Coolier - 新生・東方創想話

菫子だらけ

2021/03/29 14:47:24
最終更新
サイズ
16.02KB
ページ数
1
閲覧数
2645
評価数
15/24
POINT
1900
Rate
15.40

分類タグ

 妹紅さんは何かと飯を奢ってくれる。今日は蕎麦を食べていたが、そこに不思議な相席者が居て、仲良くなった。名をヘカーティア・ラピスラズリというそうな。素性を聞けば、ピースちゃんが言っていたご主人様というのが、まさに彼女のことらしい。彼女は語尾にわよんわよんと付ける珍妙な喋り方をしながら、ずっと欲しかった、人里で有名なお菓子をやっと買えて気分が良いので、お裾分けしたいと言ってそれをくれた。パッケージには「うるとらすぅぱぁでりしゃすようかん」と書いてあった。

「ほんと、いつも並んでるんだけど、すぐに売り切れちゃうんだからね」

 とヘカーティアさんは言ったが、パッと見ても彼女が全知全能に近い、自分、ひいては妹紅さんとも格が違う存在であることは見て取れたので、良くわからないけれど、あなたならどうとだって出来るんじゃあないですかと聞いてみたら、そんなズルはつまらなくってできないわ、と笑われた。とにかく、「うるとらすぅぱぁでりしゃすようかん」は、はたして途方もなく美味であった。妹紅さんも、この世にこんなおいしいものがあったのかと大層気に入った様子だった。

 別れる前にこれが売っている場所を尋ねてみると、ヘカーティアさんはニコニコしながら場所を教えてくれた。



***



 しかし色々と変な話だった。「人里のお店」とハッキリ言ったのだからそんなハズはないのだけれど、ヘカーティアさんから聞いた道順では人里を一度出なければならなかった。しかも、森の中に等間隔に樹木が生えたエリアがあって、その中を決まった道順で歩いた後に、真ん中にある社を三週するとか、にわかにまじない染みた手順を数回踏まされたし、さらに、帰りは順番を逆にして同じことをせよと言う。それと、悪いことを思いついてもやっちゃだめよん、と言っていた。多分語尾に音符が付いていた。

 その社もなんだか異様だった。ご神体っぽいのはむき出しにおいてあって、蚊取り線香をぐにゃぐにゃにしたような形の鉄細工と、明らかに幻想郷に似つかわしいとは思えない、外の世界の流行の最先端らしき腕時計のふたつだった。言われたとおりだ。最後に、この蚊取り線香の置いてある方角に向かってまっすぐ森を出て、人里にもう一度入る。これもおかしい。入ってきた方向から考えるとこれで人里に着くはずがないのに、それでもちゃんと人里があった。

 そこは、ひとつを除けば私の知っている人里そのものだった。道を暫く歩いていると、「真の至高のヤバめのきんつば」とか「食べれば食べるほど強くなるおだんご」とかが売っているお店がいくつかあったのだ。

 それらも繁盛していたけれど、やがてその比ではないくらいの人だかりがある場所があった。喧騒に聞き耳を立てると、どうやらここが「うるとらすぅぱぁでりしゃすようかん」のお店らしい。妹紅さんも道連れにするべきだったと少し後悔しながらも、私はその店の行列に並ぶことにした。

 しばらくそうしていると、少し後ろの方から声をかけられた。それは妹紅さんだった。なあんだ、来たのかと思って、妹紅さんの所まで何人か並び順を譲って隣までいくと、妹紅さんの後ろにはなんと私が居るではないか。私は不審げな顔で私を見ていたが、私には何が起きているのか大体見当がついていた。

「あなた、私よね。夢の世界の私なの?」

「いや、私は多分、並行世界から来た私よ」

 私が答えると「向こうの私」は、最近こんなことばっかりだわと言って頭を抱えた。そりゃあそうだろうな。逆の立場だと思ったら同情する。でも、私の世界には「うるとらすぅぱぁでりしゃすようかん」が売ってないので、どうしても欲しくて来たというだけで、悪巧みをしに来たわけじゃないのだと弁明したら多少は安心した様子だった。

 「向こうの私」は「うるとらすぅぱぁでりしゃすようかん」がとりわけ人気ではあるものの、他のお菓子も大体同じくらいおいしいと教えてくれた。「うるとらすぅぱぁでりしゃすようかん」はちゃんと買えた。ヘカーティアさんはすぐに売り切れちゃうと言っていたし、もっと苦労すると思っていたのだけれど、案外簡単に手に入ったなあとこぼしたら、あの人って大概、時間にルーズだからねと「向こうの私」は答えた。どうも、「向こうの私」もヘカーティアさんとは面識があるらしい。

 ようし、ちょっと荷物だらけにはなってしまったけれど、とにかくお菓子は買えた。元の世界の妹紅さんにも食べさせてあげよう。



***



 そう思っていたけれど、それから私は自分のおつむのアレ加減にあきれた。ヘカーティアさんに教えてもらった道順は覚えていたけれど、帰るにはそれを逆にやるって、どういう風かなと考えていたらこんがらがって、道を間違えてしまった。

 絶対違うだろうなとは思いながらも、こうであってくれと森を出てみたら、そうやって出た人里は、恐らく私の世界ではなかった。「すぅぱぁぷれしゃすでりしゃすようかん」のお店があったのだ。んん? さっきと少し名前が違うなあ。

 そして、もう一つ様子がおかしい。さっき、私はお昼前にお菓子をあらかた買い終わって、夕方まで話し込んで、そして森に入ったハズだ。でも、今の空気はどう考えても朝だ。お店はさっきと同じくらい混んでいるし、太陽も東向きだ。

 どうすればよいのかとオロオロしていたら、列の中に見覚えのある顔があった。妹紅さんだ。そして、その横には私がいた。私が、二人いた。

 私は列にならんで、おういと言って三人を呼んだ。三人は列を譲りながら私のところまで来てくれた。三人の中で、一番疲れた顔をした私が、あなたはどの私なのと尋ねてきた。

「ええと……私は多分、この世界から言うと、並行世界の並行世界? の未来、から来た私、になるのかしら?」

「ややっこしいわねえ。私は多分、この世界の並行世界から来た私よ」

「そして私はこの世界の私。あなたは一体どうしたの?」

 私は、お菓子を買えたので帰ろうとしたのだが、失敗してここへ来てしまったのだと説明した。「向こうの私達」は私のくせにばかだなあという顔をした。

 一度おさらいをする。私は「基本世界」から「うるとらすぅぱぁでりしゃすようかん世界」へ来た。それから、「過去のすぅぱぁぷれしゃすでりしゃすようかんの世界」へ来た。であるからして、この「並行世界から来た私」を名乗る私は単純に「この私」の過去の私というわけではなくて、私から見ると「並行世界の並行世界の並行世界の過去の私」だ。

 とりあえず、「並行世界の並行世界の並行世界の過去の私」には多分、これから帰り道を間違えて(「この私」から言えば)「並行世界の並行世界の並行世界の過去の並行世界の未来」へ迷い込んでしまうだろうから、一度博麗神社でピースちゃんが来るのを待ってヘカーティアさんに繋いでもらった方が良いよとアドバイスをしておいた。「並行世界の並行世界の並行世界の過去の私」は「この私」にお礼を言った。

「まって、ここは私のいる世界で、私の基本世界なんだから、私を基準に喋ってくれないと、分からなくなっちゃって困るわ」

 と「この世界の私」が言った。もっともだ。彼女からすれば私達の方がよそ者なわけだから、まっとうな主張だ。とりあえず、「この世界の私」を除いた私達は目当てのものを買ったことを確認(せっかくなので、「ぷれしゃす」と「うるとら」をみんなでシェアしあったりも)して、二人で博麗神社に行くことにした。「この世界の私」と「この世界の妹紅さん」には迷惑をかけてごめんなさいと謝った。妹紅さんは本当、気をつけて帰りなね、と苦笑いしていた。



***



 私達は博麗神社に来た。結論から言うと、今すぐに自分の世界の幻想郷へ帰るのは難しいらしかった。

 ヘカーティアさんが言うには、この世界から一巡隣の並行世界にいるだけの(つまり、私からするともう一人の)私は、すぐにどの世界から来たのか割り出せるのだが、私はニ巡隣のしかも未来から来ているということで、そこまでかけ離れた場所になると割り出すこと自体は可能でも結構時間がかかってしまうらしい。

「時間がかかるって、半日とかですか?」

「ざっくり二年くらいかしらねえ」

 もう一巡隣だったら七百年は見てもらわないと困るわね、と続けた。冗談じゃない。終わった。でも、とにかく、もう一人の方の私は、居てもややこしいだけだからさっさと帰ってもらった。もう一人の方の私は、なんか私だけごめんね、ありがとーと言って軽い調子でピースちゃんと一緒に社へ向かっていった。私ってああいうところあるんだよな。

 私とヘカーティアさんがうんうんと言って悩んでいると、人里へお菓子を買いに行っていたレイムッチが帰ってきた。レイムッチは自分と同じ紙袋を持っている私を見て、また博麗神社を経由せずに幻想郷を歩いてやがるのかと私にゲンコツを見舞おうとしたので、いや、違うんです、それは私じゃなくて「この世界の私」がやったことなんですぅぅ!と今までのことを説明した。

「ははあ。そういうことなら、あんた、今すぐ目を覚ませば元の世界には戻れるんじゃないの」

 大体の事情を把握した霊夢さんは、あっけらかんとしていた。言われてみると、確かにその通りだ。今の私は、理屈的には「私の世界の幻想郷にいるドッペルゲンガーの私」だ。外の世界から、夢の世界を経由して、体を二つに分けて「ドッペルゲンガーの私」として幻想郷に来ているのだ。そして、「外の世界の私」と「幻想郷のドッペルゲンガーの私」は「夢の世界の私」を通して繋がっている。そうである以上、今私が何処にいるかには一切関係なく、私が目を覚ませば「私の世界の外の世界の私」にいつも通り統合されて、戻れるはずだ。あの、見慣れた天井のあるところだ。迷子になって途方に暮れて、そんな簡単なことも頭から抜け落ちていた。

「ノーノーノーノー、董子ちゃん、そういう事情ならそれはそれでおかしいことがある……おかしいというか、マズいことがあるわ」

 曰く、夢の世界は全ての並行世界で共有された一つのモノというわけでは全然なくて、ちゃんと並行世界ごとに夢の世界が一つずつ対応して存在している。にもかかわらず、私は私の世界からここまで、私の夢の世界という「回線」で無理矢理繋いでいるというなら、最悪の場合、その細長い「回線」でこちらの、というか通り道にあった夢の世界全部をぶった斬って、ズタズタに引き裂いてしまう可能性があるという。

「そうなっちゃったらさ、もう終わりよ。何百何千もの世界の、夢うつつがグチャグチャになって皆混ざって消えちゃうかも。まあ、最悪じゃないにしても、帰ったときに、限界まで引っ張られたゴムが急に元に戻るみたいな衝撃が起きて、何かしらの喪失は免れないでしょうね」

「他人事みたいに言ってるんじゃないわよ、この子の世界のあんたがまいた種でこうなってるんじゃないの!あんたならよく視ればこの子の素性くらい分かったはずでしょうに。どうしてくれるのよ、これ!」

「だってだってぇ、他人の中身を不躾にのぞき込むなんて失礼じゃなーい。あの社だって元々あったのを使ってるだけで私の所有物ってわけじゃないんだしー」

「というか、まずその社はなんなのよ。そんなものがあるなんて聞いてないわよ」

「あんな程度の異常スポット、幻想郷にはいくらでもあるわよん。その中のたまたま一つが、世界中でただ一人、菫子ちゃんだけは絶対に使っちゃいけませんでしたーなんて誰にも予想できるわけないじゃない」

 けんけんがくがくあって、もう起こってしまったことなのでどうしようもないし、帰れたらとりあえず大人しくしていろということになった。レイムッチは私をおっちょこちょいすぎると言って散々なじった。ついでにヘカーティアさんにも、あんまり董子に変なこと吹き込まないでねと言ってトゲトゲたしなめた。ヘカーティアさんは、そもそも私だけど私のやったことじゃないもーん、と膨れていた。

 しかしかくして、そうやってしばらく博麗神社で談笑していたら、いつもの目覚まし時計の音が聞こえてきてくれて、ああ、良かった、ありがとう、ごめんなさいと言って皆に手を振ることができたのだった。



***



 これは夢だな、と分かった。私の前には、心配そうな顔をした妹紅さんが居た。夢だと分かると、お菓子よ出でよと思ったらお菓子を出すくらいのことはできた。妹紅さんに、大丈夫だよと言ってお菓子をご馳走したら、直ぐに二人とも楽しい感じになった。

 私がお菓子を出せるのを見て、人が群がってきた。まあ少しくらい良いだろうと思ってお菓子を出してあげていたら、その中には私が混じっていた。一応、怖いので自己紹介をさせてからお菓子をあげることにした。

「私は多分、未来からきた現実のドッペルゲンガーの私よ。お菓子ありがとう」

「私は多分、並行世界の未来からきた現実のドッペルゲンガーの私よ。お菓子ありがとう」

「私は多分、並行世界の並行世界から来た現実のドッペルゲンガーの私よ。お菓子ありがとう」

「そう、私は多分、この世界の、つまり夢の世界の私よ。どういたしまして」

 私も一応、と自己紹介をすると、なんだここは夢じゃないか、夢に私がいっぱいいるというのは、多分どれかは「夢の世界の本当の私」で、他の私は「夢の世界の偽物」の私なのだろうということになった。私はそれに同意した。そして、それはきっと私だろう。私だけがここを夢と気付いていたのがその証拠だ。他の私は皆、自分を現実の私と言った。

 いや、なんだ? おかしいな。夢と現実の話はもう終わったじゃないか。なんでいまさら、現実の私だなんて名乗る必要がある? 今私が出会うことのある私は、未来か、過去か、並行世界の私だ。あっ、そうか。ここが夢だと分かっている私から生まれた私たちだからか。なあんだ。

「いいじゃない、そんなことは。起きたらどうせ、私は一人なんだから」

「いや、いや、それはさ、オカルトボールの話が解決して、しばらくはそうだったけど。だからさ、今はあの社で好き勝手行き来するせいで、いろんな私が居るのよ」

「それでもいいじゃん。ドッペルゲンガー同士なら、一緒に居るからって怖いことなんてないんだし。知らないけど」

「でもさあ、まだオカルトボールの影響が完全になくなったかは分からないから、めったなことはするなってレイムッチに散々釘刺されたじゃん? もしこの中に一人でも現実の私が紛れてたら私たちってどうなっちゃうのかな?」

「あー? 勘違いしてない? ドッペルゲンガーの私ってのはさ、幻想郷に来てる時の私っていうのが、ドッペルゲンガーの私なわけだからさ。つまり、現実の私とは言うものの、本当の現実の私っていうのは、実際には外の世界で眠っている私だけが、現実の私なわけでさ」

「あー? だって。レイムッチみたい」

「あー?」

「外の世界、だって。もう、完全に幻想郷に帰属してるよね。でも、私が寝てる世界ってなんていうのかな。現実っていうの? でもそれだと夢と現実の現実と混同しちゃうからね」

「もう、定義づけの話は良いって」

「しないとどうにもならないじゃん」

「私達は今夢の世界に居て、そして私は夢の世界の私なわけだから、ここに居る私以外の私達は私が生んだだけの偽物の私だよ。それだけの話だよ」

「そもそもさあ、この世界は何? 私が夢を見てる時ってさ、夢を通して幻想郷のドッペルゲンガーの私の見る景色を見てるわけじゃん? だったら、私の見る夢って、こういう誰でも見る夢とは違うじゃん。だったらここは何なの? 現実の幻想郷のドッペルゲンガーの私って、今どうしてるの? 幻想郷にいるわけ?」

「だからさあ、何度も言ってるじゃん。さっき名乗ったでしょ、私が現実のドッペルゲンガーの私よ」

「何がだからさあ、よ、偉そうに。それはありえないって話にさっきなったんじゃん。私のくせにばかだなあ」

「なんだとお」

「なによお」

「そもそもっていうならそもそもそもそも、ここが夢の世界って根拠は何よ? 私がいっぱいいるからっていうのはナシよ。だって、現実の幻想郷のドッペルゲンガーの私、今はあの社のおかげで、同じ世界にいっぱい存在しうるんだから」

「もう、ここが現実の世界だっていうなら、なんで私はお菓子が自由に出せるのか説明しなさいよ。わかり切ったことを聞かないでよ」

「なんかさっきから突っかかってくるこの私さあ、描写適当じゃない? 私ってこんなぞんざいな顔だったっけ」

「多分、夢の世界の私が生んだ偽物の私が生んだ偽物の私って感じで、だんだん解像度が低くなってるんじゃない?」

「ええ、私ってそんなSNSで使い古されたガビガビのネタ画像みたいな存在だったの?」

「うるさいなあ、いいからお菓子食べなよ」

「おいしいねえ」

「おいしいねえ」

「ああ、これはよくありません。もう、またですか。いつも結局私が尻ぬぐいをする羽目になる。そして、またお前かと言われるんだから、たまったものじゃありません。本当に、いっそ董子さん一人くらい消してしまえばこんな面倒ごとも起こらないでしょうに。迷惑千万です。いいかげんにして欲しいものです。これが最後。もう一度言いますよ、本当に、これが最後ですからね。約束ですよ」

「「「「「「「「「「ごめんなさあい」」」」」」」」」」

 妹紅さんが、心配そうな顔をしていた。



***



 妙にリアルな夢を見た気がする。目の前には見慣れた天井があった。怒られてしまった。もう、あの社は流石に使えない。でも、あのお菓子は、やっぱり食べたいな。ヘカーティアさんに頼んだら、代わりに買ってきてもらえないかな?

 霊夢さんからゲンコツを貰いたくないので、幻想郷に入ってすぐ博麗神社に来た。今までの傾向的にそうだとは分かっていたけれど、幻想郷の何処に来るかは自分である程度決められた。少し確認して、ここはいままで私が来ていた「この世界の幻想郷」であることを感じて、心底安心した。

 神社にはレイムッチとピースちゃんが居て、レイムッチはあんまり変なことしないようにね、といつもの説教をしてきた。ピースちゃんに、ヘカーティアさんによろしくねと言ったら、きょとんとしていた。そりゃそうか。この世界のピースちゃんは、まだ私がヘカーティアさんと面識があることを知らないんだった。

 いつも通り香霖堂で路銀を稼いで、そのあと妹紅さんとご飯を食べた。うどんだった。妹紅さんは何かと飯を奢ってくれる。

 私はあれからどういう理屈か何らかのリセットを受けたようで、前まで持っていた荷物は全部なくなっていた。つまり結局、お菓子は買えなかったということだ。妹紅さんはきょとんとしていた。さっきもみたな、この表情。ピースちゃんだ、ピースちゃんと同じ顔だ。それから世間話をしていても、妹紅さんは何度か怪訝な顔をしたので、どうかしたのかと聞いてみた。妹紅さんはばつの悪そうな、気まずそうな顔をしたけれど、答えてくれた。

「董子ちゃん、さっきから言ってる、その……「オカシ」っていうのは、何?」

 どういうことだろう。変だな。また何か、正しくないことが起きているのかな。ピースちゃんに繋いでもらってヘカーティアさんに聞いてみたけれど、全然ピンと来てなかった。結局、どのどれが何だったんだろう。ちゃんと知っておくべきかもしれないと思って、あの社の所まで行くだけ行ってみた。

 しかし、いくら探しても社なんてなかった。社どころか、森もなかった。というか、地理的に、初めからここは人里のハズだった。何を勘違いしていたんだろう。考えていたら耳鳴りがしてきた。通りの真ん中で呆けて立っていたので、里の喧騒がだんだんと大きく感じられた。私以外の全てが不確かに感じられて心細かったし、早く眼が覚めて欲しいなと思った。
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.410簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
楽しめて良かったです
6.100サク_ウマ削除
あたまお菓子なるで
8.100ヘンプ削除
なるほど菫子がいっばいなんですね……
9.100名前が無い程度の能力削除
董子がひとり菫子がふたり菫子がさんにん薫子がよにん菫子がごにん菫子がろくにん菫子が……
10.100名前が無い程度の能力削除
chaos
11.100Actadust削除
菫子ちゃんがいっぱいなのはとってもたのしいでした。
12.100めそふ削除
菫子がいっぱいいる…???????
13.100南条削除
面白かったです
よくわかりませんでした
でも面白かったです
董子ちゃんがいっぱいでよかったです
14.100モブ削除
ぐにゃぐにゃとした感覚を覚えました。煙にまかれているのがわかるのに、それがわからない、ちょっとした苛つきのような面白さを感じるのです。ご馳走様でした。
15.100石転削除
つまりどういうことだってばよ
16.100マジカル☆さくやちゃんスター(左)削除
なるほど????
17.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
この手の奇妙な世界の話は面白いですね。話が進むにつれ複雑になっていってこんがらがって、最後の最後に落ち着いたかと思えばオチがついて……という、不思議な話としては王道な構成が良かったです。
有難う御座いました。
19.100名前が無い程度の能力削除
ドレミーが過労死しちゃう…
22.100クソザコナメクジ削除
面白かったです。
23.100名前が無い程度の能力削除
SFとはまた少々毛色が違う気もしますが、独特の世界観が素敵でした。とても奇妙な空気感ですが、意外とすんなり場に馴染んでしまう語り部の菫子がどことなく頼もしい。でも、なんとなく危うげで恐ろしい。不思議で素敵な作品でした。