Coolier - 新生・東方創想話

死神

2021/02/02 04:20:54
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 商売人の朝は早い。スズメの鳴かぬうちに起き、飯を食う。男が納豆をかき混ぜていると息子が起きてくる。息子はいつもと変わらぬ父の朝食をからかってやろうとそう考えた。
「毎朝毎朝。腐った豆がそんなに美味しいの」
 男はひとつ屁をひって、死んだ。
 息子は目を丸くする。「えっ? えっ?」肩をゆすると、父親はそのまま床に倒れこんだ。
「えっ? えっ……?」
 信じられないことである。返事ともない返事が、彼の聞いた父の最後の言葉となったのだ。

「えっ? なになになに? 死んだ? これ死んだの?」
 霊体となった父親も息子同様に目を丸くしていた。狭い部屋にはぎっしりと混沌が満ちていた。
 息子は父親のとんでもねえ死に方に戸惑い、父親は自分のとんでもねえ死に方に戸惑っている。
 
 さて実のところこの空間にはもうひとりの人物がいる。
(やっ、べえ……やっちまったぁ……)
 戸口のさきに立ち滝のように冷や汗をかいている死神、小野塚小町である。まずしく暮らす父子の家に混沌を持ち込んだのはほかでもない彼女だ。
(なぁんでこんなことになっちまったんだろ……今日迎えるのは塩屋の主人だったんだ。それがこれ、猫の蚤取り屋だもんなぁ。塩屋と蚤取り屋じゃ天と地くらいちがう。塩屋は五軒も隣だし……なぁんでこんなことしちまったんだろう……やっちまったなぁ)
 息子は夢をうたがって視線をさまよわせているし、父親も同じようにしていた。
(悪いことしたよなぁ……そうだ、例のろうそく。そうだよ、ひとの寿命を示すあのろうそくだ。あれを入れっかえちまえばいいんだよ。塩屋の短いろうそくの火を消えちまった蚤取り屋に移して……そうと決まれば早いや、とっととやっちまおう)
 小町はそそくさとその場を離れた。

 ずらりとろうそくが並んでいる。ゆらぐ無数の火が暗闇を照らしているが、奥行きといえば果てがない。小町はまず塩屋のろうそくを探し、見つけ次第に手を伸ばした。
「あっ」
 手元が狂った。塩屋のろうそくは隣のろうそくに倒れこみ、隣のろうそくはそれまた隣のろうそくに倒れこむ。ドミノ式にいくつもの命が失われた。
 小町の伸ばした手はいつまでも震えていた。

 遁走を決め込んだ小町だったが、急増した里の死者を不審に思った四季映姫はすぐさま小町に狙いを定めた。
 死神の数名に羽交い絞めで連れてこられた小町に、なにがあったのかと映姫は問いかけた。
 小町は慄然と震えながら口を開いた。

「そのう……実は今日、誕生日でして……」
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コメント



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1.90奇声を発する程度の能力削除
オチが良く面白かったです
2.100名前が無い程度の能力削除
なんだか見覚えがあります
5.100南条削除
とても面白かったです
オチが最高でした
6.90名前が無い程度の能力削除
蝋燭って危ういよ
7.80めそふらん削除
オチが最高でした
9.80名前が無い程度の能力削除
あまりにもあっさり失われる多くの命。こまっちゃん猛省して。
ノリの軽さに笑ってしまいました。