Coolier - 新生・東方創想話

花のせい

2020/10/08 01:20:55
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 鼻歌を歌いながら古明地こいしが地上を散歩していた。夏真っ盛りだったが、こいしには暑さなんてあまり気にならないようで、ふわふわと跳ねるようにして木々の密集した森をぶつかりもせず駆け回っていた。どれだけ走っても息も上がらない。やがて森を抜けると、一気に目の前にひまわり畑が広がった。

「わあ……」

 立ち止まって思わず感嘆の声を出した。こういう場所があるというのは彼女も知っていたが、実際に来てみると圧巻だった。確か、このひまわりというのは、種が食べられるはずだ。食べてみたいけど、でも生で食べられるんだろうか……と考えて、ふと彼女は苦笑し、それよりも、まずはこの花の美しさを楽しもうとした。気がついたが、このひまわり達はみんなお日様の方を向いている。不思議だなぁ、植物なのに、追っかけて動くのかな、地底にはこんなのはいなかったな、というか植物自体がいないわ……と思った。

 どれか一本引っこ抜いてみたかったが、あまりにも整然と並んでいるので、さすがのこいしも気が引けてしまった。それに、実は今、彼女の左手にはお弁当があるのだ。ひまわりはおおむねこいしとほぼ同じ背の高さだから、かがんでしまうと何も見えなくなる。畑道を移動して、ちょっと小高くなっているところに来ると、腰を下ろしてそれを広げ始めた。まずは腹ごしらえだ。

 この弁当というのは、こいしが今朝のうちに人里に寄った時、農民たちが働いている横の切り株に置いてあったものだった。あんまり大きいのは食べられないと考えて、一番小さい、紙でできた弁当箱を持ってきて、代わりに小銭を置いた。これは姉のさとりが普段から無理矢理にでもお金をいくらか持たせているものだ。袋から雑につかんで置いただけだから、実際にいくら渡したかよくわかっていない。適正価格など知らないが、たぶん多めに渡しているから当然いい中身が詰まっているはずだ。

 ところが弁当を開けてびっくり、中には大きな握り飯が二つきりで、おかずも何もなかった。だけど、まあいいや、食べちゃえ、と彼女は食べ始めたが、感想としてはまるで何もない平原を黙々と歩いているようだった。


 食べ終わったが、結局、具すらなくて、どこまでいっても塩だった。ごちそうさまをしたらお茶が欲しくなったこいしは、立ち上がって周囲を見回した。風が立ち、近くで鳥の群れが飛び立った。一面のひまわりの中に突然大きな木が立っていて、その足元にレンガ造りの家が見える。あまりにも孤立したその家を見ていると、こんなところに住んでるやつというのはよっぽど変わり者なんだろうと彼女には思えた。家自体は綺麗でまともそうなのが余計にちぐはぐで混乱してしまう。

 あんなでもお茶ぐらいあるだろうし、トイレもあるはずだ。そう考えてこいしはその家に近づいていった。ところが、数歩歩いただけで彼女は違和感から立ち止まった。ひまわりが自分を見つめているような気がした。事実、それは明らかにそうであって、すべてのひまわりがこいしを見ていた。なんとなく不気味を感じたところ、ふいにこいしの体が引っ張り上げられ、彼女は驚いて背後の相手に話しかけた。

「これは誰の手ですか?」

 襟の部分をつかまれて、足が地面につかずぷらぷら揺れてしまっている。こいしはとても軽くてちっちゃいので、持ち上げたからといってたいした力ということもない。不思議なのはこいしをはっきりと認識していることだ。彼女の能力は本来彼女のことをなかなか察知できないはずなのだ。

「そういうあなたこそどなたかしら」

 やけに穏やかな、あまりにも平静そのものといった雰囲気でその声は聞こえる。

「顔見せてー」

 多少暴れながらこいしは訴えた。その要望通り着地させてもらって、逃げないように肩をつかまれつつ、くるりと体を回された。

「……こんにちは」とこいしはお辞儀した。

 目の前には日傘を差したお姉さんが立っていた。こいしよりもだいぶ背が高いそのひとはうっすらと笑顔を作っている。こいしの見たことのある顔ではないようだった。

「ごきげんよう。あなたはどこからここに入ってきたの?」とお姉さんは言った。
「どこからも何も、普通に歩いてきたよ。あ、走ってきたんだったかな?」
「ああ、そう。不思議ねえ、ここに誰かが来たらすぐわかるはずなのに。お花さんが気づいて教えてくれるから。なのに今回はどうやらあなたがお弁当を食べ終えるぐらいまでわからなかったみたいなのよ」
「花が? 花がしゃべるの?」
「そう、しゃべるのよ」

 バカバカしい、花に心なんてあるわけないのに、とこいしは思った。

「花に心なんてあるわけないのに」
「あるってば。あなたはさとり妖怪でしょう? なのに心が読めないなんて、その程度なのね。ああ、でもあなたはその能力すらも閉ざしちゃったのね。古明地こいしさん」
「ふーん、よく知ってますね。一生、植物とお話していればいいのに。風見幽香さん」

 お互い悪い顔で笑い合って、それからなんとなく弾幕ごっこが始まった。


 地の利というやつがあったのかどうかわからないが、今回は風見幽香が勝者となった。

「これは私一人ではなく、私たちの勝利ってわけよ」と幽香はうそぶいた。
「悔しいなあ……今度は負けないんだから。……ね、ところで、お手洗い貸してくださいませんか?」

 こいしが割と切羽詰まった表情で言うと、幽香は慌てた様子で家へ案内してくれた。スッキリした後でこいしはお茶を頂いた。お菓子も用意されて、大喜びだった。

「あ~あ、こうなるとお昼寝したくなってきちゃった。お布団借りてもいい?」

 実際にあくびしつつそう尋ねたら、怒られた。

「いや、そこまでは許さないから。さっさと自分の家に帰りなさい!」

 こいしは追い出されてしまった。


「何よもう、ほんとに話が通じないんだから。それに、花に心があるなんて、ねえ。頭がおかしいんじゃないかな」

 ぶつぶつ独り言を言いながらひまわり畑を出て歩いていく、と小さな青い花が足元にぽつんと咲いていた。彼女はそこにしゃがんで花を観察し始めた。だが、つんつんつついても特に意思がありそうには思えない。ただ時々風に吹かれて揺れるばかりで、その張り合いのなさが無性に苛ついて根っこから引き抜いてしまった。が、すぐに思い返した。幽香との弾幕ごっこで負けた時に花を大切にすると約束をさせられたのだ。忘れるまでは守らなくてはいけない。なぜそんな約束をさせられたのかわからないが、引っこ抜こうとしてたのがバレていたのかもしれない。こいしは慌てて埋め直した。たぶん元通り元気に生えてくれるだろう。


 日も暮れた頃、こいしは地霊殿に帰ってお風呂に入り、ベッドに潜り込んで眠った。久しぶりの自分の部屋だった。朝早くでもない頃に目が覚めると、すぐに姉の古明地さとりの部屋に行った。さとりは机に向かって何かしていたが、こいしが入ると驚いて立ち上がった。

「はわっ、ひとりでにドアがひらいて……って、こいしですか、いきなり入ってくるのはやめなさい」

 こいしは有無を言わさず姉の胸に飛び込んだ。姉は後ずさって本棚に頭をぶつけた。それに構わずこいしは自分の言いたいことを言い始める。

「お姉ちゃん、お姉ちゃん、聞いて、教えて。あのね、花に心ってあるの? 私は知らなかったんだけどー」
「あいたた……花に心ですって? 植物に心なんてあるわけないじゃない。そうじゃなかったら私たちが安心して食べられるものがなくなっちゃうわよ」
「ぜったい?」
「絶対ないわ! 見たことがないもの。だいたいキリがないでしょ! どうせ次は石にも意思があるとか言い出すんだから!」
「でも……地上の妖怪はあるって言ってたんだ。そいつに私は捕まえられちゃったんだよ」
「誰です? 風見幽香ですって? それは変わり者なのよ、きっと。捕まったのは……たまたまでしょ。そうじゃなかったらなにかしらの能力かもしれないけど、それはそのひとの問題であって私達の知ったことじゃないですからね」

 さとりが強気で断言するので、こいしもなるほどと思ってしまった。だが、あんまりにもはっきり言われるとかえって怪しく感じる部分もあるのである。こいしはさとりの椅子に座って考え込みはじめた。

「あの、こいし? そこどいてくれないかな」

 立ったままのさとりが袖を引っ張るも、いったい考えているのかぼーっとしているのか判別し難い状態になって、少しの間そうしていた。微妙な空気になった中、やはり急に立ち上がって部屋を出ていった。

「あ、またね、お姉ちゃん」

 彼女が去り際に思い出したように言うと、さとりは苦笑して、「出かけるなら晩御飯までには……いえ、もうどっちでもいいわ……またね。早く帰ってきてね」と諦めたように答えた。


 こいしにはさとりの考えを聞いてまだ若干の違和感があった。それがなんなのかわからないまま、とりあえず地上に出た。その日は雨がひどくて、慌てて森の中へ逃げ込んだ。

 雨宿りさせてもらう大きな木にありがとうを言って、その苔むした根本に仰向けに寝転がると、木の葉の中に無数のキラキラした輝きが見えた。こういう自然の中では妖精がにぎやかに動くものなのだ。こいしはその光景をいつまでも見ていられるような気がした。

 そのまま何日もぼーっとしていると晴れた日になった。相変わらず妖精たちがわちゃわちゃしているが、その中で塊になって進んでいる大きな光があった。それは光の三妖精で、こいしも多少の面識はあり、一緒に食事をしたこともあった。こいしは飛び上がって彼女らに近づいた。

「君たちー! 君たち! どこへ行くのかな?」

 三妖精は一様に迷惑そうな表情になったが、サニーミルクが前へ出てきて答えた。

「私たち、アリスさんのおうちにお呼ばれされてるんですよ。ちょっと急いでて……」
「なにそれーみずくさいなー、私も行っていいよね? 私たち友達だよね?」

 こいしは三人をまとめて抱き寄せてもたれかかった。

「ちょ、ちょっと重い、こいしさん、体重かけないで、ちゃんと浮いてください!」

 ルナチャイルドが悲鳴のように言った。

「さあ、このまま一緒に連れてって。出発!」

 三人は嫌々力を合わせて、真ん中のスターサファイアだけちょっと力を抜いたりしつつも、アリスの家までこの荷物を運んでいくことになった。とはいえ、すぐにこいしは運ばれることに飽きてしまって、むしろ追い越していく始末だった。


 森の日差しの明るい中に建つ、とても可愛らしい家にたどり着いたら、こいしがいささか遠慮なしに戸を叩く。反応がある前に後ろを振り向くと、三妖精はまだ追いついておらず、必死にこっちに来ているのが見える。もう一度振り返ると、二階の窓から人形が顔を出して探るようにこいしを見ている。続けて警戒した表情でアリス・マーガトロイドが、開けた扉から姿を見せた。

「あなたは……古明地こいしさん?」

 問いにこいしは笑顔で返した。

「こんにちは、遊びに来ちゃいました!」

 アリスは怪訝そうな顔を見せた。すぐに三妖精も降りてきて、ますます不思議そうになった。

「あなたたち、仲良しだったの?」
「そうだよー」とこいしは答えた。
「そうでもないですけど」と妖精たちは控えめに答える。「さっき捕まっちゃったんです」

 追い返すわけにもいかないから、とアリスは中に招き入れた。アリスからすると何をするかわからないこいしはちょっと怖いのであった。まして部屋に入れるのは。しかしそもそも選択肢などなかったので、アリスは四人を迎え入れた。何しろこいしが本気で入ってこようとしたらいったい誰が押しとどめられるというのか。せめて道を制限するだけだ。

「そっちの部屋は入らないで! それに触らない! こっちに来て!」

 引きずられるように客室に通されると、紅茶とケーキが出てきた。

「お菓子だ、嬉しいな。幽香さんのうちに行った時と同じだ」

 しばらくみんなでお話をしたり、三妖精を着せ替えしたりして遊んだ。こいしは人形に興味津々で、今度アリスに一つ作ってもらう約束をした。
 遊び疲れてのんびりしてきたところで、アリスがこいしに話しかけてきた。

「最近、幽香の家にも行ったの?」
「え? うん、弾幕ごっこをしてね、負けたんだ」
「ふーん、あなたが負けるって、なんだか想像できないわね。いや、そもそも勝負が始まらなそうって意味で」
「それがねー……おかしいんだよ、あのひと。私がどこに隠れても見つけてくるんだ。ひまわりがいつもこっち向いててね」
「ああ幽香の能力……? あれって弾幕ごっこで使える能力だったのね……」
「私は悔しいよ。ね、ね、どうやったら勝てるかな?」
「知らないわ。花のないところで戦えばいいんじゃない?」
「その手があったか。地底に呼び出すことってできるかな?」
「あんまり呼ばれても行きたい場所じゃないわね……」
「冬まで待てばいいんじゃないですか? 花だって枯れちゃうから」

 と横で聞いてた妖精たちも話に入ってきた。

「そもそも戦う必要あるの?」
「仲良しになればいいんじゃない?」
「花畑を燃やしたらだめかな?」
「いや、こいしさん、それは絶対だめですよ……」

 こいしの提案はみんなからかなり強めに止められてしまった。いかにもやりかねない、と彼女は思われているようだ。

「あ、そうだ。アリスさんだってお花育ててるよね。お花に話しかけたりするの?」

 こいしは窓から顔を出して庭を眺めた。

「することもあるよ」

 ちょっとはずかしそうにアリスは答えた。

「花はなんて答えるの」
「それはわかんないな」
「じゃあどうして話しかけるのさ!」
「大事に育ててるからつい言葉が出るだけよ。理由なんて別に……」

 なんとなくだと言われると納得せざるを得ないこいしだった。

「でもそれなら、やっぱりお姉ちゃんの言う通り花に心なんてないんだ。人形に心がないみたいに」
「あ、まあそうだけど、でも、だけどもね、聞いてよ」と急にスイッチが入ったアリスがまくしたてる。「私は、人形遣いなんだ。まるで、そう、人形が生きてるように動いてほしくて、そのためにいつも研究してるんだけど……本当に生きさせることは確かになかなかできないんだ。外見は人間の形をしているのに、心を持たせるって簡単なことじゃないのよ。ところが、幽香はあんな、いくらでもいっぱいに咲いてるような花と会話ができるっていうの。私は絶対嘘だと思ってるけど。あいつはそういうところあるから。ところで付喪神っているじゃない。こいしちゃんとも仲がよかったわよね。その付喪神だって要するに元は物なわけじゃない? それがどうして心を、魂を持つようになったか、というのを研究するのも私はいいと思ってるの。だからほら、妖精だって自然の中から生まれてきてどうして心を持っているのか、なんてことも、知りたいわ。ね、わかる? ……って、寝ないでよ! みんな!」

 いつの間にかすっかり日は落ちて、自然と共に暮らす妖精さんたちと、おまけのこいしは眠くなってしまっていた。アリスは悲しい顔をしながらも、指を動かしてその糸がつながった人形に寝床の用意をさせた。それから四人をむりやり起こして、歯だけは磨かせた。磨いたらみんな即座にまた眠った。

「……おやすみなさい」

 アリスは四つの寝顔に向けて言った。


 こいしが次に起きるととっくに日が高くなっていた。ひどい寝相のために、布団があさっての方向に飛んでいって、横に置いてあった五十センチくらいの可愛らしい人形がかぶってしまっている。

「お前も寝てたんだね」

 人形をちゃんと寝かせて布団を整えていい子いい子していたら、アリスがやってきた。

「おはよう。やっと起きたのね。もう妖精たちは帰ったわよ。お昼ご飯食べる?」
「あ……おはようございます。えっと……いただきます」

 お礼にとこいしが小銭を出したがアリスは断った。


「今日はこれからどこ行くの?」

 アリスは机に向かって何やらお裁縫をしながら尋ねた。

「何にも決めてなーい」

 こいしはまた人形と遊んでいる。

「あっそう。まあ、いいけど、うちに居座ったりとかはしないでよね」
「居座ってほしいですか?」
「やめて! お願い! ほら、幽香のところに行きなさいよ。また勝負したら、今度は勝てるかもしれないわよ。そうだ、夜ならうまくいくかも。花も寝てるだろうから」
「あーなるほど。それなら早速行ってみます」
「えっ、今から早速? いや、私の話聞いてた? まあいいか、出ていってくれるならなんでも。どうぞいってらっしゃい。がんばってね」

 アリスに見送られて、こいしは風を切るように飛び出した。


「おーい! 花のお姉さーん!」

 ひまわり畑にやってきて、こいしは大声で呼ばわった。だが、何も反応がない。幽香の家の前まで来て、ノックをしてみたが、返事がない。留守か……とがっかりしたが、ドアノブをひねってみたら開いてしまった。強者の余裕なのか、それとも単に鍵をかけ忘れただけか、よくわからないが、こいしはためらいなく中に入っていった。


 風見幽香が買い物から帰ってきた時、彼女が自宅の玄関で目撃したのは食虫植物に逆さ吊りにされている古明地こいしの姿だった。食虫植物というのは幽香が魔界からわざわざ持ってきた特別なもので、不届き者をこらしめる彼女の罠なのだった。魔界といっておけばなんでもあるのか?

「……なにしてるの」

 幽香が呆れて聞くと、こいしは逆さのままお辞儀した。

「えへへ、こんにちは。捕まっちゃいました」

 こいしの帽子と片方の靴が落ちてしまっていて、それを拾おうと短い腕を伸ばしている。

「それ、まずは服から溶かしてっちゃうけど、ここで見ててあげましょうか?」
「えっ、やめて、お姉ちゃんに怒られちゃう。おねがーい! 助けて!」

 幽香はこいしの横をすり抜けて家に入り、荷物を置いて一息入れてからまた戻ってきた。

「なんで勝手に入ってきたの?」
「だって、開いてたから」
「そうよね、あなただもんね……開けてた私が悪かった……」
「あっ、別に悪いことしようと思ったんじゃないよ」
「へえ、そうなんだ」

 幽香は首をかしげて様子を見守っていたが、ふと気がついて尋ねた。

「だけどもこれあなたなら力ずくで脱出できるんじゃないの? なんでおとなしく溶けてるのよ」
「だって、花を大切にするって約束したから」
「……あっ、そんなこともあったっけ……。確かに花が咲いてるけど……。あんた、バカじゃないの、いえ、なんて言ったらいいかしら……わかった、わかったわ、放してあげるわよ」

 幽香が花を操るその能力を使うと、すぐにこいしは自由の身になった。ぎりぎり大丈夫、靴下以外溶けてないが、体中ベタベタになってしまった。

「まずはお風呂に入りなさい。着替えも用意してあげるし、洗濯もしてあげるから」

 わかりました!とこいしは素直に従った。


 お風呂から出て、彼女には大きすぎるパジャマを着せてもらって、ミルクを飲んだ。飲みながら幽香をちらと覗き見て、話し始める。

「この間負けてから、お姉さんに勝ちたいって思って、あちこちで話を聞いたりしてたけど、やっぱりわからなかったことがあるんだ。お姉さんはどうしてお花さんとお話ができるの?」
「難しいことを聞くわね。別にあなたたちみたいに心が読めたり通じたりするわけじゃないよ。でも、例えばそうだな……水が足りなくてしおれちゃってる時って、簡単にいえば水がほしいよーのどが渇いたよーって言ってるわけじゃない? そういうのを深く深くどんどん細かく詳しくなっていけば、やがて会話だってできてしまうと思わない?」
「え……全然思わない……ていうかよくわからない……特別な能力ってわけじゃないの?」
「思わないか……思わないならまあいいけど。納得できなくてもそれ以上は説明できないし、する気もないわ」
「私のことを花が見つけるのはどうしてなの? だって、眼を閉じた私って、人間ですら気が付かないのよ」
「人間じゃないからこそ気がつくことだってあるんじゃないかしら」
「……あーそっかー。そうかもしれないね。なるほど、そういうことか」

 こいしはおかしくなって笑い出し、続けて声を上げた。

「わかった、なんとなくわかったよ」
「何がわかったの?」
「今度は私が勝つってことが! また勝負してよ、いいでしょ、幽香さん」
「え、いやだ。私の勝ちのままでずっといさせてくれたらいいんじゃないかな」
「それはずるいよ、いけないと思うな。そんならいつか急に襲っちゃうから」
「やめなさい。しょうがないな、受けるからその時はちゃんと正々堂々と戦いましょう。はい、約束ね。それと勝手に家に入るのもなしで」

 うん、約束!と元気よくこいしが答えて、仲良しというわけでもない二人は指切りをした。
こいしちゃんのキャラ等コレジャナイがあったらすみません
私としては久しぶりに書けて嬉しいですが若干心配
過去作と比べて改行など読みやすくなるように工夫してみました
こしょ
https://twitter.com/kosyoko1
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コメント



0.50簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
会話のやり取りや雰囲気が良かったです
2.100サク_ウマ削除
こいしちゃんは奔放かわいい。石には意思はないけど小石には意思があるんだなあ。
可愛らしくて良かったです。
4.100終身削除
こいしはもちろん自由な感じの不思議ちゃんだし幽香もなんだか花の気持ちが分かるところとかこいしのあしらい方とかちょっと不思議さんって感じで相性が良いのかなと思いました みんな感情豊かでノリの良いやり取りが面白かったです
5.100大豆まめ削除
初対面に対して喧嘩腰、売り言葉に買い言葉で流れるように弾幕勝負、終わったら顔見知りの知り合い同士で仲良くお茶会、の流れがとても素晴らしく「東方」していて好きです。
こいしちゃんも、善悪に無頓着なイタズラ好きの子供っぽい自由奔放さが可愛らしくおかしみに溢れててよかったです。でも人のお弁当はとっちゃダメよ
6.無評価こしょ削除
コメント採点めちゃくちゃありがとうございます
すごく嬉しいです
書いてもらって初めて自分でも気がつくこともあって
作者としてどうかってのはともかくすごく面白いです
7.100名前が無い程度の能力削除
「これは誰の手ですか?」から「……こんにちは」までの流れに早速、浮世離れしていながらも人懐っこいこいしをありありと感じました。これは良い子なこいしちゃんですね、間違いない。かわいい。
一方会話の中でたまに差し込まれる速球がまた東方らしく、読んでいて楽しかったです。「何がわかったの?」→「今度は私が勝つってことが!」のやり取り大好き。
また、こいしと幽香の関係性が深まっていく様子には優しい気持ちにさせられましたが、アリスから幽香への視線も面白い切り口でそこにもまた物語があるんだなあと感じ入ってしまいました。
8.100名前が無い程度の能力削除
よかったです
9.100転箸 笑削除
かわいくて好き
10.100Actadust削除
ほっこりしていて好きです。
こいしと幽香、二人のタイプの違う不思議ちゃんっぷりが実に上手に表現されていると感じました。
楽しま師せて頂きました。面白かったです。
11.90クソザコナメクジ削除
かわいかった