Coolier - 新生・東方創想話

盤読必至の竜紋魚

2020/09/03 22:57:22
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 茨木華扇は、滅多に人が来ない山中深くに住処を持つ。そこに理由があるとすれば、やはり仙人だからという事になるだろう。あるいは、厄介を呼び込まれないように。
 だが、見つからない隠れ家など存在しないのだ。華扇は、それをよく知っていた。
「...訪問者」
 誰かが侵入してきたのに気づいた時、何となくそう感じた。悪意などまるで無く、ただ見つけたから訪れたかのような雰囲気だったからだ。
 だが、そんな軽さで此処に入れるような者がいるだろうか。いつぞやの天人くずれ位のものだが。
「あら、初めまして」
「...初めまして」
 果たして、来客は竜宮の使いであった。なぜか、四本足の生えた将棋盤を持っていた。




 来客は物腰柔らかく、仕草一つにも上品さが漂う。あの天人くずれに付き添う事もあると聞き、なんとも災難だろうと思ったのだが。
「いえ、そんな事はありませんよ」
 どうやら本心からそう思っているような返答だった。
「確かに、彼女は傲慢です。しかし、それだけです」
 彼女はそこで一旦句切り、お茶を飲んだ。おいしい、とほころんだ笑みを浮かべた。
「彼女は他人を気遣い、受け入れる事が出来ます。お解りに?」
「ええ」
 それは何となく、解る。あれは邪気が無いではないが、無邪気と言えるような者だ。少し常識は無いが。
「そんな彼女だからこそ、私も付き合ってあげています」
「...ところで、その将棋盤は?」
 私はずっと気になっていた事を訊いた。なぜ彼女はこれを持って此処に来たのか。まさかお土産とでも言うつもりだろうか。
「これですか。将棋というものを覚えたので、是非お手合わせ願おうと」
「私と、ですか?」
 こくりと、彼女は深く頷いた。何が何だか、よく解らなかった。一つだけ解ったのは、どうもこの人は私と将棋を指しに来たらしい事だ。といっても、私は決して将棋が得意というわけではないのだが。




「参りました」
 結果は、私の勝ちだった。
 私が特段強かったわけではない。むしろ、下手な手を指していたと思う。それ以上に、彼女が弱かったのだ。
「ふふふ、やはり勝てませんでした。仙人様はお強いのですね」
「あ、ありがとうございます...」
 なんと答えればいいのか解らなかった。どうもこの人と話していると、解らない事が多い。
「まだまだ精進しなければなりませんね」
「...あまり悔しくなさそうですね?」
 負けたというのに、朗らかな笑みを浮かべたままの女性。勝負の結果に執着していない感じだ。
「貴女様と指していて、楽しかったので。私はそれで充分です」
「...なるほど」
 本当に、敵わない人だ。いきなり将棋を指しに来て、負けたというのに楽しかったと笑っている。
 天人とは、こういう者か。どうやら、私が思っていた以上に遠い存在だったようだ。
#東方版深夜の真剣物書き60分一本勝負

華扇ちゃんが依玖ちゃんに会ったらどう思うのか。そんな感じです。
依玖ちゃんは楽しく生きてそう。何となく。
転箸 笑
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コメント



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衣玖のなんだか掴みどころのないような感じと華扇の少し困惑したみたいな見方とかそれが周りに与えているような印象が心に残りました やっぱりこういう人じゃないと天人の相手は務まらない…