「ねえお姉様、『つき』ってなに?」
「ん..?」
暖炉が燃え盛る暖かい部屋のなか、肘掛け椅子に座り本を読んでいたレミリアに妹が尋ねる。
憑き、月、衝き..いろいろあるがいったいなんのつきだろう?とレミリアが思案しているとフランはいった。
「お空に浮いてるまあるいやつ。」
「ああ....月ね。」
レミリアはなっとくしたように頷くと本を側の机におきフランに向き直る。
大人しくしていたようではあるがくれよんや落書き帳、ぬいぐるみなどが絨毯の上に散乱している。
レミリアはその光景に少し眉を潜めるも質問に答える方が先だと思ったのか追求しなかった。
「月の何が知りたいの?」
レミリアは目の前にちょこんと座る妹に尋ねる。
「あのねーどんな感じなのかなとか!」
目をキラキラさせながら話すフランにレミリアは頬を緩める。
確かにフランを大事にするあまり外に出させたことがなかった。
それはつまり月も見たことないわけで。
天文学の授業で習った内容を話すこともできるが幼いフランには通じないだろう。
さんざん考えたあげくレミリアはフランを抱き上げると寝物語を言い聞かせるように話し出した。
「月って言うのはねお空の上で私たちを優しい光で包み込み、見守ってくれるものよ。」
「優しく守る?」
きょとんとしたかおで首をかしげるフランを抱いたままテラスに出る。
「ほら見てみなさい。あれが月よ。」
「わあ!」
ちょうど今日は満月。
初めて空に浮かぶ大きな月を見たフランは歓声をあげる。
「ねえ?月は優しくて暖かいでしょ?」
優しく尋ねるレミリアにフランは頷いた後こういった。
「それじゃあお姉様はお月様だね❗」
「ん..どうして?」
レミリアが戸惑った声をあげるとフランはとびっきりの笑顔でいった。
「だってお姉様は優しくていつも私を守ってくれるでしょ?」
「....」
レミリアは黙って妹を抱き締める。
フランは暫く気持ち良さそうにしていたがやがて眠りについてしまった。
その安らかで可愛らしい寝顔は正に眠り姫みたいだった。
眠り姫をベッドに戻しながらレミリアは優しい笑みで呟く。
「それならフランもお月様ね。おやすみなさい優しいお月様みたいな眠り姫さん。」
そのあと白い綺麗なベッドには優しい月と優しい月に抱かれて眠っている眠り姫だけが残された。