「痛ってぇな.........クソッ...」
やや深い穴の中で真っ逆さまになった彼女は、白く、長い髪を右手でかきあげ、真ん前に見える土の壁を睨みつけた。
「おっ?引っかかってる〜」
てゐは、バレないように仕掛けておいた穴がしっかり空いていることを確認すると、うししと笑った。
最近の鈴仙は、妙に察しが良い。
というのも、悪戯の引っ掛かり過ぎが全ての原因であることに違いはないのだが。
鈴仙が、土の盛り上がり具合や場所で、全てを察してしまうようになっていたことに気がついた時は、本当にどうしようかと悩んだものだ。
なので、今日は思い切って、永遠亭の庭の外に穴を掘ってみた。流石に鈴仙も油断するだろう。
そう思い、穴の中を覗き込む。
「さぁて、鈴仙............って、アンタは!?」
「やってくれたな......悪戯兎」
穴の中から笑いながら、ギロリと睨みつけてくる妹紅に、てゐは思わず怯む。
......そう、鈴仙が気づかないくらいなら、妹紅も気が付かなくたって、おかしくない。
てゐは取り敢えず、深い穴の中から妹紅を救出すると、いそいそと穴埋めを始めた。
こんなに深いのに、埋まるものなのか......と、妹紅は心底呆れていた。
「にしても、この罠の完成度なかなか凄いな」
汚れた袴をぱんぱんと払いながら、妹紅はある意味感心していた。
てゐは、嬉しくないと言わんばかりの苦笑いを浮かべている。
「あ〜あ、鈴仙の為の罠が台無しだよ」
「何で私被害者なのに怒られてんだよ......」
乱れた髪を指で整えている妹紅に対して、てゐは頬を膨らませ、不満そうな顔を見せる。
妹紅も、引っ掛けられたのに文句を言われ、不機嫌そうな顔をする。
「妹紅がもっと早く罠に気づけていれば、こうはならなかったのに」
「なんだと〜この悪戯兎め!」
「うぎゃ」
妹紅に後ろから頬を引っ張られ、てゐは思わず涙目になる。
「あらあら、何やってるの?」
と、そこへ騒ぎを聞きつけた輝夜が、ニヤニヤしながらやって来た。
「うっわ......一番嫌な奴が来た」
妹紅が本気で嫌な顔をする。
その顔を見ると、輝夜は更にニコニコして、小走りでてゐの元へ寄っていった。
「ねーねー、何があったの?」
「あー......ちょっと妹紅がね......」
「おい、言うなって」
事情を話そうとするてゐのことを、すかさず妹紅が止める。だが、そんな妹紅の口を輝夜は手で塞ぎ、てゐに続きを話すように促す。
そうだ、姫様が知ったら妹紅のことバカにするだろうな......。
と、てゐは察する。
だが、そんなの知ったことか。
「妹紅が鈴仙用の罠に掛かってただけ」
途端、空気が凍りついた。
だが、輝夜が「ぷっ」と吹き出したことにより、再び時が動き出したような気がした。
「ははははは!何それだっさ!!」
「あーもう!!だから嫌だったのにー!なんで話しちゃうんだよー!!」
怒り出す妹紅を他所に、てゐはその場を後にした。
どうせ、黙って放置していたところで、あの二人は勝手に殺し合い始めるだろう。なら、別に言っても言わなくても同じではないか。
後ろからは二人の怒声や、弾幕の放たれる音、そして地面の削れる様な酷い音まで聞こえてきた。
「わぁ......今日の戦いは一段と激しいなぁ」
薬売りから帰ってきた鈴仙は、いつもの服に着替えながら、輝夜と妹紅の対戦を見ていた。
永遠亭が今日も平和でよかったです