平静を装う。
「どうしたの?饅頭食べたい?ほら…半分こ、ね」「え、あ、いや…」
「はい、あーん」
「ぁわ!………美味しい!甘い!」
「私も…ん!美味しい!餡の甘さが絶妙!」
「新作気に入ってくれて良かったよ」
「ごちそうさまでした。ありがとう、お姉ちゃん」
「いいの、これで2人揃って初めてのお客様よ」
「…」
「饅頭屋さん、どうしたの?」
「靈夢ちゃん、その子にあんまり近づかないほうがいいよ」
「どうして?」
「…ごめんなさい。失礼します。」
「あっ、ちょっと待って! 饅頭屋さん、またね」
「おう、またな」
(…俺の馬鹿野郎…悪い事を言ってしまった…)
――――――
「ちょっと待って!」
「お姉ちゃん…。ごめん、僕にあんまり近づかない方がいいよ。饅頭屋さんの言う通りだ」
「なんでそんなに拒むの?」
「そんなの分かってるでしょ…」
「…」
言葉が出ない。さっきの違和感は誰でも持ってしまうのだ。
体付きが他の男の子と違う。
特に、耳。この男の子は耳が尖っており、人間の耳の形とは程遠い。
…靈夢は言葉を紡ごうと考える。
「…あら、その手に持っている物は何?」
「え、これ…?」
「別に盗もうなんて思ってないから大丈夫よ」
「…説明してもいい?」
「もちろん!」
「…!」
「これは、僕が本の知識を詰め合わせて作った代物なんだ!内部で電場を生じさせてレンズによって光を収束させて直線状に…」「???」
――――――
「…頭がいいのね!…でももう大丈夫よ」
「ここからいい所だよ!」「はは…」
「…でもよかった。やっと笑ってくれた」
「え…?」
「饅頭屋さんに一言言われた時から笑ってなかったから」
「…」
「いいよ、分かってるから」
「…ありがとう」
「そういえば、貴方の名前を聞いてなかったわね。
名前は何て言うの?」
「僕は…」
「霖之助、森近霖之助だよ」
「ただいまー」
「靈夢おかえり。何買ってきたの?」
「饅頭買ってきたよ!」
「…あら、美味しそうね。この印はあそこの饅頭屋?」
「そう!今日から新作を売り始めたんだって!」
「あそこの饅頭はどれも美味しいからねぇ。楽しみだよ」
「ただいまー」「父ちゃんお帰り!」
「いやぁ、今年は今までにないくらい豊作になるぞ!」
「お前さん、本当かい?」
「ああ、そうさ。将来何が起きるか分からないから、ある程度蓄えるとして、
今年は少しくらいは贅沢してもいいんじゃないかな」
「やったー!父ちゃん、ありがとう!」
「父ちゃんじゃなくて、神様に言わないと」
「神様、ありがとう!」
「これから楽しくなるな」
「そうだ!父ちゃん、はいこれ」
「お、初めて見る饅頭だな!」
「あそこの兄さんの所の新作だってさ!」
「うまそうだな。2個しかないけど靈夢は先に食べたのか?」
「先に食べちゃった。霖之助君っていう男の子が食べたそうにしてたから半分こ、したわよ」
「お、男の子…!?」
「父さん、気にしすぎだよ。この年じゃそんな事は普通だって」
「そ…そうか…」
「あ、まだだったね」
「靈夢、どうした?」
「父ちゃん、お誕生日おめでとう!いつもありがとう。その為のお饅頭だよ」
「…!……ぅ…うぅ……」
「やだ、父さん男なんだから泣くんじゃないよ」
「いいだろ!今日ぐれぇ!……ずずっ……」
「…大きくなったな、靈夢。」
靈夢がひたすらかわいい回でした
南条さんいつも読んで頂きありがとうございます!
まだ幼さが残るけど、しっかりしている感じを出したいなと思いながら書きました!