「うんしょ……よいしょっと」
ざらざらとしたミルク珈琲色の岩に指をかけ、私は自分の体を持ち上げた。手の甲で汗を拭うたび、きめの細かい白っぽい砂が額に張りつく。
「これが本当の化粧石、なんちゃって」
『メリー、クフ王のピラミッドに化粧石は残ってないよ』背後から蓮子の声が響いた。
私は暑さと疲れでくたくたになった頭を持ち上げ、精いっぱいの不機嫌な顔で振り向いた。そこには青い空と一面の砂漠が広がっているだけで、蓮子の姿はどこにも無い。
『ほら、止まってないで。もうちょっとで山頂よ』蓮子の声はやはり背後から聞こえてくる。『タイムリミットはあと三分しかないのよ』
「分かってるわよ……」
私はぐっと不平を飲み込み、目前に迫ったピラミッドの頂上を睨めつけた。
棒のような足に力を込める。足場の端が欠け、一片の小石が吸い込まれるように落ちていった。高さ百三十メートルから眺める砂漠は、悔しいが美しい。
ややあって、ようやく山頂へたどり着いた。中央には十メートルほどの鉄の棒が立っている。Tipsを読むと、これは完成当時の本来の高さを表しているらしい。
『ほらメリー、早く早く』
蓮子が急かすので、私は景色を楽しむ暇も無くスカートのポケットに手を突っ込んだ。
私の手には今、海苔を巻いたおにぎりが握られている。
「それじゃあ、食べるよ」
おにぎりを口に運んだ瞬間、目の前に黄色く縁取られたメッセージウィンドウが表示された。
≪実績〝ピラミッドの上でおにぎりを〟を達成しました!≫
「……くだらないわね」
『……よし! 下りよう!』
「私はもう嫌よ。下りは蓮子の担当ね」
私はヘッドセットを外し、長い髪を振り払った。砂漠は一瞬にして消え失せ、目の前には自宅のリビングが現れた。VRチェアの後ろから蓮子の足音が聞こえてくる。
「えー、面白くなかった? VR砂漠」
「ねえ蓮子。こういうゲーム、世間ではなんていうか知ってる?」
「ふむ……神ゲー、かしら」
「意地でも認めないわけね、あなたの一万円が、その……クソゲーに化けたこと」
「ふーん、まあ見ててよ!」蓮子は私からヘッドセットを引ったくった。「今から私が感動のエンディングまで一人で突っ走るんだからね!」
「攻略サイト見たけど、あとはもうスフィンクスとのなぞなぞ勝負しかイベントが無いわよ」
「きっとそのサイトは隠し要素を見付けられなかったんだわ。よーし、私がオールクリア一番乗りよ!」
蓮子はこっそりと涙を拭いてヘッドセットを被った。
手元のゲーム画面には広大な砂漠が広がっている。
私はバーチャル空間で食べたおにぎりの味を思い出した。無味無臭の、少し砂っぽいおにぎりだった。
ざらざらとしたミルク珈琲色の岩に指をかけ、私は自分の体を持ち上げた。手の甲で汗を拭うたび、きめの細かい白っぽい砂が額に張りつく。
「これが本当の化粧石、なんちゃって」
『メリー、クフ王のピラミッドに化粧石は残ってないよ』背後から蓮子の声が響いた。
私は暑さと疲れでくたくたになった頭を持ち上げ、精いっぱいの不機嫌な顔で振り向いた。そこには青い空と一面の砂漠が広がっているだけで、蓮子の姿はどこにも無い。
『ほら、止まってないで。もうちょっとで山頂よ』蓮子の声はやはり背後から聞こえてくる。『タイムリミットはあと三分しかないのよ』
「分かってるわよ……」
私はぐっと不平を飲み込み、目前に迫ったピラミッドの頂上を睨めつけた。
棒のような足に力を込める。足場の端が欠け、一片の小石が吸い込まれるように落ちていった。高さ百三十メートルから眺める砂漠は、悔しいが美しい。
ややあって、ようやく山頂へたどり着いた。中央には十メートルほどの鉄の棒が立っている。Tipsを読むと、これは完成当時の本来の高さを表しているらしい。
『ほらメリー、早く早く』
蓮子が急かすので、私は景色を楽しむ暇も無くスカートのポケットに手を突っ込んだ。
私の手には今、海苔を巻いたおにぎりが握られている。
「それじゃあ、食べるよ」
おにぎりを口に運んだ瞬間、目の前に黄色く縁取られたメッセージウィンドウが表示された。
≪実績〝ピラミッドの上でおにぎりを〟を達成しました!≫
「……くだらないわね」
『……よし! 下りよう!』
「私はもう嫌よ。下りは蓮子の担当ね」
私はヘッドセットを外し、長い髪を振り払った。砂漠は一瞬にして消え失せ、目の前には自宅のリビングが現れた。VRチェアの後ろから蓮子の足音が聞こえてくる。
「えー、面白くなかった? VR砂漠」
「ねえ蓮子。こういうゲーム、世間ではなんていうか知ってる?」
「ふむ……神ゲー、かしら」
「意地でも認めないわけね、あなたの一万円が、その……クソゲーに化けたこと」
「ふーん、まあ見ててよ!」蓮子は私からヘッドセットを引ったくった。「今から私が感動のエンディングまで一人で突っ走るんだからね!」
「攻略サイト見たけど、あとはもうスフィンクスとのなぞなぞ勝負しかイベントが無いわよ」
「きっとそのサイトは隠し要素を見付けられなかったんだわ。よーし、私がオールクリア一番乗りよ!」
蓮子はこっそりと涙を拭いてヘッドセットを被った。
手元のゲーム画面には広大な砂漠が広がっている。
私はバーチャル空間で食べたおにぎりの味を思い出した。無味無臭の、少し砂っぽいおにぎりだった。
しかもこういうのに限って高いという……。蓮子よ、なぜレビューサイトを先に確認しなかった……。
前向きというか何事も好奇心と楽しむ心を忘れない人というか(フォロー)
なんて穏やかな秘封なんでしょう