ある夜の事だった。
起床の時間を迎えたフランドールは、ふと自らの頭に違和感を感じた。
左側が軽い。
それに気付いた時、彼女の思考はどういう訳か、形容し難い不安というか喪失感の様なものに支配されていた。
吸血鬼の勘というものだろうか、聡明な彼女が根拠の無い漠然とした不安で満たされているのはきっとそれが働いたのだろう。
それはそれとして、不安というのは相反する筈の好奇心と共に現れる事も多い。
今回の例もそれに当て嵌まり、フランドールはどうしても自分の頭を確認したくなってしまった。
知らない方が良いというのは理解しているものの、フランドールは恐る恐る自分の頭を触り始めた。
「……ない?」
サイドテールが存在しなかった。
何度触ってみても、やはりあの纏めていた髪を見つけられないのだ。
それだけならまだ良かったものの、そのサイドテールの無くなり方がまた血の気を引かせる事となった。
根元の部分が綺麗に切り揃えられていたのだ。
はさみを使ったのか、ぱっつんと数ミリのズレも無く。
それは、この状態が故意的に引き起こされたと言う事を証明していた。
寝ぼけて引きちぎったとかなら、まぁ相当酷い理由ではあるが納得は出来る。
ただ、そうであったとするのならこんなに綺麗に揃う筈が無いのだ。
つまり、自分が寝ている間に誰かが髪の毛を切っていったという状況しか考えられないのだ。
「……気持ち悪い」
気持ち悪い。
たった一言ではあるが、それはフランドールの心情を的確に表していた。
というかそれ以外に言う事が無いのだが。
どうにかしてあの行為への理解を試みようと、犯人は一体何が目的なのか、そういう趣味の持ち主なのだろうか、とあれこれ考えてみるも、余計に意味が分からなくなり、気分も更に悪くなっていく。
「あーだめだ。こんな事考えてても仕方ないわ」
フランドールはこの最悪な気分をどうにかしようと、自室から出て館内を回る事にした。
希望的観測に基づいたその行動が、更なる悪夢を引き起こすとも知らずに。
暫くの間歩き続け、ようやく気分が落ち着いてきた頃、何処からともなく騒がしい声が耳に入ってきた。
恐らく食卓の方だろう。
宴会でもやっているのかと思ったが、聞こえてくる声の殆どが紅魔館の住民のものであったし、紅魔館で開かれる宴会程の人数では無かったので、どうやら違うようだ。
しかし、ただ食事をしているにしてはここまで人数が集まる事は珍しかったし、何よりこれ程うるさくなる事は今までに経験した事は無かった。
フランドールは妙に気になったので顔を出してみる事にした。
「あ、フランドールじゃないか」
「あら、魔理沙も来てたんだ」
フランドールが見た限り、今現在食卓を囲んでいるメンバーは六人。
レミリア、パチュリー、咲夜、そして珍しく魔理沙と美鈴と小悪魔が含まれている。
「美鈴や小悪魔まで一緒に居るなんて随分珍しいわね。一体何をしているの?」
珍しい組み合わせは、至極真っ当な疑問をフランドールに抱かせた。
そんな彼女の率直な疑問に答えたのは、魔理沙であった。
「あぁ、これな、お前の髪を食ってるんだよ。これが本当美味くてさぁ」
「……?……??」
思考が止まる。
かみ? 紙? 神? 一体何を言っているのだろう。
フランドールは魔理沙の言葉を反芻してみるも、全く理解が出来なかった。
「ごめん魔理沙、もう一回言ってくれる?」
「え? いやお前の髪を食ってんだよ。髪の毛。ほら、フランドールって普段はサイドテールにして髪を纏めてるだろ? そこを切ってみんなで食べてるのさ」
「……????」
聡明であるフランドールも、魔理沙の言葉を理解するのに数十秒程掛かった。
理解出来たとは言っても、自分の髪の毛が消失したあの事件は魔理沙達による犯行だったという事のみである。
髪の毛を食べているという事実を飲み込めるのに更に数十秒程掛かった。
自分の髪の毛が食べられているというのは、本当に想像も付かなかった。
あの事件は魔法の研究、悪戯やそういう趣味などといったものの為なんかではなかったのだ。
「頭でも打った?」
色々ぶっ飛んでいるフランドールでさえもぶっ飛んでいると思った。
因みにこの食事会、魔理沙が立案者であるそうだからもう救いようがない。
「いいや、私は完璧な健康体だぜ」
「髪の毛食ってる人間が健康体とは思えないのだけど」
「おいおい、お前こそどうしたんだよ。お前のサイドテールが最高の食べ物だってのは幻想郷中の奴らが知ってる事だぞ?」
「……おーしっと」
食卓を囲んでいる面子の顔を見てみると、もう幸せそのものである表情をしていた。
動かない大図書館のパチュリーでさえもその表情筋はバリバリに働いているくらいだ。
みな演技をしているようには見えなかったし、魔理沙の言葉が嘘であるとは言えそうにはなかった。
「ねぇフラン、貴方食べないの?」
フランドールが遠慮していると思ったのだろうか、一向にサイドテールを食べようとしないフランドールを気遣い、レミリアがサイドテールを差し出してきた。
「いや、ちょっと、私はいいよ」
「そうなの? 勿体無いわねぇ、こんなに美味しいのに」
「流石に自分の髪の毛を食べようなんて気は起きないのだけれど」
「良いじゃない、自給自足よ自給自足。それにしても、ほんと美味しいわー。滑らかな食感、艶やかでクセもないしさっぱりして食べやすい! 揚げたのも最高だけど生で食べるのも良いわねぇ」
なんてこった、こいつら髪の毛を揚げて食ってもいるのか。
魔理沙に聞いたところ、生でも焼いても、揚げて衣を付けても、何をしても美味しいらしい。
寧ろ如何やったら不味くなるのかが分からないそうだ。
フランドールはもうドン引きが止まらなかった。
散々気が触れてるだの言われてきたが、気が触れてるのはお前らの方だとも思ってしまった。
そうこう内に、如何やらサイドテールが食べ尽くされてしまったらしい。
食卓を囲んでいる全員から、落胆の声が上がっていく。
そんな中、一人の少女がこの場の主役へと躍り出た。
「みんな、安心しなさい。こういう時に備えて新しい魔法を開発したのよ」
今日は本当にどうしたのだろうか、元気一杯のパチュリーによってこの場を包んでいた失意は完全に消え去っていた。
「おお、その魔法ってなんだよ!」
「名付けるなら、瞬間育毛魔法。指定の部位の髪の毛を瞬時に成長させる事が出来るのよ」
フランドールを除いた全員から歓声が上がる。
「凄い! これでフランのサイドテールがもっと食べられるわ! 流石私の親友ね」
「やるじゃないかパチュリー!」
「えぇ、パチュリー様がこんなに役に立つお方だったとは思いもしませんでしたわ」
「おいこら咲夜」
そんなパチュリーへの拍手喝采の最中、フランドールの内心は荒れに荒れていた。
瞬間育毛魔法とかいう余りにも下らないネーミングセンス。効果だって、いや一部には需要が有るのかもしれないが、本当にしょうもないものだと感じられた。
更に言うと、この状況でその魔法の存在を明かしたという事は、明らかに自分に向けてその訳の分からない魔法を掛けてくるに違い無かった。
色々と嫌な予感がする。
フランドールは咄嗟に逃げようと踵を返すも、勘付かれ、直ぐに六人全員に囲まれてしまい完全に逃げ場を失ってしまった。
そして、背後にいるパチュリーが魔法の詠唱を終え、遂にフランドールへと魔法を放った。
突如、フランドールの頭に凄まじい違和感が生じた。
「うあぁ……」
自分でも驚く程情けない声と共に、フランドールの頭にはサイドテールが復活していた。
フランドールがサイドテールとの再会を喜んでいると、気付いたらまた居なくなってしまっていた。
咲夜が時を止めて、サイドテールを切り落としたのだろう。
束の間の再会であった。
「うわ、凄いな。本当に生えてきた」
「サイドテールを食べれば喘息も治るし、魔力が持つ限りはまだまだ生やせるわよ」
どうやら、彼女達はフランドールへの強制育毛を続ける様であった。
当の本人であるフランドールは堪ったものではない。
髪が生えてくる時はとてつもない違和感が襲ってくるし、それのせいで可笑しな声が出てしまう。
そんな状況が何回も続くとなると、地獄以外の何物でも無かった。
フランドールは如何にかして逃げようと策を考えていると、ふとレミリアが何かを思い付いた様な顔を見せる。
そして、その顔は直ぐに自信に満ち溢れたものへと変貌した。
「そうだ! フランのサイドテールを大量生産して売りに出そう! そうすればうちの財政も潤うし、サイドテールの在庫だって確保出来る!」
フランドールはめちゃくちゃに狂った案だなと思ってしまっていた。
しかし、周りの反応を見るに、これはどうも理に適ったものらしい。
フランドールが、どういう事が説明しろとレミリアにへと問い掛ける。
「貴方のサイドテールってのは幻想郷内じゃ美味しくて有名だって事は知ってるわよね?」
「……えぇ、さっき魔理沙が言ってたからね」
「だけど、大量に生産する事が出来なかったの。今までは咲夜の能力で切った髪の毛を伸ばしていたけど、それも咲夜に負担がかかるから余り多くは出来なかったからね。だからサイドテールは殆ど流通する事は無かった」
まぁ酷い事実だった。
許可も取らず勝手に髪を切り落としてたのは今回が初めてではなかったらしい。
「でも、この魔法が開発された今は違う。殆どコストが掛からずに大量生産が可能となった。今までより価格は下がるとは思うけれど、それでも高価なのは変わりない。なら、流通させてしまえば多額の利益を得る事が出来るって訳」
レミリアの説明からは、矛盾らしい矛盾は感じ取れず、ビジネスとしてこの上ない好機である事は容易に理解出来た。
ただ、それとフランドールの気持ちは別だ。
元々生活に困っていないのに更に私腹を肥やそうと、フランドールに拷問紛いの行為を行なおうとするのは、当の本人である彼女は許せる訳もなかった。
何より自分の髪の毛が大勢の人妖に食べられるのが気持ち悪くて仕方がなかったのだ。
反論をしようと口を開きかけた瞬間、それはレミリアの声によって妨げられる。
「善は急げって言うしね。パチェ、やっちゃいましょうか」
二つ返事でそれを承ったパチュリーは躊躇なくフランドールへと魔法を放った。
「うひゃぁ」
そうしてかれこれ1時間程、パチュリーの魔力が尽きるまで、館内にはフランドールの可愛らしくも情けない声が響き続けていた。
その日の内に出来上がったサイドテールは495本。
昨年度の一日の収穫量と比べて実に49.5倍である。
レミリアは、試しに300本程の流通を始めると、そのサイドテール達(原産者フランドールの顔写真付き)は飛ぶように売れてゆき、すぐさま多大な利益を得る事となった。
現在では、紅魔館はサイドテール生産会社としての側面が強く出ており、顔写真のお陰で名前も売れたのかフランちゃんという愛称で親しまれている。
めでたしめでたし……
「夢か……」
起床の時間を迎えたフランドールは、ふと自らの頭に違和感を感じた。
左側が軽い。
それに気付いた時、彼女の思考はどういう訳か、形容し難い不安というか喪失感の様なものに支配されていた。
吸血鬼の勘というものだろうか、聡明な彼女が根拠の無い漠然とした不安で満たされているのはきっとそれが働いたのだろう。
それはそれとして、不安というのは相反する筈の好奇心と共に現れる事も多い。
今回の例もそれに当て嵌まり、フランドールはどうしても自分の頭を確認したくなってしまった。
知らない方が良いというのは理解しているものの、フランドールは恐る恐る自分の頭を触り始めた。
「……ない?」
サイドテールが存在しなかった。
何度触ってみても、やはりあの纏めていた髪を見つけられないのだ。
それだけならまだ良かったものの、そのサイドテールの無くなり方がまた血の気を引かせる事となった。
根元の部分が綺麗に切り揃えられていたのだ。
はさみを使ったのか、ぱっつんと数ミリのズレも無く。
それは、この状態が故意的に引き起こされたと言う事を証明していた。
寝ぼけて引きちぎったとかなら、まぁ相当酷い理由ではあるが納得は出来る。
ただ、そうであったとするのならこんなに綺麗に揃う筈が無いのだ。
つまり、自分が寝ている間に誰かが髪の毛を切っていったという状況しか考えられないのだ。
「……気持ち悪い」
気持ち悪い。
たった一言ではあるが、それはフランドールの心情を的確に表していた。
というかそれ以外に言う事が無いのだが。
どうにかしてあの行為への理解を試みようと、犯人は一体何が目的なのか、そういう趣味の持ち主なのだろうか、とあれこれ考えてみるも、余計に意味が分からなくなり、気分も更に悪くなっていく。
「あーだめだ。こんな事考えてても仕方ないわ」
フランドールはこの最悪な気分をどうにかしようと、自室から出て館内を回る事にした。
希望的観測に基づいたその行動が、更なる悪夢を引き起こすとも知らずに。
暫くの間歩き続け、ようやく気分が落ち着いてきた頃、何処からともなく騒がしい声が耳に入ってきた。
恐らく食卓の方だろう。
宴会でもやっているのかと思ったが、聞こえてくる声の殆どが紅魔館の住民のものであったし、紅魔館で開かれる宴会程の人数では無かったので、どうやら違うようだ。
しかし、ただ食事をしているにしてはここまで人数が集まる事は珍しかったし、何よりこれ程うるさくなる事は今までに経験した事は無かった。
フランドールは妙に気になったので顔を出してみる事にした。
「あ、フランドールじゃないか」
「あら、魔理沙も来てたんだ」
フランドールが見た限り、今現在食卓を囲んでいるメンバーは六人。
レミリア、パチュリー、咲夜、そして珍しく魔理沙と美鈴と小悪魔が含まれている。
「美鈴や小悪魔まで一緒に居るなんて随分珍しいわね。一体何をしているの?」
珍しい組み合わせは、至極真っ当な疑問をフランドールに抱かせた。
そんな彼女の率直な疑問に答えたのは、魔理沙であった。
「あぁ、これな、お前の髪を食ってるんだよ。これが本当美味くてさぁ」
「……?……??」
思考が止まる。
かみ? 紙? 神? 一体何を言っているのだろう。
フランドールは魔理沙の言葉を反芻してみるも、全く理解が出来なかった。
「ごめん魔理沙、もう一回言ってくれる?」
「え? いやお前の髪を食ってんだよ。髪の毛。ほら、フランドールって普段はサイドテールにして髪を纏めてるだろ? そこを切ってみんなで食べてるのさ」
「……????」
聡明であるフランドールも、魔理沙の言葉を理解するのに数十秒程掛かった。
理解出来たとは言っても、自分の髪の毛が消失したあの事件は魔理沙達による犯行だったという事のみである。
髪の毛を食べているという事実を飲み込めるのに更に数十秒程掛かった。
自分の髪の毛が食べられているというのは、本当に想像も付かなかった。
あの事件は魔法の研究、悪戯やそういう趣味などといったものの為なんかではなかったのだ。
「頭でも打った?」
色々ぶっ飛んでいるフランドールでさえもぶっ飛んでいると思った。
因みにこの食事会、魔理沙が立案者であるそうだからもう救いようがない。
「いいや、私は完璧な健康体だぜ」
「髪の毛食ってる人間が健康体とは思えないのだけど」
「おいおい、お前こそどうしたんだよ。お前のサイドテールが最高の食べ物だってのは幻想郷中の奴らが知ってる事だぞ?」
「……おーしっと」
食卓を囲んでいる面子の顔を見てみると、もう幸せそのものである表情をしていた。
動かない大図書館のパチュリーでさえもその表情筋はバリバリに働いているくらいだ。
みな演技をしているようには見えなかったし、魔理沙の言葉が嘘であるとは言えそうにはなかった。
「ねぇフラン、貴方食べないの?」
フランドールが遠慮していると思ったのだろうか、一向にサイドテールを食べようとしないフランドールを気遣い、レミリアがサイドテールを差し出してきた。
「いや、ちょっと、私はいいよ」
「そうなの? 勿体無いわねぇ、こんなに美味しいのに」
「流石に自分の髪の毛を食べようなんて気は起きないのだけれど」
「良いじゃない、自給自足よ自給自足。それにしても、ほんと美味しいわー。滑らかな食感、艶やかでクセもないしさっぱりして食べやすい! 揚げたのも最高だけど生で食べるのも良いわねぇ」
なんてこった、こいつら髪の毛を揚げて食ってもいるのか。
魔理沙に聞いたところ、生でも焼いても、揚げて衣を付けても、何をしても美味しいらしい。
寧ろ如何やったら不味くなるのかが分からないそうだ。
フランドールはもうドン引きが止まらなかった。
散々気が触れてるだの言われてきたが、気が触れてるのはお前らの方だとも思ってしまった。
そうこう内に、如何やらサイドテールが食べ尽くされてしまったらしい。
食卓を囲んでいる全員から、落胆の声が上がっていく。
そんな中、一人の少女がこの場の主役へと躍り出た。
「みんな、安心しなさい。こういう時に備えて新しい魔法を開発したのよ」
今日は本当にどうしたのだろうか、元気一杯のパチュリーによってこの場を包んでいた失意は完全に消え去っていた。
「おお、その魔法ってなんだよ!」
「名付けるなら、瞬間育毛魔法。指定の部位の髪の毛を瞬時に成長させる事が出来るのよ」
フランドールを除いた全員から歓声が上がる。
「凄い! これでフランのサイドテールがもっと食べられるわ! 流石私の親友ね」
「やるじゃないかパチュリー!」
「えぇ、パチュリー様がこんなに役に立つお方だったとは思いもしませんでしたわ」
「おいこら咲夜」
そんなパチュリーへの拍手喝采の最中、フランドールの内心は荒れに荒れていた。
瞬間育毛魔法とかいう余りにも下らないネーミングセンス。効果だって、いや一部には需要が有るのかもしれないが、本当にしょうもないものだと感じられた。
更に言うと、この状況でその魔法の存在を明かしたという事は、明らかに自分に向けてその訳の分からない魔法を掛けてくるに違い無かった。
色々と嫌な予感がする。
フランドールは咄嗟に逃げようと踵を返すも、勘付かれ、直ぐに六人全員に囲まれてしまい完全に逃げ場を失ってしまった。
そして、背後にいるパチュリーが魔法の詠唱を終え、遂にフランドールへと魔法を放った。
突如、フランドールの頭に凄まじい違和感が生じた。
「うあぁ……」
自分でも驚く程情けない声と共に、フランドールの頭にはサイドテールが復活していた。
フランドールがサイドテールとの再会を喜んでいると、気付いたらまた居なくなってしまっていた。
咲夜が時を止めて、サイドテールを切り落としたのだろう。
束の間の再会であった。
「うわ、凄いな。本当に生えてきた」
「サイドテールを食べれば喘息も治るし、魔力が持つ限りはまだまだ生やせるわよ」
どうやら、彼女達はフランドールへの強制育毛を続ける様であった。
当の本人であるフランドールは堪ったものではない。
髪が生えてくる時はとてつもない違和感が襲ってくるし、それのせいで可笑しな声が出てしまう。
そんな状況が何回も続くとなると、地獄以外の何物でも無かった。
フランドールは如何にかして逃げようと策を考えていると、ふとレミリアが何かを思い付いた様な顔を見せる。
そして、その顔は直ぐに自信に満ち溢れたものへと変貌した。
「そうだ! フランのサイドテールを大量生産して売りに出そう! そうすればうちの財政も潤うし、サイドテールの在庫だって確保出来る!」
フランドールはめちゃくちゃに狂った案だなと思ってしまっていた。
しかし、周りの反応を見るに、これはどうも理に適ったものらしい。
フランドールが、どういう事が説明しろとレミリアにへと問い掛ける。
「貴方のサイドテールってのは幻想郷内じゃ美味しくて有名だって事は知ってるわよね?」
「……えぇ、さっき魔理沙が言ってたからね」
「だけど、大量に生産する事が出来なかったの。今までは咲夜の能力で切った髪の毛を伸ばしていたけど、それも咲夜に負担がかかるから余り多くは出来なかったからね。だからサイドテールは殆ど流通する事は無かった」
まぁ酷い事実だった。
許可も取らず勝手に髪を切り落としてたのは今回が初めてではなかったらしい。
「でも、この魔法が開発された今は違う。殆どコストが掛からずに大量生産が可能となった。今までより価格は下がるとは思うけれど、それでも高価なのは変わりない。なら、流通させてしまえば多額の利益を得る事が出来るって訳」
レミリアの説明からは、矛盾らしい矛盾は感じ取れず、ビジネスとしてこの上ない好機である事は容易に理解出来た。
ただ、それとフランドールの気持ちは別だ。
元々生活に困っていないのに更に私腹を肥やそうと、フランドールに拷問紛いの行為を行なおうとするのは、当の本人である彼女は許せる訳もなかった。
何より自分の髪の毛が大勢の人妖に食べられるのが気持ち悪くて仕方がなかったのだ。
反論をしようと口を開きかけた瞬間、それはレミリアの声によって妨げられる。
「善は急げって言うしね。パチェ、やっちゃいましょうか」
二つ返事でそれを承ったパチュリーは躊躇なくフランドールへと魔法を放った。
「うひゃぁ」
そうしてかれこれ1時間程、パチュリーの魔力が尽きるまで、館内にはフランドールの可愛らしくも情けない声が響き続けていた。
その日の内に出来上がったサイドテールは495本。
昨年度の一日の収穫量と比べて実に49.5倍である。
レミリアは、試しに300本程の流通を始めると、そのサイドテール達(原産者フランドールの顔写真付き)は飛ぶように売れてゆき、すぐさま多大な利益を得る事となった。
現在では、紅魔館はサイドテール生産会社としての側面が強く出ており、顔写真のお陰で名前も売れたのかフランちゃんという愛称で親しまれている。
めでたしめでたし……
「夢か……」
かわいそうなフランちゃんはかわいいなあもぐもぐ。
発狂指数が高かったです。笑いました。
夢なんだろうなとは思ったけれど、実際に夢オチで安心したようながっかりしたような
次は羽の宝石をもいで売りましょう
家から出られずにひたすらサイドテールをちょっきんちょっきんされるフランちゃんが不憫可愛いです!
何気なく頭に手をやると、あるはずのサイドテールが...
みたいなのあったら発狂する自信あるね。