Coolier - 新生・東方創想話

キョンシー・オブ・ザ・デッド

2020/12/22 16:33:35
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「うわあああああ!! 驚けえぇぇ!!」

 東風谷早苗は激怒した。多々良小傘が道行く早苗に突きを繰り出したのだ。閉じた傘の鋭利さと、ばったりと見舞われる唐突な打突は、困窮の果て衣服を脱ぎ捨てる地下芸人さながらである。ひとはかなしい。
 
「やり方を間違ってんですよあんたは。小傘さん、私はもうあなたのことを小傘さんとは呼びません。あんたは今日からあんたで、自販機のジュースを取り忘れるような素っ頓狂の阿保馬鹿です。わかりますか? 私の気持ちが。私は買い出しをするために人里まで降りてきたわけで、あんたの夜中にとち狂って思いついたであろうゴミ必殺技を見舞われに来たわけじゃないんですよ。だいたいこの平和な昼下がりにあんた、どうして人に打突見舞ってもいいと考えたんですか? いいわけないじゃないですか、少し考えればわかることだと思うんですけど。もっとも、あんたはあんたであって、自販機のジュースを取り忘れるような阿保馬鹿ですから、そんなことすらわからないのも無理からぬことかもしれませんがね。まあ、種族特有の習性もあるんでしょうけど、それにしたって私はあんたの、付喪神だか妖怪だか曖昧なところすら気に入らないんですよ。今となってはね。ついでに云えば現在のあんたの表情ですよ、小傘さん。きょとんとしてるんだかしょぼくれてるんだか、わかりませんが。そういう曖昧なところが本当に腹立たしいです。え? なんですかその、もう帰りたいみたいな表情は。自覚ありますか? あんた自身の繰り出した唐突な打突の蓋然性の無さと、乃至はその無遠慮ゆえの罪について。さっきからどうして相槌すらうたないのか気が気でないですけどね。ある種の恐怖を感じているんです、私は。無知は罪という言葉についてもちろんご存じないかとは思うんですけど。要するに私はね、小傘さん。あんた、何か勘違いしてるようですけど。はっきり言いますね。私はあんたの友達でもなければ、編み出した新技の実験相手ですら無く、ただの他人なんですよ。他人、という言葉を使いましたけど、そもそもあんたに他人のヒトの字を用いることにすら私は懐疑的でいます。まあ、そりゃ私もちょっと言いすぎかもしれませんが、とにかく云えるのは泣いたってなにも解決しないということですよ。だいたいなんですか。うわーおどろけーって叫び声は。やけっぱちになるのもわからなくはありませんが……ああ、そうですね小傘さん。あなた鏡ってご存じですか? 自分を左右対称に、されども自身の等身大を映してくれる便利なツールなんですけど。偶然、私はいま手鏡を持っているんですよ。……ほら、小傘さん。この手鏡に映るあなたの顔、ちゃんと直視してください。目をそらしてもどうしようもないですよ。ちゃんと直視してください。……ね? あなたの顔、涙でぐちゃぐちゃなんですよ。悲しいですか? 悔しいですか? それとも私の言動に腹が立ちますか? ただひとつ自覚して欲しいのは、この手鏡に映るあなたは、酷くみじめということです。まあそんなところですかね。それじゃあ。わかってるかとは思いますが、次はありませんよ。それは、次やったらただじゃおかないという意味ではなく、私はもう小傘さんと、あなたと、あんたとはもう二度と繋がらず、心も通わないということです。私は買い出しに戻ります。あなたは部屋に戻って、姿見に映る自分を見つめ、存分みじめな気持ちを噛みしめてください。それでは」

 小傘は本当に悲しかった。小傘と早苗は、平常ならば気の置けない関係であったはずだった。
 けれど、たしかに打突は唐突すぎたかもしれない。しかし、小傘の打突という奇行は彼女自身の種族的困窮に追い詰められた結果であり、空腹のあまり思考能力の低下した小傘には、打突以外の打開策は見いだせなかったのだ。しかしもちろん、里でばったりと出会った人物が東風谷早苗であったことも、小傘にとってはある種の僥倖であり、謂わば行動開始のきっかけでもあった。けれど、小傘は早苗をともだちだと思っていた。道行く他人に繰り出せなかった打突を早苗にのみ実行できたというのは、ともだちであるから、という前提、その安心感に担保された浅ましい打算があったことは少なからず真実だったので、小傘は去り行く早苗の後ろ姿に物寂し気な視線を送り続けた。その様はまるで、捨てられた子犬を拾うか拾うまいか迷ったそこそこに善良な人物が、迷いの果てにとどのつまり放置された子犬が、去り行く薄情な善人を見送るような、本当に寂しい視線だった。つぶらなひとみには、涙ともつかぬ涙が浮かんでいた。
 
 そもそも小傘が打突という奇行に走った原因は明確だ。語る必要もないほどに、こんにゃくを投げつける生活に空腹が満たされることはないのである。
 小傘は安長屋に帰り、ため息をついた。
 
 帰途、往来は小傘にとり白々しいまでに空虚だった。しかしそんな帰途のさなか、里の食堂に従事している赤蛮奇と出くわした。休憩中、甘味処付近で出くわした赤蛮奇は小傘の憂鬱とは裏腹に、無遠慮なまでに快く小傘に声をかけた。なにか良いことがあったのか上機嫌の赤蛮奇に、憂鬱な小傘が調子を合わせられるはずもなく、そんな小傘の様子を察した赤蛮奇は小傘の憂鬱をすぐに慮り、その後の赤蛮奇の対応といえば、小傘に対してわざとらしいまでに情緒的なやり取りに徹した。どうした。なにがあった。腹が減ってるのか。
 小傘と赤蛮奇には親密といえるほどの交遊は無かったが、互いに、どこかしら、シンパシーという曖昧な共通項でもって繋がっていたのだ。
 
 余りの憂鬱さ、早苗に叱責された自身の浅薄さに事の打ち明けを渋っていた小傘だったが、赤蛮奇に感じるシンパシーが、結局のところ小傘の口を開かせた。
 事情を把握した赤蛮奇は小傘に提案をした。
 
「恐怖について見識を深めるべきではあるまいか」

 そう云って、赤蛮奇は小傘にビデオデッキと恐怖映画の数本を借した。
 
 
 長屋にはビデオデッキと、それからあまり気乗りしない小傘のみがあった。小傘はどうしてだろう、赤蛮奇に借りたビデオを鑑賞することが、なんだか非常に腰の重たい感じがしていた。やはり思い出すのは早苗の叱責についてだった。小傘はうつぶせの状態からやおら立ち上がり、ため息をはいて、洗面台の鑑を見つめた。
 ああ、なんて浮かない……浮かない顔をしているんだろう。自分は結局、早苗の言う通りの素っ頓狂の阿保馬鹿なのかもしれない。
 小傘は悲しくなった。けれど、やはり悔しさもあった。加えて、赤蛮奇の助言を無下にすることはできないと、そうも思った。けれどどうしても、自分はビデオを見なければならないと、半ば確信めいた感慨も湧いた。もしかすると、赤蛮奇のおすすめの恐怖映画でもって、自身の困窮や東風谷早苗との軋轢など、すべての問題、その糸口を掴めるかもしれない。もちろん気乗りこそしなかったが、小傘は居間に戻り、デッキにビデオを挿入した。

 恐怖!
  恐怖!
   恐怖!
    恐怖!

 なんて、なんてなんて素晴らしいのだろう。小傘は感動のあまり落涙していた。
 不謹慎、ああ不謹慎!
 小傘にとり劇中に映る狂った死せる道士の群れは、頭からつま先までもが凝縮された恐怖心の肥やしだった。
 今夜死んだふりをしてやろう。イカれた前ならえをしよう。鑑賞中、憂鬱を経由した感傷から体育座りと卑屈に丸まった小傘の背骨は、鑑賞を終えた直後、一本の強靭な棒になった。
 
 無論、腕までも。

 
 
   キョンシー・オブ・ザ・デッド


「お、おわあああああ!!」

 里に突如として現れたキョンシーに一人の青年が腰を抜かした。彼は丸刈りで、つんつるてんの道袍――いわゆる道士服――を身にまとい、まだ若いその瞳にはみっともなく恐慌を浮かべ地べたに尻をついた。驚いた彼の見上げる先には、つま先から背までをピンと強張らせ、それと似たように固めた腕を前ならえにしている、おかしな道袍を着た女があった。――さて彼には恐慌のあまり察することはできないが、この女というのはご察しの通り、恐怖映画に感銘を受けた阿保馬鹿、多々良小傘其の者である。さらに私の高次の視点をもってすれば、小傘の纏う道袍その正体も明白だ。その素材は黒いごみ袋と白いごみ袋の継ぎ接ぎだった。人の上に人を作らぬともっぱら評判のお天道様が阿保馬鹿の彼女に与えたもうた唯一の才能が手先の器用さだった。それはまっとうに針仕事など熟せば暮らしには困らぬほどの才能であったが、彼女には如何せん“アタマ”が無かった。二物を与えず。天とはなんとも薄情なものである。――。
 
 しかし青年は慌てながらもその出で立ちから遠からず目の前の気狂いの正体を察する。
(きょ、キョンシーだ! いつか仙人さまから聞いた……間違いない! し、死者の復活だ! バイオハザードの幕開けだ!)
 ひい、と情けない声を上げ、彼は乱れた道袍もそのままにその場を逃げ出した。
 
 バイオハザードだ! “こびっど”だ! 皆、脳をミミズに食われて死んでしまう!
 
 どこで聞いたか間違いだらけの絶望の類型を喚き散らして青年は消える。取り残された小傘には何のことやらわからなかったが、ともかく愉快だった。自身の聳動に確かな手ごたえさえ感じられれば、小傘にはそれだけで十分だった。さらに地面に散乱した青年の買い出しの残滓を見れば、小傘はことさら愉快になってたまらず声を殺して笑った。
(さ、才能がある……。わちきにはキョンシーの才能が……)
 鍋でもやるつもりだったのだろうか、青年の置き散らしのなかにはこんにゃくがあった。小傘はこんにゃくを見つけるが早いか、堪え切れずに噴出した。
「あははは! こ、こんにゃく……今までこんなものに頼ってたなんて……く、くく。わちき、自分がばからしい!」
 そうしてまた堪え切れず高笑いを始め、小傘は地面に散乱するそれらを一つ一つ拾いだした。おそらく晩御飯にでも使うつもりなのだろう。こんにゃく、こんにゃく。と、笑いながらそれらを拾い集めるおかしな恰好の女は往来の注目を集めた。そう、ここは里のど真ん中だった。


 ところ変わって夕間暮れ、哀れな青年は息せき切らし走っていた。柳の小道を抜け、橋を渡り、墓を抜けた。青年はそのまま、何かに追われるようにして大階段を駆け上がる。恐怖心のまま乱暴に大きな扉を叩けば、厳かにその扉が開かれる。おびえ切った青年を迎え入れたのは放火界のニューカマー、物部布都に間違いなかった。布都は初め慌ただしい来客に首をかしげていたが、青年の纏った衣服を見れば合点がいった。青年の乱れ切った道袍は、青年が己が身の置く道観、その修行者であることを示していた。

「道士様! ば、バイオハザード……“こびっど”が! 脳、ミミズ……!」

 これは大変なことが起こったに違いない。
 
 布都は持ち前の早合点を発揮し、酸欠に倒れこむ青年を置き去りにして皆のいる道観のなかへとすっ飛んで行った。

 布都はまず台所に急いだ。台所といえば炊事で、炊事といえば布都の被害者たる亡霊である。布都はまず炊事に勤しむ蘇我屠自古に事を伝えようと考えた。台所には煮物の匂いが立ち込めた。そこにはやはり屠自古の姿があり、屠自古を見つけた布都はさっそく自身が見聞きしたものをありのままに伝えた。

 バイオハザード。“こびっど”。ミミズ。
 
 瞳を輝かせる布都の言葉を、屠自古はなにひとつ解せなかった。面倒に感じつつ敢えて聞き返せど、布都は瞳を輝かせるばかりで一向に要領を得なかった。炊事にいつも通りな邪魔が入れば屠自古は不愉快だった。片手でしっしと追い払えば、布都は憤懣やるかたないといった具合に肩を怒らせ台所を後にする。屠自古はため息をついて、今夜の晩御飯をひとり分減らすことに決めた。苦労の絶えない彼女のささやかな報復である。そうと決まれば屠自古は快かった。これで明日も気分よく目覚められることだろう。屠自古はその口元にひとつ穏やかな笑みを浮かべた。――屠自古の話は、これで終わりだ。


 一方その頃、小傘は聳動の成功と晩御飯という思わぬ収穫に胸を躍らせながら帰途を辿っていた。いい気分で見上げる夕空には椋鳥の群れがあり、小傘は思わずかわいい椋鳥たちの行方を空想する。
(あの鳥たちは、なにかこう。とってもいいところへ行くんだろうな。とってもいいところ……そう、天国。あの鳥たちは天国へ行くんだ。……あ、小銭落ちてる!)
 小傘は俊敏に路傍の小銭を懐に収め、懐かしい童謡を口遊んだ。それは朗らかだけれどもどことなく感傷的な歌だった。かの名曲、故郷の空である。そして小傘は歌いながら、るんるん気分で明日の献立を組み上げていく。
(明日はしゃも鍋にしよう。小銭拾ったし、さっき鳥みたし。でも、今日は水炊きにしよう。小銭拾ったけど、今から戻るの面倒だから)
 そうして、小傘の一日は緩やかに暮れていった。


 さて、るんるん気分の小傘と対極の心持ちでいる者もいる。台所にて蘇我屠自古に軽くあしらわれた放火界のニューカマー、物部布都だった。布都は憤っていた。何故自身は毎度毎度いいようにあしらわれてしまうのか。布都は屠自古が許せなかった。刺す、そうも思った。
(屠自古のやつ。ひどすぎる。こないだの件はまだいいとして、今度ばかりは大事も大事。いわば小さな村に突如として狼の群れが湧いて出たようなもの。それを屠自古、やつときたら……狼が来た、その号砲を無視し、その結果、皆が狼に食い殺されたらどうする? 屠自古、やつは馬鹿じゃ。やつは人が羨むものにしか興味を持たぬから)
 口蓋へと胸裏が領土を侵せばぶつぶつとこぼれ出るのは道理だった。組んだ腕、口からこぼれ出る憤りは廊下の角にて察知され、善からぬものを寄せ付ける。布都が曲がろうとした廊下の角、その先に居たのは邪なる者、霍青娥である。ぶつかりそうになった布都は一瞬目を丸くしたが、青娥の愉しげに細む目と口元をみつけ、すぐに瞳を輝かせた。
 
「おおかみ……ふふ。狼が湧いて出たのですか? その話、詳しく聞かせてくださいな……」
 
 かくして物部布都はまた、新たな火種を撒いたのだった。ハイホー。


 翌朝、小傘は自室にて膝を抱え震えていた。怯え切って覚束ない足腰のまま窓まで這い寄り、おずおずと窓の外を伺う。
 
「ひ、ひえええ」

 窓の外にはキョンシーの群れがのさばっていた。数にしておよそ三十八体、小傘には数えきれない数字である。外に出ればもっと大勢いるかもしれなかった。小傘の廃墟は里の外れは寂れた横丁にあり、その入り組んだ路地の中でこの有様である。通りに出たときのことを想像すれば、小傘にはとてもじゃないが恐ろしすぎた。
(う、うう。なんでこんなことに。これじゃあしゃも鍋食べらんないよう……)
 小傘はうずくまったまま、合わせた両こぶしをふるふると解いた。開かれた掌には幾何かの小銭が乗っている。ちょうどしゃも鍋の材料を買えるほどの額だった。小銭にぽたぽたと雫が滴り落ちる。今日は絶対しゃも鍋を食べると決めた昨夜のるんるん気分が、小傘のかなしみを意地悪く突っついたのである。小傘はかなしくなる。かなしくなると、なにかこうものすごく連鎖的に――芋づる式に――かなしい出来事が思い出された。小傘はうつむいた顔を上げ、部屋の隅、姿見に視線をやった。

「う、うっ……ううっ……」

 姿見に映る自身の顔に、小傘はとうとう泣いてしまった。
 
 ――あなたは部屋に戻って、姿見に映る自分を見つめ、存分みじめな気持ちを噛みしめてください。それでは。
 
 それは、以前早苗の残した厳しすぎる叱責の一節だった。本当は声をあげて泣きたい小傘だったが、大声を出せば外のキョンシーに感づかれるかもしれない。感づかれればどうなるか、恐ろしいことが起きるに違いない。小傘は泣くに泣ききれず、そのもどかしさにまた泣いた。泣いて、泣いて、小傘はぼんやりとした頭で自身を慰める術を探す。
(こないだ早苗さんに怒られたとき、わちきどうしたんだっけ。たしか泣きながら歩いて……帰り道、蛮奇さんに会って、ビデオ借りて……ああっ!)
 小傘は自身のひらめきに驚いて顔を上げた。小傘は部屋の隅に丸まったごみ袋に手を伸ばす。急ごしらえに積みあがっていく完璧な打開策に小傘の胸は躍った。ごみ袋、黒と白の継ぎ接ぎを身にまとい、畳の上に立つ。
(そうだ、そうだ! みんながキョンシーなら、わちきもキョンシーになればいいんだ! みんなと違って偽物だけど、たぶんばれない……)
 ひらめきの電流は頭の芯からつま先へと急降下する。電流の流れた背筋からつま先までが、すぐさま一本の強靭な棒となる――
(なぜなら才能があるから……わちきには、キョンシーの才能が……!)

 ――無論、腕までも。


 小傘は伸ばした腕のまま自宅の戸を抜け、路地を抜け、通りを抜けて、ぴょんぴょんとするうちに八百屋に辿り着いた。路地を抜ければやはりそこかしこがキョンシーで飽和していたが、小傘はみごと里中にあふれるキョンシーたちを無傷のままに潜り抜けたのである。それは小傘にとり奇跡的行軍と呼ぶほかなかった。しかし、小傘は店先にて硬直する。その硬直は本来キョンシーのあるべき姿と云えようが、小傘は本物のキョンシーではない。里に蔓延るキョンシーたちの額には一様に札が貼ってあった。その札が、小傘の額にはないのだ。では小傘を店先にて硬直させた目下の問題と云えば間違いない。問題は、いつも店番をしている優しい店主の異常な様相にあった。店主はいつも曲がっている背筋をピンと正していた。のみならず、腕までをもピンと伸ばして目を見開いて小傘を見るともなく直視している。とどめは額に貼られた札である。小傘は狼狽した。

「しゃ、しゃも鍋の、材料を。……く、くださいな! なんて。い、言ってみたりして……」

「あいよぉ!!」

 ひっ、と小傘は悲鳴をあげる。思ったよりもいつも通りな威勢のいい店主の声にたじろいでしまった。店主はいつも通りに要領良く、しゃも鍋の材料を袋に入れてゆく。しかし小傘にはそのいつも通りが妙だった。額に貼られた札によって、店主のいつも通りは酷く怪訝だった。けれど、店主が見繕った材料の入った袋はひょいと小傘に渡される。小傘はおず、おずと店主の掌にお代を載せた。「あ、ありがとうございます」そう言って、びくびくとする小傘に店主は遠慮なく口を切った。

「あれぇ? 小傘ちゃん、その出で立ちをみるに、小傘ちゃんもキョンシーだよねぇ?」

「は、はいっ! わっ、わちきはキョンシーです!」

 キョンシーが問いかけてきた! その衝撃に足のすくむ小傘だったが、札付きのキョンシーたる店主に偽物とばれては何をされるかわからない。小傘はたちまち恐ろしくなった。思わずわが身に降りかかるかなしき暴力を想起した。暴力はかなしい。絶対にばれてはいけない。小傘は確固たる信念を胸に背筋と腕をことさら硬直させた。

「だよねえ? でも、キョンシーが食べもの買うかなあ? キョンシーはしゃも鍋食べないもの。んん? おかしいなあ! ……さては小傘ちゃんおまえ、キョンシーじゃないな!」

「きょ、キョンシーだよ。キョンシーにも、その……生活があるから。しゃも、食べます」

 店主は伸ばした腕を組み黙考した。小傘の胸を心臓が早鐘のように打ち付ける。ばれたらなにをされるかわからないが、おそらく暴力を振るわれる。たぶん暴力にちがいない。暴力はかなしい。絶対にばれてはいけない。店主が組んだ腕を解いて、小傘に向き直り、言った。

「そっかあ、たしかに。おじさんにもあるよ、生活。ごめんね、ひきとめちゃって。それじゃ……まいど、おおきに!」

「は、はい。まいど、おおきに……」

 小傘は胸をなでおろしつつ、踵を帰す。買い出しが済めば、あとは自室に戻りしゃもを突っつくばかりだ。ほっと一息ついて、小傘はハッとした。
(あ、あぶないあぶない。帰りだからって気を抜いちゃだめだよね。今日からみんなキョンシーだもん。なら、わちきも今日からずっとキョンシー……そのくらいの気持ちでいないと!)
 小傘は材料の入った袋を伸ばした腕にひっかけて、ぴょんぴょんとはじめた。


 ぴょんぴょんとはじめてから数分経てば、そこはもう小傘の家近くの路地だった。道中、小傘に感づいた札付きはなかったが、代わりにみんな小傘の後を着いてきた。無言でぴょんぴょんと着いてきていた。小傘は背後の大群に恐ろしかったが、振り向けばもっと恐ろしいので背後の気配にはただただ怯える以外になかった。けれど、じきに自宅である。このままいけば無事帰宅し、何事もなくしゃも鍋にありつけるかもしれない。しかし瞬間、不運にも小傘の前方を小柄な札付きが遮った。札で覆われたその横顔に小傘はなにか見覚えがあった。よく見るとそれは近所の悪ガキで、思えばキョンシーに成り果てる以前から詰るなどして小傘をいじめていた悪ガキだった。天敵ともいえる札付きの出現に、小傘は再三身をこわばらせる。
 
「あーっ! 小傘、食べ物買ってる! んん? だけど、くらしをやるってことは……さてはおまえ、キョンシーじゃないな!」

「きょ、キョンシーだよ。キョンシーだってくらしをやるよ。しゃも、食べるんだよ」

 札付きの悪ガキは伸ばした腕を組み黙考した。小傘の胸を心臓が早鐘のように打ち付ける。ばれたらなにをされるかわからないが、おそらく暴力を振るわれる。たぶん暴力にちがいない。暴力はかなしい。絶対にばれてはいけない。悪ガキが組んだ腕を解いて、小傘に向き直り、言った。

「そっかあ、たしかに。おれにもあるよ、くらし。ごめんよ、ひきとめちゃって。それじゃ……今度会ったときはまた遊んでね!」

「う、うん。遊ぼう、今度また……」

 小傘は胸を撫でおろしたかったが、背後に大群のいることを思い出しハッとしてやめた。あともう少し。家の戸を開いたあとは自室にてしゃもを突っつくばかりだ。伸ばした手足のままほっと一息ついたのち、小傘はまたぴょんぴょんとはじめた。


 小傘は帰宅した。のさばる札付きたちをみごと打ち払い、無事に五体満足、帰宅したのだ。小傘はあれやこれやを冷蔵庫に仕舞う。いつだったか近所のおばちゃんから譲り受けた、小さく赤い、かわいらしい冷蔵庫だった。冷蔵庫の扉、その外側には、油に汚れたマグネットのシールがあちこちと黄ばんでいた。玄関の外には札付きの大群が列をなしていたが、小傘は気にも留めない。自身は生きた。無事生き延びたのだ。その達成感、そして我が家に帰ってきたという安心感から、小傘はすっかり道中背後に着いてきた大群を忘れられていた。しかし、列をなした札付きたちは玄関前、そこからてんで動こうとはしなかった。さながら恋文の返事を待つ生娘、まるでなにかを待っているかのように札付きたちは動かずにいた。

「やった、やった。しゃも鍋だ! なんだか二月も前から食べたかったような気もしてきた。……がぜん!」

 小傘は気にも留めず、昨夜以来のるんるん気分に努めた。かくして小傘の料理が始まる。台所の蛍光灯は不健康に青く、蛍光灯に垂れ下がる紐は黄色くヤニ汚れていたが、まな板や包丁、食器それから料理道具の類ならば多少マシだった。小傘は買ってきた食材をまな板の上において、包丁を構える。これから自分はしゃもをやる。そう考えれば、無自覚な舌なめずりも道理というものである。
(あっ、いけない。火を使うときは小窓開けろって、おばちゃんに言われたもんね)
 小傘は蛍光灯、垂れさがる紐の奥の小窓を開けた。すると、小窓の向こうに立っていたおばちゃんと目が合った。おばちゃんは額に札を付けている。小傘はきょとんとして、何が起こったかわからないをその表情で語ってみせた。無理からぬことである。窓を開けると札付き、キョンシーがいた。というのもこれをフランスでは「Kyungshi depuis la fenêtre」と云い、まうごつたまがった際に使われるポピュラーな慣用句として知られている。日本語に訳せば「窓からキョンシー」といったところだ。窓からキョンシーには誰だって驚く。貴方も驚く。

「小傘ちゃんあんた! ごはん食べるってことは、あんたキョンシーじゃないね!」

「きょ、きょんしーだよ」

 茫然としたまま答える小傘だが、なんということだろう二の句が浮かばなかった。真っ白な思考とは裏腹に、小傘は心の底から鳴り響く警鐘に気が付いていた。ばれたらなにをされるかわからないが、おそらく暴力を振るわれる。たぶん暴力にちがいない。暴力はかなしい。絶対にばれてはいけない。しかし、言葉はひとつも浮かばない。おばちゃんは冷や汗をかく小傘に向かって、非情なる追い打ち――とどめの一撃を見舞った。

「いいや! あたしゃ聞いたよ、髪の青い仙人さまからさぁ! キョンシーはごはんなんて食べやしない。キョンシーはね、血を吸うんだよ! 人の血をね!」

「わ、わ、わ……」

 瞬間玄関の戸がぴしゃりと開き、そこから大量の足音が雪崩れ込んだ。一目散、逃げ出そうとする小傘だったが一寸遅かった。おばちゃんの「みんな集まれ!」によって、玄関先にいた札付きたちのおおよそは小傘宅へと侵入し、小傘を取り囲んでしまったのだ。入りきらなかった札付きは玄関先やあらゆる窓にてぎゅうぎゅうとつんのめっている。もうこの世界に小傘の逃げ場などひとつもない。小傘は血の気が一挙に引いていくのを感じた。強烈な絶望、飽和した恐怖心に、小傘は悲鳴をあげることすらかなわず、押し寄せる札付きたちの手から自身を守るべく、生理的に丸まる以外にできなかった。
(血、血をすわれちゃう! わ、わちき死んじゃうよ! キョンシーに血をすわれて、カラカラになって……死んじゃうよぉ!)
 どたどた、どたどたどたと家が鳴る。「ひ、ひいぃぃ!!」札付きたちの魔の手が小傘に伸びる。頭を庇うようにして必死にうずくまっているおかげか、たびたび腕を掴まれるばかりで咬まれることはいまのところなかった。しかしそれも時間の問題である。埋め尽くされた札付きにどたどたと鳴る家は天変地異が如く揺れに揺れ、小傘にとりその大地震は地球が割れるまでの秒読みに思えた。地球の割れるとき、それすなわち小傘の灯が消える瞬間だった。「や、やだよう。たすけて、たすけてよぉ!」どたどた、がたがたと次第に増大する揺れに、地球は今にも割れてしまう!

「わ、わ、わちーっ!!! ……って、あれ?」

 不意に静寂が吹き抜けた。うずくまる小傘は恐る恐るに顔を上げる。すると、小傘の怯える視線の先には、一本足の看板を抱えたおばちゃんが立っていた。急に涙がこみ上げてきた小傘は、潤んだ瞳のまま眉をひそめて、なんとか看板の文字を辿った。しかし、小傘に文字の判別は叶わなかった。

「う、うぅ。涙で霞んで、ぜんぜん読めないよぉ……。みんな、おしえて。はやく、はやく読んでよぉ……」

 札付きたちはいっせいに口を開き、小傘に応えた。看板にはこう綴られている。

『ドッキリ大成功!!!!』

 小傘は泣いた。声を上げて泣いた。すると、札付きたち、もとい仕掛人たちは一様に笑った。おばちゃんも笑っている。仕掛人たちのなかには当然、八百屋の店主だって、それから例の悪ガキだって居た。

「ひどいよ、ひどいよ! みんなして! わちきのこと、こわがらせて。こんなに、こんなに泣かせたりしてえ!」

 うわーんと泣きじゃくる小傘に、みんな笑いつつもすこし申し訳なさげにはにかんだ。まず初めに、八百屋の店主が自身の額から札を剥がした。すると、続いて悪ガキも同じようにする。次から次へと、みな八百屋の店主に続き額の札を剥がしてゆく。みんな、みんなキョンシーなどではなかったのだ。どれもこれもみんな、小傘の聳動を諫めるべく依頼された、ただの仕掛人に過ぎなかったのだ。もちろん依頼主、このドッキリの企画者は物部布都である。小傘の驚かした青年がたとえ数多いる弟子、その有象無象を担っていたとて弟子は弟子。脅かされたままでは道観の沽券に関わると、邪なる者から入れ知恵された布都は喜び、進んで企画の実行に努めたのだ。しかし、ドッキリはドッキリ。ネタばらしが済めばすべてはおわる。次々剥がされてゆく札はいよいよ最後の一枚となるが、その札になんの効力があるわけもない。小傘は泣きながらも安堵する。そして、おばちゃんは自身の額から、笑顔で最後の一枚を剥がしてみせた。しかし次の瞬間――

「お、おお、おおおおおおお!! うがあああああああああ!!!!」

 ――おばちゃんが暴走をはじめた! 咆哮のまま、おばちゃんはほかのみんなを押しはじめた!――それも、両手で!――おばちゃんに押された者は、どうしたことだろう! また別のみんなを押しはじめるではないか! なんということだろう、邪なる者、霍青娥が布都に渡した札は、なんと本物だったのだ!!

「ひ、ひいぃ!! おばちゃんが、おばちゃんが暴力を! ……ああっ! それに、みんなまで!」

 さんざめく悲鳴のなか、小傘も叫んだ。しかし小傘の声はただただ虚しかった。暴走キョンシーに押された者は、押された瞬間に押す者へと成り変わってしまう。増殖する押す者たち、その勢いは留まることを知らず、あっという間、正気を保ったものは小傘のみとなってしまった。ぎょろり、みなの恐ろしい視線が小傘に釘付けとなる。小傘はまたしてもその口元、表情に絶望をたたえていた。一歩、また一歩と暴走キョンシーは小傘に迫り、とうとう腕を伸ばせば、その手が小傘に届く距離……ぬらり、とキョンシーたちの腕が小傘へと伸びた。

「う、うわああああああ! こないで、こないで! こないでよぉ!!」

 小傘はもう破れかぶれになって、地面に落ちたあれこれをキョンシー目掛けて投げまくった。まな板、包丁、鶏肉、しいたけ。中には包丁もあったが、幸い包丁はだれにも当たらずに済んだ。――死はいつか訪れるであろう如何なる暴力よりも残酷で悲惨である――しかし、小傘の投擲したひとつの食材が、おばちゃんの額にクリーンヒットする。「う、ううぅ……」すると、おばちゃんの動きが止まった。「おばちゃん……? あ、ああっ!」小傘は吃驚した。よく見ると動きを止めたおばちゃんの額には、小傘の生活必需品、こんにゃくが貼り付いているではないか。「う、うわあああああ!!!!!」小傘は確認するが早いか地面に散乱したこんにゃくを投げまくった。小傘の家にはなにもないが、こんにゃくだけなら無尽蔵にあったのだ。次々にヒットするこんにゃくに、ひとり、またひとりと動きを止める。小傘が錯乱のままにこんにゃくを投げつくせば、すべてのキョンシーが動きを止めていた。

「はあ……はあ……お、おわった! みんな止まってくれた!」

 ぴたり静止したみんなの姿を確認すれば、小傘は度を越して安心した。息を整え、小傘は立ち上がる。そして、何を考えたか小傘は散らばった食材と料理道具をキッチンに集めた。なんと料理を再開するのである。度を越した安心感は小傘の精神を不定の状態へと追い込んでしまったのだ。再開されたしゃも鍋の下ごしらえは瞬く間に終わり、あとはテーブルの上、座布団に座りカセットコンロに鍋が熱されるのを待つばかりと相成った。静止して立ち尽くすみんなをそのままに、小傘は鍋の前、ようやっと一息をついた。

「あ、台所にお皿忘れちゃった。おばちゃーん、お皿取って。……ん。ありがとー」

「……あれ?」

 小傘は不思議になった。自分はいま、だれに、なにを頼んだのだろう。手には馴染みの皿の感触。小傘は視線を鍋から、受け取りかけた皿へと移した。

「お、おばちゃん……?」

 小傘の視線の先には、小傘に皿を渡さんとする、物言わぬおばちゃんの姿があった。おばちゃんの額には、小傘の投げたこんにゃくが貼り付いている。
(こ、これはもしかすると……しゃもなんて食べてる場合じゃないかも!)
 小傘はまたしてもるんるん気分に支配された。心とはかくも単純なものなのだろうか。





「全軍進めー! あはははは!」

 里の目抜き通り、小傘は高笑いをして指示を出した。指示を受けるが早いか、規則正しく行軍を開始したのはこんにゃくによって急造された奇跡の小傘軍団である。どういうわけか、こんにゃくを貼り付けられた者たちは皆小傘の言うがままになった。小傘はたまらなく愉快だった。ひょんなことから、思う通りの自分の軍団を手に入れたのだ。これが愉快でないはずもなかった。

「ち、ちがうよ! こら! みんな、そっちじゃなくてあっちに行くの! 守矢神社に攻め込むんだよ、復讐するんだから! あの、憎たらしくっていじわるな、髪の毛みどりの早苗にさー!」

 力を手に入れるなり復讐に走るのには執念深いと言わざるを得ないが、唐傘オバケの習性的な観点においても、はたまた報復という点においても、今回ばかりは小傘に理があった。小傘はなんといってもやっぱり“おどろけ”の妖怪だったし、東風谷早苗のアレは言い過ぎだった。
 
「よしよし。みんなちゃんと言うこと聞いてる。かくあるべきとは、まさにかく。……あれ。そういえばこのこんにゃく……わちきが自分で額に貼ったら、どうなっちゃうんだろ」
 
 ただ一つ云えるのは今件の黒幕は例の道観の邪仙であって、緑髪の現人神ではないということのみである、が――
 
「ちょっと一瞬、貼ってみようかな……えいっ」
 
 ――そこらへんを弁えろというのは、多々良小傘には酷なことと云えよう。
 
 指揮系統の壊滅により、無法のキョンシー軍団は野に放たれたのだった。



   『キョンシー・オブ・ザ・デッド』 完。
実話です
こだい
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コメント



0.150簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
面白く良かったです
2.100名前が無い程度の能力削除
最初の早苗の怒涛の詰めも面白いし、その過程で小傘の表情の変化が手に取るように目に浮かんで可愛い。すぐ調子にのる小傘もキョンシーにびびる小傘も可愛い。
文章も癖になる。勢いがあり、コミカルで、面白かったです
3.100名前が無い程度の能力削除
高次の視点さんはやっぱり早苗だろうかと思っていたら、特に説明も無いまま終わりよった……!
最初から最後まで予測のつかない展開に何度も驚かされました。小傘可愛い。こんにゃくすごい。
4.100名前が無い程度の能力削除
いやほんと勘弁してください。何ですか蒟蒻でキョンシーって。小傘は阿呆が過ぎるし。
5.100名前が無い程度の能力削除
不条理系ギャグ、大変面白かったです。
有難う御座いました。
6.100めそふらん削除
あぁもう阿呆な小傘が本当に可哀想で可愛らしい。
最初の早苗の怒涛の叱責に面食らってから、どんどん小傘が迷走していって、かと思ったらよく分からないキョンシービデオ見てキョンシーになるとかいうかなりぶっ飛んだ発想に至る。小傘の単純さ故の感情の振れ方だったり、謎のこんにゃくとか出てきたりして本当に面白かったです。
7.100名前が無い程度の能力削除
パワーワードが頭の中に入りきらねえよ阿保馬鹿
8.100名前が無い程度の能力削除
小傘があざとかわいい
9.100名前が無い程度の能力削除
面白かったのでしゃも食べます
10.100Actadust削除
すらすら読める怪文書という恐怖。
小傘ちゃんが試行錯誤して理不尽に振り回される、その可愛さがしっかり出ていて好きです。畳みかけるようなギャグも素敵でした。
11.100夏後冬前削除
ねじ伏せられて強引に爆笑させられたので100点
12.100石転削除
やむを得ないので100点
14.100南条削除
とても面白かったです
笑い転げました
最高です
15.100名前が無い程度の能力削除
意味ワカランのにおもしろい
16.100水十九石削除
シュールギャグも極まればこうなるのかという程の作品でした。
小傘ちゃんの可愛さと可哀想さも入り乱れて強いのなんの、最初の早苗さんから矢継ぎ早に繰り出される罵詈雑言の数々に小傘ちゃんの表情や状況を逐次盛り込んで感情豊かに表現している部分からもう最高と言わざるを得ませんでした。平時ならば心安い仲であったであろう二人(一方は人ではない)のソレがここまで無惨に破れてしまうのかと思いつつも、それでも尚この部分だけで既に全てが面白くって。
そして恐怖を連呼してから自分が殭屍だと勘違いするかのように棒になってのタイトルロゴ!!だいすき。

この主人公と思いたくもない、B級ホラーを名乗る事すら烏滸がましさ溢れかねない小傘ちゃんのその阿保馬鹿具合も良いんですよ。レジ袋の継ぎ接ぎで道士服と言い張る時点で既にアタマがアレなのに殭屍の才能ってなんでしょうね、そこが本編での彼女の良さであるとは言えども、もう道教に失礼過ぎるし人里にも失礼過ぎるし軍鶏にも失礼過ぎるし早苗さんや地の文を語る高次存在でなくとも面罵したくなりましょう。
やっぱりその小傘ちゃんの阿保馬鹿具合が端的に表現されている箇所としては『数にしておよそ三十八体、小傘には数えきれない数字である。』とかいうサラッと嘲る地の文が一番好きかもしれません。

そして後半戦で焼き増し以上の不条理さとインパクトを添えて押し寄せる展開の嵐もまた良かったです。ドッキリだと思ってたらドッキリじゃなかったってだけでも意味不明なのに板蒟蒻で全部どうにかなっちゃうの、それこそアタマが無くなるかの如き筋書きで殊更理解が及ばなくなる感じすら覚えました。で、からの蒟蒻殭屍。なんなんでしょうね。何これ。わかんない。何も分からない…。
もう阿保という表現すら他の阿保に全力謝ってからじゃないと使えませんよ。過ぎたるは及ばざるが如し、阿保未満でしかない唐傘お化け。統率すらも出来ないダメ妖怪。幾ら罵倒の表現を書き並べた所で小傘ちゃんのソレを表現し切れないと言うのにそれらを書き並べずには居られない程に笑っちゃうし全てがズル過ぎる。
と言うか何気に青娥は人里の住民にヤバい事をしているし屠自古に夕飯は減らされているしで布都は泣いても良いと思います。

いやもうテンションがズバ抜けてて良かったですね、実話とかいうタグから来て『実話です』のあとがきに至るまでのサンドウィッチの中身がアホみたいにジューシーで濃厚でたまらない。小傘ちゃんが食べずに残した軍鶏鍋含めてご馳走様でした。恐怖もおいしかったです。
17.100サク_ウマ削除
頭キョンシーかよ
イカれた勢いが強烈でした、良かったです
18.100マジカル☆さくやちゃんスター(左)削除
まっ、魔法道具だよ。魔法道具にも、その……生活があるから。100点、入れます
19.100名前が無い程度の能力削除
トホホな展開の小傘ちゃんがとても可愛かったです
22.100福哭傀のクロ削除
ホラーか?→いやギャグ……?→あ、夢オチか→あれ?ホラー?→ギャグ……なのか?
なんかこう……すごかったです。
正直前半部分はわざとなのをわかった上で読むのがそれなりにしんどかったですが、
キョンシーが出てきてからはすらすらと読めました。
なんかも脳みそちっちゃそうな小傘がとてもかわいかったです。
あまりこの手のシュールギャグは好きではないのですが
これは普通に笑ってしまいました。
言葉選びがお上手でした。
23.100名前が無い程度の能力削除
名作