「フランはいいこね。」
お姉様はよくそういってくれる。
だから私は自分がいいこだと思ってる。
なぜ地下に入れられたのかはわからないけど、きっとお姉様のことだから私を守ってくれてるんだろう。
「うれしいな」
くるくるくるくる私は部屋の中心で踊る。
手に持っているのはくまさんのぬいぐるみ。
壊れてるけど大丈夫。
きっとお姉様がすぐに新しいのを持ってくるから。
なにかを壊すとお姉様は誉めてくれる。
いいこね、って。
だから私はいいこなの。
『それはほんとかしらね。』
唐突に聞こえる誰かの声。
誰かはわからないけど私は答える。
「勿論‼私はいいこなの。」
『そう。』
興味がなさそうな声。
ふと私は部屋を見渡す。
ふかふかの絨毯に豪華な天涯つきベッド、棚には可愛いお人形や大好きな童話がおいてある。
綺麗な赤い壁紙に火が燃える暖炉。
全部全部お姉様が用意してくれた。
私はぬいぐるみを抱えたまま大きな鏡の前にたつ。
綺麗な装飾が施された鏡はいつからあるのかわからない。
鏡に映るのは綺麗な部屋と可愛くていい子な私。
鏡は真実を写すものだと聞いたことがある。
つまりこの鏡に写っているのは真実。
『ほんとにそう思うの?』
また、聞こえる。
「そう思うもなにも真実が写ってるわ。私はいいこで綺麗な部屋で幸せに暮らしている。そうでしょ?」
私も答える。
『そうかもね。』
聞こえてきた声は鏡の中から。
驚いて鏡を見る。
でも映っているのは私。
他には誰もいない。
そのとき鏡の中の私が嗤った。
ほんの一瞬だったから見間違えたのかもね。
とにかくこれが真実。
お姉様に可愛がられ暖かい綺麗な部屋で幸せに過ごす。
鏡に映るのは間違いなくこの光景だ。
だから、ワタシハトテモイイコデシアワセナノヨ?
階段をおりると表れる固い扉。
開けられるのは私と親友のみ。
キィィ...ときしむ音がして、開いたそこには...
「お姉様‼」
可愛い可愛い私の妹。
壊れたぬいぐるみを見せてくる。
そして妹は言うのだ。
「ねえ私いいこ?」
機嫌を損ねたら私でも命の保証はない。
だから答えは一つ。
「ええフランはいいこね。」
告げると喜ぶ無邪気な妹。
腫れ物を扱う態度とでもいうのか、無邪気だからこそ機嫌を損ねてはいけない。
「ねえお姉様きてきて。」
妹は私を引っ張る。
つれてこられたのは大きな鏡の前。
私はこんな鏡をつけた覚えはない。
とするといったい誰が...?
妹は熱心に鏡を見つめている。
「何が見えるの?」
聞いてみた。
「幸せな私とお姉様と綺麗なお部屋。」
とうとう幻覚が見えはじめた?
幸せな私とお姉様?どこをどう見たらそう見える?
鏡に写る私はどこかひきつったような笑みを浮かべていて、鏡に写る妹は濁った瞳に無表情。
これのどこが幸せなのか。
綺麗なお部屋?
冷たい灰色の石で作られていて、そこらかしこに骨や血が飛び散っていて、あげくのはてに与えた家具や玩具は全て粉々。
これのどこが綺麗なお部屋なのか。
恍惚の表情で鏡を見つめる妹。
この子には何が見えているのだろう?
わからない。私にはわからない。
私の妹のはずなのに年月がたてばたつほどわからなくなる。
「ねえお姉様。」
妹が嗤う。
「鏡に写っているのは真実でしょ?可愛くていいこの私と綺麗なお部屋。」
真実とはなんだろう。
私が見てる鏡に写るのはボロボロの部屋に狂った表情を浮かべる妹。
私が見ている光景と妹が見てる光景。
いったいどちらが真実なのか、私にはきっと一生わからない。
ともあれ、狂っているから閉じ込められたのか、閉じ込められたから狂わざるを得なかったのか、みたいな観点は面白い見方なので好きです。
言いたいことも言えないこんな姉じゃ