「あ、チルノがやられました」
紅魔館の屋上、少し大きすぎる深紅の玉座に座る幼女の横で、彼女のメイドの十六夜咲夜がモニターを見ながら呟いた。
「まあ、あのバカに元から時間稼ぎなんてできると思ってないわよ」
「しかし、いよいよ紅魔館に辿り着こうとしてますね……」
少し緊迫した雰囲気の中で、赤い月の光に照らされた幼女の顔が映える。彼女の名前はレミリア・スカーレット。ブラド=ツェペシュの血を引いている……らしい。神主の話によると引いてない。なのにこの幼女は6面道中に「ツェペシュの幼き末裔」なんて曲をかけやがった。同属のおっさんの名前を勝手に拝借しただけである。
「咲夜、あとどれくらいで霊夢はここまで来れるかしら」
「……美鈴が中ボスとして出てきましたね……このままだと15分くらいでここに来てしまうかもしれません」
「15分ねえ……じゅじゅじゅ15分?!?!」
え、マジでそんな早く来るの?まだウォーミングアップもしてないし曲のセットもしてないしセリフも決めてないんですけど。
「さ、咲夜どうしよう!セリフとかまだ作ってない!」
「あら、まだ作ってらっしゃらなかったのですか」
咲夜は悠々とカップに注がれた紅茶を、かれこれ10分間ふーふーと冷ましている。幻想郷猫舌コンテストを開けば、燐でも橙でも彼女には敵わないだろう。
「ちゃんと数日前から考えとかないと大変なのに。仕方ありませんね、頑張って今から考えるしかありません」
「うー☆(懺悔)……何かいい案とか無いのぉ?咲夜ぁ」
うーんと唸りながら、しばらく咲夜は考え込む。自分のところに来るまで30分くらいかかるだろうと考えて、面倒なセリフの制作を後回しにしていたレミリア。さあ困った。霊夢の強さを甘く見すぎていた。この分には図書館に引きこもってる1週間少女の健闘も期待できない。そもそも彼女は健やかではない。
「……幼女らしからぬ事を言ってみるとかどうでしょう」
「例えば?」
「金は命より重い!とか」
「6ボスのセリフじゃないでしょそれ」
「命はもっと粗末に扱うべきなのだ!とか」
「〇イジから離れなさい咲夜。怒られるわよ」
全く、この従者は垢抜けていると言うより普通にどこか抜けている。著作権についての本をパチュリーから貸し出させようと思うレミリアだった。
「あら?もう4面の小悪魔が出ていきましたわ。それじゃあ私もそろそろ掃除始めてきますね」
「あ、待ってよ咲夜ーっ!」
レミリアは咲夜の腰に抱き着いて駄々をこねる。
「ね、ね、もうちょっとだけ一緒に考えて!時間止めて行って、掃除してた振りすればいいでしょ?」
「はあ、余裕を持っていきたかったのですが」
妖精メイドたちが集まってきて、あちこちにスピーカーをセットし始める。本番では「亡き王女の為のセプテット」が流れるはずだ。そもそもこの曲は7重奏ではないのだが、レミリアの厨二全開真昼テンションによって名付けられたものである。
「もういつもみたいに考えて発言する余裕はあんまりありませんよ。いい天気ですね的なことを言っとけばいいじゃないですか」
「う、うーん、月が赤いですね、とか?」
「……なんか理不尽さが足りないですね」
「ふぁ?理不尽さ?」
そう、スペルカード戦前の口上では、喧嘩のきっかけとして相手を怒らせるような言動や、なんの脈絡もなく無理やり戦闘モードに持ち込む文言が必須である(例 この変なTシャツヤロー!)。
「つ、月が赤いので殺します……みたいな?」
「いいですね!お嬢様のサイコパス感がよく出てます」
「え、私サイコキャラなの?」
そんなこんなを話しているうちに、とうとうパチュリーも撃破されてしまった。やはりビタミンAが足りなかったのだろうか。
「ごめんなさい、お嬢様。もう時間なので行かなくては」
「あっ!さく―――」
パチンという音と共に、咲夜の姿は一瞬にして消えた。結局まだ熱いと言ってぬるぬるに冷めた紅茶がそのままである。
急かされるメイドたちがせっせと弾幕や魔方陣を用意している。
「えーと、月が赤いから殺すわよ……パンチが足りない……こんなにも月が紅いから……本気で殺す!よし、こんなにも月が紅いから……」
セリフを覚えようと、血走った目で「本気で殺す本気で殺す」と呟くレミリアは、妖精メイドたちにたいそう恐れられたそうな……
『せめて1ボムでも潰させないと~』
咲夜の弱った声が聞こえる。
え?もう?もうなの???まずいセリフ全然覚えられてないっやばいやばい。
狼狽えるレミリアがとっさに見つけたのは、妖精メイドがスタジオの設置に使っていたマッキーだった……
◇
掌にびっっっっしりと油性マーカーで書かれたセリフを、霊夢に見せないようにそれっぽい謎の手の位置配置で読み上げる。
「こんなにも月が紅いから―――本気で殺すわよ」
これが後に、『カリスマのポーズ』と呼ばれるようになったのである。
紅魔館の屋上、少し大きすぎる深紅の玉座に座る幼女の横で、彼女のメイドの十六夜咲夜がモニターを見ながら呟いた。
「まあ、あのバカに元から時間稼ぎなんてできると思ってないわよ」
「しかし、いよいよ紅魔館に辿り着こうとしてますね……」
少し緊迫した雰囲気の中で、赤い月の光に照らされた幼女の顔が映える。彼女の名前はレミリア・スカーレット。ブラド=ツェペシュの血を引いている……らしい。神主の話によると引いてない。なのにこの幼女は6面道中に「ツェペシュの幼き末裔」なんて曲をかけやがった。同属のおっさんの名前を勝手に拝借しただけである。
「咲夜、あとどれくらいで霊夢はここまで来れるかしら」
「……美鈴が中ボスとして出てきましたね……このままだと15分くらいでここに来てしまうかもしれません」
「15分ねえ……じゅじゅじゅ15分?!?!」
え、マジでそんな早く来るの?まだウォーミングアップもしてないし曲のセットもしてないしセリフも決めてないんですけど。
「さ、咲夜どうしよう!セリフとかまだ作ってない!」
「あら、まだ作ってらっしゃらなかったのですか」
咲夜は悠々とカップに注がれた紅茶を、かれこれ10分間ふーふーと冷ましている。幻想郷猫舌コンテストを開けば、燐でも橙でも彼女には敵わないだろう。
「ちゃんと数日前から考えとかないと大変なのに。仕方ありませんね、頑張って今から考えるしかありません」
「うー☆(懺悔)……何かいい案とか無いのぉ?咲夜ぁ」
うーんと唸りながら、しばらく咲夜は考え込む。自分のところに来るまで30分くらいかかるだろうと考えて、面倒なセリフの制作を後回しにしていたレミリア。さあ困った。霊夢の強さを甘く見すぎていた。この分には図書館に引きこもってる1週間少女の健闘も期待できない。そもそも彼女は健やかではない。
「……幼女らしからぬ事を言ってみるとかどうでしょう」
「例えば?」
「金は命より重い!とか」
「6ボスのセリフじゃないでしょそれ」
「命はもっと粗末に扱うべきなのだ!とか」
「〇イジから離れなさい咲夜。怒られるわよ」
全く、この従者は垢抜けていると言うより普通にどこか抜けている。著作権についての本をパチュリーから貸し出させようと思うレミリアだった。
「あら?もう4面の小悪魔が出ていきましたわ。それじゃあ私もそろそろ掃除始めてきますね」
「あ、待ってよ咲夜ーっ!」
レミリアは咲夜の腰に抱き着いて駄々をこねる。
「ね、ね、もうちょっとだけ一緒に考えて!時間止めて行って、掃除してた振りすればいいでしょ?」
「はあ、余裕を持っていきたかったのですが」
妖精メイドたちが集まってきて、あちこちにスピーカーをセットし始める。本番では「亡き王女の為のセプテット」が流れるはずだ。そもそもこの曲は7重奏ではないのだが、レミリアの厨二全開真昼テンションによって名付けられたものである。
「もういつもみたいに考えて発言する余裕はあんまりありませんよ。いい天気ですね的なことを言っとけばいいじゃないですか」
「う、うーん、月が赤いですね、とか?」
「……なんか理不尽さが足りないですね」
「ふぁ?理不尽さ?」
そう、スペルカード戦前の口上では、喧嘩のきっかけとして相手を怒らせるような言動や、なんの脈絡もなく無理やり戦闘モードに持ち込む文言が必須である(例 この変なTシャツヤロー!)。
「つ、月が赤いので殺します……みたいな?」
「いいですね!お嬢様のサイコパス感がよく出てます」
「え、私サイコキャラなの?」
そんなこんなを話しているうちに、とうとうパチュリーも撃破されてしまった。やはりビタミンAが足りなかったのだろうか。
「ごめんなさい、お嬢様。もう時間なので行かなくては」
「あっ!さく―――」
パチンという音と共に、咲夜の姿は一瞬にして消えた。結局まだ熱いと言ってぬるぬるに冷めた紅茶がそのままである。
急かされるメイドたちがせっせと弾幕や魔方陣を用意している。
「えーと、月が赤いから殺すわよ……パンチが足りない……こんなにも月が紅いから……本気で殺す!よし、こんなにも月が紅いから……」
セリフを覚えようと、血走った目で「本気で殺す本気で殺す」と呟くレミリアは、妖精メイドたちにたいそう恐れられたそうな……
『せめて1ボムでも潰させないと~』
咲夜の弱った声が聞こえる。
え?もう?もうなの???まずいセリフ全然覚えられてないっやばいやばい。
狼狽えるレミリアがとっさに見つけたのは、妖精メイドがスタジオの設置に使っていたマッキーだった……
◇
掌にびっっっっしりと油性マーカーで書かれたセリフを、霊夢に見せないようにそれっぽい謎の手の位置配置で読み上げる。
「こんなにも月が紅いから―――本気で殺すわよ」
これが後に、『カリスマのポーズ』と呼ばれるようになったのである。
いかにも二次って気軽な感じ
ゲームの裏事情系はネタにしやすくて良いよね
一生懸命セリフ考えてるレミリアがかわいかったです
面白かったです