咲夜が死んだ。自殺だった。
お姉様に見つからないよう態々地下室まで足を運んでその首を掻き切った彼女は、無念さの滲む顔をしていた。
愚かなことだ、と私はそれを見て嘆息した。あのお姉様がそこまで強欲に見えるのだろうか。あいつは従者の顔についた切り傷一つ程度に頓着するような狭量な輩ではないのだが。
まあでも、咲夜にはそう見えるのだろう。なにせあいつは見た目を取り繕うのが上手いから。
次の貴方は上手くやってくれるでしょう、と言って私は咲夜を見送った。
咲夜が死んだ。失血死だ。
異変解決でとちってしまいまして、と苦笑交じりに言った彼女はその右腕の肘から先を失っていた。
ご愁傷様、と私は言った。それとも何かしら、しんでしまうとはなさけない、とでも言った方が良かったかしら。
あはは……じゃあ、次の私にはそう声をかけてやってください。咲夜は青白い顔で言う。
それよりも、お願いがあるのですが。
なに。
私を食べて頂けませんか。死ぬ前に。
厭よ。
どうしてですか。咲夜は幾許か驚いたような顔で言った。断られるとは思わなかったのだろう。愚かなことだ。私のことをなにも分かっていないらしい。
「だって、貴方はお姉様のものじゃない」
咲夜が死んだ。
咲夜が死ぬことをトリガーとしてスペルカードが起動する。デフレーションワールド。収縮する時空世界。時空を縮め、過去と未来を現在の時空に重ね合わせる、咲夜の秘技。彼女の異能を魔道具に籠め、私がシステムを組み上げたそれの目的とするものはただ一つ。
つまり、咲夜の蘇生。
正直莫迦々々しいとは思うが、実際に望んだのは彼女の方だ。私は乞われて呆れつつ力を貸したに過ぎない。そこまで細かいことをするならいっそ眷属になれば良いと思うのだが。咲夜にとってはそれは譲れない一線らしい。
「なにせ、一度断ってしまいましたからね。今更怖くなりましたと言うのは反則というものです」
「ああ、そう」心底どうでもいい。
けれどとりあえず、彼女の前世と約束してしまったからには、言っておかなくてはならないだろう。
「あー、咲夜。死んでしまうとは――――」
「……それで?」
こめかみを押さえ、絞り出すようにお姉様は言う。それに相対して私と咲夜は正座をさせられている。嘘だ。私も咲夜も自主的にやっているだけだ。お姉様はかくも寛大である。
「ええ、百と四十と七回目よ」
「そういうことを聞いているんじゃないのよ」
回数ではなかったらしい。いや、分かってはいるのだが。つい軽口を叩いてしまうのは私の悪い癖である。
「私は別に、そこまで狭量ではないのよ。だから咲夜、そうして命を粗末にするのは……いや、粗末にしているわけではないのよね。ああもう……」
お姉様はあれで常識人である。常識に縛られていると言った方が良いかもしれない。やもしなくとも、咲夜よりも人間らしい節がある。
ともあれ、これで咲夜の自殺癖も収まるだろう。ここ最近は毎日のように死体の処理をさせられていたのだ。ようやく解放される、と私は人知れず一息ついた。
「申し訳ありません。かくなる上は腹を切ってお詫びいたします」
「ストップ。やめて。やめろ」
……いや、まだもう暫くは無理そうか。
お姉様に見つからないよう態々地下室まで足を運んでその首を掻き切った彼女は、無念さの滲む顔をしていた。
愚かなことだ、と私はそれを見て嘆息した。あのお姉様がそこまで強欲に見えるのだろうか。あいつは従者の顔についた切り傷一つ程度に頓着するような狭量な輩ではないのだが。
まあでも、咲夜にはそう見えるのだろう。なにせあいつは見た目を取り繕うのが上手いから。
次の貴方は上手くやってくれるでしょう、と言って私は咲夜を見送った。
咲夜が死んだ。失血死だ。
異変解決でとちってしまいまして、と苦笑交じりに言った彼女はその右腕の肘から先を失っていた。
ご愁傷様、と私は言った。それとも何かしら、しんでしまうとはなさけない、とでも言った方が良かったかしら。
あはは……じゃあ、次の私にはそう声をかけてやってください。咲夜は青白い顔で言う。
それよりも、お願いがあるのですが。
なに。
私を食べて頂けませんか。死ぬ前に。
厭よ。
どうしてですか。咲夜は幾許か驚いたような顔で言った。断られるとは思わなかったのだろう。愚かなことだ。私のことをなにも分かっていないらしい。
「だって、貴方はお姉様のものじゃない」
咲夜が死んだ。
咲夜が死ぬことをトリガーとしてスペルカードが起動する。デフレーションワールド。収縮する時空世界。時空を縮め、過去と未来を現在の時空に重ね合わせる、咲夜の秘技。彼女の異能を魔道具に籠め、私がシステムを組み上げたそれの目的とするものはただ一つ。
つまり、咲夜の蘇生。
正直莫迦々々しいとは思うが、実際に望んだのは彼女の方だ。私は乞われて呆れつつ力を貸したに過ぎない。そこまで細かいことをするならいっそ眷属になれば良いと思うのだが。咲夜にとってはそれは譲れない一線らしい。
「なにせ、一度断ってしまいましたからね。今更怖くなりましたと言うのは反則というものです」
「ああ、そう」心底どうでもいい。
けれどとりあえず、彼女の前世と約束してしまったからには、言っておかなくてはならないだろう。
「あー、咲夜。死んでしまうとは――――」
「……それで?」
こめかみを押さえ、絞り出すようにお姉様は言う。それに相対して私と咲夜は正座をさせられている。嘘だ。私も咲夜も自主的にやっているだけだ。お姉様はかくも寛大である。
「ええ、百と四十と七回目よ」
「そういうことを聞いているんじゃないのよ」
回数ではなかったらしい。いや、分かってはいるのだが。つい軽口を叩いてしまうのは私の悪い癖である。
「私は別に、そこまで狭量ではないのよ。だから咲夜、そうして命を粗末にするのは……いや、粗末にしているわけではないのよね。ああもう……」
お姉様はあれで常識人である。常識に縛られていると言った方が良いかもしれない。やもしなくとも、咲夜よりも人間らしい節がある。
ともあれ、これで咲夜の自殺癖も収まるだろう。ここ最近は毎日のように死体の処理をさせられていたのだ。ようやく解放される、と私は人知れず一息ついた。
「申し訳ありません。かくなる上は腹を切ってお詫びいたします」
「ストップ。やめて。やめろ」
……いや、まだもう暫くは無理そうか。
はっちゃけててとても面白かったです。
倫理観ゆるキャラな咲夜さんがとてもよかったです
自殺癖ってなんだよ
目離すと死んでる咲夜いいですね
完璧を繕いたいが為にちょっとしくじるとリセットするとか倫理感ぶっ壊れじゃん
フランちゃん死体の処理大変そうなんだから咲夜はもうちょいフランちゃんの事を考えてあげなさいとか思っちゃいました。
なんなのでしょう、死ぬのが怖くなったからって取った手段が余りにもトンチキで理に適っていて、でも蘇生しちゃうから死ぬと分かったからにはフランに食べて貰おうかだなんて発想に至ってしまえるその妙なズレ方もそうですし、自殺癖まで至るストレート一球で三死をもぎ取るかの如き所業には疑問符を浮かべつつも腹を抱えずにはいられませんて。死生観が軽くなって終いには自刃というオチも完璧。だいすき。
自殺は絶望の果ての行いで、失われる事が決まっても少しでも無駄にしたくないという執着を持ち、謝罪として差し出す価値があるものとして扱う、
生命に対する普通の感性を持ったままであるように見受けられ、不死の果ての狂気とは似て非なる、咲夜生来の常人離れした精神性がよく感じられました。
付き合わされたフランちゃんは災難だったのかしら……いや、割とスナック感覚で付き合いそうな気もする。
短いながらも上手な台詞回しと落語っぽい?オチで終わる
お上手でした