『お姉様ははちみつみたいだね。』
昔私はよくこういった。
お姉様はなんとも言えない表情をしながらこういうのだ。
『それは誉めてるのかしら...』
勿論誉めている。でも伝わらないので私はぷくっとなって、
『当たり前でしょ!お姉様ははちみつのように甘くて優しい!』
と抗議する。お姉様は少し驚いたあと、はちみつのようなとろけるような笑みを浮かべて言うのだ。
『ありがとう。』と。
ふっと目が覚める。
私がいるのは天涯つきベッドのなか。
勿論そばにお姉様はいない。
いつの夢だろう?覚えてないが相当昔だ。きっと。
「あのときのお姉様ははちみつだったんだ...」
悲しくなる。
いつかは忘れたが毎日来てくれていた甘いはちみつのようなお姉様はある時ぷっつり来なくなった。
本当にごく稀に来てくれることがあるがはちみつには程遠い。
今までのように甘やかすことは一切なく、言葉も冷たいものばかり。
まるでレモンだ。
本で読んだことがある。
レモンというのは食べる人によるが酸っぱくて苦いのだそう。
ほら今のお姉様とそっくりだ。
だから私はみたこともないのにレモンが嫌いだった。
でもお姉様が嫌いな訳じゃない。むしろ好き。
だけどやっぱりはちみつのようなお姉様の方がいいのにはかわりないけど。
ぼんやりと考える。
いつのまにか食事が用意されてたが食べるきはしない。
だがカートの上に乗った二つの食べ物が気になった。
デザートなのだろう。
のっていたのははちみつとレモン。
メモがあってレモンにはちみつをかけてたべるように。とかかれていた。
私はさっそくかけて一口食べてみる。
レモンは酸っぱいはずなのにはちみつのお陰で大分甘かった。
思ったより美味しくて食べきってしまった。
私はふと気づく。
お姉様はレモンだからはちみつをかけたらもとに戻るんじゃないかと。
カートの上をみるとはちみつはまだ残っていた。
「フランいる?」
何十年かぶりにお姉様が訪ねてきた。
でも昔のように笑みはない。
仮面のように無表情だった。
私ははちみつが入ったビンをお姉様に投げる。
お姉様はとっさのことで避けられなかったのかはちみつをもろに被った。
これでお姉様は甘くなる。そう思ってたのに。
「何でこんないたずらを?」
静かな怒気を孕んだ声でたずねるお姉様。
想像していたのと違い混乱する。
何ではちみつをかけたのに甘くならないのか。何でレモンのままなのか?
思わず泣きながら抗議する。
「お姉様がレモンだから‼」
その抗議にお姉様は唖然とする。
「なによレモンって...」
呆けたようなお姉様の声につられるようにさらに続ける。
「お姉様は昔はちみつだったのにレモンになっちゃったじゃない!だから‼レモンにはちみつをかけたら戻るかなってそうおもったの‼」
お姉様は意味がわからないというように頭を抱える。
そして思い出したように呟いた。
「そう言えばあなた昔いってたわね。お姉様ははちみつみたいって。意味は甘くて優しいだったかしら?」
私は無言でぷいっと顔を背ける。
お姉様はおかしな顔で私の頭を撫でてきた。昔みたいに。
「ごめんフラン。私忙しくてあなたに冷たくしていたかもしれないわ。これからはもう少し優しくするようにするから。」
予想外の言葉に驚いてお姉様をみる。
お姉様は昔のように笑っていた。
そうだ。これがみたかったんだ。
はちみつみたいに優しくてとろけそうなお姉様のかお。
「ねえフラン。お姉様ははちみつ?」
ある日お姉様が問いかける。
あの日からお姉様はよく来てくれるようになった。
優しくもしてくれるがまだ少しよそよそしい。
だから私は答える。
「お姉様ははちみつれもんみたい。」と。
お姉様は困ったような顔をする。
「なにそれ」って首をかしげる。
はちみつれもんの意味を知ってるのは私だけ。
お姉様がはちみつに戻ったら教えてあげる。
そういうとお姉様はわらっていう。
「じゃあ頑張ってはちみつになるわ」って。
はちみつをかければ態度が軟化するとはずという発想が素晴らしかったです
甘々な話でした
発想が好きでした。
ふわふわ甘くて可愛らしいお話でした。