Coolier - 新生・東方創想話

あなたのイヤリング

2020/07/26 23:22:07
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今日も私、宇佐見蓮子はいつものカフェで、マエリベリー・ハーンとお茶をしていた。
「あなたを、イヤリングにしたら面白いかしら」
唐突な話題振りだ。振ってきた金髪の友人は何食わぬ顔で紅茶を啜っている。
「いきなりね」
「蓮子がわたしのイヤリングだったら、毎日、話聞いてくれるわよね?」
「話を聞くだけならさ、個体、宇佐見蓮子が貴女の耳にぶら下がる必要無いじゃない」
「もちろん、場所と時刻も聞くわよ?」
端末使いなよ……、なんて私達には無粋だろう。
「で? その流行のもとは?」
「これ」
近年ではお目にかかれないであろう、A6文庫本が机に置かれた。
「あー、『星新一、ひとにぎりの未来』ね。なるほど」
「そう。蓮子は話が早いわね」
「メリーが『はい』だけ言う日は来ない気がするのだけれど」
「むしろあなたが『はい』と話を聞いてほしいわね」
「それもなんか違わないかしら」
「……確かに。あなたの話も聞きたいものね。蓮子はどう? わたしのイヤリング付けてみたくない?」
「ふむ……」
とりあえず、眼球?
じぃっとメリーの瞳をのぞき込む。
「やだ蓮子わたしの目に釘付け? 乾杯しちゃう?」
ニコっと笑って、ティーカップを傾ける。
「はいはい、乾杯」
合わせてカップを傾ける。
年中話せる人間……と言って良いかはわからないが、そんな存在が居る生活も悪くはないだろう。
彼女の場合なら、朝はおはようではなく夢の話を垂れ流すだろうか。
延々と話を聞きながら朝食を食べ、仕事に行けば茶々を入れるだろうか。
それはとても――
「――馬鹿馬鹿しいわね。そんな想像」
結局のところ、私達の活動は私が遅れてやってきて、メリーか私の話で始まり、赴き体験する。
そういうものなのだから、お互いどちらかの何か一つ無くなってしまっても成り立たない。
永遠には続かないかもしれないが、これからも、大学を卒業しても続けていきたい。
「……それもそうよね」
彼女はよくわからない微笑みをたたえたままそう云い、瞼を閉じるとまた紅茶を啜った。
私も彼女に合わせて、目をつむりコーヒーを啜った。


その後、月日は経ち私たちは無事卒業した。
一ヶ月後、彼女が『イヤリング』になって私の元にやってきた。
手紙には短く、
『もっとあなたと夢をみたいの』
と添えられていた。




私は……。




「ねえ、朝よ蓮子」
耳元で声がする。
「うん、起きるわ」
体を起こすと、彼女の重みが耳に伝わる。
ずいぶん懐かしい夢を見たものだ。
「あのね蓮子――」
「わかってるわ。朝食食べながら聞くから少し待ってて……」
甘く急かす声を流しながら、リビングに向かう。
冷蔵庫を開けて適当に食材を見繕ってテーブルに並べる。
「待ちきれないのよ……! 早く聞いてほしいの」
おもちゃをねだるような声でメリーは云う。
「大丈夫。大学の時ほどは待たせないからさ」
「ほんとに?」
「ほんとよ。ほら」
準備が整った食卓を指す。
「じゃあ、早く座りましょう?」
「はいはい、さ、いいわよ」
「あのね――」
小鳥が朝さえずるように、今日も彼女は囁きかけてくる。
これが彼女の望んだ関係なのだろうか。
「ね、蓮子。行ってみたいでしょ?」
「あ、うん」
……聞いていなかった。けれども今となっては関係の無い話だ。
「じゃあ、仕事前に覗きましょ? ほら、わたしに触って?」
彼女に聞こえないようにため息をつき、言われるがままに『彼女の眼球』を手で包む。
「ね、みえるかしら?」
ごめんね、メリー。
もう、ビジョンは共有できないのよ。
「うん、見えるわ」
貴女と私の望みは、夢は、視点は明確な境界をもって区切られてしまっているから何も見えない。
私が小さくなった貴女をこの耳に飾ったあの日から、貴女と私の世界はズレてしまった。
もちろんそんなこと、彼女にはいえないけれど。
「それでね――」
私の様子も気にせず、彼女は語り続ける。

耳元で。

甘美であったはずの物語を。

そして私は答え続けるのだ。

「そうね」
お読みいただきありがとうございます
かぅ↑ふぃ↓
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コメント



0.100簡易評価
1.100終身削除
片方が居なくなったらダメだし共有されるのに欠けているものがあってもダメなバランスの危うさや微妙さに改めて思いいたるような流れがあったと思います 2人の関係の秘封倶楽部の変化で喪失感と切なさで胸がいっぱいになるような感傷と余韻があってとても惹きつけられました
2.90奇声を発する程度の能力削除
雰囲気がとても良く面白かったです
5.100Actadust削除
たとえ、死が二人をわかつとも、ずっと一緒。
どこか哲学的で、歪んだ価値観が心地よい後味の悪さを楽しめました。素敵な作品でした。
6.90名前が無い程度の能力削除
不思議な物語でした
7.80名前が無い程度の能力削除
良い蓮メリでした。完全無欠のハッピーエンドですね。
星新一、良いですよね。
8.100名前が無い程度の能力削除
こええ
急展開に頭が追い付きませんでした、ヤバい世界でした
9.100夏後冬前削除
すっきりと読みやすく、またお話自体もなかなか未来感があってとても楽しめました。当たり前のように狂気に流される秘封マジ解釈一致。。。
10.100モブ削除
とても上手なお話を書くなあと思いました。湿り気のある話でした。ご馳走様でした。
11.100サク_ウマ削除
ヒエッと声がでました。えぐいですね。良いと思います。
12.100めそふらん削除
ひえっ
狂気を感じさせる作品で面白かったです。
13.100名前が無い程度の能力削除
秘封倶楽部の常識感の`ズレ`がとてもよかったです
14.90名前が無い程度の能力削除
良かったです
15.90kawasemi削除
するっと読める文体でこの話を放り込んでくるの好き。
16.無評価七草粥削除
狂喜がとても鮮明に描かれていてさらにどこか正気を保っている蓮子がそれを際立ていてすごいです
17.100南条削除
面白かったです
テンポよくさらっと急転直下に水をぶっかけられたような気分になりました
最高です