吾輩は猫である。ただ今散歩中だ。
地べたから家先を見上げてみると、盛りを過ぎた朝顔が萎びている。吾輩はああはなりたくないものだと、およそ猫らしからぬ思いを巡らす。
昼時の喧騒は今しがた已み、主役の座は飯屋から甘味屋にあけわたされた。吾輩の目を彩る意味でも、甘味屋には頑張ってほしい所である。おや、そんな事をおもっていると、往道の向こうから誰やらが来るではないか。どれ、店先の椅子で待っていてやろうではないか、と思った矢先、
「こら、お客の邪魔でしょうが!」
と娘さんに言いつけられ、情けなくも追いやられてしまった。折角吾輩が客を招いてやろうというのに、あの娘さんはきっと店を継げないに違いない。
さて路地から眺めていると、どうやら来たのは貸本屋の娘と稗田のお嬢さんであるようだった。吾輩が先程まで座っていたそこに腰掛けている。これは好都合である。
「あっ、ほら阿求、猫がいるわよ」
目聡く吾輩を見つけたのは貸本屋の娘である。こやつはお嬢さんと呼ぶには元気があり余っておる、どこそこの娘という言い方がもっとも似合っておるだろう。対して、
「そうね」
とだけ答えた方はお嬢さんと呼ぶにふさわしい女人である。少々大人びたきらいがあるが、おおむね聡く冷静沈着である。ちょうど吾輩の姿をみた今もこのように落ち着き払っている。
「おーよしよし、こっちゃ来―い」
手招きして、掌をかざす娘。娘は猫の扱いに慣れている。こうして掌をつき出すと、猫が頭を擦りつけに来るのを知っている。吾輩も例にもれない。
「阿求もやればいいのに。多分あんたにもしてくれるよ」
「これから団子を食べるのに、そんな事するわけないじゃない」
道理である。しかし、お嬢さんの目が輝きながら吾輩を捉えているのを、吾輩は知っている。撫でたい者に撫でさせぬほど、吾輩は狭量な猫ではない。
「ひゃあ」
失礼ながら、そのおみ足に頭を擦りつける。今度は娘のほうがお嬢さんを羨ましそうに見ているが、猫は気まぐれだからこういう事をするのを理解して頂きたい。
「あぁもう、よしよし」
口調こそ仕方なくやっている風だが、心情が撫で方から漏れ出ている。
こういう時、吾輩に人の言葉があればいいのだが、吾輩もまた数多くいる猫の中の一猫なのである。だから、恥も外聞もなくこう言うのである。
にゃおん。
地べたから家先を見上げてみると、盛りを過ぎた朝顔が萎びている。吾輩はああはなりたくないものだと、およそ猫らしからぬ思いを巡らす。
昼時の喧騒は今しがた已み、主役の座は飯屋から甘味屋にあけわたされた。吾輩の目を彩る意味でも、甘味屋には頑張ってほしい所である。おや、そんな事をおもっていると、往道の向こうから誰やらが来るではないか。どれ、店先の椅子で待っていてやろうではないか、と思った矢先、
「こら、お客の邪魔でしょうが!」
と娘さんに言いつけられ、情けなくも追いやられてしまった。折角吾輩が客を招いてやろうというのに、あの娘さんはきっと店を継げないに違いない。
さて路地から眺めていると、どうやら来たのは貸本屋の娘と稗田のお嬢さんであるようだった。吾輩が先程まで座っていたそこに腰掛けている。これは好都合である。
「あっ、ほら阿求、猫がいるわよ」
目聡く吾輩を見つけたのは貸本屋の娘である。こやつはお嬢さんと呼ぶには元気があり余っておる、どこそこの娘という言い方がもっとも似合っておるだろう。対して、
「そうね」
とだけ答えた方はお嬢さんと呼ぶにふさわしい女人である。少々大人びたきらいがあるが、おおむね聡く冷静沈着である。ちょうど吾輩の姿をみた今もこのように落ち着き払っている。
「おーよしよし、こっちゃ来―い」
手招きして、掌をかざす娘。娘は猫の扱いに慣れている。こうして掌をつき出すと、猫が頭を擦りつけに来るのを知っている。吾輩も例にもれない。
「阿求もやればいいのに。多分あんたにもしてくれるよ」
「これから団子を食べるのに、そんな事するわけないじゃない」
道理である。しかし、お嬢さんの目が輝きながら吾輩を捉えているのを、吾輩は知っている。撫でたい者に撫でさせぬほど、吾輩は狭量な猫ではない。
「ひゃあ」
失礼ながら、そのおみ足に頭を擦りつける。今度は娘のほうがお嬢さんを羨ましそうに見ているが、猫は気まぐれだからこういう事をするのを理解して頂きたい。
「あぁもう、よしよし」
口調こそ仕方なくやっている風だが、心情が撫で方から漏れ出ている。
こういう時、吾輩に人の言葉があればいいのだが、吾輩もまた数多くいる猫の中の一猫なのである。だから、恥も外聞もなくこう言うのである。
にゃおん。
あきゅすずもかわいかったです。
猫から見た小鈴たちの日常がとても素敵でした
それこそ元ネタの小説のように、もっと長々とだらだらと見ていたい気がします。