Coolier - 新生・東方創想話

鼠と宿痾の子

2020/08/27 23:32:29
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 人里の一角に、とある花屋がある。
 此所にナズーリンがやって来た理由としては、墓前に供える花を買ってきてくれ、という住職からの頼みであった。
 本来なら、頼みごとは何かと理由をつけて断る彼女なのだが、今回の御使いに関しては断るのも無作法に思えた。
「私は、花については門外漢なのだが」




 そうして、射るような陽光の下、ナズーリンは目的にしていた花屋へと到着した。
「失礼する」
 別に扉を開けて入るような店でもないのだが、一応はそう言っておいた。
 そして鉢植えの乗せてある棚に寄ると、まだ幼い少女の姿があった。少女は花に間近に顔を近づけ、匂いを嗅いでいるようだ。
 さすがに店員ではないだろうと思い、店を見渡す。しかし、店内には他に人影はなかった。
──どんな物がいいのか、聞こうとしていたのだが。
 ふと思い直した。
「君は、何をしている?」
「...ああ、お客様ですか?」
 たった今気づいたかのような反応をする少女。お客様という言い方から、やはり店員であったらしい。
「客が見えていないようだが、まぁいい。私は墓に供える花を探しているんだ」
「あ、少々お待ちください。もうすぐ、お父さんが帰ってくると思うので」
 これには、流石に面食らった。この少女は店員ではないのか?
「ちょっと待て。君は選んでくれないのか?」
「はい。私、盲目なので」
 少女のあっさりとした告白に、絶句する。なるほど、道理でまるで反応が無かった訳だ。
「まことに申し訳ありませんでした」
「...あぁいや、此方こそ失礼を。何かお詫びでも出来たらいいのだが」
「...それじゃあ、少しお話を聞いてもらえませんか?」




──花の香りか。
 少女の話を聞き終わった直後、店主が戻ってきた。そして、滞りなく花を買えたわけだが。
 聖に花を手渡した後も、ずっと引っ掛かるものが胸中にある。それは当然、少女のことだ。
「見らずに、花を楽しむ」
 発せられる香りだけが、彼女の中の花なのだ。別に何とかしてやろうなど、思ってもいない。
 だが。
 偶々見つけた花を渡すくらい、してやってもいい筈だ。私は、ダウジングロッドを手に持った。








 行き先は、ダウジングロッドの指す方向。
 だが、それは瞬く間に移り変わっていく。それもその筈である。少女は、何も探してはいなかったのだから。
 結局は、私自身が何かを探さなくてはならないのだ。
「いくら何でも、揺れすぎだ」
 一度、地面に足を着ける。行き先が全く定まらない。
 探すのは、少女にとって必要な花だ。それで探せないか。
 喜んでくれるかは別として。
 ダウジングロッドは、とある方向を指した。




「...やはり、此処か」
 眼下に広がる向日葵を見る。既にダウジングロッドは役目を終え、何も示してはいない。二本が二本とも、あらぬ方向を向いている。
──どうするべきか。
 此処に私が探していた、少女が必要とする花があるのだ。
 だが、どうして手に入れようか。かの花の妖怪のテリトリーだというのに。
「...一体、どの花のことだ」
 向日葵をかき分けながら、奥へと入っていった。慎重に、静謐に。
 だが、私の隠密術など何の役にも立たなかった。勿論判ってはいたのだが。
「鼠風情が、何の用件かしら?」
「...何も」
 花が、奇妙な模様を描く。それは私達を取り囲み、闘技場の壁のように聳え立つ。
──おかしいな。私は、こんなに阿呆だったか?








 目を覚ますと、花の妖怪の姿は消えていた。
 身体を確かめると、傷こそ多いが程度は浅い。何とか立ち上がれそうだ。
 軋みを無視して起き上がる。花は、どれだ。
 捻曲がったダウジングロッドを持つと、一つの花を指した。
「...これか?」
 それは、何の香りもない、取り立てて美しいとも思えないような花だった。
「これが、私の探し物か」
 命すら懸けてようやっと入手したのが、美しくもない花とは。とんだお笑い草だ。
 私は、それを丁寧に手折った。








 花屋に行くと、少女が数日前に他界していた事を知らされた。
 私が花を探している間に病状が悪化し、呆気なく息を引き取ったのだと。
 ふらりと、花屋を出ていく。葬儀はもう、終わってしまっている。
 涙は出なかった。それはそうだろう。
 ただ、数日前に会話した少女が死んだ事を知らされただけだ。




「そんな名前だったんだな、君は」
 寺が管理している墓地の中に、ひっそりと佇む墓がある。
 よく磨かれた石で、必要以上に光っている。最近に作られたものだと、容易に察せた。
 私は大して美しくもない花を手向けて、その場を去った。
途中で晩御飯を食べたので、がくっとクオリティが下がりました。
転箸 笑
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コメント



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1.100終身削除
お使いや花屋の娘のために色々と探して回ったりダウジングロッドが定まらなかったり自分でもらしくないとは感じながらなれない気持ちで動き回ってるようなナズーリンの内面とか振る舞いが素敵だったと思います この花屋の娘さんって阿求の友達だったりしませんかね…?
2.90名前が無い程度の能力削除
淡々とした語り口ながらもナズーリンのぶっきらぼうな思いやりと無常観があってよかったです
3.90奇声を発する程度の能力削除
淡々としてて良かったです
5.100モブ削除
 私は、このお話はとても良い作品だと思います。丁寧な描写も、どこか陰影を感じるナズーリンの独白も、結末を読んだ時の少しの寂しさも、どれもいい要素で、素晴らしい作品だと思います。
 なので、どうか胸を張ってこの作品のことを誇ってほしいのです。私はもっと作者様の作品を見たいと思いました。ですが、作者様がもしこの作品を誇れないのであれば、この感想すらも張りぼてということに他ならないと思うのです。
 重ねて述べます、とてもよい作品でした。どうか胸を張っていただけると嬉しく思います。ご馳走様でした。