階段にいる。正確には螺旋階段にいる。もう少し詳しく。古明地こいし、彼女はガラス製の螺旋階段に立っていた。この螺旋階段の隣には全く同じ螺旋階段が、不思議だが線対称となるように存在している。そう、存在しているとしか言いようがない。これらはどちらも何もない空間に存在している。上にはぼんやりとした明かりが、下には暗闇が存在している。そういうところだ。上と下、こいしには二つの道が存在したが、少し考えた後、降りていくことにした。こいしのような少女には果てしなく続く階段を上へ上へと昇っていくだけの気力は無かったのである。
こいしは、ゆっくりと階段を降り始めた。恐る恐る、階段を割ってしまわないように降りて行った。終わりは見えなくてもあるはずだとなんとなく感じながら降りて行った。数十分ほどして、こいしは自分のモノとは違う足音がしたから近づいてくるのに気づいた。彼女は心底驚きながらも、その歩みを止めることは無かった。足音はゆっくり、ゆっくりと近づいてきた。
「あなた、降りてきたの」
それが彼女の第一声だった。続いて、
「それで私は上っていたのね。"階段"も分かれたわけね」
彼女はすぐそこにいたのだが、陰の具合で姿はよく見えない。
「あなた誰なの?」
もちろんこいしはそう尋ねた。
「私?私は……"内側"よ。あなたの内側」
「詩的な表現ね、素敵だわ。でももうちょっと具体的に言ってくれないかしら」
「それは無理よ。これが精一杯」
陰の中から答える。
「じゃあせめてもう少しこっちに来てくれない?姿だけでも見せてよ」
少し黙ってから、彼女は徐々に陰を落としつつ、一歩一歩階段を登ってきた。やがてその顔が見えたとき、こいしはようやく意味が分かった。確かに、彼女は内側だった。そして、こいしは心を閉ざしたことを思い出した。
「分かってもらえた?」
「えぇ。とすると、ここも内側ね」
「そういうこと。にしても、私は貴女が死んだものだとばかり思っていたわ」
「いいえ、私は自暴自棄になったりしなかった。ただ、疲れただけなのよ」
「そうね。だから、しばらくは下で休みなさい」
「そうするわ」
二人は手すり越しに握手し、それからそれぞれの目的地へと歩き始めた。その時こいしはふと上を向き、逆光の彼女を眺めながら声をかけた。
「ねぇあなた!」
彼女は手すりからこちらを覗き込んだ。それを確認し、一息おいたこいしは気をつけてとだけ言った。彼女は優しく微笑み、あなたもねと返してきた。それからこいしはもう一度、彼女の無事を願った。
それからどれだけの時間がたったろう。とても、長かった。しかし、遂にたどり着いた。こいしは分岐点に達し、二つの螺旋階段の交点にしばらく立っていた。そして彼女のいた階段に足をかけた。一段二段と登っていき、十数段目で歩みを止めて上を向いた。ここからは少しだけ外の様子が見えた。見覚えのある光景も見えたので、それは過去の出来事なのだろう。見覚えのないものもあったが、それは未来のことなのだろう。それらを見て、こいしは自分がもっと早く降りるべきだったのかもと考えた。しかしこいしはここにいる。だからもういいだろう。それに面倒くさいというのもあった。
こいしは階段に腰掛け、手すりの壁にもたれかかった。やがて眠気がやってきて、素直に眠ることにした。彼女にもそう言われたのだから。こいしは最後にもう一度別れの挨拶をすることにした。
「おやすみなさい、良い現実を」
恐らく彼女はおはようを言っているころだろう。こいしはゆっくりと瞳を閉じた。
こいしは、ゆっくりと階段を降り始めた。恐る恐る、階段を割ってしまわないように降りて行った。終わりは見えなくてもあるはずだとなんとなく感じながら降りて行った。数十分ほどして、こいしは自分のモノとは違う足音がしたから近づいてくるのに気づいた。彼女は心底驚きながらも、その歩みを止めることは無かった。足音はゆっくり、ゆっくりと近づいてきた。
「あなた、降りてきたの」
それが彼女の第一声だった。続いて、
「それで私は上っていたのね。"階段"も分かれたわけね」
彼女はすぐそこにいたのだが、陰の具合で姿はよく見えない。
「あなた誰なの?」
もちろんこいしはそう尋ねた。
「私?私は……"内側"よ。あなたの内側」
「詩的な表現ね、素敵だわ。でももうちょっと具体的に言ってくれないかしら」
「それは無理よ。これが精一杯」
陰の中から答える。
「じゃあせめてもう少しこっちに来てくれない?姿だけでも見せてよ」
少し黙ってから、彼女は徐々に陰を落としつつ、一歩一歩階段を登ってきた。やがてその顔が見えたとき、こいしはようやく意味が分かった。確かに、彼女は内側だった。そして、こいしは心を閉ざしたことを思い出した。
「分かってもらえた?」
「えぇ。とすると、ここも内側ね」
「そういうこと。にしても、私は貴女が死んだものだとばかり思っていたわ」
「いいえ、私は自暴自棄になったりしなかった。ただ、疲れただけなのよ」
「そうね。だから、しばらくは下で休みなさい」
「そうするわ」
二人は手すり越しに握手し、それからそれぞれの目的地へと歩き始めた。その時こいしはふと上を向き、逆光の彼女を眺めながら声をかけた。
「ねぇあなた!」
彼女は手すりからこちらを覗き込んだ。それを確認し、一息おいたこいしは気をつけてとだけ言った。彼女は優しく微笑み、あなたもねと返してきた。それからこいしはもう一度、彼女の無事を願った。
それからどれだけの時間がたったろう。とても、長かった。しかし、遂にたどり着いた。こいしは分岐点に達し、二つの螺旋階段の交点にしばらく立っていた。そして彼女のいた階段に足をかけた。一段二段と登っていき、十数段目で歩みを止めて上を向いた。ここからは少しだけ外の様子が見えた。見覚えのある光景も見えたので、それは過去の出来事なのだろう。見覚えのないものもあったが、それは未来のことなのだろう。それらを見て、こいしは自分がもっと早く降りるべきだったのかもと考えた。しかしこいしはここにいる。だからもういいだろう。それに面倒くさいというのもあった。
こいしは階段に腰掛け、手すりの壁にもたれかかった。やがて眠気がやってきて、素直に眠ることにした。彼女にもそう言われたのだから。こいしは最後にもう一度別れの挨拶をすることにした。
「おやすみなさい、良い現実を」
恐らく彼女はおはようを言っているころだろう。こいしはゆっくりと瞳を閉じた。
この二人が覚としてのこいしと無意識のこいしだとしたら、二度と出会うことはないのでしょうか
そう思うと交わした握手の意味も重い物に感じられました
雰囲気も重いものだったけどすごく良かったです
おやすみなさい。