何処へともなく吹き抜けていく清んだ風が、私の髪をなぞって一人くすぐったさに微笑む。同時に被っていた帽子がふわと上がるが、なんとなく大丈夫と押さえはしなかった。
あれ、と感じたのは自分が草原でひとり、知らない解放感を味わっていたから。
座っていたはずなのに疲れを感じる下半身。握っていた感触が失くなった手は手持ちぶさたとそこらの草の穂を取ろうとする。
両の目もこんなに眩しいはずがないと奥を締め付け始めた。
『……外?』
言葉に賛同するようにひとつふたつ叩くような風が吹いた。流石に飛んで欲しくはないと帽子を押さえる。
『また無意識かぁ』
ここらで私は、覚えていない自分自身の時間に眉を下げる。
『急がないと』
地上の眩しさに目が痛まないよう目深に帽子を被ってから、私は草地から足を離した。
私はドアを開ける。
『なにこれ』
開いたままのインク壺。
乾いた黒が点々と続いた先に伏した羽ペン。
すぐ横には不自然に綺麗な状態の白い紙。
事件現場のようなシチュエーションがいつの間にか私のデスク上に出来上がっていた。
もし、名付けるとしたら「白紙事件」だろうか。
『中のインクが乾くでしょ…もう』
犯人に軽く悪態をつきながら蓋を早々にしめる。
当然この状態に覚えはない。
一度熟考するも、さっきまで戯れていたペット達の喜ぶ顔が浮かびはじめたので椅子に座りながら頭を切り替る。
ペットは犯人ではない。
わざわざ私の部屋に入って私物を勝手に使った挙げ句、片付けないなんて大胆なことはしない。いつかは主人である私に心を読まれてしまうのだから…と、ここまで考えてため息をついた。
『……こいしなんだろうけど』
推理をするまでもない。ここまで変に考え込んだのは職業病というやつかもしれない。
『いつの間に帰ったんだか…』
とりあえず私はこの現場を片付けることにした。ここは私のデスクだから。
羽ペンを戻し、机に落ちたインクを拭き取ろうとする。手元ばかりが動き続けインクは変わらず同じ顔。強めに擦っても訪れない変化に焦り、まるで隠蔽中のようだと思った。
自分が惨めになる覚えもないのでインクは一旦そのままに、白紙の方に手を伸ばす。
ひっくり返すと何か書かれていた。
【お姉ちゃんへ】
まさか私宛てとは思わなかったので、驚いて少し動きを止めてしまうが、よくよく見るとかわいげのある絵が描かれていた。
ふわふわとした大きい雲がひとつ、そのまわりにハートとキラキラが描かれている。真ん中あたりは何もなく、妹はここに文章を書くつもりだったのだろう。
…もう続きは書かないのだろうか。
『……』
絵から本来書かれたであろう私宛ての内容を読み取ろうとしたが、止めた。この手紙の初めの状態を思い出したから。
『裏返し…』
白紙の面が上ということは裏返しということ。裏返しなのは「まだ見られて欲しくない」からじゃないか?
ならば悠長に読んでいる時間はない。
私は自分が薄く笑みをたたえていることを自覚する。そして、おもむろに現場を元に戻し始めた。
開いたままのインク壺。
乾いた黒が点々と続いた先に伏した羽ペン。
すぐ横には不自然に綺麗な状態の白い紙。
探偵はドアを閉める。
この「白紙事件」の完全犯罪に期待して。
犯人が現場に戻ってくる。
あれ、と感じたのは自分が草原でひとり、知らない解放感を味わっていたから。
座っていたはずなのに疲れを感じる下半身。握っていた感触が失くなった手は手持ちぶさたとそこらの草の穂を取ろうとする。
両の目もこんなに眩しいはずがないと奥を締め付け始めた。
『……外?』
言葉に賛同するようにひとつふたつ叩くような風が吹いた。流石に飛んで欲しくはないと帽子を押さえる。
『また無意識かぁ』
ここらで私は、覚えていない自分自身の時間に眉を下げる。
『急がないと』
地上の眩しさに目が痛まないよう目深に帽子を被ってから、私は草地から足を離した。
私はドアを開ける。
『なにこれ』
開いたままのインク壺。
乾いた黒が点々と続いた先に伏した羽ペン。
すぐ横には不自然に綺麗な状態の白い紙。
事件現場のようなシチュエーションがいつの間にか私のデスク上に出来上がっていた。
もし、名付けるとしたら「白紙事件」だろうか。
『中のインクが乾くでしょ…もう』
犯人に軽く悪態をつきながら蓋を早々にしめる。
当然この状態に覚えはない。
一度熟考するも、さっきまで戯れていたペット達の喜ぶ顔が浮かびはじめたので椅子に座りながら頭を切り替る。
ペットは犯人ではない。
わざわざ私の部屋に入って私物を勝手に使った挙げ句、片付けないなんて大胆なことはしない。いつかは主人である私に心を読まれてしまうのだから…と、ここまで考えてため息をついた。
『……こいしなんだろうけど』
推理をするまでもない。ここまで変に考え込んだのは職業病というやつかもしれない。
『いつの間に帰ったんだか…』
とりあえず私はこの現場を片付けることにした。ここは私のデスクだから。
羽ペンを戻し、机に落ちたインクを拭き取ろうとする。手元ばかりが動き続けインクは変わらず同じ顔。強めに擦っても訪れない変化に焦り、まるで隠蔽中のようだと思った。
自分が惨めになる覚えもないのでインクは一旦そのままに、白紙の方に手を伸ばす。
ひっくり返すと何か書かれていた。
【お姉ちゃんへ】
まさか私宛てとは思わなかったので、驚いて少し動きを止めてしまうが、よくよく見るとかわいげのある絵が描かれていた。
ふわふわとした大きい雲がひとつ、そのまわりにハートとキラキラが描かれている。真ん中あたりは何もなく、妹はここに文章を書くつもりだったのだろう。
…もう続きは書かないのだろうか。
『……』
絵から本来書かれたであろう私宛ての内容を読み取ろうとしたが、止めた。この手紙の初めの状態を思い出したから。
『裏返し…』
白紙の面が上ということは裏返しということ。裏返しなのは「まだ見られて欲しくない」からじゃないか?
ならば悠長に読んでいる時間はない。
私は自分が薄く笑みをたたえていることを自覚する。そして、おもむろに現場を元に戻し始めた。
開いたままのインク壺。
乾いた黒が点々と続いた先に伏した羽ペン。
すぐ横には不自然に綺麗な状態の白い紙。
探偵はドアを閉める。
この「白紙事件」の完全犯罪に期待して。
犯人が現場に戻ってくる。
無事犯罪が完遂されると良いですね……!
犯人はどんな事件を起こすのか、それを受けて探偵はどんなリアクションを取るのか。楽しみですね。
犯人の成す完全犯罪がどの様なものになるか楽しみです。
こいしの仕業だと気づいた瞬間のさとりの顔が目に浮かぶようでした
一方のこいしちゃんの冒頭では風景描写と機微を巧みに入れ混ぜられていて、瞳のあるなしで区別かされていたかの様に思えます。
もう少し長い物が読みたいと思いつつも、でも短編的なこの序破急な感じは良かったです。