池の水は澄んでいて、底まで見通せそうだ。少し前に雨が降ったのでその時は水が濁っていたが、今はもう汚れなど消えてしまっていた。
じっ、と覗きこんでいると、水面に映った私が私を覗きこんでいた。いったい、こいつは何を考えているんだ。やはり、こいつも私と同じ事を考えているのだろうか。それとも、鏡像といえども全く違う事を考えているのか。
私はこいつの目の奥深くを見ようとして、水面に顔を近づけすぎて鼻先が濡れた。すこし離して、改めて見つめてみる。
どこまで行っても、何も無かった。私だから何も無いのか、鏡像だから何も無いのか。
「やい、お前よ。私はお前に無いものを持っているぞ」
私は思いっきり笑ってやった。口角を上げ、目を細めた。すると、こいつは思いっきり笑った。奇しくも、快活ないい笑顔だ。
次に、思いっきり怒ってやった。頬を膨らませ、眉を眉間に寄せた。そしたら、こいつも思いっきり怒った。見ている此方が吃驚するほど、そして怖くなるほどの憤怒の表情だった。
次は、思いっきり寂しい表情をした。目尻に涙を浮かべ、口をへの字に曲げた。こいつは寂しそうな表情をした。思わず慰めたくなるような、なんとも物悲しそうな表情だった。
「アーハッハッハ...」
私は思いっきり笑った。なんだか可笑しくて、心の底から笑い転げた。お腹が痛くなるほど笑いながら、なんとか水面を見ると、こいつは私と同じくらいに笑っていた。
笑いが落ち着いてきたので、もう一度水面を覗く。何食わぬ顔の私がいた。
「こころちゃん、何してるの?」
「こいしか。これを見てみろ」
私はこいつを指さした。全く同じ動きで、こいつも私を指さした。
「こころちゃんが映ってるね。それで?」
「表情の練習をしてたんだが、中々いいパートナーなんだ」
「...それなら、別に水が相手じゃなくてよくない?」
「ふむ。そうかもしれない」
「じゃあさ、私にその練習してた表情を見せてみて」
「いいぞ」
にかっ、と見せつけるように笑顔を浮かべた。すると、こいしは私と同じように笑顔を浮かべた。
「こいしが鏡になってくれるのか?」
「笑顔だけ、ね」
それならあいつでも良かった。だが、この方が自然に表情を出せる気がする。
「仕方ない。今日は笑顔の練習だけをしよう」
「うんうん、その方がいいよ」
そして、こいしが笑った。私もつられて笑った。
じっ、と覗きこんでいると、水面に映った私が私を覗きこんでいた。いったい、こいつは何を考えているんだ。やはり、こいつも私と同じ事を考えているのだろうか。それとも、鏡像といえども全く違う事を考えているのか。
私はこいつの目の奥深くを見ようとして、水面に顔を近づけすぎて鼻先が濡れた。すこし離して、改めて見つめてみる。
どこまで行っても、何も無かった。私だから何も無いのか、鏡像だから何も無いのか。
「やい、お前よ。私はお前に無いものを持っているぞ」
私は思いっきり笑ってやった。口角を上げ、目を細めた。すると、こいつは思いっきり笑った。奇しくも、快活ないい笑顔だ。
次に、思いっきり怒ってやった。頬を膨らませ、眉を眉間に寄せた。そしたら、こいつも思いっきり怒った。見ている此方が吃驚するほど、そして怖くなるほどの憤怒の表情だった。
次は、思いっきり寂しい表情をした。目尻に涙を浮かべ、口をへの字に曲げた。こいつは寂しそうな表情をした。思わず慰めたくなるような、なんとも物悲しそうな表情だった。
「アーハッハッハ...」
私は思いっきり笑った。なんだか可笑しくて、心の底から笑い転げた。お腹が痛くなるほど笑いながら、なんとか水面を見ると、こいつは私と同じくらいに笑っていた。
笑いが落ち着いてきたので、もう一度水面を覗く。何食わぬ顔の私がいた。
「こころちゃん、何してるの?」
「こいしか。これを見てみろ」
私はこいつを指さした。全く同じ動きで、こいつも私を指さした。
「こころちゃんが映ってるね。それで?」
「表情の練習をしてたんだが、中々いいパートナーなんだ」
「...それなら、別に水が相手じゃなくてよくない?」
「ふむ。そうかもしれない」
「じゃあさ、私にその練習してた表情を見せてみて」
「いいぞ」
にかっ、と見せつけるように笑顔を浮かべた。すると、こいしは私と同じように笑顔を浮かべた。
「こいしが鏡になってくれるのか?」
「笑顔だけ、ね」
それならあいつでも良かった。だが、この方が自然に表情を出せる気がする。
「仕方ない。今日は笑顔の練習だけをしよう」
「うんうん、その方がいいよ」
そして、こいしが笑った。私もつられて笑った。
笑顔の練習なら、鏡面とにらめっこするよりも、気の合う友人と過ごす方がずっとよいでしょうね