ん、珍しいね人間。
こんな夜更けに出歩いていて大丈夫?
食べていい?
冗談だけど。
や、別に貴方のいきさつなんかに特に興味はないんだけど。
こんな時間にどこに行くのか気になって。
だってもう零時過ぎだよ。
善い人間は寝る時間だ、ってね。
まあ、私が言えたことでもないよね、確かに。
ああ、神社帰り。じゃあもう帰って寝るだけかな。
うん、なら丁度良かったかな。
いや、大したことじゃないんだけどね。
ほら、あなたも魔法を使うでしょう?
ねえ人間。ちょっと散歩に付き合ってよ。
夜の物語を拾い集める、夜明けまでの小旅行。
一人で歩くのもいいんだけど、たまには二人もいいかなって思ってね。
うん、ポケットは空っぽでいいよ。
その方が、色んなものを詰め込めるから、ね。
楽曲「バイバイ・ナイトバード」三次創作作品
【ナイトバードに星の雨】
新月の夜は私の時間。
今日みたいな日が、宵闇が一番深くなるのは分かるよね。
その影響かは知らないけど、こういう日にはいろんなものが、この森のなかに入ってくる。
夜に縁のあるものが、ね。
私以外には気付けもしないんだろうけど。
そのものものに連なった、夜の小物語たちを食べ歩くのが、月に一度の私の習慣、って話。
例えばこれ。
水にさらされて丸くなった硝子片かな。
薄黄緑の硝子なんて、何に使ってたんだろうね。
……ワイン?
吸血鬼の飲んでる赤いのじゃなくて、透明なの?
それの入ってたのがだいたいこんな色?
ふうん。
まあいいや。
誰か、たぶん子供がいつかにこれを拾ったみたいでね。
うん、もちろん真夜中の話。
その子は月の欠片が落ちてきたんだ、ってはしゃぎ回ってね。
しばらくの間は、ずっとお気に入りだったらしいよ。
素敵な話?
うん、貴方はそう言うと思った。
ロマンチストだもんね。
……うん、そうだね。
こっちに来ちゃったってことは、忘れちゃったか、失くしちゃったか。
辛気臭い話?
別に気にならないけどなあ。
子供なんて、そんなもんだし。
それに、そうやってこっちに来てくれないと、私のお腹は膨れないしね。
これもそうだね。
形からして、栞、かな。
むしろ、私からしたら、重要なのは中の押し花の方だけど。
……これは貰いものだったみたい。
真夜中に、一度だけ会った、不思議な雰囲気のお姉さん。
また会おうって言われて、これを渡されて、でも結局出会うことはなかった。
このアカシアの花に絡まってるのは、だいたいそういう話かな。
ほのぼのとした話ばっかりってわけでもないよ。
こっちの紙切れ、んー、紙切れでいいのかなこれ。
プラスチック?
あ、そうなんだ。
通りで破れてないと思った。
ともかく。
これはもともと、集会の招待状、あー、違うかも。
繰り返し使ってたし、むしろ鍵、なのかな。
カードキー?
そうかも。
……特別な薬を使って、幻想を覗き見る、とかなんとか。
そういう集まりに混ざるためのものだったみたいなんだけどね。
なんだかいろいろ見えすぎて、夜の街にもばけものが見えるようになっちゃって。
最期にはノイローゼに狂っちゃったんだって。
うん。
そろそろ結構集まってきたし、一旦ここで食べちゃおうかな。
そう、食べるの。
みんな誤解してるけど、私は別に人間食べたりしないんだよね。
都合がいいから、誤解させたままにしてるけど。
内緒だよ?
小さなものものに絡まった、夜に関わる小物語。
実際のところ、私の主食はこれなんだ。
うん、人間には見えないかな。
いや、私以外にはきっと見えないんだけど。
それで、こう。
これを、こんな風に、端っこの方をつまんでね。
物語の紐を、解いてあげれば。
……ほら、出てきた。
何それ、って言われるとちょっと困るけど。
夜に連なる幻想の表象、って言えばいいのかな。
さっきみたいな夜の小物語たちが、姿を持つと、こんな風になるの。
私は、ナイトバード、って呼んでる。
ほら、鳥の形をしてるでしょ?
なんで鳥なのかは分かんないけど。
……解放感?
ああ、夜になると人間は少なくなるもんね。
見てくる相手がいないから、しがらみから解き放たれた気分になって。
その心象が、自由の象徴として、鳥の形を取ってる、と。
どうなんだろうね。
理屈とか、私はあんまり興味ないし。
でも、そうだったら素敵だよね。
うん。
私はそういうの、好きだよ。
じゃあ、いただきます。
あむ、もぐ。
え。
なにさ人間、びっくりした顔して。
食べるとは思わなかった?
最初に言ったじゃん、食べ歩くのが習慣なんだって。
はなから私は食べるために集めてたんだけど。
……話の流れ?
よく分かんないなあ。
そんな気落ちしないでよ。
とっておきのが、まだあるからさ。
この川を渡って、ちょっと行ったところ。
そこでずいぶん前に見つけたのが、これなんだけど。
指輪、でいいのかな。
うん。
これについては、正直あんまり分からないんだよね。
夜にゆかりは、確かにあるみたいなんだけど。
なんだか、繋がりが弱いみたいで。
こう、なんて言えばいいかな。
香りはするけど、見えないし、手が届かない、みたいな。
そんな感じ。
そうするとさ、やっぱりむかつくでしょ?
美味しそうなごちそうの香りがするのに、見えも触れもしない、なんて。
だから、いろいろ弄ってみたんだよね。
なにか、手掛かりはないかな、って。
そしたら、見つかったのが、これ。
まあ、ちょっと期待とは違ったけど。
ここをこう押すと、ほら。
……レーザーポインタ、鏡文字。折線グラフに、格子模様。
それと、中空に一気に展開された、旧近未来的デザインのウインドウ。
うん、やっぱりそうなんだ。
これはきっと、月の情報端末なんだろうね。
月ってさ。
昼も夜も、空の色がおんなじらしいんだよね。
だから、地上みたいに、明確な夜の概念がないんだと思う。
それなら、まあ、食べられないのも仕方がないよね。
夜がないなら縁もなにもないんだし。
中途半端に香りだけするのは、腹立つけどね。
仕方ないよ、うん。
じゃあ、はい。
うん。
その指輪は、人間、貴方にあげるよ。
……どうして、って言われても。
香りしか楽しめないものなんて、私はいらないし。
その指輪の中の情報なんて、私はいらないんだけどさ。
貴方の魔法には、参考になるかもしれないでしょ?
うん。
……まあ、分かるよね。
貴方、嘘吐きだもんね。
そりゃあ、ごまかしは効かないか。
うん。
例えば、貴方が死んだあと。
それでなくても、これの中身が用済みになって、どこかに放り出されたあと。
そのときに、この直線的な夜空の記憶がさ。
夜に連なる小物語になるんじゃないかな、って。
そんな期待を、私はちょっぴり寄せてるよ、って。
まあ、それだけの話だよ。
ほら、もう丑の時間も過ぎた頃だよ。
善い人間は、そろそろ家に帰らないと。
うん。
今日は楽しめたよ。
付き合ってくれてありがとね。
うん?
まだ足りない?
何のはなし?
……ああ。
うん。
そうだったね。
貴方は星の魔法使いだったっけ。
思い出にするには、星が足りない、華が足りない。
だから、自分で星を描いて華を足すんだ、ね。
うん。
いいね。
貴方のそういうところ、とっても素敵だと思うよ。
こんな夜更けに出歩いていて大丈夫?
食べていい?
冗談だけど。
や、別に貴方のいきさつなんかに特に興味はないんだけど。
こんな時間にどこに行くのか気になって。
だってもう零時過ぎだよ。
善い人間は寝る時間だ、ってね。
まあ、私が言えたことでもないよね、確かに。
ああ、神社帰り。じゃあもう帰って寝るだけかな。
うん、なら丁度良かったかな。
いや、大したことじゃないんだけどね。
ほら、あなたも魔法を使うでしょう?
ねえ人間。ちょっと散歩に付き合ってよ。
夜の物語を拾い集める、夜明けまでの小旅行。
一人で歩くのもいいんだけど、たまには二人もいいかなって思ってね。
うん、ポケットは空っぽでいいよ。
その方が、色んなものを詰め込めるから、ね。
楽曲「バイバイ・ナイトバード」三次創作作品
新月の夜は私の時間。
今日みたいな日が、宵闇が一番深くなるのは分かるよね。
その影響かは知らないけど、こういう日にはいろんなものが、この森のなかに入ってくる。
夜に縁のあるものが、ね。
私以外には気付けもしないんだろうけど。
そのものものに連なった、夜の小物語たちを食べ歩くのが、月に一度の私の習慣、って話。
例えばこれ。
水にさらされて丸くなった硝子片かな。
薄黄緑の硝子なんて、何に使ってたんだろうね。
……ワイン?
吸血鬼の飲んでる赤いのじゃなくて、透明なの?
それの入ってたのがだいたいこんな色?
ふうん。
まあいいや。
誰か、たぶん子供がいつかにこれを拾ったみたいでね。
うん、もちろん真夜中の話。
その子は月の欠片が落ちてきたんだ、ってはしゃぎ回ってね。
しばらくの間は、ずっとお気に入りだったらしいよ。
素敵な話?
うん、貴方はそう言うと思った。
ロマンチストだもんね。
……うん、そうだね。
こっちに来ちゃったってことは、忘れちゃったか、失くしちゃったか。
辛気臭い話?
別に気にならないけどなあ。
子供なんて、そんなもんだし。
それに、そうやってこっちに来てくれないと、私のお腹は膨れないしね。
これもそうだね。
形からして、栞、かな。
むしろ、私からしたら、重要なのは中の押し花の方だけど。
……これは貰いものだったみたい。
真夜中に、一度だけ会った、不思議な雰囲気のお姉さん。
また会おうって言われて、これを渡されて、でも結局出会うことはなかった。
このアカシアの花に絡まってるのは、だいたいそういう話かな。
ほのぼのとした話ばっかりってわけでもないよ。
こっちの紙切れ、んー、紙切れでいいのかなこれ。
プラスチック?
あ、そうなんだ。
通りで破れてないと思った。
ともかく。
これはもともと、集会の招待状、あー、違うかも。
繰り返し使ってたし、むしろ鍵、なのかな。
カードキー?
そうかも。
……特別な薬を使って、幻想を覗き見る、とかなんとか。
そういう集まりに混ざるためのものだったみたいなんだけどね。
なんだかいろいろ見えすぎて、夜の街にもばけものが見えるようになっちゃって。
最期にはノイローゼに狂っちゃったんだって。
うん。
そろそろ結構集まってきたし、一旦ここで食べちゃおうかな。
そう、食べるの。
みんな誤解してるけど、私は別に人間食べたりしないんだよね。
都合がいいから、誤解させたままにしてるけど。
内緒だよ?
小さなものものに絡まった、夜に関わる小物語。
実際のところ、私の主食はこれなんだ。
うん、人間には見えないかな。
いや、私以外にはきっと見えないんだけど。
それで、こう。
これを、こんな風に、端っこの方をつまんでね。
物語の紐を、解いてあげれば。
……ほら、出てきた。
何それ、って言われるとちょっと困るけど。
夜に連なる幻想の表象、って言えばいいのかな。
さっきみたいな夜の小物語たちが、姿を持つと、こんな風になるの。
私は、ナイトバード、って呼んでる。
ほら、鳥の形をしてるでしょ?
なんで鳥なのかは分かんないけど。
……解放感?
ああ、夜になると人間は少なくなるもんね。
見てくる相手がいないから、しがらみから解き放たれた気分になって。
その心象が、自由の象徴として、鳥の形を取ってる、と。
どうなんだろうね。
理屈とか、私はあんまり興味ないし。
でも、そうだったら素敵だよね。
うん。
私はそういうの、好きだよ。
じゃあ、いただきます。
あむ、もぐ。
え。
なにさ人間、びっくりした顔して。
食べるとは思わなかった?
最初に言ったじゃん、食べ歩くのが習慣なんだって。
はなから私は食べるために集めてたんだけど。
……話の流れ?
よく分かんないなあ。
そんな気落ちしないでよ。
とっておきのが、まだあるからさ。
この川を渡って、ちょっと行ったところ。
そこでずいぶん前に見つけたのが、これなんだけど。
指輪、でいいのかな。
うん。
これについては、正直あんまり分からないんだよね。
夜にゆかりは、確かにあるみたいなんだけど。
なんだか、繋がりが弱いみたいで。
こう、なんて言えばいいかな。
香りはするけど、見えないし、手が届かない、みたいな。
そんな感じ。
そうするとさ、やっぱりむかつくでしょ?
美味しそうなごちそうの香りがするのに、見えも触れもしない、なんて。
だから、いろいろ弄ってみたんだよね。
なにか、手掛かりはないかな、って。
そしたら、見つかったのが、これ。
まあ、ちょっと期待とは違ったけど。
ここをこう押すと、ほら。
……レーザーポインタ、鏡文字。折線グラフに、格子模様。
それと、中空に一気に展開された、旧近未来的デザインのウインドウ。
うん、やっぱりそうなんだ。
これはきっと、月の情報端末なんだろうね。
月ってさ。
昼も夜も、空の色がおんなじらしいんだよね。
だから、地上みたいに、明確な夜の概念がないんだと思う。
それなら、まあ、食べられないのも仕方がないよね。
夜がないなら縁もなにもないんだし。
中途半端に香りだけするのは、腹立つけどね。
仕方ないよ、うん。
じゃあ、はい。
うん。
その指輪は、人間、貴方にあげるよ。
……どうして、って言われても。
香りしか楽しめないものなんて、私はいらないし。
その指輪の中の情報なんて、私はいらないんだけどさ。
貴方の魔法には、参考になるかもしれないでしょ?
うん。
……まあ、分かるよね。
貴方、嘘吐きだもんね。
そりゃあ、ごまかしは効かないか。
うん。
例えば、貴方が死んだあと。
それでなくても、これの中身が用済みになって、どこかに放り出されたあと。
そのときに、この直線的な夜空の記憶がさ。
夜に連なる小物語になるんじゃないかな、って。
そんな期待を、私はちょっぴり寄せてるよ、って。
まあ、それだけの話だよ。
ほら、もう丑の時間も過ぎた頃だよ。
善い人間は、そろそろ家に帰らないと。
うん。
今日は楽しめたよ。
付き合ってくれてありがとね。
うん?
まだ足りない?
何のはなし?
……ああ。
うん。
そうだったね。
貴方は星の魔法使いだったっけ。
思い出にするには、星が足りない、華が足りない。
だから、自分で星を描いて華を足すんだ、ね。
うん。
いいね。
貴方のそういうところ、とっても素敵だと思うよ。
とても素敵なお話でした。
味の違いとかあるんでしょうかね?どういうお話がルーミアの好みなんでしょうか。これから先に魔理沙が作り出す夜物語は星に彩られた綺麗な話になって欲しいなと思います。どんな味がするんですかね?
幻想的で良いですね~。
拾ったものから物語を想像する姿がエモかったです
よいものをいただきました!
魔理沙は自分にとって価値のあるものを見つけたり、あるいは自分で描いたりするために、夜の中で冒険をしているのかなあ、と想像しました。
夜のお話、綺麗で良かったです。
いくつかの印象的な単語を歌詞からの引用しながら、とても幻想的な世界観が造りあげられていて、楽しむことができました。