「ねぇ咲夜、最近のパチェ、ちょっと変わったと思わない?」
私は目の前の咲夜に向かって、そう呟いた。
「そうですね。以前はいらないと言っていた肉料理を、最近は食べるようになられましたわ」
どこかズレた回答をする咲夜。主の質問にはちゃんと答えてほしいところだ。
「そういうことを言ってるんじゃないわ。鬼が宴会を開きまくってた時は積極的に解決しようと動いてたし、この前の天人が起こした異変の時も自分から出かけていったし……以前のパチェなら考えられないことだわ」
「ええ、ですから申し上げた通りですわ。肉料理はいわばエネルギーの源。外出や運動をされるのでしたら、是非食べていただきたいものですわ」
咲夜は分かった上でズレた回答をしていたようだ。そして冗談が回りくどい。
「分かりにくいわよ!というか魔女に食事は要らないんだから、食べ物は関係無いと思うんだけど……」
話が逸れてしまった。魔女と食事の関係性というのもこれはこれで面白そうなテーマだが、これについて考えるのはまた今度にしよう。
「質問を変えるわ。咲夜、貴方は『魔女』と『魔法使い』の違いは分かるかしら?」
私はあえて咲夜を試すような口調で言った。はてさて咲夜はこの質問の意図に気づくかどうか……
「分かりませんわ。魔女が女性の魔法使いを表す固有名詞だなんて知りません」
またしても冗談交じりに答える咲夜。だが、その答えは私の求めているものではなかった。
「しっかり答えてるじゃない……でも、その答えじゃハズレね」
「あらあら、まだ答えていないのにハズレ扱いだなんて、お嬢様は手厳しいですわ」
咲夜は更に茶化して答える。咲夜は冗談めかした会話をすることがあるが、それにしても今日は一段とふざけている気がする。
「今日は随分と冗談を言うじゃないの、咲夜。何か良いことでもあった?」
私が尋ねると、咲夜は楽しげな表情で答えた。
「お嬢様、それはこちらの台詞でございます。嬉しそうなお嬢様の姿を見ていると、つい冗談を言いたくなってしまいますわ」
「嬉しそう?私が?」
全く気が付かなかった。そうか、私が嬉しそうにしていた……
「ふふっ、確かにそうかもしれないわ。
じゃあ咲夜、この主の嬉しさを共有するためにも、もうちょっと余興に付き合いなさい」
「ええ、お嬢様の仰せのままに」
軽く会釈をしながら返事をする咲夜。その様子を満足気に見ながら、私は質問を続けた。
「さっきの質問の続きよ。咲夜、貴方は『魔法使い狩り』は知っているかしら」
「いえ、そのような珍妙な催し物は存じ上げませんわ 。
図書館に忍び込んだ白黒の魔法使いを捕まえるイベントなら毎日のように開かれていますが」
(あの白黒また来たのね……最近頻度が増えてる気がするわ。というかいつも侵入されてるけどうちの門番は仕事してるのかしら……?)
……おっと、今はそんなことを考えている場合じゃなかった。今日の咲夜には気をつけないと、すぐ話が逸れてしまう。
「じゃあ、『魔女狩り』なら知ってるかしら」
「……ええ、それならば」
咲夜は急に真面目トーンで答える。それは知っている単語が出たためか、それとも何か思うところがあるからか……
「人間は超常的な力を恐れた。不気味な力を持つ者は『魔女』と呼ばれ、酷く迫害された。本人の意志なんて関係なく……ね」
「……何が言いたいのです?」
静かに口を開く咲夜。その口調は少し感情がこもっているように思えた。
「咲夜、私が最初にした質問は覚えているかしら?」
「『魔女』と『魔法使い』の違い、ですか?」
「ええ、その通りよ」
そして私は、あえて先程の話から続けるように話し始める。
「けれど、超常的な力を持つ者全員が迫害されたわけではなかった。その力が、世のため人のために使われると分かると、その者は『魔法使い』と呼ばれ、人間たちから称賛された」
「それが『魔女』と『魔法使い』の違い、という訳ですか。ですが、何故今こんな話を?」
「あら、分からないかしら」
先程とは違って察しの悪い咲夜。それならばと、私はちょっとした昔話をすることにした。
「ある少女は図書館に引きこもり、ひたすら属性魔法の研究に没頭した。その様子を気味悪がった人間たちは、少女を『七曜の魔女』と呼んだ。だが、少女がそんなことは気にも留めなかった。それは、時が経ち魔女狩りの風習が廃れようと、根城を吸血鬼の館に移そうとも変わることはなかった……けれど、この幻想郷に来てから少女はちょっと変わった。鬼や天人が起こした異変の時は自ら解決に乗り出していた。白黒の魔法使いや七色の人形遣い、その他幻想郷の住人との交流も増えてきた。本人は『魔法の研究の一環』と言い張ってるけれど……異変解決や住人との交流を続けていれば、きっと近々、魔女ではなく魔法使いと呼ばれるように……!」
その時、背後の扉がガチャリ、という音と共に開いた。そこには……
「レミィ、ちょっといい?」
話題の少女、パチュリー・ノーレッジがいた。
「あ、あらパチェじゃない」
「パチュリー様、只今お飲み物をお持ちしますね」
「あ、咲夜もいたのね。すぐ終わるから飲み物はいいわ。
レミィ、なんだか楽しそうに話してたみたいだけど何かあったの?」
「い、いや、そんな大したことじゃないわよ。パチェの方こそ、わざわざ私の部屋まで来るなんて何かあった?」
「ちょっと出かけるから声でもかけておこうかと思って」
「あら、出かけるの?」
先程までの咲夜との会話が脳裏をよぎる。もしかして……
「神社に温泉が湧いたらしいのよ。あんな場所に温泉なんてどう考えてもおかしいし、怨霊が湧いてるなんて噂もあるから様子を見に行こうかと」
やはり異変解決……!あまりのタイミングの良さに、私は自分の能力のことを考えそうになった。
「へぇ、面白そうじゃない。行ってきなさいな!」
ここまで来たら、あとは背中を押してあげるのが筋というもの。それが友人なら尚更だ。
「あら、レミィのことだから「面白そうだから私も行く!」とか言い出すかと思ったのに、案外おとなしいのね」
実際付いて行きたい気持ちもあるが、そこはグッと抑える。
「ま、まあね。留守を預かるのも城主の立派な役目だし、それに私は水が苦手だもの」
「苦手なのは流水だったはずじゃ……まぁいいわ。それじゃ、行ってくるわね」
そう言ってパチェが立ち去ろうとした瞬間、私の口から溢れた一つの言葉
「頑張ってね、七曜の『魔法使い』」
「何よ、その気持ち悪い呼び方」
パチェはそう言ったが、その様子はどこか嬉しそうだった。
私は目の前の咲夜に向かって、そう呟いた。
「そうですね。以前はいらないと言っていた肉料理を、最近は食べるようになられましたわ」
どこかズレた回答をする咲夜。主の質問にはちゃんと答えてほしいところだ。
「そういうことを言ってるんじゃないわ。鬼が宴会を開きまくってた時は積極的に解決しようと動いてたし、この前の天人が起こした異変の時も自分から出かけていったし……以前のパチェなら考えられないことだわ」
「ええ、ですから申し上げた通りですわ。肉料理はいわばエネルギーの源。外出や運動をされるのでしたら、是非食べていただきたいものですわ」
咲夜は分かった上でズレた回答をしていたようだ。そして冗談が回りくどい。
「分かりにくいわよ!というか魔女に食事は要らないんだから、食べ物は関係無いと思うんだけど……」
話が逸れてしまった。魔女と食事の関係性というのもこれはこれで面白そうなテーマだが、これについて考えるのはまた今度にしよう。
「質問を変えるわ。咲夜、貴方は『魔女』と『魔法使い』の違いは分かるかしら?」
私はあえて咲夜を試すような口調で言った。はてさて咲夜はこの質問の意図に気づくかどうか……
「分かりませんわ。魔女が女性の魔法使いを表す固有名詞だなんて知りません」
またしても冗談交じりに答える咲夜。だが、その答えは私の求めているものではなかった。
「しっかり答えてるじゃない……でも、その答えじゃハズレね」
「あらあら、まだ答えていないのにハズレ扱いだなんて、お嬢様は手厳しいですわ」
咲夜は更に茶化して答える。咲夜は冗談めかした会話をすることがあるが、それにしても今日は一段とふざけている気がする。
「今日は随分と冗談を言うじゃないの、咲夜。何か良いことでもあった?」
私が尋ねると、咲夜は楽しげな表情で答えた。
「お嬢様、それはこちらの台詞でございます。嬉しそうなお嬢様の姿を見ていると、つい冗談を言いたくなってしまいますわ」
「嬉しそう?私が?」
全く気が付かなかった。そうか、私が嬉しそうにしていた……
「ふふっ、確かにそうかもしれないわ。
じゃあ咲夜、この主の嬉しさを共有するためにも、もうちょっと余興に付き合いなさい」
「ええ、お嬢様の仰せのままに」
軽く会釈をしながら返事をする咲夜。その様子を満足気に見ながら、私は質問を続けた。
「さっきの質問の続きよ。咲夜、貴方は『魔法使い狩り』は知っているかしら」
「いえ、そのような珍妙な催し物は存じ上げませんわ 。
図書館に忍び込んだ白黒の魔法使いを捕まえるイベントなら毎日のように開かれていますが」
(あの白黒また来たのね……最近頻度が増えてる気がするわ。というかいつも侵入されてるけどうちの門番は仕事してるのかしら……?)
……おっと、今はそんなことを考えている場合じゃなかった。今日の咲夜には気をつけないと、すぐ話が逸れてしまう。
「じゃあ、『魔女狩り』なら知ってるかしら」
「……ええ、それならば」
咲夜は急に真面目トーンで答える。それは知っている単語が出たためか、それとも何か思うところがあるからか……
「人間は超常的な力を恐れた。不気味な力を持つ者は『魔女』と呼ばれ、酷く迫害された。本人の意志なんて関係なく……ね」
「……何が言いたいのです?」
静かに口を開く咲夜。その口調は少し感情がこもっているように思えた。
「咲夜、私が最初にした質問は覚えているかしら?」
「『魔女』と『魔法使い』の違い、ですか?」
「ええ、その通りよ」
そして私は、あえて先程の話から続けるように話し始める。
「けれど、超常的な力を持つ者全員が迫害されたわけではなかった。その力が、世のため人のために使われると分かると、その者は『魔法使い』と呼ばれ、人間たちから称賛された」
「それが『魔女』と『魔法使い』の違い、という訳ですか。ですが、何故今こんな話を?」
「あら、分からないかしら」
先程とは違って察しの悪い咲夜。それならばと、私はちょっとした昔話をすることにした。
「ある少女は図書館に引きこもり、ひたすら属性魔法の研究に没頭した。その様子を気味悪がった人間たちは、少女を『七曜の魔女』と呼んだ。だが、少女がそんなことは気にも留めなかった。それは、時が経ち魔女狩りの風習が廃れようと、根城を吸血鬼の館に移そうとも変わることはなかった……けれど、この幻想郷に来てから少女はちょっと変わった。鬼や天人が起こした異変の時は自ら解決に乗り出していた。白黒の魔法使いや七色の人形遣い、その他幻想郷の住人との交流も増えてきた。本人は『魔法の研究の一環』と言い張ってるけれど……異変解決や住人との交流を続けていれば、きっと近々、魔女ではなく魔法使いと呼ばれるように……!」
その時、背後の扉がガチャリ、という音と共に開いた。そこには……
「レミィ、ちょっといい?」
話題の少女、パチュリー・ノーレッジがいた。
「あ、あらパチェじゃない」
「パチュリー様、只今お飲み物をお持ちしますね」
「あ、咲夜もいたのね。すぐ終わるから飲み物はいいわ。
レミィ、なんだか楽しそうに話してたみたいだけど何かあったの?」
「い、いや、そんな大したことじゃないわよ。パチェの方こそ、わざわざ私の部屋まで来るなんて何かあった?」
「ちょっと出かけるから声でもかけておこうかと思って」
「あら、出かけるの?」
先程までの咲夜との会話が脳裏をよぎる。もしかして……
「神社に温泉が湧いたらしいのよ。あんな場所に温泉なんてどう考えてもおかしいし、怨霊が湧いてるなんて噂もあるから様子を見に行こうかと」
やはり異変解決……!あまりのタイミングの良さに、私は自分の能力のことを考えそうになった。
「へぇ、面白そうじゃない。行ってきなさいな!」
ここまで来たら、あとは背中を押してあげるのが筋というもの。それが友人なら尚更だ。
「あら、レミィのことだから「面白そうだから私も行く!」とか言い出すかと思ったのに、案外おとなしいのね」
実際付いて行きたい気持ちもあるが、そこはグッと抑える。
「ま、まあね。留守を預かるのも城主の立派な役目だし、それに私は水が苦手だもの」
「苦手なのは流水だったはずじゃ……まぁいいわ。それじゃ、行ってくるわね」
そう言ってパチェが立ち去ろうとした瞬間、私の口から溢れた一つの言葉
「頑張ってね、七曜の『魔法使い』」
「何よ、その気持ち悪い呼び方」
パチェはそう言ったが、その様子はどこか嬉しそうだった。
咲夜の受け答えがいちいち面白くてよかったです