Coolier - 新生・東方創想話

涙のゆくえ

2020/09/27 21:35:36
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 村紗は泣き虫だった。
 私が聖に連れられて寺に来た時も泣いていた。ひとりにしないで、って言って。初対面の人が泣いているなんてそんなこと見たことなくて。私は呆けてしまった覚えがある。
 それがどうだ。村紗は気がついたら泣かなくなっていた。地底に投げ込まれた時も、聖が戻ってきても。泣く姿を見なかった。

 縁側に寝転ぶ村紗に疑問を投げようとした。
「村紗、あんた……いや、やっぱりいいや」
「何よ急に。一輪が言い淀むなんていつぶり?」
 そんなの知らないよ。でも村紗、あんたはどうして泣いてないの。そんなこと私が聞くことなんて出来るわけないのに。
「もうこの話はいいの! ほら村紗、里に買い出し行くよ」
「えー、私行かないって言ったじゃんか」
「今日私が料理当番なんだけどな。村紗は夜ご飯いらないの?」
 それを聞いた村紗は縁側から起き上がり、目をきらきらさせて私を見ていた。
「一輪が当番なの! なら行く!」
 そんなに張り切らなくても。逃げはしないのに。
「来てくれるなら嬉しいわ。ほら行こう」
 起き上がる村紗の手を取って私たちは寺を出ていく。

 里は相変わらずに繁盛している。そんな中、私たちは目的の八百屋さんの前まで歩いていく。後ろを見ると村紗は着いてきていた。着いて来いって言ったのは私だけど、妙に静かだと気になる。とりあえず今は買い物に集中しようと思った。
「や、おやっさん、いつもの量で野菜くれないかしら」
「お、一輪ちゃんじゃないか。それと水蜜ちゃんも。いつものね。少し待ってろよ」
 おやっさんはそう言って奥へと引っ込んで行った。
「……村紗、静かだけどどうしたの」
「ううん、なんにもないよ。ただ人を見てただけ。賑やかだなってさ」
 村紗は周りを見ていた。私も釣られて見てみると笑い合う夫婦や、昼からお酒を飲む人、楽しそうな子供たち。色々な人がいた。
「ならいいけど……なんかあるんだったら私にも聖にも言ってくれたらいいのよ?」
 勝手に聖の名前を出したけれど良かったのだろうか。まあよしとしようかな。
「うん。分かってる。ありがとう一輪」
 その横顔がどこか無理しているように見えて。私はお節介にも心配をしていまっていたのかもしれない。

「おーい、一輪ちゃん、これな。払ってくれるな?」
 大きな鞄を持って私たちに渡すおやっさん。持ってきていた財布からいつものお金を払う。
「おやっさん、いつもありがとね」
「なあに、命蓮寺に卸してるって言ったら色んなやつが買って行ってくれるんだ、宣伝になってるよ。こっちこそありがとうな」
 そんなことを話して私たちはまたお寺に戻る。半分の荷物を持っている村紗を盗み見る。どこか呆けたようなそんな顔。何かありそうだな、と勝手にそんなことを思っていた。

 *

 夜ご飯が終わり、もう寝る時間だった。
 村紗はご飯を喜んでくれていたけれど、ひとつ浮き上がった疑問が私の頭を離れない。
 ……村紗はあんなに笑う人、だっただろうか。
 泣いていることばかり浮かんで私は違和感を感じていた。それが村紗にとって悪いものなのかもわからずに。
 自分の部屋の布団に入っても寝れない。ううんと、もぞもぞと寝転んでいるとふっと誰かが私の部屋の前の縁側を通って行った。……誰だろうか。気になった私は起きて襖を少し開けて顔を出す。
 村紗がどこかへの飛んでいるのを見た気がした。どこへ行こうと言うのだろうか? 気になってそのまま私はふわり、と浮かんだ。バレてしまうかもしれないけれど村紗を追ってみることにした。
 月が綺麗な日だった。おそらく満月なのだろうか。私を照らしていた。
 見失いそうになる村紗を追いかけると気がつくと博麗神社の近くまで来ていた。……この道は、もしかして地底に向かっている?
 ふっと村紗を見失う。おそらく、地底の竪穴に入っていったのだろう。どうする、追いかけようか。どうしようなんてそんなこと決まってるくせに何をうだうだ考えているんだろうか。
ええい、ままよ、追いかける!
 私は決まっていた決意を胸に地底の入口へと飛び込んだ。

 *

 慣れたような道で慣れてない道。地底の入口から夜に入るのは初めてだった。こんなにくらいものなのか。時々竪穴の壁に無造作に刺された松明があるのが気になる。土蜘蛛の家なのだろうな、とそんなことを思いながら降りていく。階層666も超えて地底の繁華街の前の橋まで着く。
 パルスィはいなかった。こんな夜遅くにいるわけないか。そう思って橋に1歩、足を載せるとどこからか声がした。
『お前はどこへ行くのか』
「……私は村紗を追って地底の繁華街へ」
 声に答える。
『お前はこの橋を渡るのか』
「ええ。あなたに害はなさないわ。だから渡らせてちょうだい」
 ふっと声が止まって消えた。私の前に何かいたように思った。パルスィのような見た目だったけれど……何だったんだろう。そんなことを疑問に思いつつ渡るのを許された橋を歩き出した。

 ざわざわと酒飲みのうるさい繁華街に着く。人間の里は静かなうるささだが、こちらは本当にうるさかった。
 酒飲みたちの喧騒に巻き込まれないように私は村紗が向かったと思う血の池地獄まで行こうとする。
 人や妖怪の波をかき分けながら歩いているとドン、と誰かがぶつかってきた。
「あっ、ごめんなさ……って勇儀!?」
 星熊勇儀が私の前に立っていた。ざわざわとした喧噪は続いている。
「あれ、一輪じゃないか。こんな遅くにどうしたんだ」
「いや、村紗を追っかけてきて……急いでるから……」
 勇儀はニィと笑った。
「少しだけでもいいから付き合えよ。好きだろ?」
「いや今日はそのつもりで来たわけじゃないからどいて欲しい」
「ちぇっ、つまんないの。スペルカードでもしたかったけど急いでるんだろ? ならいいよ。また酒を奢ってくれるならな!」
 ……やっぱり変わらないわね。ええ、いいわよ……
「また少しなら奢ってあげるわ! ありがとね勇儀!」
 私はタッと駆け出して行った。長いこと引き止められなくてよかった。夜の闇に消えた村紗を一人にはしなくなかったから。早く、早く!
 地霊殿の前まで来て、灼熱地獄へと繋がる道を逸れると血の池地獄がある。歩いても居られなくて私は空を飛ぶ。地上と地底を結ぶ竪穴みたいにまた降りていく。暑さを超えた先に血の池地獄が見えてきた。
 村紗は血の池地獄の前で屈んでいた。一人で丸くなっていた。

 村紗、村紗……
「村紗!」
「……着いてきちゃったんだ、一輪……」
 ぐす、と声が響く。村紗……? 泣いているの?
「馬鹿だなあ一輪は。どうして、着いてきたのさ……」

「村紗が心配だったから。あんた最近泣いてないじゃない。昔はあんなに泣き虫だったのに。違和感も感じるわよ」
「昔ってどれだけ昔のこと言ってるの……」
 ぐすっと声はして村紗は頭をかいている。
「ねえ、私はそんなに頼りなかった?」
 村紗に問いかける。村紗は立ち上がった。そうして私の方を向く。泣き腫らした目、少し出ている鼻水。今まさに泣いていたのか。
「違うよ。頼りないわけないじゃない。ただね、私は……」
 ぶわっと村紗の目から涙がこぼれる。ああ、なんて美しいのだろうか。そんな場違いなことを思う。好いた人の涙は美しいなんて……
 一歩を私は近づく。村紗は泣きながら後退りをした。
「ねえ、泣かないで村紗」
「むりだよ、わたしは……」
 一歩、また一歩。前に進む。一歩、一歩、下がっていく。ガラ、と村紗の足元が崩れた。
「村紗っ!」
 ガッと手を掴んで引き上げようとする。村紗は笑って私を引きずって二人一緒に血の池地獄に落ちた。

 何も見えなかった。村紗の姿も、私の手足も。赤、赤、赤。村紗、と叫びそうになって血の中にいることを思い出す。掴んでいる村紗の腕を引っ張りながら私は空気のある所に顔を出した。
「ぷはっ!? 村紗大丈夫!?」
「大丈夫……ねえ聞きたいんだけど……なんで一輪は私に構うの?」
 頭から血を被った村紗は問う。二人で血の池地獄に浮かぶ。
「なんでって……村紗のことが好き、じゃだめ?」
「えっ、そうなの?」
 なんか墓穴を掘ったような気がする。
「え、っと。村紗のこと好きだよ。仲間としてね。仲間が泣いてるなら助けたいじゃない?」
「まあそうだね」
 村紗は少し頷いた。
「だからさ、村紗、泣いてもいいけど、私のとこに来てれると嬉しいな。受け止めてあげるから」
「……迷惑じゃない? 本当に受け止めてくれるの?」
「うん!」
 私は大きな声で答える。こんな美しい涙を見せなくないな、なんて思って。酷い感情だと思う。誰にも言わないし、言えないけれど。
「えへへ、なら嬉しいなあ。一輪がいてくれるなんて嬉しいじゃない」
「ね、そろそろ帰ろっか。血まみれだけどとりあえずこのまま帰ったら怒られるだろうけど……いいよね?」
 怒られることが確定したのでもう開き直ろうと思う。
「あ、うん……これは聖怒るね……仕方ないか」
 村紗も諦めたようだった。私はたちは二人であははと笑っていた。

 この後私たちは夜明け前に帰ることとなり、朝早くに起きた聖に怒られてしまった。それを私たちは笑って話を聞いていた。

 泣き虫の村紗は少しだけ遠いところに行ってしまったのかもしれない。
 それでも私は村紗を手放さないのだと思う。
 泣き虫村紗、私はあんたを放さないよ。この醜い感情と一緒に。
おまけ
一輪は自分が潰される程酒を奢らされたみたいです。
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コメント



0.120簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
良かったです
3.100終身削除
知らないとこで気を張っていたような村紗とそれに気づけた一輪の友情が健気で素敵だったと思います 血の池に引きずり込んだり一輪も自分の思いを純粋なものだとは思っていなかったりお互いに思っていることもただ綺麗なだけじゃなさそうで引き込まれました
5.90大豆まめ削除
ムラいち尊い……
村紗は明るい感じも似合いますが、人知れず闇を抱えている感じもすごく似合ってしまって、
それを一輪がうまくまるごと抱きしめて上げてくれると僕は嬉しいです
6.100サク_ウマ削除
ムラいちキてるな?
良かったです
7.100Actadust削除
一輪の、聖とはまた違う優しさが光る、素敵な作品でした。面白かったです。
8.100名前が無い程度の能力削除
村紗には血の池地獄が良く似合う。
ネガティブな感情も受け止めるよいむらいちでした
9.100水十九石削除
一輪の逸る気持ちとその走りが文章のスピード感を以て示されている感じがとても良かったです。
二人どこかすれ違っていた様で、でも聖に怒られているところで”私たち”って表現が使われていてそこが元の鞘にしっかりと戻れたんだな、と確かに分かるようなこの感じ。
一方通行では無い思いの交錯が光る文章でした。面白かったです。
10.100南条削除
面白かったです
村紗に寄り添えるのは一輪だけなんだと思いました
こればっかりは聖にもできないだろうとそう感じました
さすが一輪
11.100めそふらん削除
ムラいちかわいい
一輪の気持ちは純粋なものではなかったけれど、それに村紗が救われるのが良かったと思いました。
2人とも血の池地獄で笑い合ってほしい。
13.100名前が無い程度の能力削除
ムラいちをありがとう