Coolier - 新生・東方創想話

たまらないぜサニサニ フラン駆け巡るドール

2020/07/20 23:36:26
最終更新
サイズ
12.4KB
ページ数
1
閲覧数
1722
評価数
15/17
POINT
1520
Rate
17.17

分類タグ

 一

 一枚の絵画のような神秘的な光景だった。
 雪の白で染められた魔法の森が、一筋の光で照らされている。隙間なく萌え茂り天を覆い隠す木々の真ん中に、ひとつだけぽっかりと空いた穴が、唯一日光を歓迎していた。
 そしてその日光は、白い地面の一部分をより白く映し出し、一匹の妖精の姿をスポットライトのように照らしていた。
 透き通る4枚の羽。日光を反射して煌めく橙色のツインテール。白と赤を基調としたやわらかそうな洋服。晴れた夜空のような青紫の瞳。
 妖精は森の隙間からわずかに覗く空を見上げて立ち尽くしていた。まるで、立ち尽くす以外にやることがないみたいに。時折寒さにぶるりと体を震わせて、息を吐いて白くなるのを面白がったりしたが、そこから動こうとはしなかった。
 木々のさざめきと妖精の呼吸、一筋の日の光。時間は緩慢に過ぎて。刻々と時は進んで、それが十分なのか、ニ時間なのか、五秒なのか、わからないくらい。
 時計なんて妖精は持っていない。どうでもいいのだ。
 これからここに来る奴だって時計なんか持っていなかった。少なくとも、現在の時刻がわかるような時計は。



 ニ

 静謐は切り裂かれ、妖精の真横を直線が落下した。轟音が森いっぱいに響き渡り、衝撃でざあざあと雪が木から滑り落ちる。
 自分の真横に物凄い速度で落ちてきたものに妖精はまったく動揺せずにまだ空を見上げていた。
 雪煙の間から、きらきら、きらきらと宝石が輝いて見える。宝石は果実のように枝に連なりぶら下がっていて、枝は翼のように、少女の背中に伸びていた。
 宝石を背中にぶら下げた少女は、片手と両足を地面にしっかりとつけて、もう片手に歪な形の槍を持って、着地していた。
 少女はバッと顔を上げ、ニッと笑った。
「ふっ。スーパーヒーロー着地。決まった」
「焼き焦げじゃないか」
 妖精は少女を見ずに、空を見上げたままそう言った。
 少女の身体は金髪、白い肌、宝石、おおよそあらゆる場所から黒い煙がぷすぷすと立ち昇っていた。
 わっ、と少女は立ち上がって妖精の肩を掴んだ。
「焼き焦げなんてどうでもいいからスーパーヒーロー着地の感想言ってよ!」
「見てなかったわぁ」
「こいつぅ」
 くすくす、くすくすと二人は笑い合う。
 そして、そうするのが当然かのように二人は並んで日の当たらない森の奥へと消えた。
 スポットライトの下には雪と足跡だけが残った。



 三

「フラン、今日は何して遊ぶ?」
「うぅ。寒いわ、サニー」
 雪を踏みしめながら並んで歩く。
 吸血鬼のフランドールは日の光が弱点だ。何もしないとさっきみたいに焼き焦げて、そのうちには灰になってしまう……らしい。サニーミルクは、光の屈折を操る能力で、フランドールに降り注ぐ日の光をそらしてあげていた。そういう約束で二人は友達になった、ということがあった。
「それにこの白いの。冷たいよ」
「そりゃあ、冬は寒いし、雪は冷たいわ」
「こんなの初めてだわ」
「あんたよくそんなんで五百年も生きてられたわね」
「だって、四百九十年あまりをおうちで過ごしたのよ」
「今日は暖かい方だよ。雪もすぐ溶けると思うわ。お日様も出てるし」
「私はお日様の恩恵受けられないじゃない〜」
「そうだった。フランに日光を集めてあっためてあげよっか?」
「殺す気かっ」
「あはは」
 いたずらっぽく笑うサニーミルクにフランドールの口端からも少し笑みが漏れた。フランドールからすれば木っ端妖精などその気になれば一瞬で一回休みもしくは百回休みにさせられるのだが、なぜかサニーミルクにはその気が起きないのだった。短気のはずの自分なのに、おちょくられるようなことを言われても、不思議と心地が良いのだった。
 それはそれとして寒いのでフランは露出した腕をさすり合わせ、白い膝をもじもじとさせた。
「こんなの遊んでいる場合ではないわ。はくしゅん。と。凍死しちゃうかも(うそ)」
「うそ」くしゃみをしてがくがくと震えるフランドールを見てサニーミルクはおろおろとし始めた。「ど。どうしたらいいのかしら」
「な。なにかもう一枚くらい着るものでもあればけっこう違うと思うんだけど」
「う。うーん」
 着るもの。着るもの。サニーミルクは妖精脳を絞り出した。
「あっ」ひらめいた。「このへんで服を作ってくれそうな人(ようかい)を知ってるわ!」



 四

「ごめんくださあい」
 小さい女の子の声だった。ノック、ノック。「ごめんくださあい」。──焦った声だわ。何事かしらん──アリス・マーガトロイドは人形に紅茶を淹れさせるのを中断して、椅子から立ち上がった。
「どなたですか」
 玄関まで向かい、戸を少し空けると、そこに立っていたのは、背の低い二人の金髪少女だった。片方は不安げな顔で、もう片方は寒さに震えて青ざめた顔で、アリスを見上げていた。
 アリスには両方とも見覚えがあった。
「あんた、光の三妖怪詐欺の」
「へえ。その節はどうも」
「そっちは吸血鬼妹じゃない。なんでこんな所に」
「色々あるのよぉ」
「…………」
 アリスはサニーミルク(フランドールを心配そうにしている)とフランドール(寒そう)を交互に見ると、戸を全開にしてやった。
「まあ、入ったら?」



 五

「あったかぁ〜い」
 ぷはぁと紅茶を飲み干すと、フランドールはぴこぴこと羽を動かしてニコニコと言った。
 アリスの家は暖炉があたたかく、淹れたての紅茶はおいしかった。
 テーブルの上の三つのカップと中央に置かれたポットを見回して、遠慮がちに紅茶を啜りながら、サニーが言った。
「その。紅茶ありがとうございます」横目でフランドールを見る。「助かりました。その。アリスさん。その。お願いがあるんです」
「緊張しすぎよ」アリスはため息をついた。「それで?」
「フランの服を作ってほしいんです」
「服を?」
「冬用の。そとが寒くても動けるくらいの」
「ああ……」
 言われてアリスはフランドールの格好を見た。半袖。ミニスカ。冬服ではないだろう。
「咲夜とか作ってくれるんじゃないの?」
 銀髪メイドの顔を思い浮かべてアリスが言うと、気まずそうにフランドールは答えた。
「お外に出てるのは咲夜には内緒なの。お館はあったかいから私にあったかい服なんて必要ないのよ」
「そりゃ難儀なことね」
 てきぱきと人形にポットを持たせて空のカップに注がせ、フランドールの顔が綻ぶのを見ると、アリスは続けた。
「あったかい服、作ってあげてもいいわ。丁度今は手が空いているし。ただ、無償ではできない」
 サニーミルクとフランドールは顔を見合わせた。
「って言ったって、私達お金持ってないよ」
「お菓子も今日は持ってこられなかったし」
「パチュリーに本を数冊融通するように言っといて。それでいいわ」
「そんなんでいいの?」
「いいの」
「不思議ねー。融通なんかしなくたって、勝手に取っていくのもいるのに」
「私はそいつほど手が器用じゃないのよ」
 こうしている間も何体か人形を操っているアリスの手が器用じゃないわけないじゃんとサニーミルクは思った。
「フラン。寸法を測るからそこに立って」
「はーい」
 そう言われてフランドールは椅子の横に立った。するとメジャーを持った2体の人形が足元から頭までぐるぐるとフランドールの周りを回ってあっという間に採寸してしまった。
「じゃあ作るからお茶飲んで少し待って」
「すごーい」「すごーい」
「……」
 キャッキャと口々に言うフランドールとサニーミルクに謎の照れを感じるアリスだった。



 六

「フランってアリスさんと知り合いなの?」
「ううん。何回か家に来てるのを見たことがあるだけ。本を読みに来てるみたい」
「ふーん。魔法使いってどうして本を読むんだろう」
「本を読めば魔法使いになれるんじゃない?」
「私も本を読んだら魔法使いになれるかなー? なりたい! 人形をこんなふうに操れるなんてー、絶対楽しそう」
「あっはっは。サニーに読めるのなんて絵本くらいでしょ」
「ばっバカにしてえっ。フランは本読めるのかよっ」
「ウィトゲンシュタインだって読めるわ。妖精の生命力なんて、魔法そのものだと思うけどねぇ」
「うぃとげーん?」
「ウィトゲンシュタイン」
「うぃげしゅーと?」
「ウィトゲンシュタイン……」
「………………」
「…………」
「……」




 七

「うわー! すごーい! かわいいー!」
 鏡を見てフランドールは黄色い声を上げた。
 ふわふわしたケープ、しっかりと手首まで覆われた長袖、ペチコート入りの紅いロングスカート。翼を出すためのスリットもフリルで覆われていて、冷気が入らないように配慮されている。
 かわいさ・あたたかさ・動きやすさを兼ね備えたアリス自信の逸品だった。
「いいじゃん! フランすっごいかわいいよ! いいなー」
「えへへぇ」
 サニーミルクが瞳を輝かせて鏡の中のフランドールとほんもののフランドールをきょろきょろと見比べ、フランドールはふにゃふにゃと笑った。
 アリスが言った。「寒くはないかしら」
「これなら平気だと思う」スカートの裾をつまんだりケープをもぞもぞと触ったりしてフランドールは答えた。「パチュリーには本に糸目をつけるなって言っておくわ」
「ありがたいわね。あとこれ」
 アリスがぽいっと物を投げるような動作をすると、フランドールとサニーミルクの前に人形がやってきて、二人それぞれにマフラーと手袋を渡してくれた。
「くれるの!?」サニーミルクは仰天してつい大声になり、自分の声にびっくりして小声になった。「フランとおそろいだぁ」
 二人に配られた紅いマフラーと手袋には、サニーミルクの服の太陽の意匠と、フランドールの翼の宝石のようなチャームがあしらわれていた。
「手袋は撥水性よ。雪遊びする時は霜焼けに気をつけなさい」
「パチュリーには全図書を譲るように言っておくわ!」
「ありがたいわね」
 上機嫌で爛々と言うフランドールに、素っ気なくアリスが答えると、サニーミルクとフランドールはばたばたと玄関口まで走っていった。
「これで心置きなくサニーとお外で遊べるわー!」
「かまくらも雪だるまも雪合戦も作れるわー!」
 元気に去ろうとする二人を見てアリスは呆れたように首を振った。
「(まったく、慌ただしい。怪我しても知らないんだから……)」
 そして二人は一斉に振り向くと、満面の笑みで言うのだった。
「アリスさん、ありがとうございます!」
「ありがとう、アリス!」
 無機質な音ともに、ドアが開いて、閉まった。
 急に静かになった部屋で、アリスは扉の鍵を締めてきた人形の頭をそっと撫でてやった。
「……そうね、いい一日だったわ……」



 八

 フランドールは憤慨した。
「もう真っ暗じゃないっ!」
 ずいぶん長い間アリス邸にいたらしく、外に出ると木漏れ日は消え去り僅かに月の光が木々を照らす程度になっていた。
「せっかく冬服もらったのに、これじゃあ遊べないよー」
 サイドテールをぷりぷりと揺らして不満げなフランドールを諌めるように、暢気にサニーミルクは言った。
「冬は日が落ちるのが早いからねぇ。いいじゃない別に、吸血鬼は夜の種族なんでしょ」
「私はそうだけどあんたは日光妖精じゃん」
「そうだった。眠いよ〜っ」
 そう言うとサニーミルクはあからさまに足取りをふらふらとさせた。フランドールはやきもきとした。
「ああもうっ。一人で帰れそう?」
「ふぁ〜あ。へいきへいき。なんならちょっとくらい遊んでからでも〜」
「遊ぶのは明日にしよっ。ね?」
「うん」眠そうにサニーミルクは言った。「フラン、お姉さんみたいだね」
 フランドールは紅顔した。
「じゃあ、明日またいつもの所でね」
「えっ。うん。いつもの所でね」
 のんびりと言うサニーミルクに多少ペースを崩れながらも答えると、フランドールは次のように続けた。
「サニー。よかったらうちの館で私と暮らさない?」
 サニーミルクは答えた。
「やめとく。ルナとスターと一緒にいたいし」
「そっか」
「うん」
 いつものやり取りだった。二人が別れる時は、決まってこの受け答えをしてから帰路につくことになっていた。なんでかわからないけど、いつからかわからないけど、そういうことになっていた。フランドールはいつだってサニーミルクを誘ったし、サニーミルクはいつだってフランドールを選ばなかった。
 ルナとスターも一緒に来ればいいじゃない、とフランドールは言えなかった。なんとなく、サニーミルクの話に出てくる“ルナ”と“スター”とは気が合わないような気がした。
「おやすみ、サニー」
「おやすみ、フラン」
 二人が手を振ると、おそろいのマフラーのチャームがチャラチャラと鳴った。



 九

「おかえりサニー」
「おそかったのねサニー」
 サニーミルクが神社裏の我が家に帰ると、ルナチャイルドとスターサファイアがコーヒーを飲んで本を読んでいるところだった。
 眠くてたまらないサニーミルクはルナチャイルドの本の表紙を凝視したが、なんて書いてあるのかよくわからなかった。
「うぃーげんしゅたーん?」
「何言ってるのよ」
 困り顔でルナチャイルドが言い、スターサファイアが、ぱん、と手を叩いた。
「そうだ! よさそうな河を見つけたのよ。明日は釣りに行かない?」
「うんにゃ。明日はフランと遊ぶからパス」
 ルナチャイルドとスターサファイアは顔を見合わせた。
「噂の極悪吸血鬼と随分うまくやってるのね」
「われわれが紅魔館を乗っ取る日もそう遠くないと見えるわー」
「ふぁ〜あ」
 スターサファイアのジョークをスルーしてあくびをしながらサニーミルクが自室にそろそろと入っていくのを見届けると、ルナチャイルドは頭を抱えた。
「あーんサニー、行かないで! スターと二人で釣りは嫌なのよー。私のぶんまでスターがぜんぶ釣っちゃうんだからぁ」
「まあ、まあ」



 十

 フランドールの部屋は固く閉ざされているが実は抜け道があった。外に出てみたくて、昔カレンダーの後ろの壁に穴を空けてコソコソと時間をかけて作ったはいいものの、完成した瞬間外への興味を失ってしまい、そのまま誰にもバレずに放置していた抜け道。いつかサニーミルクと出会ってからは、頻繁に使うようになった抜け道。
 いそいそと穴をくぐり終点のカレンダーをぺろりとめくると、そこにはパチュリー・ノーレッジの顔があった。
「…………」
「…………」
 沈黙。
 フランドールがしれっとカレンダーを元に戻して抜け道に引き返そうとすると、パチュリーが小さく言った。
「レミィには黙っとくわ」
「…………」
「勝手に入って悪かったわね。貸してた本が必要になったから引き取りに来たの。私、これから出かけるから。おやすみなさい」
 一方的にそう告げるパチュリーに、一言二言言ってやろうとカレンダーをどかして部屋に降りると、部屋を出る直前のパチュリーの後ろ姿が一瞬見えた。
 コートを着込んでマフラーをしていた。
 あれはアリスに貰ったマフラーの柄違いだ、とフランドールは思った。
 扉が閉まった。
 フランドールだけになった部屋で、フランドールは呟いた。
「あのね、あんた。パチュリーくらい止めなさいよ」
 ベッドに座って脚をぶらぶらさせているフランドールの分身は、苦笑ののち消滅した。



【了】
『サニーミルクの紅霧異変』が好きなんです。
推敲してないので死ぬほど誤字脱字ありそう。

このお話は、既にフランとサニーは出会ってまあまあ仲良くなってて、三妖精が神社に移住してから、クラピがやってくる前くらいのイメージです。

20/07/29 ちょい修正
20/07/24 ちょい修正
疾楓迅蕾
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.90簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
楽しめて面白く良かったです
2.100終身削除
珍しいようで何だかしっくりくるような不思議な組み合わせですね フランとサニーの別れ際のやり取りだったりパチュリーのマフラーがもらったマフラーの柄違いだったりちょっとしたところからお互いの関係やどんな風に思っているかが何となく分かってくるようなところが沢山あったのが素敵で良いなと思いました
4.100サク_ウマ削除
発想好きです。サニフラいい……良い具合に抜けているフランちゃんがたいへん可愛らしいですね。良かったです。
5.90名前が無い程度の能力削除
サニフラかわいい!
6.80名前が無い程度の能力削除
サニサニってなんだよ(定型文)
風をまいてぶっちぎる
俺たちゃ
幻想烈風
7.100名前が無い程度の能力削除
幻 想 散 華
8.100名前が無い程度の能力削除
超よかったです
9.100Actadust削除
あー可愛い。
友達思いのサニーと、どこか抜けているフランがいいコンビでした。面白かったです。
10.70名前が無い程度の能力削除
サニフラは斬新で良いですね。
ルナスタとは相性が悪いかもなーと思うところ、好きですね。
11.100名前が無い程度の能力削除
ほのぼのだしかわいいし最高やん?
12.100めそふらん削除
サニフラとはかなり珍しいと思いました
可愛くて良かったです
13.100モブ削除
かわいい(かわいい)
ご馳走様でした。面白かったです。
14.100レッドウッド削除
三月精の切り取られていない部分にスポットライトを当てたような完成度だと思います。
かわいい
15.100南条削除
かわいい!!
たまらないぜ!!
16.100名前が無い程度の能力削除
可愛さと切なさ、蚊帳の外。
いいものでした