Coolier - 新生・東方創想話

袋の中の人魚姫

2020/09/01 23:24:33
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 水中探訪の折、わかさぎ姫は穴を見つけた。
 それは霧の湖の底で口を開けており、自分を待ち構えているように見えた。だがもちろん、そんな事はない。
 なんとなく気になったので、わかさぎ姫は穴に近づいてみることにした。特に危うげな感じはしなかったからだ。
 だが、彼女の勘は外れた。いや、欺かれたというべきか。
 彼女が穴に近づくと同時に、それは強烈に辺りを吸い込みはじめた。まるで、湖の水を全て飲み干そうとしているかのように。
「こんな、の...!」
 最初こそ抗えていたわかさぎ姫だったのだが、増していく水の勢いに次第に敵わなくなっていく。
 そして完全に水流に飲まれたあと、改めて穴に飲まれた。








「ゲホッ...」
 飲んでしまっていた水を吐き出しながら、私は目覚めた。
 まだ、喉の奥に水が溜まっている感じがする。だけどどれだけ咳き込んでも拭えないので、いっそ無視する事にした。
 どうやら私は水面に浮かんでいたようだ。ぷかぷかと、晩秋の季節に散った枯れ葉のように。
「目を開けたぞ!」
 そんな言葉が、上の方から投げ込まれた。
 見上げてみると、何人もの人間が私にカメラを向けていた。
「...なんで?」
 私が知るかぎりでは、カメラは天狗くらいしか持っていない。なのに何故、彼らはそれを持っているのだろうか。
「おーい、お前!話せるかー?」
 いきなりお前と呼ぶあたり、相当に常識が無い連中のようだ。取材するのなら、最低限の礼儀を持って行うべきである。
「失礼な人達ねー!」
 私は大声で返してやった。
「喋った!」
「人魚だ人魚!撮っとけ!」
 バシャバシャと、機械音が響く。本当に何なのだ、この者達は。
「捕まえれるか?」
「尻尾がでかい、網いるな」
 この言葉には、心底ゾッとした。
 そして悟った。この人達は、私を碌に扱おうとしていない。
 私は全速力でこの場を離れた。
「逃げた逃げた逃げた!」
「あっち行くなコレ。誰か回っとけ」








 それから、私は流れに逆らうように泳ぎ続けた。そしたら、いつかは山に着くはずだから。
 本当は少しでも情報を得たかったのだが、間違いなくそんな事は出来ない。下手すれば、いや下手を打たなくとも万歳楽だ。
「もー、誰か助けてよー!」
 どうせ誰も居ないだろうと思って、私はここぞとばかりに叫んだ。
「待っててください!」
「...えっ?」
 私の叫び声に、誰かが答えた。
 ヂャプン、と着水音が聴こえた。さっき答えた人間だろうか、男の子がこちらに向かって泳いできている。
「待ってて...沈まないようにしててください!」
「おバカ!」
 こんな急流で、しかも服を着たままで救助など出来るものか。
 私は男の子へと急いだ。








 なんとか、男の子を水際まで運んだ。泳ぎに自信があるとはいえ、人を抱えて泳ぐのは疲れた。
「...やっぱり、止まりかけてる」
 男の子は、呼吸をしていなかった。
 水中に居ると圧迫がしにくい。仕方なく半身を陸に出す。
 人口呼吸をして、胸骨圧迫をする。ひたすら、これを繰り返す。まだ溺れて間もないから、助かる筈だ。
「ゲェホッ!」
「全部吐ききって!」
 勢いなど無いに等しく、水を口から垂れ流す男の子。重要なのは、全部吐き出せるかどうかだ。
「はーっ...」
「呼吸が安定してきたね。もう大丈夫」
 ぐったりする。私はだらしなく陸に半身を投げ出した。
 見られてるけど、もういいや別に。
「えと...ありがとうございます!」
「お礼なんていいわ。それより、よく聞きなさい」
 ずい、とせめ寄る。男の子は唖然としているが、これはどうしても言っておかなくてはならない。
「正義感があるのは立派よ。でも、冷静に考えて行動しなさい。共倒れになったらどうするの!」
「えっと...ごめんなさい」
 落ち込む男の子。だが、彼は本当に死ぬところだったのだ。
 どれだけ反省してもし足りないくらいのものだ。
「本当に、助かりました...あの、お名前は?」
「...わかさぎ姫」
 それだけ言って、私は川に戻った。








 今思い返してみれば、これではまるで人魚姫ではないか。冗談じゃない。泡と消えるつもりは無いぞ私は。
 取り敢えず、帰る方法を見つけなければ。
放り投げエンド。後で紫ちゃんが回収しました。
転箸 笑
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コメント



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1.100終身削除
万歳楽(動詞)でだいたいどうなるか想像がつくの面白いし怖いですね… 少年の方は気づいていたか怪しいけど捕まえようとしたり助けようとしたり良い意味でも悪い意味でも妖怪とかを恐れない外の世界の人達の反応が何だかそれっぽかったと思います