何百年か前のこと
私はその日メイドを一人つれて森のなかをぶらぶらしていた。
ついてきているメイドは最近雇ったばかりで周囲の案内もかねてつれてきたのだ。
開けている広場に入ったとたん私は違和感に気づいた。
なぜか力が弱まっているようなそんな感じがした。
危機感を覚えた私はメイドを促して屋敷に帰ろうとした。
しかし振り返ってみるとメイドはいなかった。
何となく嫌な予感がした私はすぐさま広場から出ようとしたが結界が張ってあるのか出ることができない。
力も使えないので途方にくれていると木の影から武器を持った人間が数人飛び出してきた。
そのなかにはつれてきたメイドも混じっていた。
私は桁外れの力と能力を持っているが封じられていてはどうしようもない。
私はあっさりと人間たちに捕まった。
抵抗をしなかったのはそうする意味がなかったから。
力を使えない今無闇に抵抗したら襲われ、怪我を受けたり最悪の場合殺されるだろう。
だったらおとなしく捕まりあとから力が使えるところで始末した方が効率がいいと判断しただけ。
人間たちはおとなしく捕らえられている私のことを何だかんだといっていたがよく聞いてなかった。
つれてこられたのはよくわからない場所だった。
私は廃墟というボロボロの家に閉じ込められた。
ご丁寧に足枷までつけてくれたわ。
ほんとありがたいことね。
結局人間たちが私をとらえて何がしたかったのはわからなかったけどなんとなぁく予想はついてたのよね。
予想はあたっていて次の日からさっそく実験体として使われたわ。
まあ苦しかったり辛かったりしたこともあったけど死ねなかったし。
あと拷問って言うのもされたわ。
されながらつくづくと人間って恐ろしいなぁって思ったのよね。
私たちよりよっぽど悪魔じゃない。
そんな日々がどのくらい続いたんだろう。
あんまり覚えてないけど一ヶ月ぐらいじゃないかな?
私は人間たちが寝ている間に逃げ出した。
最初の頃は夜でも監視されてたけどどうやら度重なる実験や拷問で私が衰弱したと思ったのか監視することはなくなった。
鍵は酔っぱらった人間がバカみたいに振り回してたお陰ですぐそこにあった。
とりあえず何とかして枷をはずしたあと私は音をたてないように家を抜け出した。
深夜だからかそとは静かだった。
少し歩くと住宅街に入ったが猫の子一匹いない状況。
それでも追っ手が来ないか用心しながら歩いていたそんなとき声をかけられたの。
「何をしてるんだ?こんな夜中に。」
ビクッとして振り向くとたっていたのは人間だった17、18ぐらいの人間の男。
彼はしばらく不思議そうにこっちを見ていたが私の体についている傷に気づくと目を見開いた。
「おい!それはどうしたんだ?虐待か?」
あまりにも大きな声なので追っ手が来るかもしれないと思った私はとりあえず彼の口を塞ぐ。
「黙って。私は吸血鬼。このまま黙っていれば逃がしてやるわ。」
自分の正体をあかしそっと彼から離れる。
すぐに逃げると思っていた彼は逃げなかった。
逆に心配そうな顔になり
「吸血鬼だって?始めてみたよ。でもそれより手当てしないといけないからな。うちはすぐそこだからついてこいよ歩けるか?」
と言った。
私は目の前の光景が信じられなかった。
当時吸血鬼は狩りの対象でありどの学校でも「吸血鬼は敵」と教えられているはずだった。
それなのに目の前の人間は吸血鬼だと知ったあとでも私のことを気遣っている。
学校にいってないのかともおもったがしっかりとしゃべれているので多分通ってはいただろう。
驚いた私がなにか言おうとしたとき、
「いたぞ!吸血鬼だ!」
というけたたましい声が聞こえさっと振り替えるとあの私を拐った人間たちが追いかけてきていた。
とりあえず逃げようとしたがさすがに拷問漬けだった私にはまだ走る体力など戻ってきていなかった。
あっという間に私は囲まれた。
ついでに彼も囲まれた困惑した顔をしていた。
「おいお前!その吸血鬼から離れろ!今始末してやるからな。」
そう声を張り上げる人間。
彼は戸惑った顔をしてこっちを見る。
いや、こっちを見られても困るんだが....
「やれ!」
という掛け声と共に一斉に銀の槍が投石される。
避ける体力もなかったためとりあえず死を覚悟した。
でもいくら待っても痛みは来なかった。
そっとつぶった目を開けてみるとあの人間たちはいなくなっており目の前には槍が刺さった彼だけが倒れていた。
「....っ!」
とりあえずかけより息をしてることを確認した私はほっとして座り込む。
どうしてこの人間が無事なことに安堵感を覚えたのかはわからないが。
少し今のことを考えてみる。
槍はすべて私に向かっていたはずだ。
少し離れていた彼に当たるとは到底思えない。
ということは彼は私を庇った?
でもどうして私を庇ったのだろう?
「ああ無事だったんだね君。」
不意に声をかけられビクッとする。
倒れていた彼は傷がなくなっており普通に起き上がった。
それもそうだ。私が応急手当をしたから。
「何であなたは私を庇ったの?」
とりあえず聞いてみる。
その質問に彼は困ったように微笑むと
「うーん何でだろうなぁ。」
と呟いた。
「強いて言うなら君を見捨てられなかったから....かな?」
「....」
なぜだろう?体が熱い。
ただ人間に助けられただけなのになぜこんなにドキドキするのかその時の私にはわからなかった。
彼はしばらくうつむいている私を見ていたが少しすると立ち上がった。
「ほら送っていってあげる。だいぶ疲れているみたいだしね。」
手を差し出され反射的に握ってしまった。
そのまま引っ張られ立たされたあと家を教えてといった彼に素直に場所を伝える。
彼はわかったとうなずくと私の手を握ったままあるきだした。
屋敷までの道のりは正直覚えていない。
ずっとドキドキしっぱなしだった。
どうしてかはわからないただ彼と一緒にいるだけでドキドキするし体も熱い。
屋敷の前で手を離されたとき少し名残惜しい感じがした。
彼は気を付けてねとだけいうともと来た道を帰っていった。
それからボーッとしながら屋敷にはいるとすぐにメイドたちが飛んできた。
一ヶ月もどこにいってらしたのですか⁉やら手当てをしなくては!等と言った声が聞こえてきたが私にはなにいってるのかわからなかった。
それから気づくとベッドに寝かされていた。
そっと体を起こすと地下の図書館へ向かう。
彼といたときのあの気持ちがなんなのか知りたかったからだ。
適当に本を漁っていると結構簡単に答えは見つかった。
曰く私の気持ちは『恋心』らしい。
わかってしまえばなんということなかった。
私は思わず苦笑しながら
「命を助けられて恋に落ちるなんて物語の定番のような話ね。」
と呟く。
それから数週間は彼のことばかり考えていたが忙しくなりだんだんと忘れていった。
勿論恋心がなくなったわけではなく暇さえあれば彼のことを考えていた。
それからしばらくして私は屋敷ごと幻想郷に引っ越すことになった。
幻想郷にいってしまえばもう本当に二度と会えない。
そう思った私はそっと屋敷を抜け出し町へ向かった。
人間に扮して暫く歩いていると今でもはっきりと覚えている彼の声が聞こえた。
パッと振り向くとそこには彼がいた。
嬉しくなり声をかけようと思ったが彼は女の人と一緒だったのでかけるのをやめた。
暫く観察するうちにその女性が彼の彼女だということがわかった。
でもそれに気づいたとたん私はとても悲しい気持ちになった。
私は素早く身を翻すと走って屋敷に戻る。
驚くメイドを無視し部屋に閉じ籠る。
なぜか涙が溢れてきた。
これがきっと失恋というやつだろう。
もう少し早く会いに行っておけば結末は違ったかもしれない。
今さら考えても遅いが。
暫く泣くと不思議とさっぱりした。
初恋の相手である彼のことはきっと忘れられないだろうけど彼が幸せなら。
そうと思えるようにまでなった。
それから私は幻想郷に引っ越し、今は楽しくやっている。
時々彼のことが頭をよぎるが最初よりそう気にしないようになった。
こうして私のありがちな初恋は終わりを迎えたのだった。
まさかの彼のマッチポンプ、自作自演だったのじゃないか?