一
旧都は地底の街であるから、空を見上げても土と岩が暗くあるばかりで、今が朝か昼か夜かを知るには時計を買うか足元を見なければならなかった。昼か夜ならば、旧都よりさらに地下の旧地獄、そのさらに奥の奥の灼熱地獄跡、間欠泉センターから人工太陽の光が漏れ出して、地面を透かし照らしているはずだった。朝は人工太陽は出ない。人工太陽の管理者である鴉がぐーすかぴーと地霊殿の主の枕元で寝ている頃だからだ。
呑み屋などの主人たちは、人工太陽が灯ったとわかると店の灯りをつけ、提灯に火を点すのだから、それでようやく旧都の住民たちは時刻をおおよそ把握するのだった。
しかしその日は少し様子が違っていた。人工太陽の橙色の光がどこにも見えないにもかかわらず、旧都の街並みは賑やかに光っていた。
人工太陽の管理者である鴉──霊烏路空が旧都に遊びに来ているためである。
まずそもそもの背丈が高い上に、長い茶髪と大きな黒羽と白いマント、角材のような長い棒のついた右腕、岩のような右足、光を纏う左足、胸に赤く輝く巨大な眼を持つ空はどの角度から見ても非常に目立ち、視界の片隅にでも入れば「あっお空だ」とすぐわかるので、一歩旧都に入れば一瞬でその来訪が街の端まで伝わり、「お空が起きてるなら今は昼だ」ということなので、人工太陽の光が無くとも街灯りが灯るのである。
さながら歩く太陽といった空は、うんうんと頭を捻らせながら親友の火焔猫燐とともに街道を歩いていた。
「でもさあ。記念日だよ。やっぱりサプライズがいいよ」
「だからあ、さとり様相手にサプライズなんて無理だってば。まだ一週間も先なんだよ。その間さとり様と全く顔を合わせないなら可能だろうけどよ」
「一週間もさとり様と会えなかったら私爆発しちゃうよ」
「しないで」
「うーん」
うんうんと頭を捻らせながら、はた、と空は帽子屋の前で足を止めた。
「あっ。お燐、この帽子、こいし様の帽子に似てるね」
机に並べられた帽子のうち、黒い鍔広の帽子を指差して空が言った。赤い三つ編みと黒い猫耳を揺らして燐は頷いた。
「そうだね」
「あっ」
漫画的表現を用いれば頭の上に電球が点ったような様子で空は声を上げた。
「あっ。天才の発想を思いついた今」
「なにさ」
燐はジト目をした。
「天啓だわ!」
空は目をぴかぴかと輝かせた。
燐はジト目をさらにジト目にさせた。
「だからなにさ」
「こいし様に代理で祝ってもらえばいいのよ! “さとり様、地霊殿建立記念日おめでと〜。って、お空とお燐が言ってたよ〜”って。プレゼントも渡していただいて。完璧だわ。天啓だわ!」
「お空……」
燐はジト目を殊更にジト目にさせた。
「あんた、もうこの瞬間から“こいし様にサプライズでさとり様の記念日を祝ってもらうんだよね〜わくわく”って思ってることになるんだよ。そしてそれをさとり様に読まれる」
空は目をぴかぴかさせるのをやめた。
「天啓ってうんちね」
「うんちとか言わないの」
帽子屋から顔を逸し、二匹は再び街道を歩き始めた。
「どうしようかなぁ。プレゼントもまだ決まっていないし。さとり様は何なら喜ぶかなぁ」
「小説なら確実だよ」
「小説は私が分かんないよぉ」
「難しいんだねぇ……」
「さとり様は……」
「その話は……」
「………………」
「…………」
「……」
ニ
「それがとっても妬ましくてね」
木製のゆったりとした椅子の上で、脚を組み直しながらパルスィが言った。
ここは旧都と地底入口を繋ぐ橋の下の、パルスィの家の平屋だった。
リビングの壁には雑多に人形だとか、ボードゲームだとか、ルールブックだとか絵本だとかダイスだとかが押し込まれた戸棚やラックがぎっしりと詰まっており、まあまあ広いはずの部屋の間取りを狭苦しく感じさせていた。同時に、パルスィの趣味を察しざるを得ないようになっていた。
パルスィは二枚のカードを手に持っていた。円形の木製テーブルの上にはワイングラス、ワイングラス、ワインボトルに加え、カードケースと、輪ゴムと、山札と、並べられた裏向きのカード五枚、それから大量の紙製のチップが置かれている。パルスィの向かいに座るヤマメもまた、二枚のカードを持っていた。
「それってどれよ。お燐とお空の仲のよさ? 祝われる予定のさとり? 頼りがいのあるこいし?」
「“地霊殿建立記念日”よ」パルスィは自分の持ちチップを何枚かつまみ、テーブルの中央に置いた。「コール」
「記念日?」
「そう。みんなで祝える記念日があるってとてつもなく妬ましいことじゃない」
「ふーん」ヤマメはパルスィが置いたのと同じ枚数のチップをテーブルに置いた。「コール」
パルスィの指が、裏向きの五枚のカードのうち三枚をめくる。
ハートのエース、スペードのエース、ダイヤのエースだった。
二人は口々に言った。
「なるほどね」「なるほどね」
ヤマメは自分の手札を目を細めながら見つめ、パルスィはこめかみを指でぐりぐり押したりした。
「うん。それじゃあ我々も記念日をやることにしよう」
手札と場のカードを交互に見ながらヤマメが言った。
「いつ?」パルスィはチップをテーブルの中央に置いた。「コール」
「今日」ヤマメも同じようにした。「コール」
「今日って……」パルスィはさっき置いた枚数の倍のチップを置いた。「レイズ。何の日よ」
「ぐぎぎ……」露骨に渋い顔をしてヤマメは同じだけのチップを置いた。「コール……何の日かは、まあ、決めればいいじゃん」
「今日中に?」
「今日中に」
「今日が何の記念日か、今日中に決めるの?」
「うん」
素直な顔をしてヤマメは頷いた。
裏向きの二枚のうち、一枚がパルスィの指でめくられる。
スペードのジャックだった。
表向きのカードは、ハートのエース、スペードのエース、ダイヤのエース、スペードのジャック。裏向きのカードは一枚。
二人は口々に言った。
「そういうことね」「そういうことね」
ヤマメは手札を伏せて天井を見上げ、パルスィはワインを少し呑んだ。
パルスィが「妬ましいわ」と言う場合、ヤマメにとってそれはおおよそイベント開始の合図だった。
パルスィが「地霊殿のステンドグラスが妬ましいわ」と言えば「じゃあ今日はステンドグラスを作ろう」と言い、「地霊殿のシャンデリアが妬ましいわ」と言えば「じゃあ今日はシャンデリアを作ろう」と言い、「地霊殿の主が妬ましいわ」と言えば「じゃあ今日は第三の目を作ろう」と言い、そうやって二人は過ごしてきた。
だから、パルスィが「地霊殿の記念日が妬ましいわ」と言うなら、「じゃあ今日は記念日を作ろう」と返すのはヤマメにとってはごくごく自然なことだった。
「でも、どうやって決めるのよ」パルスィはチップを気持ち多めに置いた。「コール」
「そのへん歩いてればなんらか思いつくでしょ」ヤマメはパルスィが置いたよりさらに気持ち多めに置いた。「レイズ」
ふーっ、とパルスィは息を吐いた。
「強気ねぇ」
「まあね」
口の端を吊り上げてニヒルな笑みを作りヤマメは言った。
「レイズ」
パルスィが言った。ヤマメが置いたよりさらに気持ち多めにチップが置かれた。
ヤマメは笑みを深めた。
「コール」
ヤマメはパルスィが置いたのと同じ枚数チップを置いた。ジャラジャラとチップが重なる音が鳴った。
パルスィはチップを一枚つまみ上げた。
「紙製にしてはいい音鳴るわね」
ヤマメもチップをつまんで見た。
「そうだね。よく出来てる。また、いつものゲームの店で買ったの?」
「ええ。店主の手作りなんですって」
「へえ。やるもんだ」
「ま、それはそれとして」
最後の裏向きのカードがパルスィの手によってめくられる。
スペードの10だった。
表向きのカードは、ハートのエース、スペードのエース、ダイヤのエース、スペードのジャック、スペードの10。
二人は口々に言った。
「よくわかった」「よくわかった」
パルスィは雑にチップを掴み、中央に置いた。
「コール」
ジャラジャラとチップが重なる音が鳴った。
「随分じゃないの」ヤマメはパルスィより多く掴んだ。「レイズ」
「負ける気がしないわ」パルスィはヤマメより多く掴んだ。「レイズ」
「言うじゃない。負けた方が記念日の内容を考えるってのはどう?」ヤマメはパルスィより多く掴んだ。「レイズ」
「もちろん勝ったほうは記念日の内容が気に入るまで却下できるのよね?」パルスィはヤマメより多く掴んだ。「レイズ」
ヤマメは自分の持ちチップを見た。パルスィが賭けたチップに少し足したくらいしか残っていない。
「当たり前じゃない」
ヤマメは残りのチップを全てテーブルの中央に置いた。
「負けた方は記念日の内容を気に入られるまで提案し続けるのよ。オールイン」
パルスィは自分の持ちチップを見た。ヤマメが賭けたのとほぼ同じくらいしか残っていない。
「上等だわ。オールイン」
パルスィは残りのチップを全てテーブルの中央に置いた。
これで二人ともすかんぴんだ。
──緊張感──。
パルスィはゆっくり、そう、とてもゆっくりと自分の手札を広げて見せた。
ヤマメは凝視した。
クラブのエースと、ハートの3だった。
「エースのフォーカード」
口の端を吊り上げてニヒルな笑みを作りパルスィが言った。
ヤマメはゆっくり、そう、とてもゆっくりと自分の手札を広げて見せた。
パルスィは凝視した。
スペードのキング。
「うっ!」
パルスィの全身に激しい動揺が走った。──ロイヤルフラッシュ!?
ヤマメはゆっくり、そう、とてもゆっくりともう一枚を公開した。
ダイヤのキングだった。
ヤマメは眉を寄せ、口の端を吊り上げ、汗を額からたらりと流して、物凄い苦笑いを浮かべて言った。
「フ……フルハウス……」
賢明な読者の皆様にはお分かりだろうが、ポーカーの役の強さというのはこうである。
強い
ロイヤルフラッシュ
ストレートフラッシュ
フォーカード ←パルスィ
フルハウス ←ヤマメ
フラッシュ
ストレート
スリーカード
ツーペア
ワンペア
ハイカード
弱い
「…………」
「…………」
ヤマメはテーブルに突っ伏した。
「ふぁぁぁあああん! 降りればよかったぁぁぁぁぁあああん」
「あっはっは!」
パルスィは高笑いしながらテーブルの中央のチップを自分の方にかき集めた。ジャラジャラジャラジャラ!
「いいんじゃない? “ヤマメポーカーで大負け記念日”で! あっはっはっはっ」
「不名誉すぎるわ!」
ヤマメはグラスに手つかずで残っていたワインを一気に喉に流し込んだ。だん、とやや乱暴にグラスを置いた。
「じゃあ、どっか、そのへんブラブラしながら考えようじゃないの。今日がなんの日なのかよ」
「おう。あんたが考えんのよ」
「わかっとるわいっ!」
ヤマメが悔しげに椅子から立ち上がると、パルスィもそれに続いた。
二人でテーブルのカードとチップを片付けて箱にしまい、ワイングラスとワインボトルを台所に置き、第三の目の形のマスコットのついた紐を引くと、シャンデリア型の小さなランプが消え、戸棚に嵌められたステンドグラスのきらびやかな反射光は主張をひそめた。
「行こっか」
「行こ行こ」
三
ヤマメとパルスィは地底の住民である。おいそれと地上に出るのはやんわり禁じられているため、二人が出かけるというと、自ずと足が向くのは旧都くらいだった。
その日は人工太陽の橙色の灯が足元から漏れていて、間欠泉センターは順調に運営しているらしかった。
「“甘味屋全メニュー制覇記念日”なんてどう?」
よく冷えたミルクソフトクリームに柚子ソースのかかったものを口に運びながらヤマメが言った。
「制覇する前に店閉まっちゃうって」
よく冷えた水まんじゅうに抹茶餡が入ったものを口に運びながらパルスィが言った。
二人は甘味屋に来ていた。旧都の甘味屋の中でもとりわけ冷菓がうまくて夏の頃になるとよく来る店である。
「今日はポーカーで遊びすぎたわね」
「新しいゲームしようとすると、まずルールを把握してから楽しみ方がわかってくるまで時間かかるのがね」
二人がパルスィの家を出たのは相当日が暮れてからで、この甘味屋も閉店二時間前といったところだった。
「そうなってくると、もう、今日は“ポーカー初プレイ記念日”でいいじゃん」
「そうすると“ヤマメポーカーで大負け記念日”がついて回ることになるけど」
「ぐぎぎぎぎっぎぎ」
先程の勝負を思い出してヤマメは呻き声ともとれない声を上げて顔を歪めた。もしパルスィがフォーカードであることを察していれば、さっさと降りてチップを次のラウンドに持ち込めたはずだ。ヤマメは己の思い至らなさ、未熟さ、脳髄の不出来さを悔やみ、これらを鍛えることを心に誓いながらスプーンを口に運んだ。
「冷たくて甘くておいし〜」
一瞬で蕩けた笑顔を見せるヤマメにパルスィは呆れ笑いを浮かべて言った。
「ヤマメって本当に美味しそうにものを食べるよね。その感受性が妬ましいわ」
きょとんとしたような顔をすると、ヤマメはスプーンで柚子ソフトをすくってパルスィの口に押し込んだ。
「んぐ」パルスィは瞳を蕩けさせた。「美味しい……」
ヤマメはパルスィの顔を指差して笑った。
「パルスィだってものっそ幸せそうな顔で食べるじゃないか」
「ふふふ。まあね」
「そこで得意気になるのはよくわからん」
スプーンを自分の側に戻し、柚子ソフトを崩す作業を再開する。とろとろと溶けかけているソフトクリームの上部にスプーンを突き刺し、己の口に運ぶ。
ヤマメは思った。
「(間接キスだ。でも気にしない。なぜなら私は間接キスしたところで気にするような繊細な性格ではないしパルスィとは間接キスをしたところで気にするような繊細な関係ではないからである。私はパルスィと間接キスしたことを気にしたことなど一度たりともない)」
水まんじゅうをもちもちと頬張ってパルスィが言った。
「考え込んじゃって、どうしたの」パルスィはくすくすと冗談めかして笑った。「それ間接キスだからって気にしてんの?」
ヤマメはげらげらげらと笑った。
「まさか!」
ヤマメはげらげらげらと笑った。
「あんたと間接キスなんて何度もしてるけど、それをわざわざ気にしたことなど一度たりともないわ!」
ヤマメはげらげらげらと笑った。
「そう」
驚くほど冷静にパルスィが言った。
ヤマメも冷静になった。ソフトクリームに突き刺さっているスティック型のチョコレートを指でもぎとって噛み砕いた。
「しかし、もう店が閉まる頃合いなら、これ以上旧都にいても仕方ないかもね。呑み屋なんか行ったって、新鮮味ないでしょうし」
「そうね。これから呑み屋に行くのは吝かではないけど、記念日のアイデアにはならないでしょうね。今日という日が終わってしまうわ」
二人のミッションは“今日中に今日が何の記念日なのか決める”ことだ。別に明日でもいいじゃんと思われるかもしれないが、これはそういうゲームだ。二人はゲームにはいつも真剣なのだ。真剣な方が楽しいのである。
「パルスィ行きつけのゲーム屋に行って、あんたが持ってないゲーム全部買って、“全ゲーム制覇記念日”とかありかな〜って思ってたけど、ポーカーひとつやるのにあんだけ時間かかってんだから、これからやってすぐ終わるわけないわよねぇ」
「そりゃあそう。店も閉まるし、ゲーム選んでる暇すらなさそうだわ」
「パルスィ」
「なによ」
「これ意外とムズいぞ」
「それはねぇ」アイス緑茶をストローから啜ってパルスィは言った。「薄々私も思ってたわ」
二人は顔を見合わせて馬鹿笑いした。
「我々こういうところ駄目よね」
「計画性のけの字もないもの」
「あーあ」
ヤマメはアイスほうじ茶をグラスに口をつけて一気に流し込むと、スッキリした表情で言った。
「仕方ない。最終手段を使うわ」
「最終手段?」
「とりあえず店を出ましょう」
「あっ。待って」
「なに?」
伝票を持って立ち上がろうとするヤマメを言葉で制止すると、パルスィは水まんじゅうが僅かに突き刺さった楊枝をヤマメの口に押し込んだ。
「アイスのおかえし」
ヤマメはげらげらげらと笑った。
四
会計を終え、どこに行くのかと訝しげな気持ちになりながらヤマメについて辿り着いたのは、旧都を出て、橋を越え、洞窟にひっそりと佇むツリーハウスだった。
パルスィは言った。
「ヤマメの家じゃん」
ヤマメは振り向いた。
「そうだよ? 掃除してないから汚いけれど、まあ勘弁して」
ぎしりと木が軋む。パルスィは家から木にまとわりつくようにして伸びる螺旋階段をヤマメの後に続いて登りながら、来るたんびに思うがなぜヤマメはこのような家に住んでいるのだろう、蜘蛛だからこういう昇り降り等のギミックがあるほうが落ち着くのだろうか、などと考えながら、また、このタイミングでヤマメが自宅へ私を迎え入れる理由とは一体なんだろうか、何の記念日をやるつもりだというのか、といった思索を巡らせた。
パルスィの脳裏にある一単語が過ぎった。
──同衾……。
「(まさか、ヤマメは私と寝るつもりなのでは? 二人して奥手だから一向に友人のままだが実は友人以上になりたいと思っている我々の関係を一歩進展させようとしているのでは? そのために記念日づくりというイベントを利用しようとしているのでは? 同衾記念日と同時に恋人成立記念日をダブルで樹立してポイント二倍獲得を画策しているのでは?)」
螺旋階段を登りきり、木の枝の間にかけられたどうやって成立してるのかさっぱりわからない土台の上に立つと、ヤマメはゴソゴソと服の中を探って鍵を出し家の扉を開けた。パルスィはその膨らんだスカートの中に生活用品を入れていつも歩いているのかと言いかけたがやめておいた。
「さー上がって上がって」
「お邪魔します」
パルスィが家に入ると、ヤマメは扉を閉めて鍵をかけた。
──同衾……。
「こっちこっち」
玄関を抜け、トイレを過ぎ、二人で遊ぶ時にいつも使っているリビングを通り抜け、たまにパルスィが立つこともあるキッチンを横切り、廊下に入り、浴室を過ぎ、その先の部屋にヤマメが入って手招きするので、パルスィは足を踏み入れた。
ベッド、クローゼット、タンス。
ヤマメの寝室だった。
──同衾……。
パルスィは、動悸がしたり、ほのかに頭痛がしてきたり、脇の下から汗を分泌させたりした。
ヤマメは寝室の明かりを風情もなくパッとつけると、奥にある物置の扉を開いた。
そこには簡易で手入れのされていなさそうな古い神棚があった。
「えっ」パルスィは瞠目した。「神棚!?」
「意外っしょ?」
「最終手段ってあんた……」
「この手に限る。神頼みさ」
ニヤニヤしながらヤマメはそう言うと、扉の内側にかかっている鳥の羽でできたはたきを手にとり、パタパタと神棚のホコリを払うと、はたきを元に戻し、跪いて、手を合わせ、目を閉じた。
パルスィは言った。
「それ私もやらなきゃだめ?」
「うんにゃ。パルスィはそのへんで暇そうにしてて」
「暇だわぁ」
仕方がないのでパルスィはヤマメのベッドに腰掛けて、跪くヤマメの背中を見守った。
──同衾……。
そしてしばらくしないうちに神棚から霊力が溢れ出し寝室は神秘的な光に包まれ、次のような声が部屋に響いた。
「我を呼ぶのは何処の人ぞ──」
ヤマメとパルスィは口々に言った。
「神様だわ!」「神様だわ!」
そして神棚の前に扉のような紋様が顕れ、厳かな音を立ててそれが開くと、中から一人の女が姿を現したのだった。
土色と呼ぶほど暗くはないが、金色と呼ぶほど明るくもない亜麻色の髪が腰まで伸びている。
緑色のスカートと白い肌着を覆う北斗七星が描かれた橙色の長い前掛けと二つの突起のついた黒い帽子が目を引く。
そして背中から4色のオーラを纏っているその姿は、まごうことなき神だった。
パルスィは神様に指をさしてヤマメに言った。
「だれ?」
「ありゃっ」
漫画的描写を用いれば神様はずっこけた。
ヤマメはパルスィに振り向いて言った。
「被差別の民の神なのよ。たまに信仰してんの」
「誰かと思えば、土蜘蛛じゃないか」
物珍しげな笑みを浮かべて神様は言った。
「久々に深刻な祈りを感じたから来てやったが、へえ。土蜘蛛とはね。妖怪が神頼みとはただ事ではなかろう。何用かな?」
友好的な様子の神様に対し、ヤマメはへりくだってよくわからない人格を演じ始めた。
「へえ。来て頂いて感謝します。早速ですがお聞きください。そこにいる悪鬼めが、今日をなにかの記念日に制定しろ、内容はお前が考えろと無茶なことを言って私を脅すのですが、なにも思いつきませぬ。このままでは日付が変わるとともに私は殺されてしまいます」
「誰れが悪鬼じゃ」パルスィは苦笑い気味に言った。
「あなた様におかれましては、どうかこの哀れな土蜘蛛めに知恵をお貸し頂けないでしょうか」
「ふーむ……」
神様は明らかに夜になってきて疲れてテンションがおかしくなっている土蜘蛛とベッドに座りあくびをかく悪鬼を交互に見た。たぶん悪鬼ではないし、殺されるとかでもないんだろうなあと思った。
神様は言った。
「日付が変わるまであと半刻といったところか。流石に殺されるのはかわいそうだ。そうだな……記念日は、二人が関係するものがいいのかい?」
──同衾……。
「まあ、そうですね」ヤマメが言った。
「では、こういうのはどうだろう」人差し指を立てて神様は言った。「今から二対一で私と決闘するんだ」
「へっ?」「決闘っ?」
ヤマメとパルスィが口々に言うと、神様はオーラの圧を強くさせた。扉から霊気が漏れる、ぶわっと髪がなびき、臨戦態勢に入るのがわかる、闘志を呼び覚ます!
「地底に住まう者が神と相まみえる機会はそうそうあるまい! お前たちが共闘して私に打ち勝てば、一生忘れられない記念となろう!」
──同衾……。
ヤマメは言った。
「家グッチャグチャになりそうだからとりあえず外出ない?」
五
もしあのまま寝室の中にいたら、間違いなくヤマメの家はグッチャグチャになっていただろう。
神様は絶妙な強さを発揮して負けた。ヤマメとパルスィの二人がかりで挑んだにもかかわらず、二人とも残0ボム0に追い込まれたのである。辛勝もいいところであった。
「ギリギリで勝たせてくれるなんてエンタテインメント力に優れているのね。妬ましいわ」
肩を回しながらパルスィが言った。神様は決闘に破れると二人を賞賛しながら消え去ってくれたのでヤマメとパルスィはたいへんすがすがしい気分だった。
「彼女、芸能の神とか、能楽の神とか呼ばれてるらしいし、そのへんは手慣れてるんだろうね」
伸びをしながらヤマメが言った。
「でも、あれはひどかった。“秘儀「裏切りの後方射撃」”だっけ?自機狙いのやつ」
「ああ、あれはひどかった。二人いるから自機狙い弾の照準がブレブレになって本来シンプルであろう弾幕の軌道がしっちゃかめっちゃかだったわ。逆に面白かったけど」
「ああいうのは気をつけないとだめね」
「ヤマメの“細綱「カンダタロープ」”とか二人相手だとどうなるのかしら」
「やってあげようか? 分身してよ」
「今日はもうヤダ。疲れた」
二人は雑談しながら階段を登り、またヤマメの家に入った。
「お茶でも入れるわ。座ってて」
リビングに通されたパルスィは、素直にソファに座った。一日中ポーカーをして旧都に行って帰ってきて神様と決闘した肉体はわりといっぱい疲れているようで、座ると一気に脱力感がパルスィを襲った。ソファはふかふかで気持ちよかった。ヤマメの匂いがした。
──同衾……。
二人ぶんの湯呑を持ってキッチンから出てくると、ヤマメはパルスィの隣に座った。
「どぞ」
「ども」
ヤマメから湯呑をすすめられ、パルスィはありがたくお茶を啜った。ヤマメも啜っていた。
ふー、とヤマメは息を吐いた。
「ぎりぎり日付が変わらずに済んだわね。というわけで、今日を“神様撃破記念日”に制定することを提案します。いかがか?」
「同衾……」
「なんて?」
「いや。それでいいわ。もう」
「……パルスィ疲れてんの?」
「あんたは疲れてないの?」
「いやめっぽう疲れた」
「でしょうが」
お茶を飲んで、ふー、とパルスィは息を吐いた。
くゆる湯気。静かな時間。疲労。
「今日どうする? 泊まってく?」
いっさいの下心のないヤマメの問いに、いっさいの下心なくパルスィは答えた。
「泊まらせてもらうわ。帰るのだるい」
「わかる」
パルスィはヤマメの家に来客用の布団セットがあるのを知っている。ヤマメの家に泊まるのは特段珍しいことではないからだ。いつもリビングに布団を敷かせてもらっていた。
ヤマメは立ち上がった。
「布団持ってくるね。あー、お風呂入る?」
「入……」パルスィは“疲れたから風呂入りたい”と“疲れてるから風呂入りたくない”の間で逡巡した。「る」
「じゃあ沸かしてくるわ」
「なにからなにまで悪いね」
「いやいや」
そう言うとヤマメはキッチンの方に歩いて行き、奥の扉を開けて、廊下に入り、扉を閉めた。
完全なる静寂がパルスィの前に訪れた。
パルスィは色々なことを考えたが、疲労の為か、そのどれもがろくにまとまらずに泡となって消えていった。
……ボオオーン……ボオオーン……。
ヤマメの家の時計の音だった。日付が変わったのだ。パルスィはソファと自分が一体化するほどの脱力感を覚えた。
この時計は除夜の鐘であり、私の煩悩を消し去るかもしれない、と思ったが、同衾、という二文字がパルスィの脳裏から消えることはなく、ポーカー中にニヒルな笑みを浮かべるヤマメ、同衾、アイスを頬張って蕩けた笑みを浮かべるヤマメ、同衾、神様の弾幕を避けながら好戦的な笑みを浮かべるヤマメ、同衾、とパルスィの苦悩に拍車をかけるようだった。
しかし、どのみち同衾は無理だとパルスィにはわかっていた。
それは、日付が変わったから記念日にする口実がなくなったからとか、奥手だからとか、そういうことではなく、単に“これもう今日は風呂入って寝る以上のことは無理だな”という疲労による諦観であった。
今日ではないいつかを必ず”同衾記念日”にしてやる、いずれ、そのうち──そう心に誓っていると、扉が開き、布団を体いっぱいに抱えたヤマメが中から出てきた。なんとなくその姿が間抜けで愛らしかったのでパルスィは顔を綻ばせた。
「お待た。布団そこでいい?」
「ええ」
ヤマメはソファの横のスペースに布団セットを置いた。
「お風呂沸かしてるから、もうすぐ入れるよ」
「助かるわ」
パルスィはソファから立ち上がると、ソファの横のスペースに敷布団を敷き始めた。
ヤマメはそれを見ながらテーブルの湯呑みに手を伸ばし、お茶を啜った。
言うか迷ったパルスィは、結局言うことにした。
「……そっち、私が飲んでた方よ」
ヤマメはげらげらげらと笑った。
【了】
旧都は地底の街であるから、空を見上げても土と岩が暗くあるばかりで、今が朝か昼か夜かを知るには時計を買うか足元を見なければならなかった。昼か夜ならば、旧都よりさらに地下の旧地獄、そのさらに奥の奥の灼熱地獄跡、間欠泉センターから人工太陽の光が漏れ出して、地面を透かし照らしているはずだった。朝は人工太陽は出ない。人工太陽の管理者である鴉がぐーすかぴーと地霊殿の主の枕元で寝ている頃だからだ。
呑み屋などの主人たちは、人工太陽が灯ったとわかると店の灯りをつけ、提灯に火を点すのだから、それでようやく旧都の住民たちは時刻をおおよそ把握するのだった。
しかしその日は少し様子が違っていた。人工太陽の橙色の光がどこにも見えないにもかかわらず、旧都の街並みは賑やかに光っていた。
人工太陽の管理者である鴉──霊烏路空が旧都に遊びに来ているためである。
まずそもそもの背丈が高い上に、長い茶髪と大きな黒羽と白いマント、角材のような長い棒のついた右腕、岩のような右足、光を纏う左足、胸に赤く輝く巨大な眼を持つ空はどの角度から見ても非常に目立ち、視界の片隅にでも入れば「あっお空だ」とすぐわかるので、一歩旧都に入れば一瞬でその来訪が街の端まで伝わり、「お空が起きてるなら今は昼だ」ということなので、人工太陽の光が無くとも街灯りが灯るのである。
さながら歩く太陽といった空は、うんうんと頭を捻らせながら親友の火焔猫燐とともに街道を歩いていた。
「でもさあ。記念日だよ。やっぱりサプライズがいいよ」
「だからあ、さとり様相手にサプライズなんて無理だってば。まだ一週間も先なんだよ。その間さとり様と全く顔を合わせないなら可能だろうけどよ」
「一週間もさとり様と会えなかったら私爆発しちゃうよ」
「しないで」
「うーん」
うんうんと頭を捻らせながら、はた、と空は帽子屋の前で足を止めた。
「あっ。お燐、この帽子、こいし様の帽子に似てるね」
机に並べられた帽子のうち、黒い鍔広の帽子を指差して空が言った。赤い三つ編みと黒い猫耳を揺らして燐は頷いた。
「そうだね」
「あっ」
漫画的表現を用いれば頭の上に電球が点ったような様子で空は声を上げた。
「あっ。天才の発想を思いついた今」
「なにさ」
燐はジト目をした。
「天啓だわ!」
空は目をぴかぴかと輝かせた。
燐はジト目をさらにジト目にさせた。
「だからなにさ」
「こいし様に代理で祝ってもらえばいいのよ! “さとり様、地霊殿建立記念日おめでと〜。って、お空とお燐が言ってたよ〜”って。プレゼントも渡していただいて。完璧だわ。天啓だわ!」
「お空……」
燐はジト目を殊更にジト目にさせた。
「あんた、もうこの瞬間から“こいし様にサプライズでさとり様の記念日を祝ってもらうんだよね〜わくわく”って思ってることになるんだよ。そしてそれをさとり様に読まれる」
空は目をぴかぴかさせるのをやめた。
「天啓ってうんちね」
「うんちとか言わないの」
帽子屋から顔を逸し、二匹は再び街道を歩き始めた。
「どうしようかなぁ。プレゼントもまだ決まっていないし。さとり様は何なら喜ぶかなぁ」
「小説なら確実だよ」
「小説は私が分かんないよぉ」
「難しいんだねぇ……」
「さとり様は……」
「その話は……」
「………………」
「…………」
「……」
ニ
「それがとっても妬ましくてね」
木製のゆったりとした椅子の上で、脚を組み直しながらパルスィが言った。
ここは旧都と地底入口を繋ぐ橋の下の、パルスィの家の平屋だった。
リビングの壁には雑多に人形だとか、ボードゲームだとか、ルールブックだとか絵本だとかダイスだとかが押し込まれた戸棚やラックがぎっしりと詰まっており、まあまあ広いはずの部屋の間取りを狭苦しく感じさせていた。同時に、パルスィの趣味を察しざるを得ないようになっていた。
パルスィは二枚のカードを手に持っていた。円形の木製テーブルの上にはワイングラス、ワイングラス、ワインボトルに加え、カードケースと、輪ゴムと、山札と、並べられた裏向きのカード五枚、それから大量の紙製のチップが置かれている。パルスィの向かいに座るヤマメもまた、二枚のカードを持っていた。
「それってどれよ。お燐とお空の仲のよさ? 祝われる予定のさとり? 頼りがいのあるこいし?」
「“地霊殿建立記念日”よ」パルスィは自分の持ちチップを何枚かつまみ、テーブルの中央に置いた。「コール」
「記念日?」
「そう。みんなで祝える記念日があるってとてつもなく妬ましいことじゃない」
「ふーん」ヤマメはパルスィが置いたのと同じ枚数のチップをテーブルに置いた。「コール」
パルスィの指が、裏向きの五枚のカードのうち三枚をめくる。
ハートのエース、スペードのエース、ダイヤのエースだった。
二人は口々に言った。
「なるほどね」「なるほどね」
ヤマメは自分の手札を目を細めながら見つめ、パルスィはこめかみを指でぐりぐり押したりした。
「うん。それじゃあ我々も記念日をやることにしよう」
手札と場のカードを交互に見ながらヤマメが言った。
「いつ?」パルスィはチップをテーブルの中央に置いた。「コール」
「今日」ヤマメも同じようにした。「コール」
「今日って……」パルスィはさっき置いた枚数の倍のチップを置いた。「レイズ。何の日よ」
「ぐぎぎ……」露骨に渋い顔をしてヤマメは同じだけのチップを置いた。「コール……何の日かは、まあ、決めればいいじゃん」
「今日中に?」
「今日中に」
「今日が何の記念日か、今日中に決めるの?」
「うん」
素直な顔をしてヤマメは頷いた。
裏向きの二枚のうち、一枚がパルスィの指でめくられる。
スペードのジャックだった。
表向きのカードは、ハートのエース、スペードのエース、ダイヤのエース、スペードのジャック。裏向きのカードは一枚。
二人は口々に言った。
「そういうことね」「そういうことね」
ヤマメは手札を伏せて天井を見上げ、パルスィはワインを少し呑んだ。
パルスィが「妬ましいわ」と言う場合、ヤマメにとってそれはおおよそイベント開始の合図だった。
パルスィが「地霊殿のステンドグラスが妬ましいわ」と言えば「じゃあ今日はステンドグラスを作ろう」と言い、「地霊殿のシャンデリアが妬ましいわ」と言えば「じゃあ今日はシャンデリアを作ろう」と言い、「地霊殿の主が妬ましいわ」と言えば「じゃあ今日は第三の目を作ろう」と言い、そうやって二人は過ごしてきた。
だから、パルスィが「地霊殿の記念日が妬ましいわ」と言うなら、「じゃあ今日は記念日を作ろう」と返すのはヤマメにとってはごくごく自然なことだった。
「でも、どうやって決めるのよ」パルスィはチップを気持ち多めに置いた。「コール」
「そのへん歩いてればなんらか思いつくでしょ」ヤマメはパルスィが置いたよりさらに気持ち多めに置いた。「レイズ」
ふーっ、とパルスィは息を吐いた。
「強気ねぇ」
「まあね」
口の端を吊り上げてニヒルな笑みを作りヤマメは言った。
「レイズ」
パルスィが言った。ヤマメが置いたよりさらに気持ち多めにチップが置かれた。
ヤマメは笑みを深めた。
「コール」
ヤマメはパルスィが置いたのと同じ枚数チップを置いた。ジャラジャラとチップが重なる音が鳴った。
パルスィはチップを一枚つまみ上げた。
「紙製にしてはいい音鳴るわね」
ヤマメもチップをつまんで見た。
「そうだね。よく出来てる。また、いつものゲームの店で買ったの?」
「ええ。店主の手作りなんですって」
「へえ。やるもんだ」
「ま、それはそれとして」
最後の裏向きのカードがパルスィの手によってめくられる。
スペードの10だった。
表向きのカードは、ハートのエース、スペードのエース、ダイヤのエース、スペードのジャック、スペードの10。
二人は口々に言った。
「よくわかった」「よくわかった」
パルスィは雑にチップを掴み、中央に置いた。
「コール」
ジャラジャラとチップが重なる音が鳴った。
「随分じゃないの」ヤマメはパルスィより多く掴んだ。「レイズ」
「負ける気がしないわ」パルスィはヤマメより多く掴んだ。「レイズ」
「言うじゃない。負けた方が記念日の内容を考えるってのはどう?」ヤマメはパルスィより多く掴んだ。「レイズ」
「もちろん勝ったほうは記念日の内容が気に入るまで却下できるのよね?」パルスィはヤマメより多く掴んだ。「レイズ」
ヤマメは自分の持ちチップを見た。パルスィが賭けたチップに少し足したくらいしか残っていない。
「当たり前じゃない」
ヤマメは残りのチップを全てテーブルの中央に置いた。
「負けた方は記念日の内容を気に入られるまで提案し続けるのよ。オールイン」
パルスィは自分の持ちチップを見た。ヤマメが賭けたのとほぼ同じくらいしか残っていない。
「上等だわ。オールイン」
パルスィは残りのチップを全てテーブルの中央に置いた。
これで二人ともすかんぴんだ。
──緊張感──。
パルスィはゆっくり、そう、とてもゆっくりと自分の手札を広げて見せた。
ヤマメは凝視した。
クラブのエースと、ハートの3だった。
「エースのフォーカード」
口の端を吊り上げてニヒルな笑みを作りパルスィが言った。
ヤマメはゆっくり、そう、とてもゆっくりと自分の手札を広げて見せた。
パルスィは凝視した。
スペードのキング。
「うっ!」
パルスィの全身に激しい動揺が走った。──ロイヤルフラッシュ!?
ヤマメはゆっくり、そう、とてもゆっくりともう一枚を公開した。
ダイヤのキングだった。
ヤマメは眉を寄せ、口の端を吊り上げ、汗を額からたらりと流して、物凄い苦笑いを浮かべて言った。
「フ……フルハウス……」
賢明な読者の皆様にはお分かりだろうが、ポーカーの役の強さというのはこうである。
強い
ロイヤルフラッシュ
ストレートフラッシュ
フォーカード ←パルスィ
フルハウス ←ヤマメ
フラッシュ
ストレート
スリーカード
ツーペア
ワンペア
ハイカード
弱い
「…………」
「…………」
ヤマメはテーブルに突っ伏した。
「ふぁぁぁあああん! 降りればよかったぁぁぁぁぁあああん」
「あっはっは!」
パルスィは高笑いしながらテーブルの中央のチップを自分の方にかき集めた。ジャラジャラジャラジャラ!
「いいんじゃない? “ヤマメポーカーで大負け記念日”で! あっはっはっはっ」
「不名誉すぎるわ!」
ヤマメはグラスに手つかずで残っていたワインを一気に喉に流し込んだ。だん、とやや乱暴にグラスを置いた。
「じゃあ、どっか、そのへんブラブラしながら考えようじゃないの。今日がなんの日なのかよ」
「おう。あんたが考えんのよ」
「わかっとるわいっ!」
ヤマメが悔しげに椅子から立ち上がると、パルスィもそれに続いた。
二人でテーブルのカードとチップを片付けて箱にしまい、ワイングラスとワインボトルを台所に置き、第三の目の形のマスコットのついた紐を引くと、シャンデリア型の小さなランプが消え、戸棚に嵌められたステンドグラスのきらびやかな反射光は主張をひそめた。
「行こっか」
「行こ行こ」
三
ヤマメとパルスィは地底の住民である。おいそれと地上に出るのはやんわり禁じられているため、二人が出かけるというと、自ずと足が向くのは旧都くらいだった。
その日は人工太陽の橙色の灯が足元から漏れていて、間欠泉センターは順調に運営しているらしかった。
「“甘味屋全メニュー制覇記念日”なんてどう?」
よく冷えたミルクソフトクリームに柚子ソースのかかったものを口に運びながらヤマメが言った。
「制覇する前に店閉まっちゃうって」
よく冷えた水まんじゅうに抹茶餡が入ったものを口に運びながらパルスィが言った。
二人は甘味屋に来ていた。旧都の甘味屋の中でもとりわけ冷菓がうまくて夏の頃になるとよく来る店である。
「今日はポーカーで遊びすぎたわね」
「新しいゲームしようとすると、まずルールを把握してから楽しみ方がわかってくるまで時間かかるのがね」
二人がパルスィの家を出たのは相当日が暮れてからで、この甘味屋も閉店二時間前といったところだった。
「そうなってくると、もう、今日は“ポーカー初プレイ記念日”でいいじゃん」
「そうすると“ヤマメポーカーで大負け記念日”がついて回ることになるけど」
「ぐぎぎぎぎっぎぎ」
先程の勝負を思い出してヤマメは呻き声ともとれない声を上げて顔を歪めた。もしパルスィがフォーカードであることを察していれば、さっさと降りてチップを次のラウンドに持ち込めたはずだ。ヤマメは己の思い至らなさ、未熟さ、脳髄の不出来さを悔やみ、これらを鍛えることを心に誓いながらスプーンを口に運んだ。
「冷たくて甘くておいし〜」
一瞬で蕩けた笑顔を見せるヤマメにパルスィは呆れ笑いを浮かべて言った。
「ヤマメって本当に美味しそうにものを食べるよね。その感受性が妬ましいわ」
きょとんとしたような顔をすると、ヤマメはスプーンで柚子ソフトをすくってパルスィの口に押し込んだ。
「んぐ」パルスィは瞳を蕩けさせた。「美味しい……」
ヤマメはパルスィの顔を指差して笑った。
「パルスィだってものっそ幸せそうな顔で食べるじゃないか」
「ふふふ。まあね」
「そこで得意気になるのはよくわからん」
スプーンを自分の側に戻し、柚子ソフトを崩す作業を再開する。とろとろと溶けかけているソフトクリームの上部にスプーンを突き刺し、己の口に運ぶ。
ヤマメは思った。
「(間接キスだ。でも気にしない。なぜなら私は間接キスしたところで気にするような繊細な性格ではないしパルスィとは間接キスをしたところで気にするような繊細な関係ではないからである。私はパルスィと間接キスしたことを気にしたことなど一度たりともない)」
水まんじゅうをもちもちと頬張ってパルスィが言った。
「考え込んじゃって、どうしたの」パルスィはくすくすと冗談めかして笑った。「それ間接キスだからって気にしてんの?」
ヤマメはげらげらげらと笑った。
「まさか!」
ヤマメはげらげらげらと笑った。
「あんたと間接キスなんて何度もしてるけど、それをわざわざ気にしたことなど一度たりともないわ!」
ヤマメはげらげらげらと笑った。
「そう」
驚くほど冷静にパルスィが言った。
ヤマメも冷静になった。ソフトクリームに突き刺さっているスティック型のチョコレートを指でもぎとって噛み砕いた。
「しかし、もう店が閉まる頃合いなら、これ以上旧都にいても仕方ないかもね。呑み屋なんか行ったって、新鮮味ないでしょうし」
「そうね。これから呑み屋に行くのは吝かではないけど、記念日のアイデアにはならないでしょうね。今日という日が終わってしまうわ」
二人のミッションは“今日中に今日が何の記念日なのか決める”ことだ。別に明日でもいいじゃんと思われるかもしれないが、これはそういうゲームだ。二人はゲームにはいつも真剣なのだ。真剣な方が楽しいのである。
「パルスィ行きつけのゲーム屋に行って、あんたが持ってないゲーム全部買って、“全ゲーム制覇記念日”とかありかな〜って思ってたけど、ポーカーひとつやるのにあんだけ時間かかってんだから、これからやってすぐ終わるわけないわよねぇ」
「そりゃあそう。店も閉まるし、ゲーム選んでる暇すらなさそうだわ」
「パルスィ」
「なによ」
「これ意外とムズいぞ」
「それはねぇ」アイス緑茶をストローから啜ってパルスィは言った。「薄々私も思ってたわ」
二人は顔を見合わせて馬鹿笑いした。
「我々こういうところ駄目よね」
「計画性のけの字もないもの」
「あーあ」
ヤマメはアイスほうじ茶をグラスに口をつけて一気に流し込むと、スッキリした表情で言った。
「仕方ない。最終手段を使うわ」
「最終手段?」
「とりあえず店を出ましょう」
「あっ。待って」
「なに?」
伝票を持って立ち上がろうとするヤマメを言葉で制止すると、パルスィは水まんじゅうが僅かに突き刺さった楊枝をヤマメの口に押し込んだ。
「アイスのおかえし」
ヤマメはげらげらげらと笑った。
四
会計を終え、どこに行くのかと訝しげな気持ちになりながらヤマメについて辿り着いたのは、旧都を出て、橋を越え、洞窟にひっそりと佇むツリーハウスだった。
パルスィは言った。
「ヤマメの家じゃん」
ヤマメは振り向いた。
「そうだよ? 掃除してないから汚いけれど、まあ勘弁して」
ぎしりと木が軋む。パルスィは家から木にまとわりつくようにして伸びる螺旋階段をヤマメの後に続いて登りながら、来るたんびに思うがなぜヤマメはこのような家に住んでいるのだろう、蜘蛛だからこういう昇り降り等のギミックがあるほうが落ち着くのだろうか、などと考えながら、また、このタイミングでヤマメが自宅へ私を迎え入れる理由とは一体なんだろうか、何の記念日をやるつもりだというのか、といった思索を巡らせた。
パルスィの脳裏にある一単語が過ぎった。
──同衾……。
「(まさか、ヤマメは私と寝るつもりなのでは? 二人して奥手だから一向に友人のままだが実は友人以上になりたいと思っている我々の関係を一歩進展させようとしているのでは? そのために記念日づくりというイベントを利用しようとしているのでは? 同衾記念日と同時に恋人成立記念日をダブルで樹立してポイント二倍獲得を画策しているのでは?)」
螺旋階段を登りきり、木の枝の間にかけられたどうやって成立してるのかさっぱりわからない土台の上に立つと、ヤマメはゴソゴソと服の中を探って鍵を出し家の扉を開けた。パルスィはその膨らんだスカートの中に生活用品を入れていつも歩いているのかと言いかけたがやめておいた。
「さー上がって上がって」
「お邪魔します」
パルスィが家に入ると、ヤマメは扉を閉めて鍵をかけた。
──同衾……。
「こっちこっち」
玄関を抜け、トイレを過ぎ、二人で遊ぶ時にいつも使っているリビングを通り抜け、たまにパルスィが立つこともあるキッチンを横切り、廊下に入り、浴室を過ぎ、その先の部屋にヤマメが入って手招きするので、パルスィは足を踏み入れた。
ベッド、クローゼット、タンス。
ヤマメの寝室だった。
──同衾……。
パルスィは、動悸がしたり、ほのかに頭痛がしてきたり、脇の下から汗を分泌させたりした。
ヤマメは寝室の明かりを風情もなくパッとつけると、奥にある物置の扉を開いた。
そこには簡易で手入れのされていなさそうな古い神棚があった。
「えっ」パルスィは瞠目した。「神棚!?」
「意外っしょ?」
「最終手段ってあんた……」
「この手に限る。神頼みさ」
ニヤニヤしながらヤマメはそう言うと、扉の内側にかかっている鳥の羽でできたはたきを手にとり、パタパタと神棚のホコリを払うと、はたきを元に戻し、跪いて、手を合わせ、目を閉じた。
パルスィは言った。
「それ私もやらなきゃだめ?」
「うんにゃ。パルスィはそのへんで暇そうにしてて」
「暇だわぁ」
仕方がないのでパルスィはヤマメのベッドに腰掛けて、跪くヤマメの背中を見守った。
──同衾……。
そしてしばらくしないうちに神棚から霊力が溢れ出し寝室は神秘的な光に包まれ、次のような声が部屋に響いた。
「我を呼ぶのは何処の人ぞ──」
ヤマメとパルスィは口々に言った。
「神様だわ!」「神様だわ!」
そして神棚の前に扉のような紋様が顕れ、厳かな音を立ててそれが開くと、中から一人の女が姿を現したのだった。
土色と呼ぶほど暗くはないが、金色と呼ぶほど明るくもない亜麻色の髪が腰まで伸びている。
緑色のスカートと白い肌着を覆う北斗七星が描かれた橙色の長い前掛けと二つの突起のついた黒い帽子が目を引く。
そして背中から4色のオーラを纏っているその姿は、まごうことなき神だった。
パルスィは神様に指をさしてヤマメに言った。
「だれ?」
「ありゃっ」
漫画的描写を用いれば神様はずっこけた。
ヤマメはパルスィに振り向いて言った。
「被差別の民の神なのよ。たまに信仰してんの」
「誰かと思えば、土蜘蛛じゃないか」
物珍しげな笑みを浮かべて神様は言った。
「久々に深刻な祈りを感じたから来てやったが、へえ。土蜘蛛とはね。妖怪が神頼みとはただ事ではなかろう。何用かな?」
友好的な様子の神様に対し、ヤマメはへりくだってよくわからない人格を演じ始めた。
「へえ。来て頂いて感謝します。早速ですがお聞きください。そこにいる悪鬼めが、今日をなにかの記念日に制定しろ、内容はお前が考えろと無茶なことを言って私を脅すのですが、なにも思いつきませぬ。このままでは日付が変わるとともに私は殺されてしまいます」
「誰れが悪鬼じゃ」パルスィは苦笑い気味に言った。
「あなた様におかれましては、どうかこの哀れな土蜘蛛めに知恵をお貸し頂けないでしょうか」
「ふーむ……」
神様は明らかに夜になってきて疲れてテンションがおかしくなっている土蜘蛛とベッドに座りあくびをかく悪鬼を交互に見た。たぶん悪鬼ではないし、殺されるとかでもないんだろうなあと思った。
神様は言った。
「日付が変わるまであと半刻といったところか。流石に殺されるのはかわいそうだ。そうだな……記念日は、二人が関係するものがいいのかい?」
──同衾……。
「まあ、そうですね」ヤマメが言った。
「では、こういうのはどうだろう」人差し指を立てて神様は言った。「今から二対一で私と決闘するんだ」
「へっ?」「決闘っ?」
ヤマメとパルスィが口々に言うと、神様はオーラの圧を強くさせた。扉から霊気が漏れる、ぶわっと髪がなびき、臨戦態勢に入るのがわかる、闘志を呼び覚ます!
「地底に住まう者が神と相まみえる機会はそうそうあるまい! お前たちが共闘して私に打ち勝てば、一生忘れられない記念となろう!」
──同衾……。
ヤマメは言った。
「家グッチャグチャになりそうだからとりあえず外出ない?」
五
もしあのまま寝室の中にいたら、間違いなくヤマメの家はグッチャグチャになっていただろう。
神様は絶妙な強さを発揮して負けた。ヤマメとパルスィの二人がかりで挑んだにもかかわらず、二人とも残0ボム0に追い込まれたのである。辛勝もいいところであった。
「ギリギリで勝たせてくれるなんてエンタテインメント力に優れているのね。妬ましいわ」
肩を回しながらパルスィが言った。神様は決闘に破れると二人を賞賛しながら消え去ってくれたのでヤマメとパルスィはたいへんすがすがしい気分だった。
「彼女、芸能の神とか、能楽の神とか呼ばれてるらしいし、そのへんは手慣れてるんだろうね」
伸びをしながらヤマメが言った。
「でも、あれはひどかった。“秘儀「裏切りの後方射撃」”だっけ?自機狙いのやつ」
「ああ、あれはひどかった。二人いるから自機狙い弾の照準がブレブレになって本来シンプルであろう弾幕の軌道がしっちゃかめっちゃかだったわ。逆に面白かったけど」
「ああいうのは気をつけないとだめね」
「ヤマメの“細綱「カンダタロープ」”とか二人相手だとどうなるのかしら」
「やってあげようか? 分身してよ」
「今日はもうヤダ。疲れた」
二人は雑談しながら階段を登り、またヤマメの家に入った。
「お茶でも入れるわ。座ってて」
リビングに通されたパルスィは、素直にソファに座った。一日中ポーカーをして旧都に行って帰ってきて神様と決闘した肉体はわりといっぱい疲れているようで、座ると一気に脱力感がパルスィを襲った。ソファはふかふかで気持ちよかった。ヤマメの匂いがした。
──同衾……。
二人ぶんの湯呑を持ってキッチンから出てくると、ヤマメはパルスィの隣に座った。
「どぞ」
「ども」
ヤマメから湯呑をすすめられ、パルスィはありがたくお茶を啜った。ヤマメも啜っていた。
ふー、とヤマメは息を吐いた。
「ぎりぎり日付が変わらずに済んだわね。というわけで、今日を“神様撃破記念日”に制定することを提案します。いかがか?」
「同衾……」
「なんて?」
「いや。それでいいわ。もう」
「……パルスィ疲れてんの?」
「あんたは疲れてないの?」
「いやめっぽう疲れた」
「でしょうが」
お茶を飲んで、ふー、とパルスィは息を吐いた。
くゆる湯気。静かな時間。疲労。
「今日どうする? 泊まってく?」
いっさいの下心のないヤマメの問いに、いっさいの下心なくパルスィは答えた。
「泊まらせてもらうわ。帰るのだるい」
「わかる」
パルスィはヤマメの家に来客用の布団セットがあるのを知っている。ヤマメの家に泊まるのは特段珍しいことではないからだ。いつもリビングに布団を敷かせてもらっていた。
ヤマメは立ち上がった。
「布団持ってくるね。あー、お風呂入る?」
「入……」パルスィは“疲れたから風呂入りたい”と“疲れてるから風呂入りたくない”の間で逡巡した。「る」
「じゃあ沸かしてくるわ」
「なにからなにまで悪いね」
「いやいや」
そう言うとヤマメはキッチンの方に歩いて行き、奥の扉を開けて、廊下に入り、扉を閉めた。
完全なる静寂がパルスィの前に訪れた。
パルスィは色々なことを考えたが、疲労の為か、そのどれもがろくにまとまらずに泡となって消えていった。
……ボオオーン……ボオオーン……。
ヤマメの家の時計の音だった。日付が変わったのだ。パルスィはソファと自分が一体化するほどの脱力感を覚えた。
この時計は除夜の鐘であり、私の煩悩を消し去るかもしれない、と思ったが、同衾、という二文字がパルスィの脳裏から消えることはなく、ポーカー中にニヒルな笑みを浮かべるヤマメ、同衾、アイスを頬張って蕩けた笑みを浮かべるヤマメ、同衾、神様の弾幕を避けながら好戦的な笑みを浮かべるヤマメ、同衾、とパルスィの苦悩に拍車をかけるようだった。
しかし、どのみち同衾は無理だとパルスィにはわかっていた。
それは、日付が変わったから記念日にする口実がなくなったからとか、奥手だからとか、そういうことではなく、単に“これもう今日は風呂入って寝る以上のことは無理だな”という疲労による諦観であった。
今日ではないいつかを必ず”同衾記念日”にしてやる、いずれ、そのうち──そう心に誓っていると、扉が開き、布団を体いっぱいに抱えたヤマメが中から出てきた。なんとなくその姿が間抜けで愛らしかったのでパルスィは顔を綻ばせた。
「お待た。布団そこでいい?」
「ええ」
ヤマメはソファの横のスペースに布団セットを置いた。
「お風呂沸かしてるから、もうすぐ入れるよ」
「助かるわ」
パルスィはソファから立ち上がると、ソファの横のスペースに敷布団を敷き始めた。
ヤマメはそれを見ながらテーブルの湯呑みに手を伸ばし、お茶を啜った。
言うか迷ったパルスィは、結局言うことにした。
「……そっち、私が飲んでた方よ」
ヤマメはげらげらげらと笑った。
【了】
おっきーなお前ほんとさあ……(すき)(その繋がりの発想はなかった)(天才)
ヤマパル同衾して
よかったです
ごちそうさまでした。
面白かったです!
ヤマパルは迅速に同衾すべき
はよくっつけというもどかしさをガンガンに増幅させていく手法は素晴らしかったです。
2人の微妙なすれ違いと普通の日常の雰囲気がマッチしていて面白かったです。
のめりこめそうでのめりこめきれない、もどかしさが凄かった。
自然な流れなのに、不自然な流れで、いまいち乗り切れなかったのが辛かったです。