不意に目が覚めた。
辺りは草木も魔も眠っていたが、もう夜明けだと気づいた。
不自然に空いた敷布団の左側。
それと、不自然にかけられた掛け布団。
障子の外を見やると、明かりがそっと溢れ、戸と戸の隙間を通り抜けて薄い紫の筋を残していた。
眩しくもない光を目を細めて眺めると、あなたの月のように儚くキラキラした髪が思い出された。
あなたがもう居なくなってしまったことが分かって、ヒヤッと風が通り過ぎた気がした。
布団の淡いぬくもりの中で寝返りをうちながら、あなたの残滓を探すけれど、夜風がさらっていってしまったようだ。
転がった先の感触が私を拒絶するように冷たい。
あなたの匂いを思い出して鼻を押し当てても、夜露に染みた布団の黴たような匂いとい草の匂いだけで、微かもなかった。
低い天井の6畳半。
三方を壁に囲まれて、私の左側の奥に戸がある。
なんだか部屋が途端に狭く感じ、どことなく息苦しさを感じた。壁が少しずつ迫り寄ってくる感覚に私はおもむろに立ち上がり、障子戸の隙間に手を差し込んで右へと追いやった。
戸は泣きながら口を開く。
風は吹いていない。
僅かな空気の流れが私の全身を撫でていく。
遅れて、カラッとした冷たさが内側に入り込んできて、手足の先をしびれさせた。
指の先が少し温まったように感じたが、その分胸の中はそっと冷えていく。
やっぱりあなたは居ない。
遠い夜闇の先にある中途半端に弧を描いた月とそのさらに奥からじわりと滲んだすみれ色がとろとろと揺らめいていた。
あと1時間もすれば、太陽が山と空の切れ目から顔を出すだろう。
細く、長く息を吐いた。
空気に乗せて胸のもやもやを吐き出そうと。
心なしか風が強まり、私のほほをなぶっていった。
襦袢の襟をそっと正して、もう一度空を見やると、すみれ色の中に白や銀、黄色が混じり、山の縁を染めている。
その代わりに月が輪郭を失い始め、群青の空に飲まれつつあった。
次第にここもそうした色に包まれ、世界が色を取り戻してしまう。
私は、その色彩を見るのはなんだか耐えがたかった。
その一端が及ぶ前にそっと戸を締めた。
隙間を埋めるように最後にもう一度戸と戸をぐっと合わせて、また布団に潜る。
息苦しさは相変わらずで、目頭が熱くなった。
次目覚めるときには、どうなっているのか。
私には、わからない。
ただ、目を閉じて意識を手放すほかはなかった。
あなたへの思いを抱きしめて。
辺りは草木も魔も眠っていたが、もう夜明けだと気づいた。
不自然に空いた敷布団の左側。
それと、不自然にかけられた掛け布団。
障子の外を見やると、明かりがそっと溢れ、戸と戸の隙間を通り抜けて薄い紫の筋を残していた。
眩しくもない光を目を細めて眺めると、あなたの月のように儚くキラキラした髪が思い出された。
あなたがもう居なくなってしまったことが分かって、ヒヤッと風が通り過ぎた気がした。
布団の淡いぬくもりの中で寝返りをうちながら、あなたの残滓を探すけれど、夜風がさらっていってしまったようだ。
転がった先の感触が私を拒絶するように冷たい。
あなたの匂いを思い出して鼻を押し当てても、夜露に染みた布団の黴たような匂いとい草の匂いだけで、微かもなかった。
低い天井の6畳半。
三方を壁に囲まれて、私の左側の奥に戸がある。
なんだか部屋が途端に狭く感じ、どことなく息苦しさを感じた。壁が少しずつ迫り寄ってくる感覚に私はおもむろに立ち上がり、障子戸の隙間に手を差し込んで右へと追いやった。
戸は泣きながら口を開く。
風は吹いていない。
僅かな空気の流れが私の全身を撫でていく。
遅れて、カラッとした冷たさが内側に入り込んできて、手足の先をしびれさせた。
指の先が少し温まったように感じたが、その分胸の中はそっと冷えていく。
やっぱりあなたは居ない。
遠い夜闇の先にある中途半端に弧を描いた月とそのさらに奥からじわりと滲んだすみれ色がとろとろと揺らめいていた。
あと1時間もすれば、太陽が山と空の切れ目から顔を出すだろう。
細く、長く息を吐いた。
空気に乗せて胸のもやもやを吐き出そうと。
心なしか風が強まり、私のほほをなぶっていった。
襦袢の襟をそっと正して、もう一度空を見やると、すみれ色の中に白や銀、黄色が混じり、山の縁を染めている。
その代わりに月が輪郭を失い始め、群青の空に飲まれつつあった。
次第にここもそうした色に包まれ、世界が色を取り戻してしまう。
私は、その色彩を見るのはなんだか耐えがたかった。
その一端が及ぶ前にそっと戸を締めた。
隙間を埋めるように最後にもう一度戸と戸をぐっと合わせて、また布団に潜る。
息苦しさは相変わらずで、目頭が熱くなった。
次目覚めるときには、どうなっているのか。
私には、わからない。
ただ、目を閉じて意識を手放すほかはなかった。
あなたへの思いを抱きしめて。
いい雰囲気の作品だと思っていたらあとがきのテンションに笑いました
一粒で二度おいしい作品でした