飛行機雲はいつかの夢の証。飛び立った空に後を残す証。
「あ、飛行機雲……」
ふと空を見上げると見えた雲に呟く。どうしてなのだろうか、懐かしいと思ってしまう。普段からあるものなのに、懐かしいと思うのはおかしな話だろう。
昔、空を飛べるようになった時。一人で空を飛ぶ練習をしていた時。
『菫子……何しているんだい』
おばあちゃんが声をかけてくれた時があった。何を話したなんて思い出せないほど些細な事だったのだろうけれど。
『空を飛ぶ練習してるの! おばあちゃんもする?』
包み隠さずそんなことを言ったような気がする。あの時の私は馬鹿だったから。
『おやおや……菫子は危ないことしているんだねぇ。お空を飛ぶのかい。それは楽しいことかい?』
おばあちゃんは今思えば、心配そうにそう言っていたのだと思う。親の心子知らず。当たり前のことなのだけれど。
『うん! 楽しいの! あの鳥みたいに飛んでみたいわ!』
指さしたのはトンビで、ピーヒョロロと空で鳴いていた。
『鳶みたいに飛びたいのかい。菫子、舵を忘れないでね。おばあちゃんとの約束さ』
『うん!』
そんな昔の話だ。おばあちゃんと話した最後の話だった。あの後おばあちゃんはあっという間に死んでしまった。老衰だったと記憶している。
時は流れてひねくれた学生になって。幻想郷を知って、気がつけば空を駆けていて。小さい時は浮くのが精一杯だったのに、どうして飛べるようになったのだろうか。覚えていなかった。
今日も幻想郷に来て空を飛ぶ。高く高く、それでも届かない空は私を迎えてくれて。現実で空を飛んだことはあるけれど、限界までは無い。目立ってしまってしょうがないので……
でも飛んでみたい気持ちはあった。妹紅さん曰く、私は馬鹿らしいから。そんなしょうもないことを思いながら幻想郷の空を駆けていく。私の背中に翼があるみたいにさ。
紅い鳥居が私の背中に通り過ぎる。魔法の森が後ろに置いていかれる。人里がたくさんの人を抱えた妖怪を後ろに過ぎ去っていく。迷いの竹林の竹は私をカスリそうになる。
速く、速く。空を駆けていく。
おばあちゃん、私、空を飛べるようになったのよ。
空を駆けて、博麗神社に戻った時、私の意識は黒く落ちていった。
*
現実に意識が戻される。憂鬱な世界にさようなら、なんて事は出来なくて。ホントに馬鹿らしい。
ベッドから起き上がると空は真っ暗だった。都会の喧騒に飲まれた星たちは見えなかった。
部屋のベランダに出るとヒュウと風が吹き渡った。夜風が私を誘うように。
空を飛びたくなった。超能力で身体を浮かす。幻想郷のように思い出しながら空に浮いていく。
助走を着けるようにトン、とコンクリートの地面を蹴り飛ばした。ビュンと空を切っていく。
眼前に広がる世界は私を面白くさせる。キラキラと光る街を下に私はさらに空を登っていく。ヒュウヒュウと風を切る音がする。着替え損ねた制服が寒くなっていく。私は馬鹿だ、唯一無二の存在で、超能力が使える、ただの高校生。
ゴオオオと飛行機が空を切る音がする。追いついてみたい、あの速さで空を駆けてみたい。そんな意識を向けたところで私の体力が尽きた。集中力が無くなって、落ちていく。下手すれば飛び降り自殺なんて報道されるかな。そんな変なことを思って私は我に返る。
違う! そんなことしたら幻想郷行けなくなるじゃない!?
思い出したかのように超能力を使って私は空を降りていく。元来た場所に行くように、何も無かったかのように。
空を降りて、私の体は限界だった。ポフンと倒れたベットでまた意識を飛ばした。
*
疲れた……と思って体を起こすと夜の幻想郷に来ていた。現実の私は寝たのだろう。ゆっくりも出来ないんだけど。石畳の上から立ち上がり、また空を駆けていく。我ながら飽きずに空を飛べるよな、と他人事のように思った。
今日は月が綺麗だ。満月……では無いのだろうけどそれに近かった。
やることも無く空を徘徊する。寝静まった夜なのだろうか誰にも出会わずにひたすら空を飛んでいるだけだった。
妖怪の山から朝日が昇ってくる。その神々しさに畏怖を感じた。ただの人間が来るなと言われているように思えて。
人里の近くの地面に降り立った時に私の意識は引きずられるように現実に戻って行ったのだった。何回もこの感覚に苛まれるのは好きではなかった。
*
頭が痛い。最悪の気分だった。気合いで起きると朝日がとうに昇った後だった。
空を見たくてまたベランダに出ると飛行機雲が空を駆けていくのを見た。
私もあんなふうに軌跡があるんだろうか。そんなくだらないことを思った。おばあちゃんが見たら笑い飛ばしそうな、そんな感じがした。
空を飛ぶ、今日も駆けていく。いつか私が限界を見るその時まで。いつか、いつか、駆けることを諦めたその先も見てみたいなんて、そんな馬鹿みたいなことを思って。
今日も私は空を駆けていく。
「あ、飛行機雲……」
ふと空を見上げると見えた雲に呟く。どうしてなのだろうか、懐かしいと思ってしまう。普段からあるものなのに、懐かしいと思うのはおかしな話だろう。
昔、空を飛べるようになった時。一人で空を飛ぶ練習をしていた時。
『菫子……何しているんだい』
おばあちゃんが声をかけてくれた時があった。何を話したなんて思い出せないほど些細な事だったのだろうけれど。
『空を飛ぶ練習してるの! おばあちゃんもする?』
包み隠さずそんなことを言ったような気がする。あの時の私は馬鹿だったから。
『おやおや……菫子は危ないことしているんだねぇ。お空を飛ぶのかい。それは楽しいことかい?』
おばあちゃんは今思えば、心配そうにそう言っていたのだと思う。親の心子知らず。当たり前のことなのだけれど。
『うん! 楽しいの! あの鳥みたいに飛んでみたいわ!』
指さしたのはトンビで、ピーヒョロロと空で鳴いていた。
『鳶みたいに飛びたいのかい。菫子、舵を忘れないでね。おばあちゃんとの約束さ』
『うん!』
そんな昔の話だ。おばあちゃんと話した最後の話だった。あの後おばあちゃんはあっという間に死んでしまった。老衰だったと記憶している。
時は流れてひねくれた学生になって。幻想郷を知って、気がつけば空を駆けていて。小さい時は浮くのが精一杯だったのに、どうして飛べるようになったのだろうか。覚えていなかった。
今日も幻想郷に来て空を飛ぶ。高く高く、それでも届かない空は私を迎えてくれて。現実で空を飛んだことはあるけれど、限界までは無い。目立ってしまってしょうがないので……
でも飛んでみたい気持ちはあった。妹紅さん曰く、私は馬鹿らしいから。そんなしょうもないことを思いながら幻想郷の空を駆けていく。私の背中に翼があるみたいにさ。
紅い鳥居が私の背中に通り過ぎる。魔法の森が後ろに置いていかれる。人里がたくさんの人を抱えた妖怪を後ろに過ぎ去っていく。迷いの竹林の竹は私をカスリそうになる。
速く、速く。空を駆けていく。
おばあちゃん、私、空を飛べるようになったのよ。
空を駆けて、博麗神社に戻った時、私の意識は黒く落ちていった。
*
現実に意識が戻される。憂鬱な世界にさようなら、なんて事は出来なくて。ホントに馬鹿らしい。
ベッドから起き上がると空は真っ暗だった。都会の喧騒に飲まれた星たちは見えなかった。
部屋のベランダに出るとヒュウと風が吹き渡った。夜風が私を誘うように。
空を飛びたくなった。超能力で身体を浮かす。幻想郷のように思い出しながら空に浮いていく。
助走を着けるようにトン、とコンクリートの地面を蹴り飛ばした。ビュンと空を切っていく。
眼前に広がる世界は私を面白くさせる。キラキラと光る街を下に私はさらに空を登っていく。ヒュウヒュウと風を切る音がする。着替え損ねた制服が寒くなっていく。私は馬鹿だ、唯一無二の存在で、超能力が使える、ただの高校生。
ゴオオオと飛行機が空を切る音がする。追いついてみたい、あの速さで空を駆けてみたい。そんな意識を向けたところで私の体力が尽きた。集中力が無くなって、落ちていく。下手すれば飛び降り自殺なんて報道されるかな。そんな変なことを思って私は我に返る。
違う! そんなことしたら幻想郷行けなくなるじゃない!?
思い出したかのように超能力を使って私は空を降りていく。元来た場所に行くように、何も無かったかのように。
空を降りて、私の体は限界だった。ポフンと倒れたベットでまた意識を飛ばした。
*
疲れた……と思って体を起こすと夜の幻想郷に来ていた。現実の私は寝たのだろう。ゆっくりも出来ないんだけど。石畳の上から立ち上がり、また空を駆けていく。我ながら飽きずに空を飛べるよな、と他人事のように思った。
今日は月が綺麗だ。満月……では無いのだろうけどそれに近かった。
やることも無く空を徘徊する。寝静まった夜なのだろうか誰にも出会わずにひたすら空を飛んでいるだけだった。
妖怪の山から朝日が昇ってくる。その神々しさに畏怖を感じた。ただの人間が来るなと言われているように思えて。
人里の近くの地面に降り立った時に私の意識は引きずられるように現実に戻って行ったのだった。何回もこの感覚に苛まれるのは好きではなかった。
*
頭が痛い。最悪の気分だった。気合いで起きると朝日がとうに昇った後だった。
空を見たくてまたベランダに出ると飛行機雲が空を駆けていくのを見た。
私もあんなふうに軌跡があるんだろうか。そんなくだらないことを思った。おばあちゃんが見たら笑い飛ばしそうな、そんな感じがした。
空を飛ぶ、今日も駆けていく。いつか私が限界を見るその時まで。いつか、いつか、駆けることを諦めたその先も見てみたいなんて、そんな馬鹿みたいなことを思って。
今日も私は空を駆けていく。
良い雰囲気でとても読みやすくて、なんか懐かしい気持ちになれました。
幻想の中でしかのびのびと生きられない董子の苦しみが伝わってくるようでした
心ゆくまで空を駆けてほしいと思いました