命蓮寺の私の部屋はそんなに広くない、のに物はすごい多くて、それもくだらないようなものが多いのだが、それを正体不明にしているとまったくわけがわからなくなる。ベッドがあって、今そこに私が横になっている。その脇に椅子を置いて、聖白蓮が座っている。
「ぬえ、あなたの部屋はいつ来ても奇想天外ですね」苦笑しながら彼女は言った。「あなたが横になってるのは本当にベッドですか? そもそもベッドなんて置いてありましたっけ? それに、私が座ってるのは本当に椅子……?」
ゲホゲホと私は咳をした。体温計がピッピと鳴って、それを聖に差し出した。
「あ、体温計れましたか、ええと……よ、よんじゅうにど! 四十二! うそでしょ!」
珍しく取り乱した聖。だが、読者は安心してほしい。これは体温計の目盛りを私の力で正体不明にしただけだ。騒ぐようなことはない。
「古傷が痛むんだよ、昔はもっとひどかったけど、今もたまにこうやって痛むし、高熱が出るんだ」
「ああ、ぬえ、かわいそうに……それは、あなたは妖怪だから、生きるの死ぬのにはならないかもしれないけど、でもつらいでしょう」
「うん、とても苦しい……。ううっ、死にそうだ。……実は特効薬があるんだ。もしかしたら突飛な話に聞こえるかもしれないけど、落ち着いて聞いてくれ。胸の大きな女性に抱いてもらうと少しだけ痛みが和らぐんだ」
「なんですって! いったいそれはどうして」
「理由なんてなくて。私の持った妖怪としての特性なんだよ……。でも、こんな私のこと、聖は変だし面倒って思うよね」
「いいえ、そんなことはありません。ぬえは私たちの大切な家族ですから――!」
「ありがとう聖……私もあなたが……ゴホッゴホッ、ああ苦しい。もうだめだ死ぬはやく」
聖は私の頭を胸にぎゅっと抱きしめた。そのバストは豊満である。うーん、最高ですね。とってもいいんじゃないでしょうか。息ができないとかそういうのも含めて完にして璧。むしろこのまま死ぬのも本望といえる。お寺というおごそかな場所であっても私のこの気持ちを抑えるのは結局不可能というか、だからこそいいっていうところは実際あるよね。
私が気を失ったのを、痛みが治まって眠ったのだと勘違いした聖は、私を横に寝かせて部屋を静かに出ていった。
村紗水蜜が入ってきた。
「やあ、ぬえ、起きてますか?」
「うん、今起きたところ」
「だいぶ悪いんだってね。高熱が出たとか……それに変な話も聞いたんだけど……」
「水蜜、あなたは私の親友よ。とっても大事な。だけど今必要なのはあなたじゃない。寅丸星さんを呼んできてくれないかしら!」
なんなんですか……と不満そうな水蜜を無視し、しかしと釘を刺す。
「あ、でも、一輪は呼ばないで。いえ、一輪はいいんだけど、雲山が来たら困るの。あの親父が来たらなんだかとっても悪いことが起きる予感がするから!」
胸の大きな男性はとっても苦しいから。
寅丸星がナズーリンを伴ってやってきた。星は長身で立派なものを持っている。ナズーリンは平坦であった。
「ぬえ、まだ身体はよくありませんか」
「ああ、星さん。あなたも来てくれるなんて嬉しいです。とってもお忙しいでしょうに……ゴホゴホ」
「なんだか怪しいね」とナズーリンが言った。
星は椅子に腰を下ろした。ちょうど彼女の胸の辺りが私の目の前に来る。
「話は聞きました。すごく重病なんだとか。だけど、女性に……その……されれば良くなるって」
「思ったより話が早くてありがたいです」
私はひどくつらそうな表情をした。
「聖もすでに協力したそうです……あの方だけを犠牲にするわけにはいきません! さあ、どうぞ!」
釈然としない言い方だが、手を広げて招かれては私もそこに飛び込まざるを得ない。ナズーリンがめちゃくちゃ何か言いたげなのがちらっと見えた。
くんかくんか。ああ獣臭い。もふもふもふもふ。柔らかいしいい匂い。どこまでも吸える。癒やされる。中毒になる。宝はここにあったんだ! まるで猫みたいな体。くすぐったいのかちょっと避けられたのを追っかけたら落ちそうになった。
「もういいだろ、離れろ」
ナズーリンが私の身体を支えてベッドに押し戻した。星ははずかしそうに下を見ていたが、落ち着いて乱れた衣装を整えた。
「ぬえ、元気になりましたか……?」
聖女のような星がそう聞いてきたが、まだ元気になるのはもったいない気がする。
「だいぶよくなったよ。でもまだ痛むんだ……うっ、苦しい。古傷が……」
「ああそうかい。ゆっくりしてくれ。さあご主人、もう行こう、信徒が来てる!」
そう言ってナズーリンは星の服をぎゅっと引っ張って部屋から二人出ていってしまった。ナズーリンは別に来なくてよかったのに……。
小傘がお見舞いに来てくれた。本体の傘を適当に立て掛けて、いつもの椅子に座る。
「ぬえちゃん、だいぶ元気そうだね」
「そう見える? 実はかなり無理してるんだ。でも、確かに小傘が来てくれたから元気になったかも」
「そ、そうなんだ……」
ご存知かとは思うが、意外と小傘は大きいのである。そしてチョロい。チョロいの世界チャンピオンといえる。
「うっ、痛い! 身体が痛い! 昔、矢で射たれたところがすごく痛むんだよ。高熱も出てて。苦しい、死ぬかも。今すぐにでも」
「あわわ、私に何かできることがあれば」小傘はオロオロしだした。
「じゃあ添い寝して」
「なんで」
「原因不明なんだけど、そうしたら良くなるみたいなんだ。安心するからかも。お願いします。今度人を驚かすの手伝ってあげるから」
「ぬえちゃん、そんなこと言わないで! 私はそんな対価なんかなくたって、ぬえちゃんのためなら! 友達でしょ!」
「うんそうだね。じゃあ早く来て」
「……じゃ、じゃあ、失礼して……」
おずおずとベッドに入ってきた小傘を私は全身で抱きしめた。もちろん顔は胸にうずめて。さながらだきまくらのようだ。このまま私は成仏するかと思ったし、小傘がどこも柔らかすぎて目をつむるとどこまでも溺れていくんじゃないかという変な不安まで感じて必死にしがみつきもした。
「まるで赤ちゃんだね……大妖怪のくせに……」
小傘は帰って、また聖が来た。
「あれ、どうしたの、聖。歓迎だけど」
「よくなったかなと思いましてね」
「うん、すごく苦しい。今にも倒れそう」
「やっぱりまだよくありませんか……」
心配そうにされてさすがに心が少し傷んだ。
「でも、安心してください。いいものを持ってきました」
「え?」
なにかとても嫌な予感がする。いいものってなによ。
「病院に行ってきたんです、古傷が傷んで高熱が出るって、四十二度も出てるんですって言ったら、びっくりしてすごく効くっていう薬をくださったんですよ。座薬ですが」
「やだー!」
「あっ、暴れたらいけません。さあお尻を出してください。動くと手先が狂いますよー」
「やめて、助けて、許して。ひっ、聖、力強すぎっしょ。誰か! ああ助けなんて来るわけねーか、やだー、寒い! いっ、いっ……イヤーッ!」
……私は完治した!
「ぬえ、あなたの部屋はいつ来ても奇想天外ですね」苦笑しながら彼女は言った。「あなたが横になってるのは本当にベッドですか? そもそもベッドなんて置いてありましたっけ? それに、私が座ってるのは本当に椅子……?」
ゲホゲホと私は咳をした。体温計がピッピと鳴って、それを聖に差し出した。
「あ、体温計れましたか、ええと……よ、よんじゅうにど! 四十二! うそでしょ!」
珍しく取り乱した聖。だが、読者は安心してほしい。これは体温計の目盛りを私の力で正体不明にしただけだ。騒ぐようなことはない。
「古傷が痛むんだよ、昔はもっとひどかったけど、今もたまにこうやって痛むし、高熱が出るんだ」
「ああ、ぬえ、かわいそうに……それは、あなたは妖怪だから、生きるの死ぬのにはならないかもしれないけど、でもつらいでしょう」
「うん、とても苦しい……。ううっ、死にそうだ。……実は特効薬があるんだ。もしかしたら突飛な話に聞こえるかもしれないけど、落ち着いて聞いてくれ。胸の大きな女性に抱いてもらうと少しだけ痛みが和らぐんだ」
「なんですって! いったいそれはどうして」
「理由なんてなくて。私の持った妖怪としての特性なんだよ……。でも、こんな私のこと、聖は変だし面倒って思うよね」
「いいえ、そんなことはありません。ぬえは私たちの大切な家族ですから――!」
「ありがとう聖……私もあなたが……ゴホッゴホッ、ああ苦しい。もうだめだ死ぬはやく」
聖は私の頭を胸にぎゅっと抱きしめた。そのバストは豊満である。うーん、最高ですね。とってもいいんじゃないでしょうか。息ができないとかそういうのも含めて完にして璧。むしろこのまま死ぬのも本望といえる。お寺というおごそかな場所であっても私のこの気持ちを抑えるのは結局不可能というか、だからこそいいっていうところは実際あるよね。
私が気を失ったのを、痛みが治まって眠ったのだと勘違いした聖は、私を横に寝かせて部屋を静かに出ていった。
村紗水蜜が入ってきた。
「やあ、ぬえ、起きてますか?」
「うん、今起きたところ」
「だいぶ悪いんだってね。高熱が出たとか……それに変な話も聞いたんだけど……」
「水蜜、あなたは私の親友よ。とっても大事な。だけど今必要なのはあなたじゃない。寅丸星さんを呼んできてくれないかしら!」
なんなんですか……と不満そうな水蜜を無視し、しかしと釘を刺す。
「あ、でも、一輪は呼ばないで。いえ、一輪はいいんだけど、雲山が来たら困るの。あの親父が来たらなんだかとっても悪いことが起きる予感がするから!」
胸の大きな男性はとっても苦しいから。
寅丸星がナズーリンを伴ってやってきた。星は長身で立派なものを持っている。ナズーリンは平坦であった。
「ぬえ、まだ身体はよくありませんか」
「ああ、星さん。あなたも来てくれるなんて嬉しいです。とってもお忙しいでしょうに……ゴホゴホ」
「なんだか怪しいね」とナズーリンが言った。
星は椅子に腰を下ろした。ちょうど彼女の胸の辺りが私の目の前に来る。
「話は聞きました。すごく重病なんだとか。だけど、女性に……その……されれば良くなるって」
「思ったより話が早くてありがたいです」
私はひどくつらそうな表情をした。
「聖もすでに協力したそうです……あの方だけを犠牲にするわけにはいきません! さあ、どうぞ!」
釈然としない言い方だが、手を広げて招かれては私もそこに飛び込まざるを得ない。ナズーリンがめちゃくちゃ何か言いたげなのがちらっと見えた。
くんかくんか。ああ獣臭い。もふもふもふもふ。柔らかいしいい匂い。どこまでも吸える。癒やされる。中毒になる。宝はここにあったんだ! まるで猫みたいな体。くすぐったいのかちょっと避けられたのを追っかけたら落ちそうになった。
「もういいだろ、離れろ」
ナズーリンが私の身体を支えてベッドに押し戻した。星ははずかしそうに下を見ていたが、落ち着いて乱れた衣装を整えた。
「ぬえ、元気になりましたか……?」
聖女のような星がそう聞いてきたが、まだ元気になるのはもったいない気がする。
「だいぶよくなったよ。でもまだ痛むんだ……うっ、苦しい。古傷が……」
「ああそうかい。ゆっくりしてくれ。さあご主人、もう行こう、信徒が来てる!」
そう言ってナズーリンは星の服をぎゅっと引っ張って部屋から二人出ていってしまった。ナズーリンは別に来なくてよかったのに……。
小傘がお見舞いに来てくれた。本体の傘を適当に立て掛けて、いつもの椅子に座る。
「ぬえちゃん、だいぶ元気そうだね」
「そう見える? 実はかなり無理してるんだ。でも、確かに小傘が来てくれたから元気になったかも」
「そ、そうなんだ……」
ご存知かとは思うが、意外と小傘は大きいのである。そしてチョロい。チョロいの世界チャンピオンといえる。
「うっ、痛い! 身体が痛い! 昔、矢で射たれたところがすごく痛むんだよ。高熱も出てて。苦しい、死ぬかも。今すぐにでも」
「あわわ、私に何かできることがあれば」小傘はオロオロしだした。
「じゃあ添い寝して」
「なんで」
「原因不明なんだけど、そうしたら良くなるみたいなんだ。安心するからかも。お願いします。今度人を驚かすの手伝ってあげるから」
「ぬえちゃん、そんなこと言わないで! 私はそんな対価なんかなくたって、ぬえちゃんのためなら! 友達でしょ!」
「うんそうだね。じゃあ早く来て」
「……じゃ、じゃあ、失礼して……」
おずおずとベッドに入ってきた小傘を私は全身で抱きしめた。もちろん顔は胸にうずめて。さながらだきまくらのようだ。このまま私は成仏するかと思ったし、小傘がどこも柔らかすぎて目をつむるとどこまでも溺れていくんじゃないかという変な不安まで感じて必死にしがみつきもした。
「まるで赤ちゃんだね……大妖怪のくせに……」
小傘は帰って、また聖が来た。
「あれ、どうしたの、聖。歓迎だけど」
「よくなったかなと思いましてね」
「うん、すごく苦しい。今にも倒れそう」
「やっぱりまだよくありませんか……」
心配そうにされてさすがに心が少し傷んだ。
「でも、安心してください。いいものを持ってきました」
「え?」
なにかとても嫌な予感がする。いいものってなによ。
「病院に行ってきたんです、古傷が傷んで高熱が出るって、四十二度も出てるんですって言ったら、びっくりしてすごく効くっていう薬をくださったんですよ。座薬ですが」
「やだー!」
「あっ、暴れたらいけません。さあお尻を出してください。動くと手先が狂いますよー」
「やめて、助けて、許して。ひっ、聖、力強すぎっしょ。誰か! ああ助けなんて来るわけねーか、やだー、寒い! いっ、いっ……イヤーッ!」
……私は完治した!
響子ちゃん……はともかくとして、マミゾウさんのバストはぬえちゃんの病気に効果があるのか知りたい。
命蓮寺のみんな優しいですねぇ。真面目な顔して欲望に忠実なぬえちゃんと、そんなぬえちゃんを本気で心配しておぱーいぎゅってさせてあげる命蓮寺のみんなも、可愛い可愛いでとっても好きです。ごちそうさまでした。
全ての人類が持つ願望を体現している、私はそれに惹かれました。
これはズルい