Coolier - 新生・東方創想話

お揃いの足並み

2020/12/30 03:00:36
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 一

 驪駒早鬼はむずむすしていた。
 敵対組織の親玉に呼び出されたら、誰だってむずむずするだろう。
 畜生界は霊長園の奥の奥のイドラデウスの総本山の、そのまた奥の応接間で、ソファにどっかりと座り込み、早鬼は腕を組んだり、脚を組んだり、帽子を被り直したりしていた。
「(袿姫め……この私に緊急の用とは、いったいなんなんだ……)」
 わからない……罠にしては、単純すぎる……。
 密書を部下のオオカミ霊から受け取り、驚愕と、苛立ちと焦りを胸にして、しかしそれらをいっさい臆面に出さぬように注意しながら、早鬼がこの畜生界らしからぬ色彩に満ち溢れた霊長園にやってきた際、当の袿姫はどこにもおらず、せっせせっせと動き回る埴輪たちの数体が早鬼を出迎えて、この応接間に招き、そのあとは一人っきりにされて、もうたっぷり時間が経っていた。
 早鬼は物事を急ぐ癖があるので、たっぷり経っているように感じただけかもしれなかった。
 ……暇だ……。
 ……退屈だ……。
 ……いつまで待たせるつもりだ……。
 早鬼の浅いキャパシティが苛立ちによって満たされあわよくば破壊衝動になろうという頃に、応接間の扉は開かれた。
 完璧な姿勢で早鬼は立ち上がった。
「袿姫!」
 袿姫の姿を視認するよりも早く、よく通る声で言う。
 しかしそういった早鬼の一本芯の通った態度は動揺によって崩れることとなった。

「こんばんは。早鬼」

 早鬼の前に姿を現した袿姫は、磨弓が押す車椅子に座っていて、スカートの下から覗くはずの脚が、完全になかった。
 みずからの脚がすくような気持ちになって早鬼は背筋を震わせた。
「埴安神袿姫」
 静かに早鬼はそう言った。袿姫はにっこりと笑った。
「よく来てくれたね。磨弓、お茶を」
「はっ。袿姫様」
 車椅子を早鬼と向かい合うように停めると、磨弓は応接間の奥の戸棚の方へと歩いて行った。
 その間ずっと早鬼は袿姫に釘付けになっていた。袿姫はやはりにっこりと笑っている。
「座ったら?」
「……おお」
 促されるまま早鬼はソファに座り直した。なんだか、先程よりも座り心地が悪く感じる。
「今日はね、あなたにお願いがあって来てもらったの」
「それって、その下半身に関係してることか?」
「話が早い!」
 遠慮もなしに聞いてくる早鬼に、手を合わせて嬉しそうに袿姫は言った。
「あなたは短的なやり取りを好むみたいだから、単刀直入に言うわね。私の脚のモデルになってほしいの」
「ほう?」早鬼は顎に手を当てた。「どういうことだ?」
「新しい脚を造りたいから、あなたの脚の造形を参考にしたいの。どうせなら、美しく丈夫な脚がいいじゃない? この畜生界であなた以上に美しく丈夫な脚を持った者はいないわ」
 袿姫の話の全容がなんとなく掴めてきて早鬼は安心し始めてきた。
「褒められて悪い気はしないけどね。モデルって、具体的に私に何をしろって言うんだ」
「靴を脱いで台の上に立って、じっとしているだけでいいわ」
「粗茶ですが……」
 磨弓が早鬼と袿姫の前にティーカップをひとつずつ置いた。内側に花の模様がワンポイントであしらわれた可愛らしいティーカップだ。赤赤とした紅茶がたぷんと揺れた。袿姫が磨弓に「ありがとね」と言ってティーカップに優雅に口をつけた。
 早鬼は、応接間の調度品や窓から覗く霊長園の美しい景色を含めたすべての光景に対して“しゃらくさい”と感じた。
 次に、“しゃらくさい”と感じる自分の感性を咎めた。
 磨弓に軽く「どうも」と言うと、早鬼は紅茶を啜った。
 熱い。
「もちろん、報酬ははずむわ」袿姫は胸元からメモ帳とペンを取り出すと、さらさらと書いて、ページを破って早鬼に差し出した。「これくらいでどう?」
 早鬼は差し出された紙切れを端から端まで眺めると、袿姫に返した。
「この倍は欲しいね」
「では、受けてくれるのね!」
「ああ」
「やった!」
 額なんてどうでもいいとばかりに喜色満面を浮かべると、袿姫は後ろで控えている磨弓に目配せをした。磨弓が袿姫の車椅子を引く。
「じゃあ、工房に案内するわ。ついてきて、早鬼」



 二

 暗い部屋だった。
 スポットライトが一台の机に当たっている。
 早鬼は机の上に立たされていた。靴と、靴下と、スカートを取り払って、白いドロワーズから下は何も身に纏っていない、素足の状態でスポットライトの光を浴びていた。
 袿姫が、「尻尾と髪が邪魔ね」と言うので、リボンでお団子状にまとめ上げられた。むず痒く窮屈に感じたが、早鬼は我慢してやった。
 磨弓はいなかった。セッティングが済むと、「集中したいから」と袿姫の命で部屋の外に出された。部屋の扉の後ろで待機しているらしいが、早鬼の眼から知れたことではない。
 机の上に完璧な姿勢で立つ早鬼。
 早鬼の身長の半分ほどの高さの石膏。
 車椅子に座り、鉛筆を構える袿姫。
 そのみっつを、静寂が取り囲んでいた。
 そして、静寂を打ち破る鉛筆の音。
 袿姫が、早鬼の下半身を注視しながら、石膏に線を引き始めた。
 早鬼は我慢がならなくなってきた。
「なあ……」
「なに?」
「色々、聞いてもいいか?」
「ええ、勿論」
「いいの?」面食らったように早鬼が言った。「集中したいんじゃないの?」
「あなたとお話するくらいなら構わないわ。それに、黙るよりかは喋っているほうがあなたはじっとしていられるでしょ」
「違いない」
 早鬼は、ニヒルな笑みを浮かべた。今日はじめての笑みだった。袿姫は脚と石膏を見るのに集中していて見ることはできなかったが。
「じゃあ、聞くけど……」頭の中で疑問点を箇条書きに整理しながら早鬼は言った。「ひとつ。まず、どうして脚がないの?」
「事故よ」
 にべもなく袿姫が言った。かつかつと鉛筆を走らせながら、次のように続けた。
「人間霊のための娯楽施設を作ろうって言って、そういう計画を進めていたの。私も現場で埴輪たちの指揮をとっていたわ。でも……私としたことが、メンテナンスを怠ったのね。埴輪の一体が資材の山を崩してしまって……私はその子をかばったわ。そして、こうなった……」
「なるほど」
 早鬼は感心をした。袿姫の部下への慈しみに共感と敬意を覚えた。
「その子を砕いて作り直した時──」
 早鬼は感心を取り消した。あまりに袿姫がなんでもないようにそんなことを口にしたので後半何を言っていたのかよく耳に入ってこなかった。
「──と思ったの。私もまだまだってことね」
「ああ、そう、そうね……」
「ほかには?」
「ああ……」
 袿姫の袿姫たる所以に呆れつつも早鬼は質問を続けた。
「じゃあ、ひとつ。その石を私の脚にかたどるのか?」
「そうよ」
「そしたら、あなたの脚が治るのか?」
「そうよ」
「……なんで?」
「私は、私の体を自分で造っているのよ。90度左を向いてくれる?」
「わかった」
 ひた、ひた、足の裏が机を踏みしめる。早鬼が左を向くのに合わせて、袿姫は石膏を回転させた。
「私は私の造形術によって肉体を獲得しているの」
「霊体のままでは駄目なの?」
「唯物性を愛しているから」鉛筆を走らせながら袿姫は言った。「壊れたら造り直さなければいけないのは手間ではあるけど。楽しみでもあるのよ」
「ふうん。聞いてもよくわからないな」
「お気に召さなかった?」
「いや。あなたの中に答えがあるなら、それでいいだろう」
「まっすぐね、早鬼」
「ふふ……」
 気安いやり取りに気が緩んで早鬼は笑った。こんどは、声に出ていたので袿姫にも伝わった。
「早鬼は」
「うん?」
「どうして、モデルを引き受けてくれたのかしら。断られると思っていたけど」
「ふむ……」
「あなたからしたら、敵に塩を送るようなものでしょ?」
「塩を送れば、恩を売ることにもなるでしょう」
「ま。賢しいの」
「そういう時もあるさ」
「あは。そのようね」
 本当は、たとえ他人であっても、脚がついていないよりはついている方が安心するという早鬼の心情的な理由もあったが、そのことは早鬼は口には出さなかった。
「そうとも」



 三

 鉛筆によるあたり付けを終えると、とうとう石膏を彫り出す工程が始まった。
 袿姫の真剣な表情が、更に凄味を増して集中度合いを伺わせる。
 その表情に早鬼は言葉を出すのを躊躇い、もっと言うと、言葉を出すのを失った。
 金鋸、木槌、ハンマー、のみ、金やすりに、彫刻刀。
 かわるがわるそれらの道具を手にとって、石膏を削り、溢れ出す石くずを浴びながら、ものともせずに彫刻を続ける……。
 その姿が、まるでサーカスのように華麗に、そしてどこか淫靡なショーのように早鬼の眼に映り、すっかり見入ってしまったのだ。
 淫靡なショーのようになっているのは、下半身を顕にして机の上でスポットライトを浴び微動だにせぬことを要求される早鬼の方だというのに……。
「早鬼、後ろを向いて」
 ショーから目を離さなければいけないその一瞬が、早鬼にはとても口惜しかった。



 四

 何刻経ったかわからない。半日は過ぎていたかもしれない。
 熱中していた。
 袿姫が。
 早鬼が。
 はじめは無骨な四角柱だった石膏が、徐々に早鬼のしなやかな脚の形に近付いていく。
 ドキドキしていた。
 袿姫が。
 早鬼が。
 ほぼほぼ完成に近づいていた。一本の石柱が二本の脚になっていた。
 だが、トラブルというのはそういう時に限って訪れるものだ。
「袿姫様!」
 ダン! 扉が開け放たれる。暗い部屋に廊下の風情のない光が射し込む。早鬼も袿姫も振り向いた。
 磨弓が険しい表情で立っていた。そして怒鳴った。
「カチコミです!」
「こんな時に!?」
 額の汗を拭って袿姫が声を上げた。
 机から降り、早鬼は工房の重く長いカーテンを開け放った。
 下の下の階層に、カワウソ霊とオオワシ霊が群がっている。
「あいつら……!」早鬼は歯噛みした。「吉弔に饕餮! 手を組みやがったな!」
「袿姫様が怪我を負われているのと、早鬼様が単身で霊長園にいらしたのを何者かがリークしたようです」
「早鬼! お忍びでって書いたじゃない!」
「私は誰にも喋ってないぞ!?」
 畜生界は広いようで狭いのである。いつ誰がどこで誰かの動きを見張っているかわかったものではない。
「仕方ない!」
 早鬼は脚の無い袿姫の身体を抱きかかえた。
 お姫様抱っこ。
「えっ!?」
「早鬼様! 袿姫様になにを!」
「袿姫! 脚を!」
「!」
 はっとして、袿姫は未完成の石の脚を抱きかかえた。
 早鬼は窓を開け放った。
「このまま脚をここに置きっぱなしにしては危険だ。磨弓ちゃん、霊長園を守れるな?」
「は?」
「わかったわ、早鬼!」
 袿姫は磨弓に命じた。
「磨弓、皆で霊長園を守って! 私は早鬼とともに一時的にどこかへ避難するわ。戻ってくるまで持ち堪えて!」
「はっ! 袿姫様!」
「うちの組からも援護を出す!」
「不要だ! 我々だけで霊長園は守れる!」
「そう言うな! 塩は送らせてもらう!」
 ばっ、と、早鬼の漆黒の翼が広がる。髪と尻尾のリボンがほどける。
「ではな!」
「頼んだわ!」
 お姫様を抱いて、天馬が空へと駆け出した。
 あっという間のスピードで磨弓の視界から二人は消えてしまった。
「袿姫様……」
 磨弓は呟いた。
「頼んだら、私にもあんな翼を授けてくださるかな……かっこいい翼……」
 二度目のモデル召喚フラグが建った瞬間だった。



 五

 ビル群の光を眼下にして、早鬼と袿姫は空を駆ける! 駆ける! 駆ける! 夜風が気持いい。
「さすがは、ペガサス! すごいスピードだわ!」
「振り落とされるなよ! あと、脚を落とすなよ!」
 どうして帽子が飛んでいかないのか袿姫には少し不思議だったが、そんなことを言っている場合ではない。袿姫は脚を抱きしめた。
「行く宛はあるの?」
「一人で考え事をする時によく行く廃墟があるんだ。そこへ行こう」
 道中でオオカミ霊に伝令をしつつ、早鬼と袿姫はぐんぐんと霊長園から遠ざかり、気づけばメトロポリスの端の端までやってきていた。
 中心部のような明かりはどこにもなく、なにものの気配もなく、なんの匂いもしない、ゴーストタウンと呼ぶに相応しい場末も場末だった。
「こんなところがあったのね」
 ばさばさと翼をはためかせ、二人はビルの屋上に降り立った。
 誰かに見つかる前に、急いで中に入る。
 一室のドアを蹴破って入ると、汚れたパイプ椅子に袿姫を座らせて、早鬼は霊力で灯りをともした。
 木の箱があったので、早鬼はそれを部屋の中央に置いて、その上に立った。
「さあ、続きをしよう」
「早鬼、こんなことに付き合って……」
「いいんだ。袿姫。私はその脚が完成するところを見たい。今はもうそれしか考えられないんだ」
 半ば興奮したように早鬼が言った。なぜ早鬼が興奮しているのか、興奮しているのは私だけの筈ではないのか、と袿姫は思ったが、早鬼が乗り気ならそれ以上都合のいいことはない。下手に刺激するのを止して、袿姫はやすりをポケットから取り出した。
 袿姫の霊力で脚を浮かせる。
 早鬼の霊力で脚がエロティカルに照らされる。
 なぜこのような興奮を催しているのか、生唾を呑みながら、いま、まったく冷静でいないということが、早鬼自身よくわかっていたので、不気味だった。
 石の脚の形が、袿姫の手によって整えられていく。
 早鬼の脚によく似た形に。
 早鬼の形に。
 削り落とされる白い石くずが、石膏の魂を削り出して、早鬼の形に変えられていくようでたまらない。
 脂汗を浮かせるほどに真剣な袿姫の表情も早鬼の興奮を煽った。
 ドッ、ドッ、と心臓が高鳴っている。
「(?????)」
 早鬼は混乱していた。
「(なんで? どうして? 私、いったい何に興奮しているというの? この状況はなに? 袿姫が石で脚を彫刻するからって、だからってなんだというの? 私、おかしい……どうしてしまったの……)」
 高まる興奮と混乱の中にありながらも、早鬼はまったく姿勢を崩さない。彼女の芯の強さだった。
 そんな早鬼の心中をよそに、袿姫は工程を進めていく。最後に取り出したのは紙やすりだった。
 石の脚を、やさしく撫でるように、表面のザラつきを削ぎ落としていく。時折彫刻刀で細かな調整を加え、早鬼のしなやかな筋肉と骨格の再現性を高めていく。
 そして、早鬼を細かく色んな方向に向かせたりして一時間ほど経った頃、ふう、と溜め息をついて袿姫が言った。
「終わったわ。楽にしていいわよ」
 早鬼は、しゅた、と格好良く木箱から降りると、完成した石の脚と自分の脚を見比べた。
 ……完璧だ……。
 早鬼は言った。
「物凄い。私の脚を完璧に模倣している。これをどうするんだ?」
 袿姫は微笑んだ。
「こうするの……」
 石の脚を、スカートの中に接続する。
「んっ……!」
 袿姫の顔が緊張に赤らむ。早鬼は自らの鼓動の高鳴りに恐怖した。そして石の脚が、生命を得る。太ももからつまさきまで肉の色に色付いて、袿姫の色に染まる!
 そしてその形は、筋肉、骨格、そのすべてが、早鬼の脚と同質だった。
 早鬼は激しい汗を全身に浮かべた。
 早鬼は胸をぎゅっと掴んだ。
 早鬼はその場に跪いた。
 袿姫にひれ伏した。
 袿姫の脚に……早鬼の脚に……。
「ああ……」
 袿姫は呻いた。
「ああ……馴染んできたわ。これが新しい私の脚……なんて心地がいいのかしら」
「け。袿姫。袿姫」
 袿姫は早鬼を見やった。吐息を荒くして肩を震わせている。明らか様子がおかしい。
「早鬼……?」
 立ちっぱなしで具合でも悪くしたのかしら、と気を遣って言う前に、すべての想いを早鬼が吐露した。

「袿姫。好きだ。脚を舐めさせてくれ」

 早鬼の顔は赤らみ、瞳は潤んでいた。

 ・袿姫
 ・好き
 ・脚を舐めさせてくれ

 袿姫の中ではそれらは箇条書きであって、どこも接続されておらず、謎だった。
「なに……?」
「袿姫……」
 早鬼の手が袿姫の脚を持ち上げる。いけない。本当に舐められる。ただ、抵抗できない、脚が動かない。“私のご主人様はこの方だ”と袿姫の脚が言っているようだった。
 袿姫の脚が……早鬼の脚が。
 早鬼の舌が、産まれたばかりの袿姫の脚に触れる。親指と人差し指の間を舐めて、そのまま足の甲へ、足首へ、ふくらはぎへと移動しようとする。
「ちょ……ちょっと。早鬼っ」
 子供を咎めるように袿姫が言うが、早鬼は舐めるのをやめようとしない。それどころか、舌なめずりをして、ますます胡乱なことを言い出す。
「大好きな私の脚が、あなたの脚になった。私の一部が、あなたの一部になった。だから……だからか? ふふ……あなたを大好きになった」
「な、なにがどう“だから”なのよ~っ」
「私、ときめいているわ。過去全ての記憶の中で一番ときめいてる。自分の情緒の全てを理解したわ。袿姫。あなたは私のものだし、私はあなたのものだよ。この脚がなによりそれを語っている」
「そんな欠陥品壊して作り直すだけよ!」
「馬鹿め。そんなことできるわけがない。この畜生界で私以上に優れた脚の持ち主はいない。いったい誰をモデルにするというんだ? なんのために私を呼び出した? 磨弓ちゃんたちが霊長園で戦ってるのはなんのためだと思ってる?」
「私の良心に訴えかけようったって……」
「この脚のためでしょうが!」
 早鬼は袿姫の言葉をほとんど無視して、脚に頬ずりしながらまくし立てた。
「この私の脚の模倣……いや! 模倣ではないわ。私の脚そのもの! それを、袿姫、あなたのものにしたいがために、吉弔饕餮を呼び寄せて、結果的に磨弓ちゃんたちが戦うハメになったんだろうがよ!」
「だからって早鬼……」
「でもそんなことどうだっていいんだよな!?」
 早鬼のどんどん大きくなる声と勢いに次第に袿姫はあらゆる気力が萎えていくようだった。
「だって、私の脚は──」
 早鬼は袿姫のポケットからハンマーを奪い取って、素早く太ももに打ち付けた。
 ゴッという鈍い音と痛みが袿姫の脳を痺れさせる。結局作り直すんじゃない、と思って袿姫は打ち付けられた箇所を見やった。
「──この程度で壊れたりはしないのだから!」
 早鬼の突然の武器を伴った暴力に晒されたはずの袿姫の太ももは、傷一つついていなかった。
「美しく丈夫な脚!」
 蕩けた笑みを見せながら太ももに顔を埋める早鬼を見て、袿姫は思った。
「(まあ、いいか……)」
 他者から強烈に愛されることが、たとえそれが突拍子もなく、論理がずたずただったとしても、袿姫にとって悪い気はしなかった。
 袿姫は神だ。
 早鬼が、袿姫の造った脚を愛すというのであれば、それは袿姫の御業を認めているということであり、すなわち信仰であろう。
 美しく丈夫な脚を手に入れるという目的は予定通り果たされたわけだし……。
「(早鬼を手懐ければ、畜生界で有利に立ち回れるかもしれないし……ね)」
 いったん、早鬼に対して感じた嫌悪感を払拭して、袿姫は慈しみをもって早鬼に接することにした。
 袿姫が帽子の下に手を入れて早鬼の頭を撫でると、早鬼は嬉しそうに尻尾をパタパタとさせた。
 愛らしいといえば愛らしい。
 早鬼が、膝や、内ももや、袿姫の脚のすべてを愛撫するのを、袿姫は好きにさせてやった。
 そうして受け入れられることで、早鬼のときめきは更に更に増していった。
「付き合おう、袿姫。毎日脚を舐めさせてくれ」
 ほとんど最低のその口説き文句にも袿姫は、
「しかたがないねぇ。いいよ、早鬼」
 とにっこり笑って答えることができた。
 その後、カチコミ騒ぎも吉弔と饕餮の仲違いという形で収束し、情勢も落ち着いてきた頃、二人が付き合い始めたという噂は畜生界において公然の秘密となったが、その経緯を知る者は誰一人としていなかった。
 知っていたとしても、説明できるものではないだろう。



【了】
推敲してないので誤字脱字いっぱいありそう。
袿姫様をお姫様抱っこする早鬼さんはたいへん画になると思います。この話だとドロワ一丁ですが。
疾楓迅蕾
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コメント



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1.90奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
3.100サク_ウマ削除
どんどん下がっていくくろこまのIQがツボでした。良かったです。
5.100南条削除
面白かったです
潔いほどに性癖丸出しでよかったです
6.100名前が無い程度の能力削除
なんて清々しい変態なんだ……
7.100夏後冬前削除
この塩梅がちょうどよくて好き。脚フェチへの入り口。しかも自分の脚。パワーがあって好きです。
8.100めそふらん削除
足を舐めさせてくれ??最高にやばいね。
わかるよ組長、足好きだもの。