キラキラと白い息が空へと消えていく。
遠くの方の太陽の欠片がじんわりと私を照らしていた。
溶けるように。撫ぜるように。
その光の手が私の体に触れて、優しく背中を押してくれる。
街の外れ。
土で舗装された道をゆっくり歩いていた。両側の木々は昼間の軽快さをやめて、今は鳴りを潜めている。
歩を進めるたびに、私の青が色を深くして、影が随分と長く濃く後ろに伸びてゆく。
あと20分もすれば、ここは深い闇に包まれるだろう。
街の明かりもここには届かないし、私は周りを照らすような明るい存在でもない。
だから、私は朝より夜が好きだった。
とろりとした夜に同化して、私と私以外が一緒になる感覚に心がむしろ透明になる気持ちがした。
上から夜が流れ落ちて、山の縁へと迫ろうとしている。
そんな昼と夜の境目。
人間と妖怪の境目。
そこに太陽の残滓のような、か細い光の粒が瞬いている。パチパチと瞬きをすると、その度にキラ、キラと光がじゃれ合うみたいだ。
それはまるで私にとってのあの子のよう。
ふと強く光ったかと思うと、優しくとろとろ揺れて、また輝く。ときには、震えるように夜に飲まれそうになったり、雲に隠れて見えなくなったり。
私は目をつぶる。
夜色に染まっていく。
私とそれ以外の境界があいまいになっていく。
かわりに胸のあたりに柔らかい暮色のものがあるのが分かる。
そして、この胸のなかの思いと対峙する。
治りかけの傷のようにじくじく脈打つ。
もどかしくて、苦しくて。
でも、なくしたくはない。
夜の中に飲まれさせたくはない。
昼と夜の境目のように色が溶け合ってもなお、そこにあってほしい、大切な光。
目を開ける。
山の縁を最後の太陽の欠片がそうっとなぞる。
息を吐く。もうキラキラすることはなく、静かに空へと消えていった。
かわりに体の内側に透明な水のような空気が滲みてきて、心臓の音が洗われたようにはっきりと聞こえた。
なぜだが分からないが、私は少し緊張していた。
今更だとも思うが、悪くないとも思っている自分が恥ずかしくもあった。
夜を撫でるように私はゆっくり踏み出す。
遠くにキラキラと光が瞬いていた。
遠くの方の太陽の欠片がじんわりと私を照らしていた。
溶けるように。撫ぜるように。
その光の手が私の体に触れて、優しく背中を押してくれる。
街の外れ。
土で舗装された道をゆっくり歩いていた。両側の木々は昼間の軽快さをやめて、今は鳴りを潜めている。
歩を進めるたびに、私の青が色を深くして、影が随分と長く濃く後ろに伸びてゆく。
あと20分もすれば、ここは深い闇に包まれるだろう。
街の明かりもここには届かないし、私は周りを照らすような明るい存在でもない。
だから、私は朝より夜が好きだった。
とろりとした夜に同化して、私と私以外が一緒になる感覚に心がむしろ透明になる気持ちがした。
上から夜が流れ落ちて、山の縁へと迫ろうとしている。
そんな昼と夜の境目。
人間と妖怪の境目。
そこに太陽の残滓のような、か細い光の粒が瞬いている。パチパチと瞬きをすると、その度にキラ、キラと光がじゃれ合うみたいだ。
それはまるで私にとってのあの子のよう。
ふと強く光ったかと思うと、優しくとろとろ揺れて、また輝く。ときには、震えるように夜に飲まれそうになったり、雲に隠れて見えなくなったり。
私は目をつぶる。
夜色に染まっていく。
私とそれ以外の境界があいまいになっていく。
かわりに胸のあたりに柔らかい暮色のものがあるのが分かる。
そして、この胸のなかの思いと対峙する。
治りかけの傷のようにじくじく脈打つ。
もどかしくて、苦しくて。
でも、なくしたくはない。
夜の中に飲まれさせたくはない。
昼と夜の境目のように色が溶け合ってもなお、そこにあってほしい、大切な光。
目を開ける。
山の縁を最後の太陽の欠片がそうっとなぞる。
息を吐く。もうキラキラすることはなく、静かに空へと消えていった。
かわりに体の内側に透明な水のような空気が滲みてきて、心臓の音が洗われたようにはっきりと聞こえた。
なぜだが分からないが、私は少し緊張していた。
今更だとも思うが、悪くないとも思っている自分が恥ずかしくもあった。
夜を撫でるように私はゆっくり踏み出す。
遠くにキラキラと光が瞬いていた。