雨の日は、少し退屈だ。門番の仕事はいつもと変わらないけれど、来客が少なくなる。妖精との鬼ごっこも、半ば形骸化した魔法使いとの戯れも、今日はお休みだ。蒸れた雨合羽が肌に纏わりつく。けれど、雨の日だけの楽しみもある。私は、それを待っている。
雨の日は、外に出たくない。理由は簡単、濡れてしまうからだ。時を止めても、雨粒はただそこに留まる。いくら何でも、避けて通ることなんて出来やしない。実は雫のような形をしていない、止まった雨粒を窓から睨む。視線を上げると、門の外で佇んでいる美鈴が眼に留まった。雨の日は、侵入者も少ない。こちらとしては楽でいいけれど、彼女は少し寂しそうに見える。本人に言っても、はぐらかされるか、からかわれるかの二択なので、絶対に言わないけれど。
そろそろ正午だろうか。日が出ていなくても、なんとなく時間の感覚は残っている。いつもなら、のんびりとうたた寝をしているだろう。それに倣って、眼を閉じる。ぽつぽつ。ざあざあ。雨の音は、どれも違っている。そして、雨の日にか聴けない音も、ある。それはとても優しい音だ。きっと、そろそろのはずだ。
はあ、とため息を吐いて傘を手に取った。
しとしと。ぱしゃぱしゃ。ぱらぱら。ぱしゃぱしゃ。雨の音に混ざって、音が近づいてくる。その音は、門を抜けて、私の目の前で止まる。きっと、私の顔を覗き込んで、本当に寝ているのか確かめているのだろう。彼女ならそうする。いつもは音も無く一瞬で現れるので、大抵は本当だけれど。そして、指で私の額をはたくのだ。しなやかな指が、ゆっくりと近づいてくる。額の前に来たところで、私はぱっと目を開けた。
思わず少しのけぞってしまう。美鈴は歯をみせて無邪気に笑っている。ああ、なんて腹立たしいのだろう。うかつにもびっくりしてしまった自分も、得意顔の目の前の彼女も、実に腹立たしい。もう一度手を伸ばして、額に指をあてて、いつもより、ほんの少しだけ力を込める。
雨粒が弾ける音がした。
雨の日だけいつもとちょっと違う紅魔館が素敵でした