「は? ゆうえんち……ってなんだ?」
人里の裏路地にて私たちは話していた。正邪は頭にはてなマークを浮かべていた。私をはそれを見て言い方を間違えたのかと思った。
遊園地が、幻想入りしたのは何故だろうか?
迷いの竹林の中に、ある日唐突に現れたもの。遊具を沢山備えた人間の遊びの場所。あんなものが外の世界にあるだなんてそんな馬鹿な、と見に行った私は思ったものだ。
紫様は言った。あれは人間たちの娯楽であったのだと。動くのであれば遊んでみるのもいいかもしれない、と。
なら、あれを動けるようにして、迷いの竹林の兎と締結して道案内してもらうのはどうかと言ってみた。
あら、橙は遊んでみたいのかしら。それはもちろんです。
そんなことを話したら、紫様は笑って直してみようかしら、なんて言ってスキマでどこかへと行ってしまった。
「遊園地は人間が娯楽のために遊んでいた場所だよ。私は少し乗ってきたんだけど面白かったよ」
正邪は何も分からないらしくうんうんと唸っていた。
「全くわからん。お金も何もかからないなら行ってやるけどよ……捕まらないだろうな?」
ああ、そんなこと。
「捕まらないよ。紫様、正邪のこと捕まえる気ないみたいだもの。まあ、際どい所までしなかったら大丈夫だと思うよ」
「クソっ、下克上しなきゃな……」
正邪は舌をかみながらそんなことを言った。それをやめろと言っているのにさ。
「おいおい、やめてくれよ……? 紫様に怒られるんだけどなあ」
「そんなん知るか! 私の存在意義を奪うな! お、殴り合うか?」
「いやあのさあ! 今日は喧嘩しに来たんじゃないんだけど! 遊びに誘ってるの! 来てくれないかな!」
キィと声を高くして伝える。誘ってるのに気がついてくれないんだもの。気がつけよ!
「ええ、そんな訳わかんないものに誰が行くかよ」
「そんな事言わないでさあ!」
正邪にすがりついてみた。無理やり離される。くるんと回って着地した。
「よし、スペルカードで決めるか!」
私は叫んだ。こいつ頑固だな……なら実力行使!
「いいけど、お前喧嘩をやりに来なかったんじゃなかったのかよ!」
そういった途端弾幕を放った。
ちなみに僅差で勝ったのは私だった。
*
迷いの竹林に向けて私たちは飛び始めた。正邪はヤダとか何とか言っていたけれどスペルカードに負けたことを言ったら諦めて着いてきてくれた。正邪と遊んでみたかったんだ。楽しそうだな。
「なあ、迷いの竹林って迷わないのか?」
「迷うよ? 兎に案内してもらうんだ。そうじゃないと見つけられないし」
どこに行かすつもりなんだよ……と正邪。大きなため息をついていた。私は笑う。大丈夫だと言う。紫様に連れられて一応乗ったから大丈夫。
そんな心配なことを言うなよと告げる。楽しくいこうぜ。
隣の正邪は心底嫌そうな顔をしながら私の後ろをついてくる。天邪鬼なやつなのに難儀なことだなと勝手なことを思いつつ私たちはは竹林の入口に着いた。
「こんにちは。遊園地まで案内よろしくね」
入口のそばにいた兎に声をかける。兎は私たちを見たあとついてこいとでも言うかのようにぴょんぴょんと跳ねていった。
私たちは歩いて着いていく。咄嗟に正邪の手を握ると跳ね除けられたけれど素直に着いてきてくれたことが嬉しかった。
「なあ、これってどこまで行くんだ?」
「竹林の奥の奥まで行くのさ。そこに遊園地はあるんだよ」
「へえ。よく分からんがそれはそれで楽しみだな」
正邪は笑う。楽観しているのだろうか。そう言えば凶悪な遊具があると伝えていなかったけれどまあいいか。
「楽しみなら余程楽しめるよ。期待しておいて!」
ぴょんぴょん跳ねる兎に走ってついていった。
「ちょ、おい待てよ!」
正邪は私を追いかけて走ってきた。
遊園地に着いた途端に兎は私になにかよこせと言ってきた。お駄賃代わりの持っていた人参を出してあげた。そこで喜んでポリポリと食べ始めていた。
「うわあ……なんだあれ」
正邪は遊園地の入口で立ち止まる。ジェット……なんだったかな、それの高い高いコースが遊園地中を駆け巡っているのを正邪は見ていた。
「なんだったっけ……ジェットなんとかと言ったけど忘れた。あれは最後に乗るから中に入ろう」
「お、おう」
正邪より先に歩いて中に入っていく。沢山の遊具が見える。メリーゴーランドに、ティーカップ……紫様曰く一昔前の遊園地、と仰っていた。私たちからすれば最新に近いけれど。
さっき名前を上げた二つは試し乗りした。まあ、楽しかったと思う。正邪にも乗せてやりたい。
「おお、なんかいっぱいあるな。あのカップなんだ?」
指をさしているのはティーカップだった。
「それじゃあそれから乗ろうか」
*
「ぎゃああああ、やめろ、そんなに回すな!」
「がははは! なんだこれ面白いぞ!」
正邪は楽しそうに笑っている。ティーカップが、回る。グルングルンと私たちを振り回すように回る。それにつられて私の視界は回る。回りすぎて吐きそうだった。気持ち悪い。
「なんでてめえそんなに目が回ってないんだよ!?」
「がははは、能力使ってるからなあ!」
クソっ、その能力よこせ! あっ、ダメ……
「正邪下ろせぇえええ、マジで吐く、やめろ、おっぷ」
「げええ、汚ねえぞ!」
ガンっといきなりティーカップは止まる。回る反動で正邪の体と引っ付いていた。待ってそんなこと関係ない死ぬやめろ吐く……
しっかりと止まったことを確認して私は厠へ全力ダッシュをした。ふらふらすぎて途中で倒れたりもしたけれどどうにか到着出来た。
結果、思い切り吐いた。正邪のせいだ! 感覚無くなるまで回すんだから! うっぷ、思い出すだけで気持ち悪い。
私は吐いてスッキリ出来たあと、またティーカップの前まで行くと正邪は座って待っていた。
「よお、思い切り吐いたか?」
「お前のせいだよ!? あんだけ回してさ、手加減してくれよ……」
がははと正邪は笑っていた。
*
次に乗ろうと話していたのはメリーゴーランド。これは……試しに乗った時は見かけ騙しだと思った。まあ、正邪はなんて言うかな。
「とりあえずこれ乗ろうぜ。なんか見てる限りつまんなさそうだけど」
つんつんとメリーゴーランドの馬をつつく正邪。まあ、そうなるよね。
「好きな馬に乗ったらいいよ」
「あれなんだ?」
指さす先はゴンドラ、だったかな。4人ほどで乗れる箱のようなもの。
「一人乗りじゃないやつ。あれ乗るのか?」
「乗る」
私はびっくりしてしまった。それを乗るなんてどうしてどうだろう。正邪は一人で回る一番外側に座っていた。馬に乗ろうとしていた私はなにか正邪が外を見るものだから気になってしまった。……一緒に乗るか。
「隣失礼するよ」
「なんで乗ってくるんだよ。そこらに馬あるじゃないか」
「別に? 乗っても問題ないだろ?」
「あのなあ」
ゴウンとメリーゴーランドは回り出した。ティーカップの時よりとてもゆるい動きで馬たちはゆっくりと上下している。ゴンドラは何も動かずにくるくると回っているだけだった。
「……こんなもんなのか?」
「そうらしいよ。紫様が言うところには外の世界の子供がとても喜んだとか」
「ふーん。子供騙しだな。まあ、雰囲気は嫌いじゃないけどな」
正邪はゴンドラの手掛けに肘を乗せてつまらなそうにしていた。子供騙しのような遊具はダメだったのだろうか。
「楽しかった?」
「まあそこそこ」
「……次行こっか」
正邪が何も言わないことに怖さを覚えて次の遊具に案内した。
*
「うわあ、入った時から気になってたけどこれデカイな」
ええとなんだっけ、ジェットなんとかの前に立っている。遊園地中に張り巡らされたレールがこの遊具の特徴を表しているようだ。これは試し乗りをしていない。紫様が誰かと一緒に乗る時にしなさいって言われてしまって載せて貰えなかったからだ。
「だよね。おっきいけど乗ろうか」
正邪は楽しそうにニヤリとしながら歩いていく。私はそれを追いかけて搭乗口まで着く。
「はーい、こちらへどうぞー」
声がすると思ったら天子がいた。は?
「何で天人がいるんだよ!」
正邪が私の心の内を叫んでくれた。グッジョブ。
「うわ、天邪鬼と橙じゃない。何今日はデート?」
は? 誰がこんなやつとデートだって?
「ででで、デートってなんだよ! 違うわ! 橙に誘われてここに来たんだ! と言うかお前はなんでいるんだよ!」
いきなり言葉に詰まった正邪は早口で捲し立てていた。
「え、紫に誘われたからだけど。会いたいなら操縦室にいるけど?」
「い、いやいい……それでこれってどうやって乗るんだ?」
「そこの乗り物に乗ったらいいよ。安全装置は私が下ろすからとりあえず二人は乗って」
天子に押されて私たち貸切の乗り物の中に乗る。天子はそれを見ると胸あたりになにか下げてロックをかけていた。
「おい、これ動かないけどいいのか?」
「それでいいのよ。さ、行ってらっしゃい」
ぷるるるるとなにか音が鳴り響く。すると乗っているものが動き出した。
ガタンゴトン……
真っ直ぐ進んだと思ったらいきなり止まるかのようにガクンと体が大きく動き、乗り物が上に登って行く。
「なんだこれ……大丈夫なのか」
「わかんない、けど死にはしないでしょ」
何故か楽観していく私。怖いものが待ち構えているような気もしなくは無いけれど……
「待て、この高さ、今から落ち……」
正邪の息の根はてっぺんに着いた途端消えた。
「ぎゃあああああああああ!?」
正邪の悲鳴が上がる。
ごおおと乗り物はレールに沿って落ちていく。体が自分で発生させない浮遊感。あ、楽しい。
「ひゃっはあああああ!」
私も叫び声を上げながら正邪を見ると顔が崩れた状態で悲鳴を上げていた。待ってめちゃくちゃ面白い。
「あっはははははは! なんだ変な顔して!」
「いやあああああああああぁ……」
スピードに乗っていく乗り物は私たちを振り回した。正邪は乗っている間、悲鳴を上げ続けていた。なんか女の子らしいな……みたいなことを勝手に思った。
シュー……
勢いが良かった乗り物はガクンといきなり減速して天子と出会ったところに戻ってきた。胸の安全装置が上がる。
「おおい、正邪? 正邪?」
正邪は振り回された乗り物に魂を連れていかれそうになっていた。顔が死んでいる。意識はあるのだけれど心ここに在らず、の状態だった。
ぺしぺしと顔を軽く叩いてみる。ハッと正邪は起きた。
「この野郎! 私は帰る……!」
正邪は怒って天子に挨拶もせずに出ていってしまった。いやいつも挨拶してないけどさ。
「天邪鬼機嫌損ねたな」
「どうにかしてくるよ。ありがとね天子」
「あー、はいはい、どういたしまして」
私は正邪の後を追いかけるため走っていった。
*
「おおい、正邪待ってよ」
走って追いかけると正邪はダッシュで逃げ始めた。どうしてさ!?
そっちがその気なら私はしぶとく追いかけてやる。私たちは遊園地内をぐるぐると鬼ごっこを始めていた。すばしっこい正邪はひょいひょいと逃げてしまう。中々捕まえられなくて私はいらいらし始めてしまった。藍様に言われるのだけれど、この短気を治せと。仕方ないだろ、目の前のものが手に入らなかったらキレそうになるのは当たり前じゃないか。今欲しいのは正邪の手を取ることだ。
「待て!」
「誰が待つかよ!」
あ、なんかこれどこかで見たことあるような気がする。初めて会った時みたいな。追いかけるこの瞬間が楽しいと感じた。
ダッとスピードを上げて正邪の手を掴む。あっと驚いている正邪。私はニヤリと笑う。
「捕まえた!」
「橙、お前……」
バシィンと私の顔を平手打ちされる。痛え!
「何すんだよ!」
「何って平手だけど。お前なあ、人に載せるのに一言なにか言ってくれよ!」
正邪、ジェットなんとか……あ、ジェットコースターだ。怖かったのかな。可愛いところあるじゃん。
「何ニヤニヤしてんだよ? 殴るぞ」
「いや? 正邪が可愛いなって」
バチンとまた平手打ちをされて私は地面にすっ飛んでいった。痛い。
「ごめんってば、そんなに怒らないで」
「お前がいきなり気持ち悪いこと言うからだろ! 当分倒れとけ」
正邪は私にスペルカードをかけた。左右反転になるやつ。あ、待って気持ち悪……!?
「ははは! じゃあな橙!」
正邪は颯爽と遊園地を出ていこうとする。反転する世界を見ながら正邪はこちらに戻ってきていた。
「竹林ってこと忘れてた……橙お前が案内しろ! 帰れないだろ」
「ならこれを解いてくれよ」
「やだね。そのまま歩け」
はあ、と溜息をつきながら私は無理やり歩き出す。気持ち悪いけれど解いてくれないのならしょうがない。
私たちはまた兎の案内を受けて竹林の外に出た。
正邪は捨て台詞を吐いてどこかへと飛んでいってしまった。
「じゃあな。もう二度とあそこに行かないからな! 橙のばーか!」
人里の裏路地にて私たちは話していた。正邪は頭にはてなマークを浮かべていた。私をはそれを見て言い方を間違えたのかと思った。
遊園地が、幻想入りしたのは何故だろうか?
迷いの竹林の中に、ある日唐突に現れたもの。遊具を沢山備えた人間の遊びの場所。あんなものが外の世界にあるだなんてそんな馬鹿な、と見に行った私は思ったものだ。
紫様は言った。あれは人間たちの娯楽であったのだと。動くのであれば遊んでみるのもいいかもしれない、と。
なら、あれを動けるようにして、迷いの竹林の兎と締結して道案内してもらうのはどうかと言ってみた。
あら、橙は遊んでみたいのかしら。それはもちろんです。
そんなことを話したら、紫様は笑って直してみようかしら、なんて言ってスキマでどこかへと行ってしまった。
「遊園地は人間が娯楽のために遊んでいた場所だよ。私は少し乗ってきたんだけど面白かったよ」
正邪は何も分からないらしくうんうんと唸っていた。
「全くわからん。お金も何もかからないなら行ってやるけどよ……捕まらないだろうな?」
ああ、そんなこと。
「捕まらないよ。紫様、正邪のこと捕まえる気ないみたいだもの。まあ、際どい所までしなかったら大丈夫だと思うよ」
「クソっ、下克上しなきゃな……」
正邪は舌をかみながらそんなことを言った。それをやめろと言っているのにさ。
「おいおい、やめてくれよ……? 紫様に怒られるんだけどなあ」
「そんなん知るか! 私の存在意義を奪うな! お、殴り合うか?」
「いやあのさあ! 今日は喧嘩しに来たんじゃないんだけど! 遊びに誘ってるの! 来てくれないかな!」
キィと声を高くして伝える。誘ってるのに気がついてくれないんだもの。気がつけよ!
「ええ、そんな訳わかんないものに誰が行くかよ」
「そんな事言わないでさあ!」
正邪にすがりついてみた。無理やり離される。くるんと回って着地した。
「よし、スペルカードで決めるか!」
私は叫んだ。こいつ頑固だな……なら実力行使!
「いいけど、お前喧嘩をやりに来なかったんじゃなかったのかよ!」
そういった途端弾幕を放った。
ちなみに僅差で勝ったのは私だった。
*
迷いの竹林に向けて私たちは飛び始めた。正邪はヤダとか何とか言っていたけれどスペルカードに負けたことを言ったら諦めて着いてきてくれた。正邪と遊んでみたかったんだ。楽しそうだな。
「なあ、迷いの竹林って迷わないのか?」
「迷うよ? 兎に案内してもらうんだ。そうじゃないと見つけられないし」
どこに行かすつもりなんだよ……と正邪。大きなため息をついていた。私は笑う。大丈夫だと言う。紫様に連れられて一応乗ったから大丈夫。
そんな心配なことを言うなよと告げる。楽しくいこうぜ。
隣の正邪は心底嫌そうな顔をしながら私の後ろをついてくる。天邪鬼なやつなのに難儀なことだなと勝手なことを思いつつ私たちはは竹林の入口に着いた。
「こんにちは。遊園地まで案内よろしくね」
入口のそばにいた兎に声をかける。兎は私たちを見たあとついてこいとでも言うかのようにぴょんぴょんと跳ねていった。
私たちは歩いて着いていく。咄嗟に正邪の手を握ると跳ね除けられたけれど素直に着いてきてくれたことが嬉しかった。
「なあ、これってどこまで行くんだ?」
「竹林の奥の奥まで行くのさ。そこに遊園地はあるんだよ」
「へえ。よく分からんがそれはそれで楽しみだな」
正邪は笑う。楽観しているのだろうか。そう言えば凶悪な遊具があると伝えていなかったけれどまあいいか。
「楽しみなら余程楽しめるよ。期待しておいて!」
ぴょんぴょん跳ねる兎に走ってついていった。
「ちょ、おい待てよ!」
正邪は私を追いかけて走ってきた。
遊園地に着いた途端に兎は私になにかよこせと言ってきた。お駄賃代わりの持っていた人参を出してあげた。そこで喜んでポリポリと食べ始めていた。
「うわあ……なんだあれ」
正邪は遊園地の入口で立ち止まる。ジェット……なんだったかな、それの高い高いコースが遊園地中を駆け巡っているのを正邪は見ていた。
「なんだったっけ……ジェットなんとかと言ったけど忘れた。あれは最後に乗るから中に入ろう」
「お、おう」
正邪より先に歩いて中に入っていく。沢山の遊具が見える。メリーゴーランドに、ティーカップ……紫様曰く一昔前の遊園地、と仰っていた。私たちからすれば最新に近いけれど。
さっき名前を上げた二つは試し乗りした。まあ、楽しかったと思う。正邪にも乗せてやりたい。
「おお、なんかいっぱいあるな。あのカップなんだ?」
指をさしているのはティーカップだった。
「それじゃあそれから乗ろうか」
*
「ぎゃああああ、やめろ、そんなに回すな!」
「がははは! なんだこれ面白いぞ!」
正邪は楽しそうに笑っている。ティーカップが、回る。グルングルンと私たちを振り回すように回る。それにつられて私の視界は回る。回りすぎて吐きそうだった。気持ち悪い。
「なんでてめえそんなに目が回ってないんだよ!?」
「がははは、能力使ってるからなあ!」
クソっ、その能力よこせ! あっ、ダメ……
「正邪下ろせぇえええ、マジで吐く、やめろ、おっぷ」
「げええ、汚ねえぞ!」
ガンっといきなりティーカップは止まる。回る反動で正邪の体と引っ付いていた。待ってそんなこと関係ない死ぬやめろ吐く……
しっかりと止まったことを確認して私は厠へ全力ダッシュをした。ふらふらすぎて途中で倒れたりもしたけれどどうにか到着出来た。
結果、思い切り吐いた。正邪のせいだ! 感覚無くなるまで回すんだから! うっぷ、思い出すだけで気持ち悪い。
私は吐いてスッキリ出来たあと、またティーカップの前まで行くと正邪は座って待っていた。
「よお、思い切り吐いたか?」
「お前のせいだよ!? あんだけ回してさ、手加減してくれよ……」
がははと正邪は笑っていた。
*
次に乗ろうと話していたのはメリーゴーランド。これは……試しに乗った時は見かけ騙しだと思った。まあ、正邪はなんて言うかな。
「とりあえずこれ乗ろうぜ。なんか見てる限りつまんなさそうだけど」
つんつんとメリーゴーランドの馬をつつく正邪。まあ、そうなるよね。
「好きな馬に乗ったらいいよ」
「あれなんだ?」
指さす先はゴンドラ、だったかな。4人ほどで乗れる箱のようなもの。
「一人乗りじゃないやつ。あれ乗るのか?」
「乗る」
私はびっくりしてしまった。それを乗るなんてどうしてどうだろう。正邪は一人で回る一番外側に座っていた。馬に乗ろうとしていた私はなにか正邪が外を見るものだから気になってしまった。……一緒に乗るか。
「隣失礼するよ」
「なんで乗ってくるんだよ。そこらに馬あるじゃないか」
「別に? 乗っても問題ないだろ?」
「あのなあ」
ゴウンとメリーゴーランドは回り出した。ティーカップの時よりとてもゆるい動きで馬たちはゆっくりと上下している。ゴンドラは何も動かずにくるくると回っているだけだった。
「……こんなもんなのか?」
「そうらしいよ。紫様が言うところには外の世界の子供がとても喜んだとか」
「ふーん。子供騙しだな。まあ、雰囲気は嫌いじゃないけどな」
正邪はゴンドラの手掛けに肘を乗せてつまらなそうにしていた。子供騙しのような遊具はダメだったのだろうか。
「楽しかった?」
「まあそこそこ」
「……次行こっか」
正邪が何も言わないことに怖さを覚えて次の遊具に案内した。
*
「うわあ、入った時から気になってたけどこれデカイな」
ええとなんだっけ、ジェットなんとかの前に立っている。遊園地中に張り巡らされたレールがこの遊具の特徴を表しているようだ。これは試し乗りをしていない。紫様が誰かと一緒に乗る時にしなさいって言われてしまって載せて貰えなかったからだ。
「だよね。おっきいけど乗ろうか」
正邪は楽しそうにニヤリとしながら歩いていく。私はそれを追いかけて搭乗口まで着く。
「はーい、こちらへどうぞー」
声がすると思ったら天子がいた。は?
「何で天人がいるんだよ!」
正邪が私の心の内を叫んでくれた。グッジョブ。
「うわ、天邪鬼と橙じゃない。何今日はデート?」
は? 誰がこんなやつとデートだって?
「ででで、デートってなんだよ! 違うわ! 橙に誘われてここに来たんだ! と言うかお前はなんでいるんだよ!」
いきなり言葉に詰まった正邪は早口で捲し立てていた。
「え、紫に誘われたからだけど。会いたいなら操縦室にいるけど?」
「い、いやいい……それでこれってどうやって乗るんだ?」
「そこの乗り物に乗ったらいいよ。安全装置は私が下ろすからとりあえず二人は乗って」
天子に押されて私たち貸切の乗り物の中に乗る。天子はそれを見ると胸あたりになにか下げてロックをかけていた。
「おい、これ動かないけどいいのか?」
「それでいいのよ。さ、行ってらっしゃい」
ぷるるるるとなにか音が鳴り響く。すると乗っているものが動き出した。
ガタンゴトン……
真っ直ぐ進んだと思ったらいきなり止まるかのようにガクンと体が大きく動き、乗り物が上に登って行く。
「なんだこれ……大丈夫なのか」
「わかんない、けど死にはしないでしょ」
何故か楽観していく私。怖いものが待ち構えているような気もしなくは無いけれど……
「待て、この高さ、今から落ち……」
正邪の息の根はてっぺんに着いた途端消えた。
「ぎゃあああああああああ!?」
正邪の悲鳴が上がる。
ごおおと乗り物はレールに沿って落ちていく。体が自分で発生させない浮遊感。あ、楽しい。
「ひゃっはあああああ!」
私も叫び声を上げながら正邪を見ると顔が崩れた状態で悲鳴を上げていた。待ってめちゃくちゃ面白い。
「あっはははははは! なんだ変な顔して!」
「いやあああああああああぁ……」
スピードに乗っていく乗り物は私たちを振り回した。正邪は乗っている間、悲鳴を上げ続けていた。なんか女の子らしいな……みたいなことを勝手に思った。
シュー……
勢いが良かった乗り物はガクンといきなり減速して天子と出会ったところに戻ってきた。胸の安全装置が上がる。
「おおい、正邪? 正邪?」
正邪は振り回された乗り物に魂を連れていかれそうになっていた。顔が死んでいる。意識はあるのだけれど心ここに在らず、の状態だった。
ぺしぺしと顔を軽く叩いてみる。ハッと正邪は起きた。
「この野郎! 私は帰る……!」
正邪は怒って天子に挨拶もせずに出ていってしまった。いやいつも挨拶してないけどさ。
「天邪鬼機嫌損ねたな」
「どうにかしてくるよ。ありがとね天子」
「あー、はいはい、どういたしまして」
私は正邪の後を追いかけるため走っていった。
*
「おおい、正邪待ってよ」
走って追いかけると正邪はダッシュで逃げ始めた。どうしてさ!?
そっちがその気なら私はしぶとく追いかけてやる。私たちは遊園地内をぐるぐると鬼ごっこを始めていた。すばしっこい正邪はひょいひょいと逃げてしまう。中々捕まえられなくて私はいらいらし始めてしまった。藍様に言われるのだけれど、この短気を治せと。仕方ないだろ、目の前のものが手に入らなかったらキレそうになるのは当たり前じゃないか。今欲しいのは正邪の手を取ることだ。
「待て!」
「誰が待つかよ!」
あ、なんかこれどこかで見たことあるような気がする。初めて会った時みたいな。追いかけるこの瞬間が楽しいと感じた。
ダッとスピードを上げて正邪の手を掴む。あっと驚いている正邪。私はニヤリと笑う。
「捕まえた!」
「橙、お前……」
バシィンと私の顔を平手打ちされる。痛え!
「何すんだよ!」
「何って平手だけど。お前なあ、人に載せるのに一言なにか言ってくれよ!」
正邪、ジェットなんとか……あ、ジェットコースターだ。怖かったのかな。可愛いところあるじゃん。
「何ニヤニヤしてんだよ? 殴るぞ」
「いや? 正邪が可愛いなって」
バチンとまた平手打ちをされて私は地面にすっ飛んでいった。痛い。
「ごめんってば、そんなに怒らないで」
「お前がいきなり気持ち悪いこと言うからだろ! 当分倒れとけ」
正邪は私にスペルカードをかけた。左右反転になるやつ。あ、待って気持ち悪……!?
「ははは! じゃあな橙!」
正邪は颯爽と遊園地を出ていこうとする。反転する世界を見ながら正邪はこちらに戻ってきていた。
「竹林ってこと忘れてた……橙お前が案内しろ! 帰れないだろ」
「ならこれを解いてくれよ」
「やだね。そのまま歩け」
はあ、と溜息をつきながら私は無理やり歩き出す。気持ち悪いけれど解いてくれないのならしょうがない。
私たちはまた兎の案内を受けて竹林の外に出た。
正邪は捨て台詞を吐いてどこかへと飛んでいってしまった。
「じゃあな。もう二度とあそこに行かないからな! 橙のばーか!」
終始元気いっぱいで楽しかったです。
敬意を表する!
デートしてる橙正可愛いですね。どうせまた遊園地でイチャイチャするんでしょうね!!
もう、言葉にならない
きっと次は水族館デートでしょうね
喧嘩しに来た訳じゃないと言っておきながらもやっぱり弾幕勝負にもつれ込むその関係性も中学生が二人で和気藹々としてる様な微笑ましさがとてもとても。
今欲しいのは正邪の手を取ることだ←!!!????
紫に誘われたからだけど←!!!!!!????!?!?!???
あとさりげなくゆかてんノルマ達成してて草