Coolier - 新生・東方創想話

大ちゃん is 何?

2020/10/07 23:02:13
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「夜雀さん。ごちそうさまでした」

 夕焼け小焼けの森の中。
 屋台の長椅子から降りた大ちゃんが、小さなお辞儀を私にくれた。

「お粗末さま。また来てね」
「えー。もう帰っちゃうの?」
「ごめんねチルノちゃん。また明日も遊ぼうね」
「もちろん! 明日こそ決着をつけよう!」
「うん! それじゃ、バイバイ」

 手を振りながら、大ちゃんは屋台から出て行った。
 その姿が見えなくなっても氷精ちゃんは、少しの間、誰も居ない方を見続けていた。

 ガキ大将にも、結構可愛いところがある。

「ところでさ。前々から気になってたんだけど」
「だろうね。あたいが何故こんなに強いのか、気になるのも当然」
「それは後々聞くとしてさ」

 私が気になるのは、さっき帰った子の方だ。

「……大ちゃんって、何妖精?」

 妖精ってのはつまり、自然現象が具現化した存在だ。
 だからどの妖精にも、元となる現象がちゃんとある。

 氷精ちゃんは、氷の妖精。
 三人組の妖精は、光の妖精。

 では。大ちゃんこと大妖精は、いったい何の自然なんだろう。

「氷精ちゃんは何だか知ってる?」
「んー、分かんない。聞いたこと無い」
「そっかー」

 能力を使う所も見たこと無いな、そういえば。
 あえて言うならテレポート……でもあれ、他の妖精も使うよな。分からん。

「なーにもしらない♪ 知ることかなーわずー♪」
「別に何でも良くない? 友達ならそれでさー」
「ほー、良いこと言うじゃん。そんな君には、余り物をおまけしてやろう」
「やったー!」

 美味しそうに串焼きを頬張る氷精ちゃん。
 ……食事の要らない妖精的には、これも遊びの類いになるんかな。

「うーん。風とか水っぽい感じはある。植物もありえるな」
「大ちゃんに直接聞けば?」
「だってさー。あの子と会うこと少ないんだもん」

 氷精ちゃんとはそこそこの頻度で会うのに、大ちゃんは中々会えない。
 普段その2人で遊んでるんだから、もっと機会あるハズなんだけど。

「もしかして私、嫌われてる?」
「ミスティアは悪だからなー」
「なら水の妖精かな……私あっちで相当汚したもんなぁ」

 何隻何人が沈んでいる事やら。
 超絶美少女の美声に誘われたとはいえ、あんな難所で無茶する方が悪いん――。

「――待てよ?」

 私があっちでローレライと呼ばれた理由は、『ローレライという名の岩場』に現れるから。
 つまり、地名がそのまま私の名前になったワケだ。

 大ちゃんも、実はそうなのでは?

 何らかの自然現象の妖精が『大妖精』と呼ばれるようになったのでは無く。
 誰も知らないだけで、本当は『大妖精という名の自然現象』が、この世に存在しているのでは……?
 
「なんてこった……私は、真実を知ってしまった……」
「どしたの」
「大ちゃんって一体どんなものなの!?」
「いま知ったって言ったじゃん」

 待て、落ち着こう。
 単に私が知らないだけかもしれない。大ちゃんは割と知られた自然の可能性がある。
 自然に詳しい。もしくは、密接な関わりのある誰かの意見を聞きたい所ね。

「みすちー。来たよー」

 そんな想いが通じたのか。
 困惑する氷精ちゃんの背後に影が。
 
「来てくれたのね! 渡りに船!」
「うわっ。なになに、どうしたの」

 リグルは蟲の妖怪だ。
 自然と共に生きる蟲たち。間違いなく縁深い。何か知っているかもしれない。
 
「こいつ、さっきから何か変なの」
「ふうん。そうなんだ」

 何だその反応は。いつもの事だし、みたいな態度はやめろ。
 一大事だぞ。風雲急だぞ。世界の変革まった無しだぞ。
 
「リグル、単刀直入に聞くけど……大ちゃんという自然現象について知識は?」
「え? 大ちゃん、って。あの妖精の子だよね」
「そう。大ちゃんは個体の名前では無く、自然現象を指す名前である可能性が」

 私は、私の考えをリグルに伝えた。
 言葉で、身振りで、走り書きで。

 私が主張を終えると、リグルはゆっくりと眼を閉じて、柔らかく微笑んだ。

「なるほどね。それで騒いでいたんだ」

 やれやれ、と言わんばかりの口調で、長椅子に腰掛けるリグル。
 この反応……まさか、知っているのか……?

「みすちー。いい? 良く聞いて?」
「耳の穴、かっぽじり済みよ」
「じゃあ言うけど……今日はもう屋台閉めて、暖かくして寝た方が良いよ」
「過労とかじゃ無いからね?」

 目つきと声音が妙に優しいんですけど。

 いや今日の私は、むしろかなり調子良いから。
 なんなら単独ゲリラライブを検討した位だぞ。

「チルノ。今日はもう駄目みたいだから、片付け手伝ってくれる?」
「しゃーないなー。こんど花蜜ジュース作ってよね」
「扱いが完全に病人じゃんか」
「ミスティア。お前は駄目なヤツだから座ってていいぞ」
「それ、私の体調を気遣ってるんだよね? 子供特有のド直球じゃないよね?」

 クソッ。このままだと、残念なヤツのまま今日が終わってしまう。
 誰か、誰かこないか。この状況を打破する起死回生の存在が……!

「こんばんわー」

 来た。驚くべき事に、二度も機会が訪れた。
 宙に漂う黒い球体。それが解けて流れ、現れたのは見知った顔。 

「よく来た宵闇ちゃん!」

 彼女は妖精では無いけれど……光の妖精が居るんだし、闇だって自然現象だろう。
 もしかしたら、何か知っているかもしれない。
 
「ルーミアごめん。片付け、手伝ってくれるかな」
「花蜜ジュース貰えるぞ!」
「あちゃー。よく来たね、ってそういう事かー」
「それは違う! 私はあんたを待っていた!」

 その華奢な肩をがっしと掴む。
 逃げないだろうけど、逃がすものか。

「おお。喰われる側って結構新鮮かもー」
「食材としてじゃなくて! 私分かったんだよ! 大ちゃんの事が!」
「え? 大ちゃん?」
「この世界には、大ちゃんという自然現象が存在していて! それは未だ知られて無くて!」

 私は話した。隠された現象を。
 私は話した。世界の裏側を。

 身を振り、手を振り、腰を振り。
 改めて紙に書いて説明し、目を見開いて熱弁を振るい。

 そして。全てを語り終えた私は叫んだ。

「宵闇ちゃんはどう思う!? 何か知ってる!?」

 彼女はいつもの暢気顔が嘘のように、真剣な表情をしている。
 やはり、知っているのか?

 その小さな口が開き、私へ向けて、答えを紡いだ。

「脳みそまで閉店したのか?」
「辛辣ッ!」

 いま本気で馬鹿にしたぞこいつ。
 この後『ついでにそのまま命も閉じろよ』とか言いそうな顔してるぞ。

「そーなのかーって言いなさいよ……! 十八番だろうがよ……!」
「やだよ……私だって最低限のラインってモノがあるし……」
「抵触しちゃった?」
「ブチ抜いて闇の底だよ」

 うーん……何だか冷静になってきた。
 
 大ちゃんは名前か通称だろ。私は馬鹿か?
 私の説が正しければ。例えば氷精ちゃんはチルノじゃなくて、氷とか凍結って個人名になるだろうが。

 リグルごめん。私、駄目だったわ。
 
「店長さん? 大丈夫ー?」
「いや、うん。なんか落ち着いてきた」

 危なかった。この話を余所でしなくて本当に良かった。
 もし話してたら入水モノだ。

「まあでも、気持ちは分かるよー。実は私、本人に聞いたことあってさー」
「え、聞いたの!? 先に言ってよそういうの!」
「だって聞かれなかったし?」
「宵闇ちゃん……ホントそういうとこクソッタレよね……」
「照れるわー」
「照り焼くぞこの野郎」

 まあ。それでも私の痴態は拭えないんだけど。
 いやそれよりも真相だ! 答えを聞こう!
 
「で、何だったの。あの子の出自」
「いや、それがさー。聞いた途端にスッって真顔になって、凄い勢いで逃げ出しちゃってー」
「えっ。な、なんで?」
「分かんない。私も追わなかったし」

 なんてこった。むしろ謎が増えてしまった。

「「……大ちゃんって何?」」

 こうなると、俄然真相を知りたくなる。
 やっぱり、本人から聞くのが一番だけど。見つかるかなぁ。

 駄目なら最悪、あそこで聞こう。


 




 あれから一週間後の夜。

 私は、人里に潜入している。
 灯の消えた町の外れ。そこに、目的の場所がある。

 ハクタクの家だ。
 
「ごめんください」
「こんな時間にどなた……ミスティア? さてはお礼参りか?」
「違うって。違うから首を鳴らすの止めて」

 私は昔のやらかしで、人里を出禁にされている。
 と言っても、ハクタクが勝手に決めた事なんだけど。でも私は、それに大人しく従っている。
 里の中で見つかると煩いし。あの頭突きを喰らって、何度も生き残る自信も無いし。
 
「どうしても、あんたに聞きたい事があってさ」
「私に? 分かった。上がりなさい」
 
 小さくて、物が多いのに、しっかり片付いているハクタクの家。
 入るのは果たしていつ振りだろう。

「大した物は無いが」 

 何とお茶を出してくれた。里ごと出禁の妖怪にだ。
 律儀というか、何というか。

「ありがと」
「礼は言えるようになったか。成長だな。先生嬉しいぞ」
「誰が先生よ。そんな事より。私が聞きたいのは……大妖精のこと」
「チルノとよく一緒にいる妖精か」

 流石に知ってるか。
 私は恥を忍んで、ここまでの経緯と、知りたいことを説明した。

「……要するに、大妖精は何者なのか。それを知りたいんだな?」
「うん。直接聞こうと一週間探し回ったのにさぁ。全っ然見つかんないの。他のヤツも、誰も知らないし」
「随分と頑張ったな」
「骨折りだったけどね。あんたなら知ってそうだと思ってさ」

 なるほど、と呟いて。ハクタクがお茶を一口飲む。

「あえて出禁の場に来るほどだ。よっぽど知りたいんだな」
「そうよ。里の外れとはいえ、来るの大変だったんだから」
「うんうん。知を追い求めるその姿勢は、とても大事だぞ」
「そういうのはいいからさぁ。早く教えてよ」
「相変わらず不良だな。まったく」
 
 元々綺麗な正座を、更に正すハクタク。
 思わず私も、座り直す。

 風の音もしない、人里外れの夜。
 歴史の半獣が、私をまっすぐ見据えて言った。

「いいかミスティア。お前は多くの可能性を秘めている」

 んっ?

「例えばいつの日か、誰もが畏怖する大妖怪に……お前にはそういう、良き未来を目指す権利がある」

 なになに。

「だから、その、なんだ……今日はお茶だけ飲んで帰りなさい」

 ハクタクがだんまり決め込んだ!?

「やだやだ、やめて。マジで怖いんだけど、冗談だよね? そうだよね?」
「このまま何も聞かずに帰れば、お前のを修正せずに済む。だから、な?」
「お前のを修正って何ッ!?」

 うん。そうだよね。
 余計な詮索は、もう止めよう。
 
 チルノだって、友達ならそれで良いと言っていた。
 大妖精は、たまに遊びに来てくれる、可愛くて優しい妖精の子。それでいいじゃないか。

 別に怖いからとか、そういう訳ではないから。

 いや、あの、本当に。 

 





「氷精ちゃん。あんたの友達はアブない女だったよ……」
「そらそうよ。大ちゃんは凄いからね。例えば、湖のそばに半分崩れた祠があるじゃん?」
「えっ。あの辺には、そんなもの無いはずだけど……?」
「あれだってさ、大ちゃんが近づいた時だけ崩れた側から……あ、これはナイショだった」
「頼むからナイショにしといて……これ以上謎を増やすな……!」
大ちゃん is 何? いかがでしたでしょうか。

お読みの通り、何の中身も無いお話です。あとがきに書くことも無くて困ります(二回目)

それでは。お読み頂き、ありがとうございました。
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コメント



0.120簡易評価
1.100転箸 笑削除
けっきょく彼女は何なのか...
2.90奇声を発する程度の能力削除
一体彼女は何だったのか...
3.100終身削除
果たして彼女は何だったんでしょうか... 照れるわ 照り焼くぞで我慢できませんでした ほんわかした会話と間の空気があるのに急に辛辣な返しでとげとげしくなるので笑いました  この世には知らない方がいいこともあるんですね
4.100名前が無い程度の能力削除
今日も今日とてみすちー可愛い
謎の女、大妖精。きっと大ちゃんの謎はこれからも増え続けるんだ
6.100サク_ウマ削除
バカルテットは今日もあほかわ。結局大ちゃんなんなのさ。
みすちーの暴走ぶりが大変愉快で楽しめました。よかったです。
7.100南条削除
面白かったです
空回りしまくっているミスティアも周りの反応も最高でした
8.100Actadust削除
大ちゃん何者だよ……。
可愛いバカルテットのやり取りがとても面白かったです。
9.100名前が無い程度の能力削除
果たして彼女は何者だったのか…
10.100夏後冬前削除
もうこのノリが好き。そして大ちゃんに大いなる可能性を見出すことが出来て良きでした。怖ぇよ大ちゃん。大ちゃんis何……。
11.100名前が無い程度の能力削除
大ちゃんは何者なのか……気になって夜も眠れません
12.100水十九石削除
闇に闇を葬ったかのようなこの…形容し難く名状し難いこの…なんだったのでしょう。
ミスティアへのキレのある生暖かい罵倒にしても、慧音が気を使っているこの分からなさにしても、分からないという事実を続け様に投げられて理解せざるを得ない、そもそも何をここで言おうとしているのか分からない、ただただ怖いのかよく分からない感情が湧いてきました。
大ちゃんは不思議。ご馳走様でした…?
13.100ヘンプ削除
何も分からない大妖精……慧音先生まで口を塞ぐなんて何があったのか……謎です。
謎が謎を呼んでとても面白かったです。
14.90名前が無い程度の能力削除
みすちーが暴走しがちなお姉さんしててくぁあいい!かった
18.100ローファル削除
本人は謎を解こうと至って真面目なのに周りからことごとく残念な扱いされるミスティアがかわいそうかわいい

ほぼ出てこないのに存在感がありすぎる大妖精が
終始謎なままなのも好きな終わり方でした