紅い大きなお屋敷の廊下を一人黙々と歩く。
『紅魔館』と呼ばれているらしいこの屋敷は確かに真っ赤だ。
私が地下から出てきたときにお姉様が言っていた。
『別に好きで真っ赤な訳じゃないのよ。』って。
どうでもよかった。
「地下から出てきたはいいものの退屈だな。」
呟いてみる。どうせ誰もいない。
私は図書館に向かう。
「パチュリー。」
なにかをしているお姉様の親友に話しかける。
「あら。実験中よあっちにいってて。」
パチュリーはいつも冷たい。
「バカ、陰キャ、ねくら、引きこもり、紫」
「...こあ。追い出して。」
「はいはーい!さあ妹様~危ないからあっちに行きましょうねー。」
私はにこにこしているこあこと小悪魔をじっとみる。
「?どうかしました?」
こあはパチュリーの使い魔でとても従順だ。
いい子すぎて本心はいまいちつかめない。
「あっそうだ!お庭の薔薇園が満開になってましたよ?見に行ったらどうですか?」
私はぱちんと手を打ち合わせにこやかに言う小悪魔を無視して図書館を出た。
傘をさして庭に出る。
日傘はめんどくさいけど外は好き。
私は庭までしか出れないから余計に。
「美鈴...」
門番をしているはずの美鈴は眠りこけている。
門番がこんなんだからうちにはアポなしの客が多い。
ほんと役立たずの門番だ。
マジックで顔にいたずらがきをしておいた。
「蝶々?」
お庭をぷらぷらしていると目の前を蝶々が横切った。
「ついていったらお菓子の国についたり...なんてそんなことない...あれ?」
甘い匂いが漂ってきた。
匂いをたどるとそこは台所の勝手口。
そっと覗くと咲夜がいた。
「う~んおいしー。」
つまみ食いのようだ。
その時ドアがきぃっと音をたてた。
「お...お嬢様‼これは気の迷いで...って妹様でしたか。」
お姉様にばれたと思ったのか慌てて弁明する咲夜だが私だとわかるとホッと胸を撫で下ろした。
「...お菓子作ってたんだ。」
キッチンには焼きたてと思われるクッキーがたくさんおかれていた。
「はい。お嬢様に頼まれまして。」
「!」
また、お姉様。
咲夜は優秀なメイドだけどお姉様に甘すぎる気がする。
お姉様だけじゃなくて...
「はいどーぞ。」
「むぐっ」
「つまみ食い、内緒にしててくださいね。」
パチッとウインクする咲夜。
...美味しいからまあいいけど。
また一人廊下を歩きながら考える。
皆『妹様』『妹様』って。
私はお姉様様の妹ってだけじゃない。
私だって名前がある。『フラン』って呼んでほしい。
だいたい『運命を操る能力』とか言ってるけど自称じゃない。
何でも壊せる私の方が強い。
私はモヤモヤしたまま歩いていた。その時
『バササッ...』
羽音がして反射的に窓から空を見上げる。
優雅に青い鳥が飛んでいた。
私にも羽はあるのに。
時々思う。
あの鳥のように空を自由に飛べたらって。でも...
「フランここにいたの。」
「...咲夜がお姉様のためにクッキーやいてたよ。早くいけば?」
ぷいっと顔を背け歩き出す。
「まって。」
瞬間、手首を掴まれる。
「私はフランとお茶会がしたくて咲夜に頼んだの。パチェたちも招待しているのだけど誘われてくれないかしら?」
「!...まあお姉様がどうしてもっていうなら付き合ってあげるけど?」
「まったく...この子は...」
でも、身近にある幸せを幸せだと思えないほど私は愚かじゃない。
お姉様に手を引かれて薔薇が咲き誇るテラスに向かいながら考える。
青い薔薇はそう簡単に手にはいるものじゃないから...
あたたかくていいお話でした
タイトルが素敵です