お休みの日は何もすることがなくて暇だ。
自分の部屋のベットに腰掛けてぼうっと天井を見ていた。
あーあ、することないな。お燐はお仕事だし、他のペットも私に構ってくれるとは思わないし。
さとり様の所に行ってみようかな。お仕事だと思うけど、少しぐらい構って欲しい。
そう決めた私はバッとベットにから立ち上がって走り出した。
トトトと、廊下を走っていく。廊下にいる猫達に手を振って挨拶をする。にゃーご、と私を見て笑うかのようにひとつボス猫が鳴いた。
猫たちを避けながらわたしは走る。さとり様、さとりさまー!
さとり様の部屋を大きな音を経てながら開ける。
「お空、聞こえていますよ」
まあるい眼鏡をかけたさとり様は私の目を見た。
「さとり様!」
構って欲しい。遊んで欲しい。
「それは無理な話ですよ。お空、もう少しお仕事をさせてくださいな。暇なのでしたらお燐について行けばいいでしょう」
えー、さとり様に遊んでもらいたいのに。お燐忙しそうだもの、悪いよ。
「お空、それを私に向けてくれませんか……来週に閻魔様が来られるのに終わらない資料が……」
ぶつぶつと話すさとり様。難しいこといっぱいしていてすごいな。それならお燐を探してついて行こっと。
「さとり様ありがとうございます!」
「気をつけて行ってくださいね」
相変わらず忙しそうなさとり様は資料とにらめっこしながら私を送り出してくれた。
さとり様の部屋からロビーに走ってお燐を探す。
「おりーん、お燐?どこにいるのー?」
がらんとしているロビーを見渡すと誰もいなかった。人はいないけれど、ペットは沢山いる。がらんとしているようでしていなかった。猫、犬、鳥……ネコ科やイヌ科の動物まで沢山いた。
私はそれを避けながら歩く。お燐は、と聞くとみんな灼熱地獄の方を見て告げてくれた。ふふ、ありがとう。
「ありがとうみんな! 私行ってくるね!」
バサッと翼を大きく羽ばたかせて早く廊下を飛んだ。お燐に会いたかった。
長いような廊下を飛んで裏庭へ。へへ、早く飛ぶのは得意だし。灼熱地獄へと私は飛び込んで行った。
たくさんの岩が私を囲む、当たらぬように空を切る。
お燐を探して落ちるように飛んでいく。ふと黒いものが見える。猫車を担いだお燐だった。
「おりーん! お燐!」
びゅうと勢いを殺さぬまま飛びつこうと手を伸ばす。
「うわわわ!? なんだいお空!」
お燐は叫びながらひょいっと避けるようにして私の体を受け止めなかった。
灼熱地獄の赤い水に当たりそうになるのを避けて私はそのまま側面の岩に大きな音を立てながら当たる。いたーい!
「なんだいお空! いきなり危ないじゃないか!」
お燐は怒っていた。
「どうして怒るのさ!」
思わず口に出た。
「なんで分かってないんだい! ここは危ないだろ! だから飛びつかないでくれよ。二人とも消し炭になりたいのか……」
「ごめんごめん、ねえ、お燐のお仕事について行っていいかな。お仕事お休みで暇なんだよ、楽しいことしたいなー」
がらがらとぶつかった岩が落ちていく。砂まみれになりながら私は宙に浮いた。
「ええ、まあいいけど。ほら行こうよ」
お燐は私の手を引いて、灼熱地獄を後にした。
パルスィに、「あんた達ふたりで仲良くて妬ましいわね、末永く仲良くしときなさいよ……!」などと言われた。お燐とは仲良くて好きだもん。仲良くするもん。
お燐はあははと笑いながら私の手を引いていた。二人で地底を出ると、お燐は言う。
「よし、じゃあまずは無縁塚に行こう。あそこならいくら持っていっても文句言われないから」
「そうなの? いい死体を見つかるといいね!」
「よおし、今日は頑張るぞ、お空も見てる事だし」
二人で天気の良い空を駆ける。地上の色とりどりの景色は眩しい。地獄の赤い水より、眩しいと思うのだ。
空を飛んであっという間に無縁塚に着く。ごちゃごちゃに積まれた物たちはどこか悲しげに見えた。それでも私は使ってなんかやらないけど。そもそも使えないけどさ。
お燐はキョロキョロと周りを見て魔法の森方面でとても良い笑顔になっていた。
「お、お、おお、いいのがいる! お空待ってて、取ってくる!」
お燐は喜んで死体のいる方向にに飛んで行った。
放っておかれて、私は立ち尽くす。とてもとても嬉しそうなお燐の顔を見れて私も嬉しかった。
ごろごろと猫車の押す音が聞こえる。お燐が帰っできたようだった。嬉しすぎるのか鼻歌が聞こえる。
「ああ、なんていい女! 死んですぐのこの感じ、首絞めで死んだ後のこの色の変わり! 素敵……」
うっとりと恍惚の顔をする。私には死体の善し悪しは分からないけれどお燐がそう言うならそうなんだろう。
嬉しそうな顔をしながら死体に頬ずりするお燐。私も嬉しくなる。お燐は猫車を止めて死体に触っている。
「そんなに嬉しいの?」
「ああ、嬉しいよ! この死体はいい色だし、何より女で自殺なんて好みだよ。しっかり五体満足なのも特にいい……宵闇の妖怪に齧られてなくてよかったよ」
「呼んだかー?」
魔法の森の方面、再思の道の奥から声がかかる。歩いてくる音がする。えっと誰だっけ? 金髪で黒の服。頭のリボンが可愛い。
「ルーミア、あたいの獲物を取らないでくれよ」
あ、ルーミアか! 忘れてた。
「取らないよ。今お腹いっぱいだもん……でもその人も美味しそう」
にこにこと笑うルーミアはお燐の方に歩いてくる。猫車の死体を覗き込んで顔を見る。
「あー、この人私に食べて欲しいとか何とか言った人じゃんか。結局自殺したんだね。食べてあげたかったなあ」
驚いたような顔をしているルーミア。私はその人の顔を見る。どこか嬉しそうな、悲しそうな、そんな表情に見えた。
私には死体が美味しそうにも綺麗にも見えないけど。死体って燃やすものだし。でも魂は安らかであって欲しいと無責任に思った。
お燐はと言うと少しピリピリしている。取られまいと気を張っているのだろうか。
「あはは、取らないってば。このまま地獄に帰らないなら、彼岸にいいものがあるらしいよ。リグルが言ってた」
彼岸? 何があるというのだろうか?
「ねえ、何があるの?」
気になって私は聞いてみる。ルーミアは肩をすくめるだけだった。
じゃあね、とルーミアは空を飛んでいってしまった。
「なんだったんだアイツ。でも取られなくてよかった」
お燐はほっとしている。私は彼岸のことが気になりすぎて行きたくなってきた。
「ねえ、ねえ! 彼岸に行ってきていい? 楽しそうだと思うの!」
「ええ、行くのかい? あたいはこの死体を置いてくるから一緒に行けないよ。後から行ってもいいけどさ」
お燐は猫車を持ちながらそう言った。
「大丈夫!私一人でも行けるし!」
「いや心配……まあいいか、行ってきなよ」
やった!と私は飛び跳ねる。行ってもいいって言われたから、私はお燐にぶんぶんと手を振って彼岸の方へと向かった。
彼岸花が生えかけた再思の道を歩く。彼岸の方へと歩く。
なのにくるくると同じ道を歩いている。……おっかしいな?なんで同じところに出るんだろう。
また歩くと私はくるりとターンをして戻ってみる。すると無縁塚が見えた。あれ。もしかして彼岸と逆方向に行ってる?
タッと、私は走って無縁塚に戻ってみると彼岸の方向から赤い髪を二つに束ね、大きな鎌を持った死神が歩いてきていた。
くぁ、と大きな猫みたいな欠伸をしてから私に気がついた。
「あ、あれ、お空じゃないか。どうしたんだこんなところに」
「えっと、えーっと、あ! 小町さんだ!」
私の小さな頭の中から名前を引っ張り出してくる。思い出せた! よかった!
「私彼岸に行きたいの! 迷ったから連れて行ってくれない?」
「おいおい、ここまで来て迷うのも珍しいな。無縁塚の奥から歩いて真っ直ぐ行ったら着くぞ。何しに行くんだ?」
「なんかね、ルーミアが面白いものがあるって言ってたの。それを見に行こうかなって!」
私はえへへと笑って答えた。
「ほう。それならいってらっしゃい。楽しめよ」
小町さんは手を振って再思の道へと歩いていった。さあ、何があるのかな!
*
彼岸花が沢山咲く賽の河原。彼岸花は美味しくない。むしろ食べて死にそうになったことがある。まだ人の形を取れない時に、初めて見て美味しそうだと思ったからつついたら死にそうになった。お燐が見つけてくれなかったら死んでいたところだったと思う。
そんな苦い思い出を思い出しながら、歩いていると石が沢山積まれているところに着く。
「なんだろうこれ……」
そっと触れたくなって手を伸ばす。
「あ! お姉ちゃんそれ触っちゃダメ!」
「ひゃっ!?」
触れる前に驚いて飛び跳ねる。飛んだ時に揺れてしまったのか、周りの石たちはガラガラと崩れてしまった。
「あーっ!?」
大きな声で叫ぶ誰か。声のかかった後ろを見ると、白い髪、白の特徴的な服、褐色の肌……誰だろうか。
「ちょっとお姉ちゃん、崩れちゃったじゃない!」
「えっ、あっ、ごめんね……」
この子にとって大切なものだったのだろうか。もしそうなら申し訳ないな。
「もう……いいけど。お姉ちゃんの名前って何?」
その子は私の名前を聞いてきた。
「私、霊烏路空! お空って呼んでね! あなたの名前は?」
その子は笑って言った。
「私は、瓔花。戎瓔花! 賽の河原の石積み名人なのよ!」
石積み! さっきの崩れた石は積んだやつだったのか!
「へえ! いいね! さっきはごめんね。名人さんなのに壊しちゃって」
申し訳なくなってしゅんとする。
「崩れたものは仕方ないよね。聞きたいんだけどどうしてお空さんはここに来たの?」
「面白いものが見れるって聞いたの」
「面白いもの? なあにそれ?」
にこにこ瓔花は笑っている。
「わかんない! けど瓔花に出会えてよかったな! 石積みの名人なら石積みを教えて欲しいな!」
「いいよ! 私が教えてあげる! 楽しいから沢山積もうね!」
*
あたいは走っていた。地霊殿に帰って死体を部屋に置いて走り出す。
お空一人にしてきたけど迷ってそうで怖い。そんな思いで彼岸へと空を駆けた。
「おーいお空! どこだい!」
「お燐ー! ここ、ここだよー!」
空を飛ぶあたいに大きな声で返してくれたのはお空だった。その隣に誰かいるらしい。
タンッとしなやかに着地して、目線をそちらにやると二人で石を積んでいた。石。
「えっとそっちの子は誰だい?」
「あなたがお燐さんね! 素敵ねお空さん!」
「えへへ、そうでしょ!」
にこにこと笑う二人。何がどうなっているんだろうか。
「あ、ごめんなさい、私は戎瓔花と言うの! よろしくねお燐さん!」
勢いよく挨拶されて私はたじろぐ。どうすればいいのやら。でもとりあえず。
「あたいは火焔猫燐。お燐って呼んでくれたらいいっても、お空から聞いてるんだよね?」
「うん!」
子供のように笑顔で答える瓔花。
「それで二人は何してたんだい?」
「「石積み!」」
声が揃う。出会ってすぐだろうにそんなに仲良くなっているのか。
「へえ、あたいも入れてくれるかい?」
「いいよいいよー! まずはね、積みやすい石を探して……」
こうしてあたい達の時間が過ぎていった。
誰が一番高く積めるか。誰が一番早くに積みきれるか。そんなたくさんのことを石積みをして遊んだ。お空が思いの外積んで、倒した時が凄かったけれど。とても楽しかった。
*
あっという間にお別れの時間がやってきた。もう帰らないといけない……私は大きな羽をひとつ羽ばたく。
「瓔花、私たち帰らなきゃ。また遊ぼうよ」
「ええー、帰っちゃうの? もっとここにいようよ!」
驚いたような顔をする瓔花。
「瓔花、あたい達はペットだから、ご主人様がいるのさ。その元に帰らないといけないの」
「なら私がご主人様になる!」
「瓔花でもそれはちょっと無理かな。ご主人様は二人いるけどその人たちだもの。また来るからさ」
むーっと膨れた瓔花はふん、とそっぽ向いた。
「……ほんとにまた来てくれる?」
「「もちろん!」」
お燐と声が被る。そうして二人で顔を見て笑った。
「瓔花、次もたくさん石積みしようね!」
私は空を浮いて言う。お燐も私の後に浮く。
「ほんとだよね! また来てくれるんだよね!」
「また来るよー! 待っててねー!」
私たちはぶんぶんと手を振る瓔花を後に地霊殿へと帰っていった。
その後、さとり様に楽しかったこと沢山を話せて今日のお休みはとても良かった一日だった。
自分の部屋のベットに腰掛けてぼうっと天井を見ていた。
あーあ、することないな。お燐はお仕事だし、他のペットも私に構ってくれるとは思わないし。
さとり様の所に行ってみようかな。お仕事だと思うけど、少しぐらい構って欲しい。
そう決めた私はバッとベットにから立ち上がって走り出した。
トトトと、廊下を走っていく。廊下にいる猫達に手を振って挨拶をする。にゃーご、と私を見て笑うかのようにひとつボス猫が鳴いた。
猫たちを避けながらわたしは走る。さとり様、さとりさまー!
さとり様の部屋を大きな音を経てながら開ける。
「お空、聞こえていますよ」
まあるい眼鏡をかけたさとり様は私の目を見た。
「さとり様!」
構って欲しい。遊んで欲しい。
「それは無理な話ですよ。お空、もう少しお仕事をさせてくださいな。暇なのでしたらお燐について行けばいいでしょう」
えー、さとり様に遊んでもらいたいのに。お燐忙しそうだもの、悪いよ。
「お空、それを私に向けてくれませんか……来週に閻魔様が来られるのに終わらない資料が……」
ぶつぶつと話すさとり様。難しいこといっぱいしていてすごいな。それならお燐を探してついて行こっと。
「さとり様ありがとうございます!」
「気をつけて行ってくださいね」
相変わらず忙しそうなさとり様は資料とにらめっこしながら私を送り出してくれた。
さとり様の部屋からロビーに走ってお燐を探す。
「おりーん、お燐?どこにいるのー?」
がらんとしているロビーを見渡すと誰もいなかった。人はいないけれど、ペットは沢山いる。がらんとしているようでしていなかった。猫、犬、鳥……ネコ科やイヌ科の動物まで沢山いた。
私はそれを避けながら歩く。お燐は、と聞くとみんな灼熱地獄の方を見て告げてくれた。ふふ、ありがとう。
「ありがとうみんな! 私行ってくるね!」
バサッと翼を大きく羽ばたかせて早く廊下を飛んだ。お燐に会いたかった。
長いような廊下を飛んで裏庭へ。へへ、早く飛ぶのは得意だし。灼熱地獄へと私は飛び込んで行った。
たくさんの岩が私を囲む、当たらぬように空を切る。
お燐を探して落ちるように飛んでいく。ふと黒いものが見える。猫車を担いだお燐だった。
「おりーん! お燐!」
びゅうと勢いを殺さぬまま飛びつこうと手を伸ばす。
「うわわわ!? なんだいお空!」
お燐は叫びながらひょいっと避けるようにして私の体を受け止めなかった。
灼熱地獄の赤い水に当たりそうになるのを避けて私はそのまま側面の岩に大きな音を立てながら当たる。いたーい!
「なんだいお空! いきなり危ないじゃないか!」
お燐は怒っていた。
「どうして怒るのさ!」
思わず口に出た。
「なんで分かってないんだい! ここは危ないだろ! だから飛びつかないでくれよ。二人とも消し炭になりたいのか……」
「ごめんごめん、ねえ、お燐のお仕事について行っていいかな。お仕事お休みで暇なんだよ、楽しいことしたいなー」
がらがらとぶつかった岩が落ちていく。砂まみれになりながら私は宙に浮いた。
「ええ、まあいいけど。ほら行こうよ」
お燐は私の手を引いて、灼熱地獄を後にした。
パルスィに、「あんた達ふたりで仲良くて妬ましいわね、末永く仲良くしときなさいよ……!」などと言われた。お燐とは仲良くて好きだもん。仲良くするもん。
お燐はあははと笑いながら私の手を引いていた。二人で地底を出ると、お燐は言う。
「よし、じゃあまずは無縁塚に行こう。あそこならいくら持っていっても文句言われないから」
「そうなの? いい死体を見つかるといいね!」
「よおし、今日は頑張るぞ、お空も見てる事だし」
二人で天気の良い空を駆ける。地上の色とりどりの景色は眩しい。地獄の赤い水より、眩しいと思うのだ。
空を飛んであっという間に無縁塚に着く。ごちゃごちゃに積まれた物たちはどこか悲しげに見えた。それでも私は使ってなんかやらないけど。そもそも使えないけどさ。
お燐はキョロキョロと周りを見て魔法の森方面でとても良い笑顔になっていた。
「お、お、おお、いいのがいる! お空待ってて、取ってくる!」
お燐は喜んで死体のいる方向にに飛んで行った。
放っておかれて、私は立ち尽くす。とてもとても嬉しそうなお燐の顔を見れて私も嬉しかった。
ごろごろと猫車の押す音が聞こえる。お燐が帰っできたようだった。嬉しすぎるのか鼻歌が聞こえる。
「ああ、なんていい女! 死んですぐのこの感じ、首絞めで死んだ後のこの色の変わり! 素敵……」
うっとりと恍惚の顔をする。私には死体の善し悪しは分からないけれどお燐がそう言うならそうなんだろう。
嬉しそうな顔をしながら死体に頬ずりするお燐。私も嬉しくなる。お燐は猫車を止めて死体に触っている。
「そんなに嬉しいの?」
「ああ、嬉しいよ! この死体はいい色だし、何より女で自殺なんて好みだよ。しっかり五体満足なのも特にいい……宵闇の妖怪に齧られてなくてよかったよ」
「呼んだかー?」
魔法の森の方面、再思の道の奥から声がかかる。歩いてくる音がする。えっと誰だっけ? 金髪で黒の服。頭のリボンが可愛い。
「ルーミア、あたいの獲物を取らないでくれよ」
あ、ルーミアか! 忘れてた。
「取らないよ。今お腹いっぱいだもん……でもその人も美味しそう」
にこにこと笑うルーミアはお燐の方に歩いてくる。猫車の死体を覗き込んで顔を見る。
「あー、この人私に食べて欲しいとか何とか言った人じゃんか。結局自殺したんだね。食べてあげたかったなあ」
驚いたような顔をしているルーミア。私はその人の顔を見る。どこか嬉しそうな、悲しそうな、そんな表情に見えた。
私には死体が美味しそうにも綺麗にも見えないけど。死体って燃やすものだし。でも魂は安らかであって欲しいと無責任に思った。
お燐はと言うと少しピリピリしている。取られまいと気を張っているのだろうか。
「あはは、取らないってば。このまま地獄に帰らないなら、彼岸にいいものがあるらしいよ。リグルが言ってた」
彼岸? 何があるというのだろうか?
「ねえ、何があるの?」
気になって私は聞いてみる。ルーミアは肩をすくめるだけだった。
じゃあね、とルーミアは空を飛んでいってしまった。
「なんだったんだアイツ。でも取られなくてよかった」
お燐はほっとしている。私は彼岸のことが気になりすぎて行きたくなってきた。
「ねえ、ねえ! 彼岸に行ってきていい? 楽しそうだと思うの!」
「ええ、行くのかい? あたいはこの死体を置いてくるから一緒に行けないよ。後から行ってもいいけどさ」
お燐は猫車を持ちながらそう言った。
「大丈夫!私一人でも行けるし!」
「いや心配……まあいいか、行ってきなよ」
やった!と私は飛び跳ねる。行ってもいいって言われたから、私はお燐にぶんぶんと手を振って彼岸の方へと向かった。
彼岸花が生えかけた再思の道を歩く。彼岸の方へと歩く。
なのにくるくると同じ道を歩いている。……おっかしいな?なんで同じところに出るんだろう。
また歩くと私はくるりとターンをして戻ってみる。すると無縁塚が見えた。あれ。もしかして彼岸と逆方向に行ってる?
タッと、私は走って無縁塚に戻ってみると彼岸の方向から赤い髪を二つに束ね、大きな鎌を持った死神が歩いてきていた。
くぁ、と大きな猫みたいな欠伸をしてから私に気がついた。
「あ、あれ、お空じゃないか。どうしたんだこんなところに」
「えっと、えーっと、あ! 小町さんだ!」
私の小さな頭の中から名前を引っ張り出してくる。思い出せた! よかった!
「私彼岸に行きたいの! 迷ったから連れて行ってくれない?」
「おいおい、ここまで来て迷うのも珍しいな。無縁塚の奥から歩いて真っ直ぐ行ったら着くぞ。何しに行くんだ?」
「なんかね、ルーミアが面白いものがあるって言ってたの。それを見に行こうかなって!」
私はえへへと笑って答えた。
「ほう。それならいってらっしゃい。楽しめよ」
小町さんは手を振って再思の道へと歩いていった。さあ、何があるのかな!
*
彼岸花が沢山咲く賽の河原。彼岸花は美味しくない。むしろ食べて死にそうになったことがある。まだ人の形を取れない時に、初めて見て美味しそうだと思ったからつついたら死にそうになった。お燐が見つけてくれなかったら死んでいたところだったと思う。
そんな苦い思い出を思い出しながら、歩いていると石が沢山積まれているところに着く。
「なんだろうこれ……」
そっと触れたくなって手を伸ばす。
「あ! お姉ちゃんそれ触っちゃダメ!」
「ひゃっ!?」
触れる前に驚いて飛び跳ねる。飛んだ時に揺れてしまったのか、周りの石たちはガラガラと崩れてしまった。
「あーっ!?」
大きな声で叫ぶ誰か。声のかかった後ろを見ると、白い髪、白の特徴的な服、褐色の肌……誰だろうか。
「ちょっとお姉ちゃん、崩れちゃったじゃない!」
「えっ、あっ、ごめんね……」
この子にとって大切なものだったのだろうか。もしそうなら申し訳ないな。
「もう……いいけど。お姉ちゃんの名前って何?」
その子は私の名前を聞いてきた。
「私、霊烏路空! お空って呼んでね! あなたの名前は?」
その子は笑って言った。
「私は、瓔花。戎瓔花! 賽の河原の石積み名人なのよ!」
石積み! さっきの崩れた石は積んだやつだったのか!
「へえ! いいね! さっきはごめんね。名人さんなのに壊しちゃって」
申し訳なくなってしゅんとする。
「崩れたものは仕方ないよね。聞きたいんだけどどうしてお空さんはここに来たの?」
「面白いものが見れるって聞いたの」
「面白いもの? なあにそれ?」
にこにこ瓔花は笑っている。
「わかんない! けど瓔花に出会えてよかったな! 石積みの名人なら石積みを教えて欲しいな!」
「いいよ! 私が教えてあげる! 楽しいから沢山積もうね!」
*
あたいは走っていた。地霊殿に帰って死体を部屋に置いて走り出す。
お空一人にしてきたけど迷ってそうで怖い。そんな思いで彼岸へと空を駆けた。
「おーいお空! どこだい!」
「お燐ー! ここ、ここだよー!」
空を飛ぶあたいに大きな声で返してくれたのはお空だった。その隣に誰かいるらしい。
タンッとしなやかに着地して、目線をそちらにやると二人で石を積んでいた。石。
「えっとそっちの子は誰だい?」
「あなたがお燐さんね! 素敵ねお空さん!」
「えへへ、そうでしょ!」
にこにこと笑う二人。何がどうなっているんだろうか。
「あ、ごめんなさい、私は戎瓔花と言うの! よろしくねお燐さん!」
勢いよく挨拶されて私はたじろぐ。どうすればいいのやら。でもとりあえず。
「あたいは火焔猫燐。お燐って呼んでくれたらいいっても、お空から聞いてるんだよね?」
「うん!」
子供のように笑顔で答える瓔花。
「それで二人は何してたんだい?」
「「石積み!」」
声が揃う。出会ってすぐだろうにそんなに仲良くなっているのか。
「へえ、あたいも入れてくれるかい?」
「いいよいいよー! まずはね、積みやすい石を探して……」
こうしてあたい達の時間が過ぎていった。
誰が一番高く積めるか。誰が一番早くに積みきれるか。そんなたくさんのことを石積みをして遊んだ。お空が思いの外積んで、倒した時が凄かったけれど。とても楽しかった。
*
あっという間にお別れの時間がやってきた。もう帰らないといけない……私は大きな羽をひとつ羽ばたく。
「瓔花、私たち帰らなきゃ。また遊ぼうよ」
「ええー、帰っちゃうの? もっとここにいようよ!」
驚いたような顔をする瓔花。
「瓔花、あたい達はペットだから、ご主人様がいるのさ。その元に帰らないといけないの」
「なら私がご主人様になる!」
「瓔花でもそれはちょっと無理かな。ご主人様は二人いるけどその人たちだもの。また来るからさ」
むーっと膨れた瓔花はふん、とそっぽ向いた。
「……ほんとにまた来てくれる?」
「「もちろん!」」
お燐と声が被る。そうして二人で顔を見て笑った。
「瓔花、次もたくさん石積みしようね!」
私は空を浮いて言う。お燐も私の後に浮く。
「ほんとだよね! また来てくれるんだよね!」
「また来るよー! 待っててねー!」
私たちはぶんぶんと手を振る瓔花を後に地霊殿へと帰っていった。
その後、さとり様に楽しかったこと沢山を話せて今日のお休みはとても良かった一日だった。
死体を奪い合う日常ものでしたがみんなかわいらしくて素敵でした
日記っぽいですね
お空の子供らしさってのを全面的に押し出していて、子供ってこんな感じだったなと昔を思い出させてくれる様なそんな感じでした。