Coolier - 新生・東方創想話

吾輩もまた猫である

2021/01/06 14:34:43
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 吾輩は猫である。ただ今散歩中だ。
 地べたから家先を見上げてみると、盛りを過ぎた朝顔が萎びている。吾輩はああはなりたくないものだと、およそ猫らしからぬ思いを巡らす。
 昼時の喧騒は今しがた已み、主役の座は飯屋から甘味屋にあけわたされた。吾輩の目を彩る意味でも、甘味屋には頑張ってほしい所である。おや、そんな事をおもっていると、往道の向こうから誰やらが来るではないか。どれ、店先の椅子で待っていてやろうではないか、と思った矢先、
「こら、お客の邪魔でしょうが!」
 と娘さんに言いつけられ、情けなくも追いやられてしまった。折角吾輩が客を招いてやろうというのに、あの娘さんはきっと店を継げないに違いない。
 さて路地から眺めていると、どうやら来たのは貸本屋の娘と稗田のお嬢さんであるようだった。吾輩が先程まで座っていたそこに腰掛けている。これは好都合である。
「あっ、ほら阿求、猫がいるわよ」
 目聡く吾輩を見つけたのは貸本屋の娘である。こやつはお嬢さんと呼ぶには元気があり余っておる、どこそこの娘という言い方がもっとも似合っておるだろう。対して、
「そうね」
 とだけ答えた方はお嬢さんと呼ぶにふさわしい女人である。少々大人びたきらいがあるが、おおむね聡く冷静沈着である。ちょうど吾輩の姿をみた今もこのように落ち着き払っている。
「おーよしよし、こっちゃ来―い」
 手招きして、掌をかざす娘。娘は猫の扱いに慣れている。こうして掌をつき出すと、猫が頭を擦りつけに来るのを知っている。吾輩も例にもれない。
「阿求もやればいいのに。多分あんたにもしてくれるよ」
「これから団子を食べるのに、そんな事するわけないじゃない」
 道理である。しかし、お嬢さんの目が輝きながら吾輩を捉えているのを、吾輩は知っている。撫でたい者に撫でさせぬほど、吾輩は狭量な猫ではない。
「ひゃあ」
 失礼ながら、そのおみ足に頭を擦りつける。今度は娘のほうがお嬢さんを羨ましそうに見ているが、猫は気まぐれだからこういう事をするのを理解して頂きたい。
「あぁもう、よしよし」
 口調こそ仕方なくやっている風だが、心情が撫で方から漏れ出ている。
 こういう時、吾輩に人の言葉があればいいのだが、吾輩もまた数多くいる猫の中の一猫なのである。だから、恥も外聞もなくこう言うのである。
 にゃおん。
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コメント



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1.90名前が無い程度の能力削除
猫から見たあきゅすずが等身大の日常って感じで良かったです
2.90奇声を発する程度の能力削除
楽しめて良かったです
3.100ヘンプ削除
猫視点というのが新鮮でした。
あきゅすずもかわいかったです。
4.90Actadust削除
猫から見た幻想郷という、珍しい視点で楽しめました。続きが気になる作品でした。
5.100南条削除
面白かったです
猫から見た小鈴たちの日常がとても素敵でした
7.100七草粥削除
普通の猫の目線、あまりない変わった小説で幻想郷でもこういった普通の事が起きているのだろうと思えて面白かったです。
8.90大豆まめ削除
いいですね。猫目線で幻想郷のありふれた日常を描く、というコンセプトはおもしろいと思います。
それこそ元ネタの小説のように、もっと長々とだらだらと見ていたい気がします。