とある日、これといった用件もなく香霖堂へと向かった魔理沙。此所で彼女は予想だにしなかった言葉を店主から投げ掛けられた。
「魔理沙、少しいいかな」
「んあー?」
「僕と珈琲でも喫みに行かないか?」
彼女はしばらく物を考えることができず、頭の中をひたすら空白で満たした。
そして、此所の店主は言葉足らずな一面があることを思い出した。
「つまり、カフェに行きたいんだな?」
「ああ。人里にカフェがある事すら碌に知らなかった」
「オーケー、案内役ってことだな」
なんともなく淋しさを感じた魔理沙だったが、これも見方を変えれば歴としたデートだろう。
「僕には都合が無いから、よくなったら教えてくれ」
「ああ、わかった」
実際は今すぐにでも行けたのだが、女心と言うべきか、魔理沙は少しだけお洒落をしたかった。
「よーう香霖、迎えに来たぜ」
「じゃあ、行こうか」
「歩いて行くのか?」
「僕は飛べないよ?」
苦笑いで言う彼に、だから一緒に乗って行こうとは返せなかったようだ。
決して人里から遠い場所にあるわけではない香霖堂なので、歩く距離も短い。しかし、純真な乙女はその道程で。
──汗ジミ大丈夫かな...
その事だけが気がかりだった。
「いらっしゃいませー」
チャカラン、と鈴が鳴り、笑顔で出迎える女性店員。端正な顔つきながら幼さを感じさせる声で、どことなく垢抜けている。
「二人」
「お二人様ですね。それでは、御好きな席へどうぞ」
霖之助の端的な言葉にも、あくまでにこやかに対応する店員。だが、魔理沙はこの唐変木がその程度で揺るがないことを知っている。
「魔理沙、どこがいい?」
「適当にぱっと座ろうぜ」
そう言って、もっとも近くにあった席につく魔理沙。二人席である故に、霖之助が向かい合う形で座る。
「あ、お前金は?」
「勿論持ってきてるよ」
「お代の心配なし、と」
「君も払ってくれよ?」
「何言ってんだ?金が無いのに払えるわけないだろ」
頼むものが決まったのか、おしながきを手渡そうとする魔理沙。だが、彼は自分が座っている椅子の手触りを確かめていた。
「おい、香霖」
「...うん、なるほど」
「私まで奇異の目で見られてるんだが」
「時に魔理沙、帽子はとったらどうだい」
言われて気づき、大きな三角帽子を手に持つ彼女。どこに入れておくか悩んでいる間に、霖之助が店員を呼んだ。
「僕はこれを。魔理沙」
「あ、私はヨーロピアンブレンドで」
「かしこまりました」
おしながきを持ち、戻っていく店員。その女性らしさのある上品な仕草に、魔理沙は思わず見惚れた。
「ふーむ...」
店内のあちこちに目を廻し何処に何があるのかを確かめる彼の様子に、彼女は不満そうである。
彼女なりにお洒落してきているのだが、やはりと言うべきか効果は無いようだった。
「...ふぅ」
カチャリ、と音を立ててコーヒーカップをおく霖之助。その白磁器に湛えられていた黒い液体は、もう無くなっていた。
「なるほど、これは確かに...いい」
一人言のように、あるいは同伴者に聞かせるように言葉を吐く霖之助。だが、その同伴者はまだ冷めないコーヒーに四苦八苦していた。
「で、どうだった?」
「いやぁ、想像以上だった。もっと喧しいと思っていたけど、かなり落ち着いていたね。しかも」
「解った。満足したならいいや」
踵を返し、出口へと向かう彼女。すこし不機嫌そうに映るのは、やはり彼がおめかし姿を誉めてくれなかった事に起因するだろう。
「色々ありがとう。それと、そのバッヂは久しぶりに見たね」
「...ん」
少しだけ気分を良くした彼女だが、やはり無愛想な返事だった。
「魔理沙、少しいいかな」
「んあー?」
「僕と珈琲でも喫みに行かないか?」
彼女はしばらく物を考えることができず、頭の中をひたすら空白で満たした。
そして、此所の店主は言葉足らずな一面があることを思い出した。
「つまり、カフェに行きたいんだな?」
「ああ。人里にカフェがある事すら碌に知らなかった」
「オーケー、案内役ってことだな」
なんともなく淋しさを感じた魔理沙だったが、これも見方を変えれば歴としたデートだろう。
「僕には都合が無いから、よくなったら教えてくれ」
「ああ、わかった」
実際は今すぐにでも行けたのだが、女心と言うべきか、魔理沙は少しだけお洒落をしたかった。
「よーう香霖、迎えに来たぜ」
「じゃあ、行こうか」
「歩いて行くのか?」
「僕は飛べないよ?」
苦笑いで言う彼に、だから一緒に乗って行こうとは返せなかったようだ。
決して人里から遠い場所にあるわけではない香霖堂なので、歩く距離も短い。しかし、純真な乙女はその道程で。
──汗ジミ大丈夫かな...
その事だけが気がかりだった。
「いらっしゃいませー」
チャカラン、と鈴が鳴り、笑顔で出迎える女性店員。端正な顔つきながら幼さを感じさせる声で、どことなく垢抜けている。
「二人」
「お二人様ですね。それでは、御好きな席へどうぞ」
霖之助の端的な言葉にも、あくまでにこやかに対応する店員。だが、魔理沙はこの唐変木がその程度で揺るがないことを知っている。
「魔理沙、どこがいい?」
「適当にぱっと座ろうぜ」
そう言って、もっとも近くにあった席につく魔理沙。二人席である故に、霖之助が向かい合う形で座る。
「あ、お前金は?」
「勿論持ってきてるよ」
「お代の心配なし、と」
「君も払ってくれよ?」
「何言ってんだ?金が無いのに払えるわけないだろ」
頼むものが決まったのか、おしながきを手渡そうとする魔理沙。だが、彼は自分が座っている椅子の手触りを確かめていた。
「おい、香霖」
「...うん、なるほど」
「私まで奇異の目で見られてるんだが」
「時に魔理沙、帽子はとったらどうだい」
言われて気づき、大きな三角帽子を手に持つ彼女。どこに入れておくか悩んでいる間に、霖之助が店員を呼んだ。
「僕はこれを。魔理沙」
「あ、私はヨーロピアンブレンドで」
「かしこまりました」
おしながきを持ち、戻っていく店員。その女性らしさのある上品な仕草に、魔理沙は思わず見惚れた。
「ふーむ...」
店内のあちこちに目を廻し何処に何があるのかを確かめる彼の様子に、彼女は不満そうである。
彼女なりにお洒落してきているのだが、やはりと言うべきか効果は無いようだった。
「...ふぅ」
カチャリ、と音を立ててコーヒーカップをおく霖之助。その白磁器に湛えられていた黒い液体は、もう無くなっていた。
「なるほど、これは確かに...いい」
一人言のように、あるいは同伴者に聞かせるように言葉を吐く霖之助。だが、その同伴者はまだ冷めないコーヒーに四苦八苦していた。
「で、どうだった?」
「いやぁ、想像以上だった。もっと喧しいと思っていたけど、かなり落ち着いていたね。しかも」
「解った。満足したならいいや」
踵を返し、出口へと向かう彼女。すこし不機嫌そうに映るのは、やはり彼がおめかし姿を誉めてくれなかった事に起因するだろう。
「色々ありがとう。それと、そのバッヂは久しぶりに見たね」
「...ん」
少しだけ気分を良くした彼女だが、やはり無愛想な返事だった。