ん、今日はあんた一人だけか。
平和な世の中になったもんだ。仕事が減るってのは嬉しいもんだね。
何の話かだって?
あぁ、悪かったな。あたいは死神さ、お前さんみたいな幽霊を運ぶね。
なんだお前さん、自分が死んだ事に気付いちゃいなかったのか。
よーく思い出してみな、自分が死んだ時の事をさ。
んー思い出せないか。まぁいい、こっちじゃ良くある話だ。
あたいの仕事はあんたを乗せてこの河を渡る事だからな。覚えているかどうかは関係ないさ。
どうした、乗らないのかい? あっちでやり残した事でもあった?
へぇ、気乗りしない理由が分からないと。
未練があるとか閻魔様に裁かれるのが怖いとか、そういう訳じゃないけど、妙に乗りたくないと。
ははっ、変わった奴も居るもんだな。
何となくこの船に乗りたくないとか言う奴なんて、長年この船頭をやってきたが初めてだよ。
気に入った、お前さんがその気になるまで待つことにしよう。
仕事はいいのかって? なに、休憩も仕事の内さ。
それに、どうせ今日はお前さん一人だけなんだ。時間はたっぷりある。
だから大人しく、その気になるまであたいと一緒にのんびりしてるといい。
まぁそうは言っても、ただ待つだけってのは面白くない。
どうだい、ここは一つ面白い話をしてやろうか。この前とっておきの仕入れたんだ。
お、聞きたいか。
ま、面白い話とは言っても怖い話、怪談ってやつさね。
今は夏だ。夏ってのはこういう事をするって相場が決まっているだろう?
え? 幽霊に向けて怪談だなんておかしいって?
まぁいいじゃないか、私だって新しく仕入れたネタを披露してみたいんだよ。
よし、じゃあ話始めるとしようか。
こいつはある妖怪の話なんだけどな。
あまり知られていないんだが、ある所にかなり厄介な妖怪がいるのさ。
名前は忘れちまったんだけど、こいつがまた性根の腐ったとんでもない奴でさ、人間や妖怪、はたまたそれ以外だって好き嫌いせずに食べちまうんだ。
まぁ、これだけでもかなり面倒な奴だが、本当に酷いのはここからなんだ。
そいつは食った者の魂を弄ぶ。
もう殆ど死んでいる様な状態まで肉体を喰らい、喰った者の魂を、此処、三途の河にまで飛ばす。
そうして魂が三途の河に行っている間、そいつは喰った者の肉体をもう一度元に戻すんだ。要は肉体を再生させるって訳。
そうするとどうなると思う?
生きていた頃の体が戻った訳だから、魂はその肉体に戻って行くんだ。
健康な体と魂が戻った訳だから、喰われた奴は目を覚ます事になる。
ただ、目を覚ましたはいいものの、目の前には先程まで自分を喰らっていた奴が……って事になるんだな。
その妖怪は、そうやって目を覚ました者達の恐怖で歪む顔が大好きなんだと。
だから、気が済むまで喰べて治してを繰り返す。
そいつに捕まったら最後、簡単に死ぬ事だって出来ない。
せめて楽に死にたいんだったら、そいつが体を治し切る前に河を渡っちまう事だね。
ただ、そうも簡単にはいかない。
如何やら喰われた奴の魂は暗示が掛かっているみたいで、無性に河を渡りたくなくなるんだと。あぁ、丁度今のお前さんみたいにね。
どうだい? 恐ろしかったろ?
おいおい、怖がりすぎだって。死んでる癖に臆病な奴だなぁ。
さて、気は済んだかい? そうかそうか、その気になったか。
そうと決まればさっそく……おっと、如何やらお前さん、まだこっちには来れないみたいだな。
誰かが呼んでいるみたいだ。家族、友人、恋人か、はたまたそれ以外か。
何にせよ、死人じゃないならあたいの仕事にはならない訳だ。さ、とっとと帰りな。
どうした、そんな嫌そうな顔しちゃって。
今度は帰りたくないだって? 我儘なやつだなぁ。
悪いけど、どんなに帰りたくなくったって、もう暫くしたらお前さんは目覚める事になるよ。
なんだよお前さん、さっきこの話を聞きたいって言ったじゃないか。
自業自得ってやつだな、仕方のない奴だ。
大丈夫だって、心配する事なんてない。私も祈っててやるからさ。
なんて祈るかって? そりゃ、どうか次に来るのが最後になりますようにってな。
平和な世の中になったもんだ。仕事が減るってのは嬉しいもんだね。
何の話かだって?
あぁ、悪かったな。あたいは死神さ、お前さんみたいな幽霊を運ぶね。
なんだお前さん、自分が死んだ事に気付いちゃいなかったのか。
よーく思い出してみな、自分が死んだ時の事をさ。
んー思い出せないか。まぁいい、こっちじゃ良くある話だ。
あたいの仕事はあんたを乗せてこの河を渡る事だからな。覚えているかどうかは関係ないさ。
どうした、乗らないのかい? あっちでやり残した事でもあった?
へぇ、気乗りしない理由が分からないと。
未練があるとか閻魔様に裁かれるのが怖いとか、そういう訳じゃないけど、妙に乗りたくないと。
ははっ、変わった奴も居るもんだな。
何となくこの船に乗りたくないとか言う奴なんて、長年この船頭をやってきたが初めてだよ。
気に入った、お前さんがその気になるまで待つことにしよう。
仕事はいいのかって? なに、休憩も仕事の内さ。
それに、どうせ今日はお前さん一人だけなんだ。時間はたっぷりある。
だから大人しく、その気になるまであたいと一緒にのんびりしてるといい。
まぁそうは言っても、ただ待つだけってのは面白くない。
どうだい、ここは一つ面白い話をしてやろうか。この前とっておきの仕入れたんだ。
お、聞きたいか。
ま、面白い話とは言っても怖い話、怪談ってやつさね。
今は夏だ。夏ってのはこういう事をするって相場が決まっているだろう?
え? 幽霊に向けて怪談だなんておかしいって?
まぁいいじゃないか、私だって新しく仕入れたネタを披露してみたいんだよ。
よし、じゃあ話始めるとしようか。
こいつはある妖怪の話なんだけどな。
あまり知られていないんだが、ある所にかなり厄介な妖怪がいるのさ。
名前は忘れちまったんだけど、こいつがまた性根の腐ったとんでもない奴でさ、人間や妖怪、はたまたそれ以外だって好き嫌いせずに食べちまうんだ。
まぁ、これだけでもかなり面倒な奴だが、本当に酷いのはここからなんだ。
そいつは食った者の魂を弄ぶ。
もう殆ど死んでいる様な状態まで肉体を喰らい、喰った者の魂を、此処、三途の河にまで飛ばす。
そうして魂が三途の河に行っている間、そいつは喰った者の肉体をもう一度元に戻すんだ。要は肉体を再生させるって訳。
そうするとどうなると思う?
生きていた頃の体が戻った訳だから、魂はその肉体に戻って行くんだ。
健康な体と魂が戻った訳だから、喰われた奴は目を覚ます事になる。
ただ、目を覚ましたはいいものの、目の前には先程まで自分を喰らっていた奴が……って事になるんだな。
その妖怪は、そうやって目を覚ました者達の恐怖で歪む顔が大好きなんだと。
だから、気が済むまで喰べて治してを繰り返す。
そいつに捕まったら最後、簡単に死ぬ事だって出来ない。
せめて楽に死にたいんだったら、そいつが体を治し切る前に河を渡っちまう事だね。
ただ、そうも簡単にはいかない。
如何やら喰われた奴の魂は暗示が掛かっているみたいで、無性に河を渡りたくなくなるんだと。あぁ、丁度今のお前さんみたいにね。
どうだい? 恐ろしかったろ?
おいおい、怖がりすぎだって。死んでる癖に臆病な奴だなぁ。
さて、気は済んだかい? そうかそうか、その気になったか。
そうと決まればさっそく……おっと、如何やらお前さん、まだこっちには来れないみたいだな。
誰かが呼んでいるみたいだ。家族、友人、恋人か、はたまたそれ以外か。
何にせよ、死人じゃないならあたいの仕事にはならない訳だ。さ、とっとと帰りな。
どうした、そんな嫌そうな顔しちゃって。
今度は帰りたくないだって? 我儘なやつだなぁ。
悪いけど、どんなに帰りたくなくったって、もう暫くしたらお前さんは目覚める事になるよ。
なんだよお前さん、さっきこの話を聞きたいって言ったじゃないか。
自業自得ってやつだな、仕方のない奴だ。
大丈夫だって、心配する事なんてない。私も祈っててやるからさ。
なんて祈るかって? そりゃ、どうか次に来るのが最後になりますようにってな。
ただ食べるだけよりも何倍もの恐怖を回収する高効率手法を考えついた妖怪もすごい
面白かったです
良かったです
悪意マシマシでした。良かったです。
有難う御座いました。
最後にゾッとするのがとても強かったです……!
そして、もう一度最初から読み直してしまいました。
とても楽しめる怖い話でした。
恐ろしくも面白い、素晴らしい発想だと思います
すんでのところで命が助かるという本来希望が持てるはずの展開なのに、今回ばかりはおぞましさを感じました
恐怖から逃れられない状態っていうのが一番怖いですよね……。
事の真偽はさてはて……
真相は一体どうなっているのでしょう。呼んでいるのが家族ならいいのですが。