一
その人形が図書館に現れたのはパチュリー・ノーレッジの午後の優雅なティータイム中のことだった。
大図書館の巨大な扉がぎい、と三寸ばかり開かれぎい、と閉じる。椅子を揺らし、紫色のヴェールのような髪を重そうにかき上げ、緩慢に扉の方を見やると、扉のずっと足元に三寸ばかりの人形がおり、律儀に床をトコトコ歩いてこちらに来るのがパチュリーの瞳に映った。
人形は赤毛のおさげで赤茶色を基調とした暖色系の衣装を身に纏ってベレー帽を被っていた。ざっくり言えば“秋らしい”装いだ。
そうしてティーテーブルまで歩いてくると、スカートをつまんでぺこりとお辞儀をするので、パチュリーはわざとらしいため息とともに不承不承人形の脇を両手で掴みあげて、テーブルの上に乗せてやった。
いそいそと人形は背中のかわいいリュックサックから荷物を取り出してパチュリーに差し出した。
封筒だった。
宛名も差出人もない不躾な封筒を受け取ると、パチュリーはそれを裏返した。デフォルメされた紅葉の絵柄のシールで封がしてあった。
シールを剥がし、封を開け、二つ折りの便箋を取り出す。がさりと便箋を開いてみれば、薄い灰色の罫線の上に青いインクのかわいい字で次のように書いてあった。
“紅葉狩りに行きませんか”
パチュリーは左から右へと舐めるように眼球を動かすと、手紙に人差し指と中指と薬指をかざした。小さい魔法陣が指先にぼうっと顕れ、青い字の下の行に次のような文字が焼きこまれた。
“いつ?”
パチュリーは便箋を人形に渡した。人形は便箋を眺めると、少しの間なにもしない時間があり、そのあとにいそいそとリュックサックから鉛筆を取り出すと、パチュリーの字の下に書き加えた。人形はパチュリーに便箋を渡した。
“次の木曜日はどうですか”
パチュリーは便箋に指をかざした。
“木曜日は用事がある。金曜日ではどうか”
パチュリーは人形に便箋を渡した。
人形は少し動きを止めてから鉛筆を走らせた。
人形はパチュリーに便箋を渡した。
“金曜日は都合が。土曜日はどうですか”
パチュリーは便箋に指をかざした。
“可能”
パチュリーは人形に便箋を渡した。
人形は少し動きを止めてから鉛筆を走らせた。
人形はパチュリーに便箋を渡した。
“では土曜日にしましょう”
パチュリーは便箋に指をかざした。
“待ち合わせは?”
パチュリーは人形に便箋を渡した。
人形は少し動きを止めてから鉛筆を走らせた。
人形はパチュリーに便箋を渡した。
“お昼頃に私が紅魔館まで迎えに行きます”
パチュリーは便箋に指をかざした。
“わかった”
パチュリーは人形に便箋を渡した。
人形は少し動きを止めてから鉛筆を走らせた。
人形はパチュリーに便箋を渡した。
“機密保持のため、この人形は十秒後に爆破されます”
素早くパチュリーは小型の魔法陣を展開し、魔力で実体のないハサミを構築すると、宙で操ってちょきちょきと人形の周囲の空間を切った。
十秒経った。
人形は爆破されなかった。
そしてうんともすんとも言わなくなった。
魔法のハサミを消すとパチュリーは便箋を封筒に戻し、紅葉シールを貼り直すと、鉛筆と一緒にリュックサックの中に入れてやった。
そしてうんともすんとも言わなくなった人形を大事に抱きかかえ、ふらりと椅子から浮かび上がり、無数の本棚で作られた路地裏に入り込み、ひとつの本棚の前で止まると、手をかざして呪文を唱えた。
本棚が浮かび上がって、接地していた床が消え、地下へ続く階段が顕れた。
パチュリーは階段に足をつけることなく地下に下りると、魔法で部屋のあかりを灯した。
パチュリーひとりが入れるかどうかという狭い部屋の壁一面に嵌め込まれた棚に、ずらりと色とりどりの人形が並べられていた。
パチュリーは抱きかかえている人形を丁寧に棚の空いているスペースに置いた。
「おや」
パチュリーは、ひいふうみいと棚の段数を数え、しっとりとした笑みを浮かべた。
「百体目だわ。今日はいい日ね」
ニ
バスケット・ケースを手にした人形数体を伴ってアリス・マーガトロイドがふわりと紅魔館の門前に降り立ったのは土曜日のお昼頃のことだった。
アリスは赤茶色を基調とした軽やかな秋物のコートを柔い涼風に靡かせながら、門に背中を預けてシエスタをしている門番に声をかけた。
「ごきげんよう」
門番はぱちりと片目を開けた。
「こんにちは」
「パチュリーは?」
アリスが訊ねると、門番はもう片目を開けて紅い三つ編みを揺らしながら背を起こし、門の閂に手をかけた。
「こちらでお待ちです」
がらがらがら。門番のしなやかな筋力で紅魔館の門が開く。アリスの視線は中央の広い道から紅い屋敷の中央に掲げられた午後零時十三分を指す巨大な時計へと誘導される。
しかし門番が大きなスリット付きの緑色のスカートを翻して「こちらへ」と手を伸ばしたのは道から分岐した先にある小さな白い天蓋つきのテーブルの方だったのでアリスの意識は時計には留まらなかった。
天蓋の中に紫色の長い髪が見えた。
「パチュリー様。お客様がいらっしゃいました」
門番が言うと、緩慢にパチュリーは椅子から腰を浮かし、アリスの前に姿を現した。
「早かったのね」
「普通よ」
アリスはパチュリーの姿を見た。
月の飾りと紙のリボンがついたいつもの帽子。パチュリーらしい薄紫のドレスに、秋物のカーディガンを羽織っている。そして、首には月の飾りがついた藍色のマフラーを巻いていた。
「そのマフラー……」アリスが言った。「去年の冬に渡したやつじゃない」
「そうね」パチュリーが言った。「嫌だったかしら」
「いいえ」
アリスはふっと横に首を振って、まったく嬉しそうじゃなく言った。
「嬉しいわ」
「…………」
パチュリーは黙った。
アリスの「嬉しいわ」は建前で表情が本音なのか、それとも表情の方が建前で「嬉しいわ」の方が本音なのか、判断しかねた。
アリスには、こういった、言っていることの内容と抑揚や表情が噛み合っていない時がしばしばあり、それは人に接する態度としてどうかと思わないでもなかったが、パチュリーは表情に関して人に説教できるような立場では到底ないという自覚だけはあったので、その、アリスの感情表情のちぐはぐさを、黙って受け入れるほかに、なかった。
「行きましょう、アリス」
「ええ、パチュリー」
そうして二人は門番に見送られながら、紅魔館の門を、一人は歩いて、一人は浮遊して、あとにしたのだった。
三
紅葉狩りは、パチュリーとアリスにより毎年行われる恒例行事だった。
紅葉──厳密に言えば、既に木から離れた落ち葉。人々や獣が踏むとぱりぱりと鳴って砕ける、あるいはぐちゅぐちゅと鳴って湿った地面に貼り付く、木にとって役目を終えた葉。
死骸。
魔女は術を行う上で死骸をよく使う。蜥蜴だとか、鳩だとか、ネズミだとかだ。
落ち葉は、もっともお手軽にかつ大量に入手できる死骸だ。
だから、秋の頃になると、パチュリーとアリスは“紅葉狩り”に出かけるのだった。ほかの魔女を誘ったこともあったが、「落ち葉拾いとか。慈善事業かよ。魔女はそんな地味な真似しないぜ」と言って断るので、結局パチュリーとアリスの二人で行くのが恒例だった。
どこへと聞かれれば妖怪の山の麓である。
人間が寄り付かないので邪魔される心配がなく、揉め事が起きたとしても巫女が飛んでくるような領域ではない。
「よく晴れているわ」
アリスが言った。
木々に宿る色とりどりの紅葉の合間から、まぶしいほどの水色が覗いている。
ブーツで獣道をしっかりと踏みしめるアリスとは違い、パチュリーはいつも通り地に足をつけることなく僅かに浮遊しながら移動していた。
「湿度が低い。気温も低い。砕けやすいわね」
教師のような口ぶりでパチュリーが言うので、アリスは溜め息混じりに笑った。
「要注意ってことね」
「そういうこと」
得意そうに言いながら、パチュリーは内心で安心した。
アリスの表情が自然に綻ぶのを見たからである。
べつに、アリスは特別に無表情な妖怪というわけではない。落ち込んだ時は口をへの字に眉をハの字にしてしんなりしたり、策を弄しては得意げに笑ってみせたり、怒りで目を吊り上げたり、むしろ表情は豊かな部類だ。
しかし、前述したような感情表現のちぐはぐさが、美しい顔に貼り付いて顕れるのを一度見てしまうと──……人形遣いのこのアリスこそ人形なのではないか……彼女には精神とかっていうものが果たして皆無なのかも知らん……──などといった妄想が頭を掠め、谷へと落下するがごとく、パチュリーの指が心理学の本のページをめくりそうになったりするので、それを払拭するアリスのごく自然な表情の変化はパチュリーのからだのこわばりをほぐすものだった。
そのくらい、アリスの無表情という表情の印象はパチュリーにとって強かった。
「ここにしましょう」
やがて二人は、紅い林の中の少し開けた場所に出た。小屋ひとつでも建ちそうな空間だ。
過去に、アリスとパチュリーがこのあたりを訪れた際にいくつか見つけた広場のうちのひとつだった。
細い声でパチュリーがそう言うと、アリスは頷いた。
わざわざパチュリーが言ったのは、やはり、アリスにとって自分は師でなければならない、先輩で、老獪で、“わざわざ教えてやっている”立場でなければならない、という、ノブレスオブリージュというよりはむしろイニシアチブを強く意識した故のことであった。
アリスはパチュリーがイニシアチブを取ろうがなんだろうがどうでもよかった。知識と経験さえ得ることができれば。それがパチュリーによってもたらされるのであれば、パチュリーに従って損はないと考えていた。パチュリーが優れた魔女なのは確実なのだから。……あくまで“優れた魔女”であって、“自分より優れた魔女”とは、寸分たりともアリスは思っていないが……。
そういった微細な緊張感がアリスとパチュリーの周囲の空気をもうずっと取り囲んでいた。
二人は協力して、広場の中央に魔法陣を描いた。むろん、落ち葉が積み重なった地面には物体的な魔法陣は描けない。魔力で魔法陣を描いた。細かいレーザーだ。人間が触れると満身創痍になるだろう。
その魔法陣の中央に移動すると、二人は足元に魔力を注ぎ込んだ。
ざあ──紅葉が吹き上がった。
山吹色、橙色、紅色、赤茶色、色とりどりの落ち葉が青空を埋め尽くす。
二人の足元から魔法陣を越え広場を越え遠くの方まで魔力が届き、ここを中心に嵐が広がっていくかのように、しかし木々は揺らさずに落ち葉だけが、宙へと舞っていった。地面は禿げ上がり土が露出した。
吹き上がった大量の落ち葉はぴたりと空中で停止した。
パチュリーが宙に浮いた落ち葉たちに指をかざすと、凝縮され小さな赤から黄色のグラデーションをもった結晶になり、パチュリーの周囲を惑星にとっての衛星のようにぐるぐると回り始めた。
アリスは人形たちを操って、せっせせっせとバスケット・ケースの中に落ち葉をおさめさせていた。
「これで木属性魔法の濃度が高まるわ」
「これで落ち葉の魔力を織り込んだ人形を作れるわ」
二人は口々に言った。毎年同じような文句を言っていた。
これが、“紅葉狩り”の実態である。
しばらく二人はその作業に没頭した。
四
パチュリーを周回する結晶が小指程度の大きさのものがひとつきりだったのが拳大の数十個になり、アリスの人形たちのバスケット・ケースがパンパンになり、宙に固定された落ち葉たちがおおよそ取り除かれる頃には、青色だった空は紫と橙を混ぜたような色になっていた。
「前々から思っているのだけど。お前のそれは非効率じゃないのか」
「素材そのままを持って帰るのが効率的なの。私にはね」
「ふん」
パチュリーとアリスは不機嫌そうに会話していた。不機嫌そうなだけであって実際のところ二人とも特に不機嫌ではない。不機嫌そう、つまるところ無表情なのはパチュリーとアリス両方にとってニュートラルの顔だった。
お互い承知の上のことだ。
だからこそ関係が長く続いている。
止まっていた風が吹き始め、木々は枯れ葉を落とすのを再開し始めた。
そして、枯れ葉が枝からゆっくりと地面に落ちるように、夕焼け空からゆっくりと紅い少女がふわり、ごく自然に姿を現した。
夕焼けで橙に染まった金髪に紅葉の髪飾り。紅葉をかたどった紅いスカートの裾。儚げな笑顔。神性。
紅葉の神だった。
アリスとパチュリーは彼女を拝んだ。
アリスは人形の一体を引き寄せて、リボン付きの特別なバスケット・ケースを開いた。中にはティーセットとマドレーヌ入りの菓子袋が入っていた。
アリスはティーカップを取り出すとパチュリーに渡した。菓子袋も取り出して、神様に献上した。
神様はマドレーヌを頬張ると、幸せそうに笑った。
パチュリーはアリスから受け取ったティーカップに木属性魔法で作り出した茶葉を入れ、水属性魔法で作り出した水を火属性魔法で熱して注ぎ、神様に献上した。
神様は紅茶を啜り、やはり幸せそうに笑った。
「毎年来てくれてありがとう」神秘的な声で神様は仰った。次のようなことも付け加えられた。「みんな喜んでいるわ」
アリスとパチュリーはなんとなく誇らしい気分になった。
白い喉を鳴らして紅茶を飲み干し、ふう、と白い息を吐いて、ティーカップをアリスに返すと、神様はふっと姿を消した。
静寂。
「私たちもお茶の時間にしましょう、アリス」
「賛成ね」
イニシアチブを意識してパチュリーが言うと、アリスはリボン付きのバスケット・ケースから紅葉柄のレジャーシートを取り出し、ばさりと広げた。二人はスカートを押さえながらその上におずおずと座った。
アリスが新しいティーカップを二つ取り出すと、神様にしたのと同じようにしてパチュリーは紅茶を注いだ。
アリスは菓子袋を二つ取り出した。
「どっちがいい?」
アリスが言った。
パチュリーは思考をした。
菓子袋の見た目はふたつとも同じように見えた。袋の色も、口を締めるリボンも、大きさも一緒に見えた。
アリスの顔はパチュリーを見ているだけで左右の菓子袋に対しまっまく揺らぎを見せていない。
パチュリーはアリスの顔、もっといえば瞳に対し、「どう見てもまっすぐ私を見ているのに見られている気がまったくしない。奇妙だ。意思がないかのようだ」などと思い、谷へと落下しかけたが、菓子袋を選んでいる最中だということを思い出し、留まった。
アリスの瞳、もっといえば虹彩は不思議な特性を持っていて、光の当たる角度によって青色に見えたり、黄色に見えたりした。なにか特別な力があるのでは、ふつうでは見えないものが見えたり、見たものの状態を変えてしまったりとか、そういう力が瞳に宿っているのではないか、とパチュリーは推察し、アリスにそのまま聞いたことがあったが、アリスの答えは「さあ。身に覚えはないわ。皆無」だった。
その時のアリスの瞳は、西が黄色、東が青色に見えた。
「そっち」
パチュリーは東のアリスの手を指差した。
「どうして?」
「風水的に、そっちのほうがうまい」
「風水のことは、もっと教えを請う必要があるのね」
「請うたところで、教えてやるとは限らないよ。慈善事業じゃないんだから」
「じゃああげない」
「むっ」
「ふたつとも私が食べちゃう」
「ぐっ」
西だろうが東だろうがアリスのマドレーヌがうまいことはわかりきっている。パチュリーは自らの髪を縛るリボンをわさわさと触ったりした。
「……どうしてもというなら教えてやろう」
「ありがとう」
まったくありがとうと思っていなさそうな顔でアリスは菓子袋をパチュリーに渡した。パチュリーは言葉と顔の優先度について考えながら菓子袋を受け取った。
封を解き、黄金色の焼き菓子が顔を出す。鼻を近づけると甘い濃いにおいが鼻孔を支配する。パチュリーはマドレーヌにかじりついた。
芳醇な、こぼれおちそうな、蕩けるような甘さが口いっぱいに広がって。ふわふわとした生地のなかに時たまに遭遇する砕かれた果実の固さがいいアクセントになっていて。
ブルーベリーだ。パチュリーは思った。
ブルーベリーはパチュリーの好物だった。
「ブルーベリー入りなのね」
「そうね」
「風水的にうまいわ」
「そう? よかった」
「そっちは何味なの」
もそもそと自分のぶんのマドレーヌを齧っているアリスに訊ねると、アリスは暴露した。
「ブルーベリー味よ」
ブルーベリーはアリスの好物だった。
「……アリス」
「なに」
「そっちとこっちって全く同じなの?」
「焼き加減とか生地の量とか果実の数とかはあると思うけど。フレーバーという意味ならまあ同じよ」
「えっ……じゃあさっきの選ばせるやつってなんだったの」
「特に意味はないわ」
「ないの」
「皆無」
「…………」
パチュリーは甘さで舌が痺れ始めてきた。
アリスが、なぜ二択を迫ったのか推理を始めた。無意味なことをしてパチュリーを翻弄し、イニシアチブを取るためかもしれない。しかし、それがもし正解か、あるいは不正解だったとしても、正誤を教えてくれるような存在はここにはおらず、「皆無」という三音だけがパチュリーの喉を通り胃に坐った。
アリスは、紅茶を飲んで、ほっと白い息を吐いていた。
「秋ね……」
アリスはさざめく紅葉とその間から見える夕焼け空を見上げていた。
そこに郷愁なんてものはなく、アリスがなにを思って「秋ね……」などと口にしたのかパチュリーにはまったくわからなかったが、「秋ね……」を殊更に否定する理由も言葉もなかったので、パチュリーは紅茶を啜って、白い息を吐いた。
「そうね」
アリスの髪を、瞳を、肌を、夕焼けが橙色に染めている。パチュリーはそれを見て、消えてしまいそうなほど美しく、また、その美しさは無機物的であると思った。
「ねえパチュリー」
空を見上げたままアリスが言った。
「なに、アリス」
「あなたの髪って、夕焼けに映えるわね。溶けてしまいそう」
まったくパチュリーの方を見ないでアリスが言うので、パチュリーは自律神経が失調しそうになった。
「アリス。アリス」
「なに」
「あなたって……」パチュリーは言うか迷った。「仕草や表情と言葉がまったく合致していない時があるけど……」言えば二度と会わなくなるかもしれないと思ったが、もう言ったあとだったので、いいや言っちまえと思った。「それってとても……」
「…………」
「とても……」
「…………」
「とても……」
「…………」
「好きよ」
アリスは谷へと落下した。
【了】
その人形が図書館に現れたのはパチュリー・ノーレッジの午後の優雅なティータイム中のことだった。
大図書館の巨大な扉がぎい、と三寸ばかり開かれぎい、と閉じる。椅子を揺らし、紫色のヴェールのような髪を重そうにかき上げ、緩慢に扉の方を見やると、扉のずっと足元に三寸ばかりの人形がおり、律儀に床をトコトコ歩いてこちらに来るのがパチュリーの瞳に映った。
人形は赤毛のおさげで赤茶色を基調とした暖色系の衣装を身に纏ってベレー帽を被っていた。ざっくり言えば“秋らしい”装いだ。
そうしてティーテーブルまで歩いてくると、スカートをつまんでぺこりとお辞儀をするので、パチュリーはわざとらしいため息とともに不承不承人形の脇を両手で掴みあげて、テーブルの上に乗せてやった。
いそいそと人形は背中のかわいいリュックサックから荷物を取り出してパチュリーに差し出した。
封筒だった。
宛名も差出人もない不躾な封筒を受け取ると、パチュリーはそれを裏返した。デフォルメされた紅葉の絵柄のシールで封がしてあった。
シールを剥がし、封を開け、二つ折りの便箋を取り出す。がさりと便箋を開いてみれば、薄い灰色の罫線の上に青いインクのかわいい字で次のように書いてあった。
“紅葉狩りに行きませんか”
パチュリーは左から右へと舐めるように眼球を動かすと、手紙に人差し指と中指と薬指をかざした。小さい魔法陣が指先にぼうっと顕れ、青い字の下の行に次のような文字が焼きこまれた。
“いつ?”
パチュリーは便箋を人形に渡した。人形は便箋を眺めると、少しの間なにもしない時間があり、そのあとにいそいそとリュックサックから鉛筆を取り出すと、パチュリーの字の下に書き加えた。人形はパチュリーに便箋を渡した。
“次の木曜日はどうですか”
パチュリーは便箋に指をかざした。
“木曜日は用事がある。金曜日ではどうか”
パチュリーは人形に便箋を渡した。
人形は少し動きを止めてから鉛筆を走らせた。
人形はパチュリーに便箋を渡した。
“金曜日は都合が。土曜日はどうですか”
パチュリーは便箋に指をかざした。
“可能”
パチュリーは人形に便箋を渡した。
人形は少し動きを止めてから鉛筆を走らせた。
人形はパチュリーに便箋を渡した。
“では土曜日にしましょう”
パチュリーは便箋に指をかざした。
“待ち合わせは?”
パチュリーは人形に便箋を渡した。
人形は少し動きを止めてから鉛筆を走らせた。
人形はパチュリーに便箋を渡した。
“お昼頃に私が紅魔館まで迎えに行きます”
パチュリーは便箋に指をかざした。
“わかった”
パチュリーは人形に便箋を渡した。
人形は少し動きを止めてから鉛筆を走らせた。
人形はパチュリーに便箋を渡した。
“機密保持のため、この人形は十秒後に爆破されます”
素早くパチュリーは小型の魔法陣を展開し、魔力で実体のないハサミを構築すると、宙で操ってちょきちょきと人形の周囲の空間を切った。
十秒経った。
人形は爆破されなかった。
そしてうんともすんとも言わなくなった。
魔法のハサミを消すとパチュリーは便箋を封筒に戻し、紅葉シールを貼り直すと、鉛筆と一緒にリュックサックの中に入れてやった。
そしてうんともすんとも言わなくなった人形を大事に抱きかかえ、ふらりと椅子から浮かび上がり、無数の本棚で作られた路地裏に入り込み、ひとつの本棚の前で止まると、手をかざして呪文を唱えた。
本棚が浮かび上がって、接地していた床が消え、地下へ続く階段が顕れた。
パチュリーは階段に足をつけることなく地下に下りると、魔法で部屋のあかりを灯した。
パチュリーひとりが入れるかどうかという狭い部屋の壁一面に嵌め込まれた棚に、ずらりと色とりどりの人形が並べられていた。
パチュリーは抱きかかえている人形を丁寧に棚の空いているスペースに置いた。
「おや」
パチュリーは、ひいふうみいと棚の段数を数え、しっとりとした笑みを浮かべた。
「百体目だわ。今日はいい日ね」
ニ
バスケット・ケースを手にした人形数体を伴ってアリス・マーガトロイドがふわりと紅魔館の門前に降り立ったのは土曜日のお昼頃のことだった。
アリスは赤茶色を基調とした軽やかな秋物のコートを柔い涼風に靡かせながら、門に背中を預けてシエスタをしている門番に声をかけた。
「ごきげんよう」
門番はぱちりと片目を開けた。
「こんにちは」
「パチュリーは?」
アリスが訊ねると、門番はもう片目を開けて紅い三つ編みを揺らしながら背を起こし、門の閂に手をかけた。
「こちらでお待ちです」
がらがらがら。門番のしなやかな筋力で紅魔館の門が開く。アリスの視線は中央の広い道から紅い屋敷の中央に掲げられた午後零時十三分を指す巨大な時計へと誘導される。
しかし門番が大きなスリット付きの緑色のスカートを翻して「こちらへ」と手を伸ばしたのは道から分岐した先にある小さな白い天蓋つきのテーブルの方だったのでアリスの意識は時計には留まらなかった。
天蓋の中に紫色の長い髪が見えた。
「パチュリー様。お客様がいらっしゃいました」
門番が言うと、緩慢にパチュリーは椅子から腰を浮かし、アリスの前に姿を現した。
「早かったのね」
「普通よ」
アリスはパチュリーの姿を見た。
月の飾りと紙のリボンがついたいつもの帽子。パチュリーらしい薄紫のドレスに、秋物のカーディガンを羽織っている。そして、首には月の飾りがついた藍色のマフラーを巻いていた。
「そのマフラー……」アリスが言った。「去年の冬に渡したやつじゃない」
「そうね」パチュリーが言った。「嫌だったかしら」
「いいえ」
アリスはふっと横に首を振って、まったく嬉しそうじゃなく言った。
「嬉しいわ」
「…………」
パチュリーは黙った。
アリスの「嬉しいわ」は建前で表情が本音なのか、それとも表情の方が建前で「嬉しいわ」の方が本音なのか、判断しかねた。
アリスには、こういった、言っていることの内容と抑揚や表情が噛み合っていない時がしばしばあり、それは人に接する態度としてどうかと思わないでもなかったが、パチュリーは表情に関して人に説教できるような立場では到底ないという自覚だけはあったので、その、アリスの感情表情のちぐはぐさを、黙って受け入れるほかに、なかった。
「行きましょう、アリス」
「ええ、パチュリー」
そうして二人は門番に見送られながら、紅魔館の門を、一人は歩いて、一人は浮遊して、あとにしたのだった。
三
紅葉狩りは、パチュリーとアリスにより毎年行われる恒例行事だった。
紅葉──厳密に言えば、既に木から離れた落ち葉。人々や獣が踏むとぱりぱりと鳴って砕ける、あるいはぐちゅぐちゅと鳴って湿った地面に貼り付く、木にとって役目を終えた葉。
死骸。
魔女は術を行う上で死骸をよく使う。蜥蜴だとか、鳩だとか、ネズミだとかだ。
落ち葉は、もっともお手軽にかつ大量に入手できる死骸だ。
だから、秋の頃になると、パチュリーとアリスは“紅葉狩り”に出かけるのだった。ほかの魔女を誘ったこともあったが、「落ち葉拾いとか。慈善事業かよ。魔女はそんな地味な真似しないぜ」と言って断るので、結局パチュリーとアリスの二人で行くのが恒例だった。
どこへと聞かれれば妖怪の山の麓である。
人間が寄り付かないので邪魔される心配がなく、揉め事が起きたとしても巫女が飛んでくるような領域ではない。
「よく晴れているわ」
アリスが言った。
木々に宿る色とりどりの紅葉の合間から、まぶしいほどの水色が覗いている。
ブーツで獣道をしっかりと踏みしめるアリスとは違い、パチュリーはいつも通り地に足をつけることなく僅かに浮遊しながら移動していた。
「湿度が低い。気温も低い。砕けやすいわね」
教師のような口ぶりでパチュリーが言うので、アリスは溜め息混じりに笑った。
「要注意ってことね」
「そういうこと」
得意そうに言いながら、パチュリーは内心で安心した。
アリスの表情が自然に綻ぶのを見たからである。
べつに、アリスは特別に無表情な妖怪というわけではない。落ち込んだ時は口をへの字に眉をハの字にしてしんなりしたり、策を弄しては得意げに笑ってみせたり、怒りで目を吊り上げたり、むしろ表情は豊かな部類だ。
しかし、前述したような感情表現のちぐはぐさが、美しい顔に貼り付いて顕れるのを一度見てしまうと──……人形遣いのこのアリスこそ人形なのではないか……彼女には精神とかっていうものが果たして皆無なのかも知らん……──などといった妄想が頭を掠め、谷へと落下するがごとく、パチュリーの指が心理学の本のページをめくりそうになったりするので、それを払拭するアリスのごく自然な表情の変化はパチュリーのからだのこわばりをほぐすものだった。
そのくらい、アリスの無表情という表情の印象はパチュリーにとって強かった。
「ここにしましょう」
やがて二人は、紅い林の中の少し開けた場所に出た。小屋ひとつでも建ちそうな空間だ。
過去に、アリスとパチュリーがこのあたりを訪れた際にいくつか見つけた広場のうちのひとつだった。
細い声でパチュリーがそう言うと、アリスは頷いた。
わざわざパチュリーが言ったのは、やはり、アリスにとって自分は師でなければならない、先輩で、老獪で、“わざわざ教えてやっている”立場でなければならない、という、ノブレスオブリージュというよりはむしろイニシアチブを強く意識した故のことであった。
アリスはパチュリーがイニシアチブを取ろうがなんだろうがどうでもよかった。知識と経験さえ得ることができれば。それがパチュリーによってもたらされるのであれば、パチュリーに従って損はないと考えていた。パチュリーが優れた魔女なのは確実なのだから。……あくまで“優れた魔女”であって、“自分より優れた魔女”とは、寸分たりともアリスは思っていないが……。
そういった微細な緊張感がアリスとパチュリーの周囲の空気をもうずっと取り囲んでいた。
二人は協力して、広場の中央に魔法陣を描いた。むろん、落ち葉が積み重なった地面には物体的な魔法陣は描けない。魔力で魔法陣を描いた。細かいレーザーだ。人間が触れると満身創痍になるだろう。
その魔法陣の中央に移動すると、二人は足元に魔力を注ぎ込んだ。
ざあ──紅葉が吹き上がった。
山吹色、橙色、紅色、赤茶色、色とりどりの落ち葉が青空を埋め尽くす。
二人の足元から魔法陣を越え広場を越え遠くの方まで魔力が届き、ここを中心に嵐が広がっていくかのように、しかし木々は揺らさずに落ち葉だけが、宙へと舞っていった。地面は禿げ上がり土が露出した。
吹き上がった大量の落ち葉はぴたりと空中で停止した。
パチュリーが宙に浮いた落ち葉たちに指をかざすと、凝縮され小さな赤から黄色のグラデーションをもった結晶になり、パチュリーの周囲を惑星にとっての衛星のようにぐるぐると回り始めた。
アリスは人形たちを操って、せっせせっせとバスケット・ケースの中に落ち葉をおさめさせていた。
「これで木属性魔法の濃度が高まるわ」
「これで落ち葉の魔力を織り込んだ人形を作れるわ」
二人は口々に言った。毎年同じような文句を言っていた。
これが、“紅葉狩り”の実態である。
しばらく二人はその作業に没頭した。
四
パチュリーを周回する結晶が小指程度の大きさのものがひとつきりだったのが拳大の数十個になり、アリスの人形たちのバスケット・ケースがパンパンになり、宙に固定された落ち葉たちがおおよそ取り除かれる頃には、青色だった空は紫と橙を混ぜたような色になっていた。
「前々から思っているのだけど。お前のそれは非効率じゃないのか」
「素材そのままを持って帰るのが効率的なの。私にはね」
「ふん」
パチュリーとアリスは不機嫌そうに会話していた。不機嫌そうなだけであって実際のところ二人とも特に不機嫌ではない。不機嫌そう、つまるところ無表情なのはパチュリーとアリス両方にとってニュートラルの顔だった。
お互い承知の上のことだ。
だからこそ関係が長く続いている。
止まっていた風が吹き始め、木々は枯れ葉を落とすのを再開し始めた。
そして、枯れ葉が枝からゆっくりと地面に落ちるように、夕焼け空からゆっくりと紅い少女がふわり、ごく自然に姿を現した。
夕焼けで橙に染まった金髪に紅葉の髪飾り。紅葉をかたどった紅いスカートの裾。儚げな笑顔。神性。
紅葉の神だった。
アリスとパチュリーは彼女を拝んだ。
アリスは人形の一体を引き寄せて、リボン付きの特別なバスケット・ケースを開いた。中にはティーセットとマドレーヌ入りの菓子袋が入っていた。
アリスはティーカップを取り出すとパチュリーに渡した。菓子袋も取り出して、神様に献上した。
神様はマドレーヌを頬張ると、幸せそうに笑った。
パチュリーはアリスから受け取ったティーカップに木属性魔法で作り出した茶葉を入れ、水属性魔法で作り出した水を火属性魔法で熱して注ぎ、神様に献上した。
神様は紅茶を啜り、やはり幸せそうに笑った。
「毎年来てくれてありがとう」神秘的な声で神様は仰った。次のようなことも付け加えられた。「みんな喜んでいるわ」
アリスとパチュリーはなんとなく誇らしい気分になった。
白い喉を鳴らして紅茶を飲み干し、ふう、と白い息を吐いて、ティーカップをアリスに返すと、神様はふっと姿を消した。
静寂。
「私たちもお茶の時間にしましょう、アリス」
「賛成ね」
イニシアチブを意識してパチュリーが言うと、アリスはリボン付きのバスケット・ケースから紅葉柄のレジャーシートを取り出し、ばさりと広げた。二人はスカートを押さえながらその上におずおずと座った。
アリスが新しいティーカップを二つ取り出すと、神様にしたのと同じようにしてパチュリーは紅茶を注いだ。
アリスは菓子袋を二つ取り出した。
「どっちがいい?」
アリスが言った。
パチュリーは思考をした。
菓子袋の見た目はふたつとも同じように見えた。袋の色も、口を締めるリボンも、大きさも一緒に見えた。
アリスの顔はパチュリーを見ているだけで左右の菓子袋に対しまっまく揺らぎを見せていない。
パチュリーはアリスの顔、もっといえば瞳に対し、「どう見てもまっすぐ私を見ているのに見られている気がまったくしない。奇妙だ。意思がないかのようだ」などと思い、谷へと落下しかけたが、菓子袋を選んでいる最中だということを思い出し、留まった。
アリスの瞳、もっといえば虹彩は不思議な特性を持っていて、光の当たる角度によって青色に見えたり、黄色に見えたりした。なにか特別な力があるのでは、ふつうでは見えないものが見えたり、見たものの状態を変えてしまったりとか、そういう力が瞳に宿っているのではないか、とパチュリーは推察し、アリスにそのまま聞いたことがあったが、アリスの答えは「さあ。身に覚えはないわ。皆無」だった。
その時のアリスの瞳は、西が黄色、東が青色に見えた。
「そっち」
パチュリーは東のアリスの手を指差した。
「どうして?」
「風水的に、そっちのほうがうまい」
「風水のことは、もっと教えを請う必要があるのね」
「請うたところで、教えてやるとは限らないよ。慈善事業じゃないんだから」
「じゃああげない」
「むっ」
「ふたつとも私が食べちゃう」
「ぐっ」
西だろうが東だろうがアリスのマドレーヌがうまいことはわかりきっている。パチュリーは自らの髪を縛るリボンをわさわさと触ったりした。
「……どうしてもというなら教えてやろう」
「ありがとう」
まったくありがとうと思っていなさそうな顔でアリスは菓子袋をパチュリーに渡した。パチュリーは言葉と顔の優先度について考えながら菓子袋を受け取った。
封を解き、黄金色の焼き菓子が顔を出す。鼻を近づけると甘い濃いにおいが鼻孔を支配する。パチュリーはマドレーヌにかじりついた。
芳醇な、こぼれおちそうな、蕩けるような甘さが口いっぱいに広がって。ふわふわとした生地のなかに時たまに遭遇する砕かれた果実の固さがいいアクセントになっていて。
ブルーベリーだ。パチュリーは思った。
ブルーベリーはパチュリーの好物だった。
「ブルーベリー入りなのね」
「そうね」
「風水的にうまいわ」
「そう? よかった」
「そっちは何味なの」
もそもそと自分のぶんのマドレーヌを齧っているアリスに訊ねると、アリスは暴露した。
「ブルーベリー味よ」
ブルーベリーはアリスの好物だった。
「……アリス」
「なに」
「そっちとこっちって全く同じなの?」
「焼き加減とか生地の量とか果実の数とかはあると思うけど。フレーバーという意味ならまあ同じよ」
「えっ……じゃあさっきの選ばせるやつってなんだったの」
「特に意味はないわ」
「ないの」
「皆無」
「…………」
パチュリーは甘さで舌が痺れ始めてきた。
アリスが、なぜ二択を迫ったのか推理を始めた。無意味なことをしてパチュリーを翻弄し、イニシアチブを取るためかもしれない。しかし、それがもし正解か、あるいは不正解だったとしても、正誤を教えてくれるような存在はここにはおらず、「皆無」という三音だけがパチュリーの喉を通り胃に坐った。
アリスは、紅茶を飲んで、ほっと白い息を吐いていた。
「秋ね……」
アリスはさざめく紅葉とその間から見える夕焼け空を見上げていた。
そこに郷愁なんてものはなく、アリスがなにを思って「秋ね……」などと口にしたのかパチュリーにはまったくわからなかったが、「秋ね……」を殊更に否定する理由も言葉もなかったので、パチュリーは紅茶を啜って、白い息を吐いた。
「そうね」
アリスの髪を、瞳を、肌を、夕焼けが橙色に染めている。パチュリーはそれを見て、消えてしまいそうなほど美しく、また、その美しさは無機物的であると思った。
「ねえパチュリー」
空を見上げたままアリスが言った。
「なに、アリス」
「あなたの髪って、夕焼けに映えるわね。溶けてしまいそう」
まったくパチュリーの方を見ないでアリスが言うので、パチュリーは自律神経が失調しそうになった。
「アリス。アリス」
「なに」
「あなたって……」パチュリーは言うか迷った。「仕草や表情と言葉がまったく合致していない時があるけど……」言えば二度と会わなくなるかもしれないと思ったが、もう言ったあとだったので、いいや言っちまえと思った。「それってとても……」
「…………」
「とても……」
「…………」
「とても……」
「…………」
「好きよ」
アリスは谷へと落下した。
【了】
しかしこの楽しげなリアルタイム文通は幻想郷式のLINEかなにか?(魔女以外使用困難)
つっけんどん、魔法しか考えていなさそうな魔術師然とした様な雰囲気を両名から漂わせておきながら内情は自爆人形蒐集に物理的な紅葉狩りに、極め付きは谷から落ちるアリス。これはもう百合と断じてもバチが当たる訳がないでしょう。
風水的に完璧に面白かったです。
独身男性のように端的な連絡からの淡々と進む紅葉狩り
しかし最後の最後に持ってくるひと言にすべてを持っていかれました
谷でした