5時の鐘が鳴る。夜が近づいていた。それは秘封倶楽部の活動の時間もまたそうだ。烏の鳴き声を聞きながら、端末にメッセージを打ち込む。
その内容も、よく使っている喫茶店で会おうというもの。
でも最近は、こんな単純なメッセージを送るのさえ、緊張してしまう。
別にデートの誘いをしている訳でもないから、緊張する必要なんて本当の本当に皆無だけれど。
それでも心は言うことを聞いてくれなさそうだった。
「前までの自分はなんでメリーと普通に会話できたんでしょうね……」
ついでに言えばなぜメリーの手を引いたり、瞼にふれることまでできたのかもよくわからない。
あの頃はこの感情を自覚する前で、秘封倶楽部の活動という名目があったから。
そんなことをわかっていたって、心の状態が過去と現在じゃ完全に断絶しているかのように違う。
全く違うのだから、参考にする余地なんて無いんだ。
喫茶店への道すがら、私は結局相方についてずっと考えていた。
マエリベリー・ハーン。
学部は違うけれど同じ大学の大学生だ。相対性精神学を専攻していて、明らかに聡明。頭の回転も早いし、知識だって豊富だ。
日本人の私だって知らないような単語を会話に引っ張り出してきた時はさすがにやりすぎだと思ったけれど。
おまけにとびきり綺麗だ。
そして、気味悪くも美しい眼の持ち主。
人とは違った眼をお互いに持ってることを知ることによって私たちは仲良くなったのだった。
秘密の共有は心理的な距離を縮める。親友であると言っても問題ないし、親友以上と言っても過言ではないと思う。
でも、これ以上、この距離を近づけるって……?
蓮子を喫茶店で待つ時間。正直これは結構長い。
それなりの頻度で遅刻するし。
それでも、なんだかんだ許してしまうのは惚れた弱みってやつかな、なんて。
柄にもないことを考えてしまう。
目を閉じなくてもあの猫のような笑顔が見えるようで。
そしてそれを想像するだけで口角が上がってしまう自分が、ちょっぴり憎たらしかった。
「蓮子のバカ」
早く来ないと……、そう言いかけたときだった。
「早く来ないとなんだって? メリー」
「げっ」
「げっとは何よ、人を現われるはずのないタイミングで現れた幽霊みたいに言って」
「いつもなら生き霊とか残留思念で確定しているところよ?」
「待ち時間の間に食べたケーキとか奢ってるんだから勘弁して」
「許すわ」
自分の行動によって、財布が軽く、だけど無視できないほどには圧迫されてるらしい蓮子が、本気で弱った声を出したのでさすがに許すことにした。
でもその上目遣い、わざとやってるんじゃないでしょうね……。
秘封倶楽部の活動というものを構成するもので、一番時間として多いのはこうした二人での雑談だったりする。
だからこそ、私はこの時間を大切に思っている。
もちろん、ちょっとした危険がスパイスになっている冒険や、自分たちだけでは探しきれない不思議を探すためのアングラな酒場での情報収集だって楽しい。
それでも、この大切な時間の価値がかすむなんて、そんなことは無い。
ドキドキしてる蓮子がよかったです
くそッ じれってーな
良き蓮メリでした。