刀、彼女はそれを久しぶり見た。
小野塚小町がとある森で見つけたそれは血まみれで乱暴な使い方をしたのだろうか、少し刃こぼれしている。
刀の近くには2つの死体があった。片方は男性でもう片方は女性のものだ。
死体を調べると男性のほうは首の頸動脈辺りに深い切り傷があり、そこから大量の血が失われた痕跡がある。致命傷となったのはこれだろう。死因は失血死だ。
男性の近くにはもう一つ、死体が転がっている。それは女性のものだ。そちらの死体には刃物で何度も切りつけられた上で胸を貫かれて死んでいる。胸にはうまく突き刺すことができなかったのかいくつかの刺し傷があった。
男性のほうに傷が少なかったことから女性を殺した後にこの刀を使って自害したのだろう。
しばらく死体を調べた後に彼女は大急ぎで職場へと帰った。もしかしたらこの出来事の顛末を知る魂が来ているかもしれないからだ。
魂の立ち姿は死に際に負った傷などが残っていることが多い。先ほどの死体は男性も女性もかなり目立つ傷があったために見つけるのは容易かった。
彼女は順番待ちの列から男性の魂を捕まえると休憩中から営業中へと表示を切り替え、例の魂を載せて船を出した。
しばらく漕ぎ、魂だけでは帰れないくらいの距離にすると彼女は漕ぐのをやめ、口を開いた。
「あんた、女を殺しただろ。あたいにその出来事を話してくれない。じゃないと閻魔様のところに連れて行ってあげないよ」
そう言ってにやりと笑った。
ことの顛末はこうだ。
男性は子供と一緒に妻に逃げられた。何日もかけてようやく森の小屋の中で妻を見つけるも、子供は口減らしのために殺されていた。それに激昂した男性は持っていた刀で妻を殺し自分も自殺したそうだ。
「許せない、私の子供を殺した妻が許せなかった」
彼女はこの仕事をしていてよく聞かされる話だと感じだ。だが、人間とはどうしても自分に都合のいいように話を改変してしまうものだ。それが意図的であってもなくても。
「そうか、ならいくつか質問をしていいか?引っかかることがあったんだ」
男性は黙ったままだが気にせずに話を続けた。
「まず、女性はなんで子供を連れて行ったんだろうな。口減らしで殺すくらいならあんたの元に置いていけばよかったと思わないか」
彼女は男性の返答を待たずに続ける。
「次になぜ女性がわざわざ危険な人間の里の外にある森まで行ったかだ。ただ出ていくだけなら同じ里内の別な場所でもよかったはずだ。それなになぜだろうな」
男性が何か反論しようとしているが拳を男性の眼前に突き出して制する。
「これが最後だ。これはなんだろうな?」
彼女はそういうと手首を返して拳を開く。そこにあったのは短い人間の髪の毛が束のようにまとめられているもの。
「これが何かはあたいには予想することしかできない。でもあんたにはわかるんじゃないか?」
男性はそれを見て震えている。それは後悔から来るものなのか、それとも別な感情から来るものなのか。
「あんたは少し我儘すぎる。人の道を踏み外す程度にね。女性もそれに耐えかねたんじゃないか」
男性は今まで言い返せなかった分、語気を荒げて反論する。
「お前に何がわかる!俺はあいつらのためにいろいろやっていたんだ!良くしてやっていたのにあいつは出て行きやがったんだ。あの時だって殺すつもりはなかったのにあの女が抵抗するからこうなった。全部あの女が悪いんだ」
彼女は男性の言葉を聞いて大きなため息をつく。
「我儘な上に傲慢ときたかもう救えないね。こんなやつに四季様の手を煩わせるわけにはいかないね」
彼女は立ち上がり、目の前の男性を三途の川に蹴り落とす。
蹴り落とされた男性はうまく泳げないのか必死にもがいている。
「刀ってのは人を殺すための道具だ。それを持って女を探していたあんたは最初から愛してなんかいなかったのさ」
男性ががぼがぼと音を立てながら三途の川に沈んでいった。
戦がなくなって刀の出番がなくなった平和な時代になっても与えられた道具の役割を変えることはできないのだと感じながらも久しぶりに面白い話を聞けた彼女は再び船を漕ぎ始めるのだった。
小野塚小町がとある森で見つけたそれは血まみれで乱暴な使い方をしたのだろうか、少し刃こぼれしている。
刀の近くには2つの死体があった。片方は男性でもう片方は女性のものだ。
死体を調べると男性のほうは首の頸動脈辺りに深い切り傷があり、そこから大量の血が失われた痕跡がある。致命傷となったのはこれだろう。死因は失血死だ。
男性の近くにはもう一つ、死体が転がっている。それは女性のものだ。そちらの死体には刃物で何度も切りつけられた上で胸を貫かれて死んでいる。胸にはうまく突き刺すことができなかったのかいくつかの刺し傷があった。
男性のほうに傷が少なかったことから女性を殺した後にこの刀を使って自害したのだろう。
しばらく死体を調べた後に彼女は大急ぎで職場へと帰った。もしかしたらこの出来事の顛末を知る魂が来ているかもしれないからだ。
魂の立ち姿は死に際に負った傷などが残っていることが多い。先ほどの死体は男性も女性もかなり目立つ傷があったために見つけるのは容易かった。
彼女は順番待ちの列から男性の魂を捕まえると休憩中から営業中へと表示を切り替え、例の魂を載せて船を出した。
しばらく漕ぎ、魂だけでは帰れないくらいの距離にすると彼女は漕ぐのをやめ、口を開いた。
「あんた、女を殺しただろ。あたいにその出来事を話してくれない。じゃないと閻魔様のところに連れて行ってあげないよ」
そう言ってにやりと笑った。
ことの顛末はこうだ。
男性は子供と一緒に妻に逃げられた。何日もかけてようやく森の小屋の中で妻を見つけるも、子供は口減らしのために殺されていた。それに激昂した男性は持っていた刀で妻を殺し自分も自殺したそうだ。
「許せない、私の子供を殺した妻が許せなかった」
彼女はこの仕事をしていてよく聞かされる話だと感じだ。だが、人間とはどうしても自分に都合のいいように話を改変してしまうものだ。それが意図的であってもなくても。
「そうか、ならいくつか質問をしていいか?引っかかることがあったんだ」
男性は黙ったままだが気にせずに話を続けた。
「まず、女性はなんで子供を連れて行ったんだろうな。口減らしで殺すくらいならあんたの元に置いていけばよかったと思わないか」
彼女は男性の返答を待たずに続ける。
「次になぜ女性がわざわざ危険な人間の里の外にある森まで行ったかだ。ただ出ていくだけなら同じ里内の別な場所でもよかったはずだ。それなになぜだろうな」
男性が何か反論しようとしているが拳を男性の眼前に突き出して制する。
「これが最後だ。これはなんだろうな?」
彼女はそういうと手首を返して拳を開く。そこにあったのは短い人間の髪の毛が束のようにまとめられているもの。
「これが何かはあたいには予想することしかできない。でもあんたにはわかるんじゃないか?」
男性はそれを見て震えている。それは後悔から来るものなのか、それとも別な感情から来るものなのか。
「あんたは少し我儘すぎる。人の道を踏み外す程度にね。女性もそれに耐えかねたんじゃないか」
男性は今まで言い返せなかった分、語気を荒げて反論する。
「お前に何がわかる!俺はあいつらのためにいろいろやっていたんだ!良くしてやっていたのにあいつは出て行きやがったんだ。あの時だって殺すつもりはなかったのにあの女が抵抗するからこうなった。全部あの女が悪いんだ」
彼女は男性の言葉を聞いて大きなため息をつく。
「我儘な上に傲慢ときたかもう救えないね。こんなやつに四季様の手を煩わせるわけにはいかないね」
彼女は立ち上がり、目の前の男性を三途の川に蹴り落とす。
蹴り落とされた男性はうまく泳げないのか必死にもがいている。
「刀ってのは人を殺すための道具だ。それを持って女を探していたあんたは最初から愛してなんかいなかったのさ」
男性ががぼがぼと音を立てながら三途の川に沈んでいった。
戦がなくなって刀の出番がなくなった平和な時代になっても与えられた道具の役割を変えることはできないのだと感じながらも久しぶりに面白い話を聞けた彼女は再び船を漕ぎ始めるのだった。